「あ、、そろそろかえるねー。」


座っていた子供がいきなり立ち上がり、徐に歩きだした。
しかし、それを易々と許すような人間は、ここに誰1人としていない。
隊長の1人、1番隊隊長のマルコが子供の前に立ちはだかる。
それを不思議そうに首を傾げながら、マルコの顔を子供が見上げる。


「どこへ行こうっていうんだよい。」
「さとに、かえるのぉ。せんせーに報告しなきゃ、、またおこられちゃうもん。」

当然だと言わんばかりに、マルコを押しのけて進もうとする子供を、ひょいっと持ち上げる。
今現在、このモビー・ディック号には多くの船員がいる。
子供といえど、得体の知れない不審者を野放しにしておく訳にはいかない。
外見だけなら、確かにただの子供だ。
けれど、空から降ってくること自体が異常であり、異質である。
それに人畜無害そうな顔をしながらも、親父の首を狙っている輩かもしれない。
兎にも角にも、この子供の素性がはっきりするまでは、好き勝手にやらせる訳にはいかないのだ。


「行けないよぉ?おいちゃん、はなちてー。」
「駄目だよい。お前、本当の事を言えよ。」
「はなちてぇー。、おうち、かえるのぉ!」
「何処にある家に、どうやって帰るんだよい。」
「さとのおうちにぃ、かーえーるーのぉー!!」


ジタバタと暴れるが、所謂大人と子供の差。
いくら暴れようと、マルコはビクともしない。
それが分かったのか、子供はじわりと瞳に涙を浮かべる。
子供の特権ともいえる「大泣き」を実行しようとしているらしい。
話は要領を得ないし、横道ばかりそれるし、語尾ははっきりしないし、かと思えばいきなり帰ると言い始めるし…
それらに対して、こちらが我慢をしてじっと聞いていれば、今度は泣き始めようとしている。


(これだから、ガキは嫌いなんだよい。)


マルコは小さく舌打ちし、子供を乱暴に床に下した。
その瞬間に、子供は逃げだそうとしたため、自分の足で子供の足を引っ掛け、転ばせる。
それをきっかけに、ビービーと泣き出し、何か分からないことを口走り始めた。
宇宙人を信じている訳ではないが、もしも居るならそれは子供に違いない。


「ひっぐ…ど、どいてぇー!」
「どくかよい。」
「どくのぉー!!!」


甲板の床をバンバン!と、強く叩きながら癇癪を起こす子供を、静かに一同は見つめる。
親父が何も言わないということは、あとは好きにしてもいいということだ。
暗黙の了解を悟ったマルコは、今までよりも冷たく子供を見下ろす。


はぁー!!おうちにぃ…いっぐ…おうちに、かえるのぉー!!!!!」














かえりたい、よ…
(かえるぅぅぅぅぅ!!!)(うるせぇよい!!)

  
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