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存亡の淵「マイクロファイナンス」(上)

月刊FACTA 6月10日(金)16時34分配信

ノーベル平和賞の「小口金融」に自殺続出。高金利と追い貸しでインド版サブプライムか。



貧困撲滅と収益を両立させるマイクロファイナンス(貧困層向け小口無担保融資)が存亡の危機にある。発祥の地バングラデシュのグラミン銀行では、06年にノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス総裁が3月2日、中央銀行に解任された。隣国インドでも、投資家ジョージ・ソロス氏の支援も得て昨年8月にマイクロファイナンス機関(MFI)初の上場を遂げたSKSマイクロファイナンスが、わずか9カ月で株価が発行価格の3分の1に落ち込んだ。

ユヌス解任は現政権との政治的確執が原因とされているが「貧困層にカネを貸して潤う吸血鬼」(シェイク・ハシナ首相)とのMFI批判にも一理ある。現にMFIが盛んなインドのアンドラプラデシュ(AP)州では、利用者の自殺が相次ぎ、MFIのリスクが顕在化している。

■年率150%の急成長

AP州にはSKSのほかに、シェア・マイクロフィン、アスミサ・マイクロフィン、スパンダナ・スフルティーなど大手が拠点を構え、インドのMFIの約4分の1が集中している。融資件数は村落と都市部を合わせて960万件(うち村落が650万件)、貸出残高の合計は723億8千万ルピー(約1300億円)に上る。09年時点でインド全体のMFIの推定貸出残高が1600億〜1750億ルピーだったから、いかにAP州に集中しているかわかるだろう。

「家計が苦しくて借りましたが、金利があまりにも高く、毎週の返済のやりくりがつかず、取り立て業者から何度も返済を迫られました」。AP州第二の都市ヴィシャーカパトナムでは10月、MFIの融資を受けていた女性の留守中に、10歳の娘が取り立て業者と自助組織の会員たちに誘拐される事件が起きた。少女は無事、警察に保護されたが、彼女が追いこまれた状況は典型的だ。

インドのMF業界には約300社が参入しているが、貸出残高の合計の約74%は上位10社で占められている。インドではMFIが短期間で主要ビジネスとして急成長し、創業者たちは巨富を得た。06年度にインド国内5州で融資件数が20万2千件だったSKSは、4年後の10年度には19州で融資件数は約670万件へ、支店数は80店から2千店強、貸出残高も294億ルピーへと年間伸び率147.7%を記録している。

創業者ヴィクラム・アクラ氏は上場前に850万ドルの未公開株売却益(税引き後)を得ており、当時で800万ドル相当のストックオプション(3.4%)も保有している。1990年に米タフツ大学を卒業後、就職した非政府組織(NGO)の初任給が1千ルピー(約22ドル)だったことを考えると雲泥の差だ。

しかし急成長の裏には、多くのMFI各社が50%という高金利で融資し、追い貸しで回収率を引き上げてきた実態があった。インドでは融資事業は州政府が管轄しているため、AP州政府は10年10月に「2010年MFI法」を制定して強引な取り立てを封じこめようとした。細かい条項違反に重い罰金刑を科し、当局の許可なしでの追い貸しを禁止、回収も週1回でなく月1回(窓口は村落集会パンチャーヤト)にするなど、あまりにも厳しい内容で、MFIの存続を危うくした。

※下へ続く

(月刊『FACTA』2011年6月号、5月20日発行)

最終更新:6月10日(金)16時34分

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