日本の原子力政策を訴える――法曹家の卵が原発の行政訴訟を起こした理由

2011年6月9日 12時00分

江藤貴紀氏

 放射性物質の飛散や海洋汚染で、福島県以外にも大きな影響を与えている福島第一原発の事故。その長期化は避けられなくなっているが、足元の電力供給状況を鑑みて、事故後も多くの原子力発電所では運転が続けられている。

 政府は新成長戦略実現会議でエネルギー戦略の見直し議論を行っているが、行政訴訟という方向からも原子力政策にストップをかけようという動きが生まれている。福島第一原発などの原子炉設置許可が法律の要求する最低基準を満たしていたかどうかを問う行政訴訟である。

 事故後いち早く行政訴訟を起こしたのは江藤貴紀氏。江藤氏は今年3月に東京大学法科大学院を卒業後、4月7日に訴状を提出。5月に司法試験の受験を控えていたことから、6月6日に日本外国特派員協会で会見を行うこととなった。江藤氏はどのような思いから訴訟するに至り、裁判ではどのようなことを根拠にしようとしているのだろうか。

●政府の対応とメディア報道に不満

江藤 私は福島第一原子力発電所、福島第二原子力発電所、茨城県の東海(第二)発電所の3カ所の原子炉設置許可が違法であると主張して、国を訴えています。日本外国特派員協会で記者会見をしたいと思ったのは、日本の一般市民の中にも政府の誤った政策を弾劾するだけでなく、正当な抗議を行おうとする人間がいることを知っていただきたかったからです。

 最初に、今回の訴訟を起こした私の動機について説明します。この大部分は、事故以降の日本政府の対応とマスメディアの報道についての不満に対してのものです。その次に、訴訟上の法律的な主張と裁判が日本に与える影響について、簡単に考えを述べさせていただきます。そして最後にみなさんと意見交換をしたいと思います。

 3月11日以降の福島第一原発の事故が起きるまで、実は私は国の原子力発電政策に反対の立場をとってはいませんでした。もちろん、旧ソ連で起きたチェルノブイリ原子力発電所の重大な事故については知っていました。

 しかし、それは「当時のソビエトの秘密主義的な政治体制のもとで、政策が十分に吟味されずに決定されたことが原因である」と考えていました。「日本のような科学技術水準が高く、政治においてもアカウンタビリティ(説明責任)が課される、いわゆるデモクラシー(民主制)の体制を持っている国では、チェルノブイリのような深刻な事態は生じるわけがない」と考えていました。

 恐らくですが、ここでお集まりのみなさんや多くの日本人と同じように、今年の3月11日までは日本における原子力発電の安全性を信じていたわけです。

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