モビー・ディック号は穏やかな波風の中、今日もゆったりと航海を続けていた。
全世界最強と謳われる大海賊を束ねているお頭でさえ、甲板でどっしりとした物腰で日光浴をしてしまうほどだ。
あまりにも海賊というイメージとはかけ離れた平和な空気に、一同は空から雨でも雷でも鳥でもないものが降ってくるとは、思いもしていなかった。
「ぷきゃぁぁぁぁぁぁ!!!!」
波や風の音とは違う音に最初に気付いたのは、親父と呼ばれ親しまれている大男と、甲板に出ていた隊長数名だった。
音は明らかに空からしたもので、各々は太陽がギラギラと光る空を見上げる。
鳥にしては、あまりにも人間の声と酷似しすぎていて…
けれど人間が空から降ってくるなどありえなくて…
眩しさのあまり、右手で光りを遮りながら目を細める。
それ気付いた乗組員も、そろって空を見上げた。
「なんだ、ありゃ。」
「鳥か?」
「いや、人間だ…しかも、餓鬼じゃねぇか?」
一瞬にして騒がしくなる甲板。
先程の長閑な空気から一変し、緊張で張り詰めた空気が流れる。
それを横目に、エドワードは尚も空を見つめている。
老いすぎた目では、黒い塊が空から落ちてくることしか確認できない。
しかし乗組員…息子たちの話では、黒い塊ではなくそれは幼子であるらしかった。
海賊というのは一般的に、血も涙もない非情な輩が多い。
しかし、いくら海賊と言えど元は海の子。時には誰よりも情深くなるものである。
みすみす幼子の命を見捨てるほど、腐った海賊になった覚えはない。
助けられるなら、助けようではないか。
座っていた所から離れ、エドワードは数歩前に進む。
そして、その大きな両腕を広げ、落ちてくる幼子を受け止めた。
「ぴぎゃっ!!!」
自分の腕の中に飛び込んできた幼子は、とてもとても小さかった。
とりあえず、こんにちは…?
