全国で唯一、18歳未満に避妊具を販売しないよう求めていた長崎県少年保護育成条例が改正され、6月から規制が撤廃された。長い間時代遅れと指摘されてきたが、性体験の低年齢化が進み、ようやく現状を追認した形だ。産婦人科医などは「性教育充実の好機」と歓迎するが、教育現場や家庭には戸惑いもある。
条例は1978年施行。ドラッグストアなどを対象に、18歳未満には避妊具を「販売、または贈与しないよう努める」との罰則のない努力義務を課していた。日本性教育協会による2005年の全国調査では、高校生の性体験率は2-3割で、県医師会によると長崎も同様。望まない妊娠への不安などから規制撤廃を求める声が度々上がり、県少年保護育成審議会でも議論されてきた。
教育現場では「データは信頼できない。条例改正は性行為を容認、助長しかねない」と抵抗が強かったが、感染症予防や望まない妊娠の防止は時代の要請だ。そこで県は、条例に家庭や学校などが啓発・教育に努める責務を盛り込み、今年2月に改正に踏み切った。
改正について県医師会常任理事で産婦人科医の森崎正幸さんは「学校に性教育に行っても、『コンドームについて教えないでくれ』という教師もいた。条例が障害になっていた面もあり、これからは堂々と教えられる」としている。
一方、県教委は「避妊具の有効性については必要な知識として既に指導している」とし、改正を受けた新たな取り組みの予定はないという。県こども政策局のある職員は「教育現場では子どもたちはセックスしないことになっている。寝た子を起こすなというところ」と打ち明ける。
県PTA連合会の杉沢伸慈(しんじ)事務局長は「どう取り組むか真剣に考える必要が出てきたが、なかなか難しい問題だ。各PTAで話し合わなければ」と戸惑いを隠さない。森崎医師も家庭での性教育については「親の価値観の違いもあり、難しいだろう」と認める。
大人たちの間に立つさざ波をよそに、長崎市の男子高校生(17)はあっけらかんとして言った。「今まで多少後ろめたさがあったけど、これで堂々と買える」
=2011/06/13付 西日本新聞夕刊=