気象・地震

文字サイズ変更

東日本大震災:被災者追跡 その後の生活…

避難先の県の借上げ住宅で話す河村勝男さん=福島県郡山市内で2011年6月5日、矢追健介撮影
避難先の県の借上げ住宅で話す河村勝男さん=福島県郡山市内で2011年6月5日、矢追健介撮影
カラオケ教室の教え子から送られてきたCDを聴くために買ったプレーヤーを手にする菅野昇さん=岩手県陸前高田市の仮設住宅で2011年6月5日、石井諭撮影
カラオケ教室の教え子から送られてきたCDを聴くために買ったプレーヤーを手にする菅野昇さん=岩手県陸前高田市の仮設住宅で2011年6月5日、石井諭撮影

 「古里に必ず戻りたい」「もう一度あの桜が見たい」。毎日新聞の追跡アンケートに答えた東日本大震災の被災者たちは、病気や失業などさまざまな困難に直面しながらも、復興の日を信じ、不自由な生活に耐えている。震災発生から3カ月。被災者たちはどんな思いで過ごし、どんな支援が求められるのか。

 ◇仕事なく先行き不安…富岡町・河村さん

 東京電力福島第1原発事故が収束しない福島県。原発の南約7.5キロに住んでいた富岡町の河村勝男さん(49)一家の3カ月は「復興」という言葉にはほど遠い。

 震災1カ月目。国の指示で着の身着のまま逃げた河村さんは、妻里美さん(46)と両親の4人で県中央部の三春町の体育館に身を寄せていた。政府や行政に望むことを尋ねると即座に「住まいがほしい」。避難所はごった返し、顔なじみもほとんどいない。「同じ地区の人が同じ場所の仮設住宅に入れる配慮を」と高齢の両親を思いやった。

 2カ月目の答えは「高齢者支援」。避難所は高台にあり、足の悪い母(79)はリハビリに行けず足腰は弱るばかり。その後の5月中旬、一家は隣の郡山市にある県の借り上げアパートに移った。病院が近く、母はリハビリに通えるようになって一安心。ところが、今度は山形県にいる里美さんの母が腸閉塞(へいそく)で入院し、避難先からの遠距離介護が始まった。

 そして3カ月目の今回、河村さんは「就労」と答えた。昨年地元の会社を解雇され、年末に自動車部品製造会社に再就職。中国からの受注倍増で業務を拡大するはずが、地震で社屋が損壊し、原発事故で避難を余儀なくされた。5月20日、再建を断念した会社から解雇を告げられた。

 失業手当は昨年給付されたばかりなので受けられず、富岡町と同じ警戒区域に指定された大熊町の製材所で休職扱いになっている里美さんの休業手当が頼り。借り上げ住宅は1年間家賃が無料だが、光熱費は自己負担。「いずれ出なければいけない。でも仕事がないとどうにもならない」。ハローワークに通い、切り詰める生活が続く。

 テレビと棚だけを置いた6畳の部屋で、河村さんがつぶやいた。「親も苦労して建てた家に帰りたいはず。来年の春はどうなっているんだろう」。里美さんが返した。「もう一度、富岡のきれいな桜が見たいよね」【矢追健介】

 ◇「絶望」から一筋の光…陸前高田・菅野さん

 震災後は絶望していたが、3カ月がたち、一筋の光を感じている。津波で母(87)と姉(55)を亡くした岩手県陸前高田市の無職、菅野昇さん(52)。「まだ懐中電灯で無理やり照らしてるみたいですが」。避難所から仮設住宅へ移り、新しい生活を始めている。

 「姉が見つからない」。大きな余震があった4月7日、避難している市立第一中学校で落胆しきっていた。埼玉に嫁いだ姉は一時帰省していた時、津波に襲われた。一緒にいたとみられる母の遺体は見つかり、姉を捜して遺体安置所を回った。1月に父も病死しており「何を励みにすればいいのか。1週間先の自分に生きる気があるのか」と涙した。

 自宅は全壊。1、2カ月目のアンケートには「避難所を出た後の落ち着き先は決まっていないし、生計のめどは全くたっていない」と答えた。

 6月初め、菅野さんを再訪すると、透析治療で入院中だった。「あの時は生きた心地がせず、自暴自棄になっていました」。初めてアンケートに答えた時を振り返った。被災当初は「入院しないと命にかかわる」と医師に言われても、「両親の所へ行けるならいい」と反発していた。だが5月中旬、仮設住宅への入居が決まり、医師の言葉に従った。「落ち着き先が決まると、あれもしないと、これもしないとって考えるようになってね」。5月下旬に姉の遺体も確認できた。

 歌手だった菅野さんは東京や埼玉でカラオケ講師をし、昨年実家に戻ってからもCDを通じ添削指導を続けていた。先月、教え子から再開を請われ、津波で失ったCDプレーヤーを購入。間もなく32人の歌が録音されたCDが届く。仮設住宅の建つ小学校でライブを開きたいとも思うようになった。「校庭を使わせてもらってるお礼に」。井上陽水さんの曲が得意だが、「子供向けじゃないかな」。

 アンケートには一貫して「住んでいた地域に必ず戻りたい」。政府や行政には将来の住宅支援を望む。古里は「必ず復興できる」と確信している。【長野宏美、金秀蓮】

毎日新聞 2011年6月12日 12時23分(最終更新 6月12日 14時55分)

 

おすすめ情報

注目ブランド

毎日jp共同企画