佐尾四石は途方に暮れていた。
「賀知先輩、あの眼は本気だったな……」
現在AV業界に身を寄せている佐尾四石は、この業界に引っ張り込んでくれた賀知芸太には逆らえない。
彼がいなければ四石は今も無職童貞ヒキコだっただろう。あるいは樹海の白骨か。
「かといって、『オナニー録ってこい』だなんて。先輩、絶対オカズにするんだろうなあ……」
業界内では同性愛者として有名な賀知。きっと四石のことも前から狙っていたのだろう。
「今食っていけてるのも先輩のおかげだし、お礼はしたい。そうは思うけど……」
さすがにGATHIHOMOの仲間入りは勘弁である。
「はあ、気が重い……」
それから数日、賀知は四石にオナニー動画を催促し始めた。
「四石、相変わらず引き締まったいいケツしてるな。オナニーは録れたか?」
「……先輩」
「なに、簡単なのでいいんだ。妄想しながらっていう簡単なやつでさ」
「……自分のオナニーなんか、恥ずかしくて録れませんよ」
すると、賀知はきょとんとした顔で、
「誰がお前のを録ってこいっつった? 誰のでも構わないんだぜ?」
「え?」
「おっと、メスだけはだめだぜ?」
「ちょっと待ってください! 自分のじゃなくていいんですか!?」
「お前と熱い一夜を過ごしたいとは思っているが、ノンケは喰わないのが俺のポリスィーだぜ」
そう言われて、安堵する四石。とはいってもどこにオナニーを録らせてくれる男がいるというのだろう。
「おまえな、少しは頭使えよ。誰でもいいからメス一匹呼んで、そいつにオナニーを見せたい男がいればそれでOKじゃないか」
「ああ、なるほど……」
「ま、そういうわけだから、期待してるぜ?」
とはいっても、四石にはそんなことで身銭を切って女優を雇う余裕はなかった。
「……仕方ない、俺のを録ろう。なに、先輩が個人的にみるだけさ……、オェッ」
そうして、四石はいつもの様にオナニーを始めた。カメラを設置する以外はいつも通り。
そう、四石のいつも通りに……。
「なんで、こうなるんだ……」
そうして録れたオナニー動画は、しっかりその筋の人向けに流通し始めた。
「こんなアクロバティックなオナニー、俺が見てるだけじゃもったいないだろ」
四石のオナニーはあまりにも前衛的過ぎた。
『いい男、空をトぶ』というタイトルで売りに出されたその動画、某巨大掲示板ではこんな感想が付けられていた。
『ちょwwwwwwwwwww』
『この体勢は無理すぐる』
『やってみた。新たな世界が見えた』
『挑戦者乙』
『フリスク以来の衝撃』
『ある意味芸術』
『むしろゲイ術』
『いや、ゲイ術だ』
『結婚式はいつですか?』
『マジで変な方向に目覚めそう』
それから四石は、新しいオナニー方法を開拓する魅せるオナニーマスターとして活躍することとなった。
ちなみに、結局賀知には掘られてしまったらしい。
微妙なあとがき
SSなんて結局はオナニー。
でも、妄想しながら扱くだけのものと、見ていて面白かったり、興奮したり、いろいろ種類があると思う。
十八禁でもなんでもなかったのでチラ裏に移動