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存亡の淵「マイクロファイナンス」(下)

月刊FACTA 6月10日(金)16時36分配信

※上から続く

この結果、AP州では半年前には回収率98%を記録していたのが、自助組織に所属する60万人が債務不履行に陥った。州政府はMFIを機能不全に追い込みながら代替措置を打ち出さず、「病気より体に毒な治療」と非難された。

MFのミソは小さな自助組織に貸し付けて、こまめに返済させるところにあるが、JRGセキュリティーズのアナンド・タンドン最高経営責任者(CEO)は「毎日のように余った金を集めなければ、この商売は成立しない。そうしないと、利用者が全額使い果たす」と言う。

MFIが崩壊して高利貸しが跋扈する時代へ逆戻りするのか。中央銀行のインド準備銀行(RBI)は昨年10月15日、小委員会を発足させ、MFI崩壊に対処するため調査に乗り出した。

今年1月に発表した小委報告によれば、利用者が借入資金のうち収益につながる事業活動に充てた割合は25.4%にとどまり、過去の借入金の返済に充てた(追い貸し)割合は20.4%。MFIが拡大を急ぐ余り、利用者の過去の債務歴や融資目的、返済能力を何も調べずに貸し付けた実態も確認できた。

自助組織にどれほどの返済能力があるかにかかわらず、取り立て業者が毎週、強引に返済を迫っていた事実もつかんだ。利用者が返済に行き詰まると、返済資金に追い貸しを迫り、借金を雪だるま式に膨らませていながら、銀行には何食わぬ顔で100%の回収率を提示していた。

また、強引な取り立てが原因とみられる自殺も51件あり、小委報告は「貧しい人々を貧困から救うはずのMFIは、融資を受けた人々の利益を奪うばかりか、尊厳や命まで奪った」と厳しく非難している。そのうえで、(1)MFIの貸出金利の上限を24%に設定、(2)金利のマージン(貸出金利と調達金利の差)は10〜12%、(3)MFIを州政府の管轄から外し、借入額・金利・融資条件の明確な枠組みを設けた新タイプの金融機関として位置付ける――などを提案した。

■中央銀行元総裁が警鐘

中央政府は小委提案を受けて、MF事業を規制する政府法案を作成する二人制パネルを任命した。法案は6月にも開かれる次回議会で提案される予定で、通過すればMFIは州政府の法令の影響を受けなくなる。

「規制の枠組みが一元化されるなら安心だ」とMFI業界の期待も高まっている。銀行も融資資金の証券化を再開し始めた。3月末に2行と融資資金の証券化取引を成立させたSKSのディリ・ラジ最高財務責任者(CFO)も「流動性ポジションを強化できる」と安堵している。銀行側は、このほかに、MFI5社の企業債務再編にも乗り出した。

しかし、安定した返済能力のない利用者に融資をしながら、銀行に対しては十分な回収能力があることを示して流動性を確保しなければならない――というジレンマに変わりはない。強力な自助組織と、事業を継続させるためにも法外な高金利融資の廃止という「2点を守れば、MFは今後もインドの優良事業分野として展開できる」(専門家)。

RBIも5月3日の声明で小委の提案を概ね受け入れるとともに、4月1日以降のMFIに対する銀行融資は、社会責任として銀行に融資を義務付ける「優先分野貸付」に分類して返済期限を延長、MFIの貸出金利の上限や融資条件の一部を小委提案より緩める考えを示した。

しかし、MFIに野放図に融資を広げさせるなとする意見がある。リーマン・ショックでインドの金融秩序を守ったY・V・レディ元RBI総裁は「MFはまるでインド版サブプライムローン。証券化やデリバティブ(金融派生商品)など米国の金融機関と同じ考え方だ。そして今度は優先分野貸付だ」と発言し、MFIの将来に警鐘を鳴らした。

by ナヴィン・ウパディヤイ(インドの英字紙「パイオニア」誌編集局長。政治、経済、社会問題が専門。)

(月刊『FACTA』2011年6月号、5月20日発行)

最終更新:6月10日(金)16時36分

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