April
2010
特集「都市空間とアート」
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- ダン・グラハム「都市空間の...
- Interview
- 泉太郎「コントロールできる...
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- 黒瀬陽平「カオス*ラウンジ宣...
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黒瀬陽平「カオス*ラウンジ宣言」
黒瀬氏はアーティストとして活動する傍ら、活発な発言で批評家としても注目を集めている。氏はコマーシャル・アートも、コミュニティ・アートもWEBの時代にあっては批評性を失っていると指摘し、インターネットをベースに活動する作家たちとともに「カオス*ラウンジ」なる場を宣言する。アートにとって都市空間が人々とのコミュニケーションの場としての意味を持つならば、商業やコミュニティのみならず、WEBでの動きについても着目するべきであるという氏の主張には説得力がある。よってここでは「メール対談」という形式としてはやや変則的であるが、アートをめぐる興味深い動きの一端として氏の宣言文、および展覧会情報をご紹介したい。(藤村龍至)
藤村:カオス*ラウンジとはどのようなイベントでしょうか。また、何を狙いとしているのでしょうか。
黒瀬:まずはこのムービーを見て下さい。
<宣言文>
ゼロ年代と呼ばれたこの十年、日本のアートは何も生み出さなかった。
今、われわれの目の前に広がっているのは、欧米を真似たアートフェアの乱立によって作られた、ありもしない国内アート・マーケットの表象と、助成金を喰い物にしながら無限に繰り返される慈善事業だけである。
この風景は、ゼロ年代の幕開けに突きつけられた、日本のアートについての問い(「日本ゼロ年」、「オタク」、「スーパーフラット」……)を徹底的に無化することによって成立している。
ゼロ年代に入って、ますますわれわれの生活を変容させた情報化の進展は、あろうことかアートにおいて、日本と世界の格差を埋めるものとして、きわめて楽観的に解釈された。
日本のアートはアクチュアルな文化であることをやめてしまった。
アーティストたちは「物」に充足することで、「情報」から目を逸らし、ナマな文化の営みに身を晒さない。無根拠なアートの神秘性によって身分を保障されると同時に、小器用な職人として囲い込まれている。
「悪い場所」は再び隠蔽された。
ゼロ年代の間、CHAOS*LOUNGEは地上に姿を現さなかった。なぜなら地上は、本当は焼け野原であることを知っていたからだ。
Google、2ch、mixi、Flickr、YouTube、ニコニコ動画、Twitter、Tumblr……、CHAOS*LOUNGEはネットの中で、主にアーキテクチャと呼ばれるインフラストラクチャーの変化と共に存在していた。
そこは常に、膨大に、匿名的な想像力がうずまき、作品未満の作品、コンテンツ未満のコンテンツが現れては消える場所であり、にもかかわらず、作者性に目覚めてしまった有象無象の集う場所である。
増殖を続けるアーキテクチャは、アートの神秘性を認めない。そこでは、すべてが可視化され、分類され、操作可能となる。
内面などない。知性も感性も、すべてはアーキテクチャ上で、システマチックに組み立てられてゆく。
人間の内面は、アーキテクチャによる工学的な介入によって蒸発する。
CHAOS*LOUNGEから生まれたアーティストは、それでもなお、地上に脱出することはなかった。なぜなら、地上で生み出されているものはアートではないと知っていたからだ。
彼らは、アーキテクチャによる工学的介入を、一度は徹底的に受け入れる。アートに神秘性などない。人間の知性も感性も内面も、すべては工学的に記述可能である。
しかし、彼らは、アーキテクチャによる工学的介入の結果に対し、さらに人為的に介入を試みるのである。
彼らは、アーキテクチャによって、自動的に吐き出される演算結果を収集する。そして、自らがひとつのアーキテクチャとなって、新たな演算を開始するのだ。
CHAOS*LOUNGEは今、ようやく、ここに姿を現す。
単なる「情報」でも「物」でもない、アーキテクチャ時代のアート、すなわち、一〇年代のアートとして。
*
藤村:「カオス*ラウンジ」ではライブペインティングを行うそうですが、
なぜライブペインティングなのでしょうか。
黒瀬:もともと「カオス*ラウンジ」は、アーティストの藤城嘘くんが2008年から続けているライブペインティングのイベントでした。当時から藤城くんは「ポストポッパーズ」というアドホックなアーティスト集団を結成しており、ネットを中心として活動するアーティストたちを集めては「オフ会」的にイベントを行っていました。
藤城くんが主催していた「カオス*ラウンジ」は、それらの活動を展覧会として提示するものだったと思います。2008年の「カオス*ラウンジ」では、総勢50人ほどのアーティストが参加していましたが、そこで興味深いと感じたのは、彼らがネット上で交わしているコミュニケーションのあり方や関係性を、無理矢理に現実空間へ引きずり降ろそうとしていた点でした。
彼らはネット上で、様々な「情報」をリソースとしつつ、極めてハイコンテクストで洗練された「作品」を日常的に作っている。しかしそれらは、そのまま現実空間には降りてこない。その途端、まったく別のものに変わってしまう。
そこで「カオス*ラウンジ」が、集団によるライブペインティング、というスタイルを取っていることに改めて注目したのです。
黒瀬陽平
1983年生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻博士後期課程在籍。美術家、批評誌『REVIEW HOUSE』編集委員。
展覧会情報
カオス*ラウンジ2010
会場:高橋コレクション日比谷
会期:2010年4月10日(土) - 18日(日)
http://www.chaosxlounge.com/
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