一 DのCに対する請求とCの反論について
1 明渡請求について
AはBとDに対して甲建物を2重に譲渡し、Dが登記を得ている。よって177条により、Dが確定的に甲建物を取得する。
そこで、Dとしては、Cに対し、所有権に基づく明渡請求をすることが考えられる
これに対し、Cとしては、自分は賃借権に基づき甲建物を占有しているのであって、明渡義務はないと反論することが考えられる。
では、Dの明渡請求は認められるであろうか。
思うに、BとDはAを起点とする対抗関係にあり、CはそのBから賃借権を取得している。
よって、賃借権については、DとCも対抗関係にある。そして、CはBから甲建物の引渡を得ており、
借地借家法31条による対抗要件を備えている。
従って、Cの賃借権はDにも対抗できると考える。
よって、DのCに対する明渡請求は認められない。
2 賃料請求について
Dとしては、明渡請求が認められないのであれば、賃貸人として賃料を得たいと思うのが通常であろう。
そこで、DはCに賃料を請求することが考えられる。
これに対し、Cとしては、CはBとの間に賃貸借契約を締結したのであって、
Dとの間に契約関係はないから、CはDに対し賃料支払い義務を負わない旨、反論することが考えられる。
では、Dの賃料請求は認められるだろうか。Dが賃貸人たる地位をBから承継するかが問題となる。
思うに、賃貸借契約における賃貸人の義務は所有権者でなければ履行することは困難なものであり、かつ、
所有権者であれば誰でも履行できるものである。
そこで、賃貸借契約の後に目的物の所有権が移転した場合は、賃貸人たる地位は所有権に伴って移転するものと考える。
本問では、BからDに所有権が移転したわけではないが、
不確定ながらBが所有権を得ていた状態からDが確定的に所有権を取得した状態になったのであるから、
BからDに所有権が移転した場合に準じて考えてよいであろう。
よって、賃貸人たる地位は、BからDに移転すると考える。
また、賃貸人たる地位の移転を賃借人に対抗するためには、賃料2重払い防止のために登記が必要と考えるが、
Dは登記を得ているから、賃貸人たる地位をCに対抗できる。
従って、DはCに賃料50万円を請求できると考える。
二 BC間の法律関係について
1 Dが確定的に甲建物の所有権を取得したことにより、BC間の賃貸借契約は他人物賃貸借(560条、559条)となる。
他人物賃貸借も債権契約としては有効であるが、Dが賃貸人としての地位を主張すれば、Bの賃貸人としての義務は履行不能となる。
よって、Dが賃貸人としての地位を主張したときに、BC間の賃貸借契約は履行不能により消滅する。
2 Cは給配管工事のために300万円を支出しているが、これはBC間の契約によりCの負担とされているため、
CはBに有益費償還請求権(608条2項)を行使することは出来ない。
また、たとえBC間にかかる約定がなかったとしても、有益費償還請求権は目的物の所有者に対して行使すべきものだから、
CはDに請求すべきであってCのBに対する請求は認められない
以上