譲渡担保について
(1) 法的性質論
譲渡担保、当初はその名前ではなく、売渡担保や売切担保などと呼ばれたが、所有権を担保権者に移転するという形式がとられたためその法的性質は債権担保のための所有権の移転であるとされた。
この形式は、現行民法典が施行されてから、特に動産の非占有型の担保物権が存在せず、経済が発展するにつれてその必要性が高まってきたため、その需要にこたえるため編み出されたものである。また、不動産譲渡担保においては、その効用は抵当権とほぼ変わりが無いが、競売を通さない私的実行による簡便な担保権の実行、短期賃貸借の排除、などの点で用いられるようになった。
しかし、動産譲渡担保においては、民法344条・345条が、質権の要物性と設定者による代理占有を禁止しており、形式的にはこれらの規定の脱法行為ではないか、との指摘があり、また、動産・不動産を問わず、譲渡担保権の設定のために所有権を移転することは虚偽表示であり、この設定契約は無効であるとも考えられていた。実際に譲渡担保契約は虚偽表示であるとした大審院明治30年12月8日民録3輯11巻36頁がある。
まず、第一の質権の脱法行為ではないかという点に対しては、質権と譲渡担保では実質的に別次元にのものであるとも考えられる。質権は目的物の使用・収益・処分という支配権能のうちの処分を制限する制限物権であるのに対し、譲渡担保は所有権移転型の担保物権である。この違いは所有権が形式的にせよ移転しているかいないかの違いであると考えられる。
ただこの説明は一理あるようにも思えるが、やはり実質的には動産譲渡担保は質権の規定と抵触するのではないかと思える。それでもなお判例も譲渡担保の有効性を認めるのは社会的需要に対して法が対応できていないところを補うことが理由であると考える。
次に第二の虚偽表示ではないか、というところにおいてはこれは否定できると考える。
虚偽表示というのは或る行為を覆い隠すものであるが、或る目的を他の法律行為によって達成しようとする場合には当事者がその法律行為をその効果とともに欲しているのであるから、譲渡担保は虚偽表示ではないという考えがドイツでの理論、信託的行為説である。
どういうことかというと、虚偽表示の場合は財産隠しなどの目的のために所有権の移転を仮装するものであるが、譲渡担保の場合は担保目的のために所有権を移転させるものであり、両当事者が所有権の移転を認めていることである。虚偽表示の場合は実質的に所有権を移転させることは考えていない。しかし、譲渡担保の場合は実際に債務の弁済ができなければ所有権が移転することを債務者は了解しているのである。
この違いが、譲渡担保虚偽表示説を否定できると考えるし、判例(大審院大正3年11月2日)も認めるところである。
以上から、譲渡担保はその存在が公に認められたものであると言える。
(2)所有権的構成と担保的構成
このようにその存在が認知されるとその次に、譲渡担保について発生する問題についてそれを解決する為の法的構成が問題となる。
対立するのは所有権的構成と担保的構成である。
簡単に説明すると、所有権的構成は譲渡担保の設定は所有権の移転である、とかんがえるものであり、担保的構成は譲渡担保権の設定は担保権の設定にすぎず、所有権は設定者にある、とするものである。
この違いは譲渡担保の本質に影響するものであり、どちらで考えるかで問題解決に違いがでてくる。
この点については対外的効力で述べるのでここでは説明に留める。
判例は基本的に所有権的構成であるといわれる。しかし、一部の判例では担保的構成にちかいものもあり、これはいずれ判例が所有権的構成から担保的構成にうつりかわるのではといわれている。その例としてあげた、最判昭和41年4月28日、は譲渡担保権設定者が破産し会社更生手続が開始された場合、譲渡担保権者は目的物の取戻し権を行使できないとした。厳密に所有権的構成からすれば所有権は担保権者にあるのだからみとめられそうなものであるが、判例はそれをみとめなかった。また担保権者が破産した場合に設定者からの取戻しを認めた大判昭和13年10月12日も所有権的構成を貫徹するならばありえない結論である。
このことから判例は基本的には所有権的構成であるが担保的構成に近いといわれるのである。
(3)内部的効力
譲渡担保権の実行方法は二通り存在する。帰属清算方式と処分清算方式である。
前者は債務者が弁済できないときは担保権者に所有権が帰属するものであり。後者は担保権者が目的物を第三者に売却することで得た金銭から弁済をうけるものである。
この点に関しては譲渡担保権が、典型担保物権の煩わしい方法を回避して私的実行を容易にするものであったため、債務者が弁済できない時は担保権者が目的物をまるまるもうけてしまい、被担保債権額と目的物の差額が著しく不均衡である場合に債権者が暴利を得てしまう。
これを回避する為、担保権者に差額を清算する義務があるかということが議論されたが、最判昭和43年3月7日が清算義務を肯定し、基本的には譲渡担保権者は清算しなければならなくなった。
ただこの判例は、被担保債権額と目的物の価額が著しく不均衡である場合か、特段の定めの無い場合、としており一見特約による清算義務の排除もできるように思える。
しかし、債権者と債務者の関係を考えると特約が強制されることは充分考えられるので一律に特約による排除も否定し清算義務を課すべきであると考える。
またこの判例は不動産譲渡担保に関するものであり、他の譲渡担保に影響をあたえるものであるかが問題となるが、原則として他の譲渡担保にも肯定すべきであると考える。
(4)対外的効力
まず譲渡担保の公示についてであるが、不動産譲渡担保の場合は登記、動産譲渡担保の場合は引渡、債権譲渡担保の場合は債務者に対する通知・承諾である。
これらは特に第三者が絡んでくる時に問題になる。不動産の場合は登記を信じた第三者は94条2項類推適用による保護が考えられる。また債権譲渡担保に関しては債権譲渡とほぼ同じ議論が展開されるとおもわれるのでここでは割愛する。
問題は動産譲渡担保である。基本的に動産譲渡担保は非占有型が用いられるので、占有改定によって譲渡担保が設定される。ここで問題となるのは占有改定では外部からの識別が困難なので譲渡担保権者が思わぬ損害を被るおそれがある、ということである。
譲渡担保の設定されている目的物を設定者が第三者に譲渡した場合の処理をいかに考えるか。
占有改定で公示があるとされるが外部的に識別が困難なので第三者に容易に即時取得される可能性が高いと考えられる。
このように第三者がからんでくるとさきほどの所有権的構成と担保的構成による解釈の違いがでてくる。
所有権的構成で考えるならば、設定者のなした行為は無権限者の行為である。従って第三者は即時取得の要件をみたさない限り所有権を取得することは無い。
逆に担保的構成で考えると、設定者は一応所有者であるので第三者に対する譲渡は有効であり第三者は譲渡担保権の負担のついた所有権を取得することとなる、というのがたいていの基本書・教科書にかかれていることである。
一見すると担保的構成のほうが第三者と担保権者の両方を保護するようにみえ妥当であるようにおもえる。しかし、果たして本当にこのような結論になるのか、というのが私の疑問であるし、また判例が担保的構成に近い考えをしながらも所有権的構成にこだわることの理由でもあるのではないかと考える。
なぜこのように考えるのかというと、担保的構成に立って、設定者の第三者に対する譲渡がなされた場合、第三者は譲渡担保権つきの所有権を取得するとされるこの結論が妥当か、というところである。第三者からすれば、なんら外部的に譲渡担保の存在がしめされていないのでこれは有効な取引だと思って目的物を譲り受けたのに実は譲渡担保が設定されてました、といわれても困るのではないか。予想外の負担を負わせることが妥当か。またこの点に関して担保的構成をとる論者は、第三者が譲渡担保権の存在について善意・無過失であった場合は譲渡担保権の負担のないきれいな所有権を即時取得する、として調整している。
しかしこの点について、設定者が所有者であるのにそこから譲渡をうけてそれをまた即時取得する、ということは理論的に妙ではないかと思える。即時取得の要件として前主の無権限があげられるがこの場合において、前主は無権限ではない。そもそも即時取得の要件をみたさないのではないか、と思える。仮に即時取得が可能であるとしてもどうも理論的に所有権者から所有権を原始取得する、というのは妙な気がする。そもそも即時取得の制度は権利移転面での瑕疵を治癒するためのものであり、権利移転が有効である以上、即時取得を持ち出すべきではなく、担保的構成を貫徹するならば、やはり第三者は譲渡担保権の負担の付いた所有権を取得すると考えるべきである。しかし、この結論は妥当ではない。
要するに、この第三者を保護するためにはきれいな所有権を取得させることが一般的に考えて妥当であると考えるがその法的構成について担保的構成からでは少し苦しいと思える。その理由は設定者が所有者であるからである。とすれば、設定者が所有者でなければ要件をみたすので、容易にきれいな所有権を即時取得することができ、理論的にすっきりする。この点で判例は所有権的構成に固執するのではないかと考えられる。
では逆に担保権者の保護をいかにするべきか、と考えられるが、譲渡担保権の負担付の所有権が移転すると考えれば譲渡担保権者の保護にもなるが、むしろ所有権的構成から第三者が即時取得をできる場合はしかたないが、そうでない場合、つまり第三者が譲渡担保権の存在につき悪意・有過失であるばあいは、そもそもその譲渡は無権限者による処分であるのだから譲渡担保権者は所有権に基づいて返還請求権を行使すればよい。この場合は譲渡を認めるよりも無効なものとして返還させた方がよいと考える。なぜならば、譲渡担保権者にしてみればまったく見ず知らずの第三者に目的物が移転してしまうとその管理が煩わしいし、どんどん移転していってしまいにはどこかで即時取得されてしまったら終わりである。
以上より、譲渡を有効としないほうが譲渡担保権者の保護に資すると考える。
このように所有権的構成をとることはどちらかといえば即時取得によって所有権を取得しやすくなるので第三者の保護が厚くなると思えるが、実際には担保権者は目的物に打刻やネームプレートなどの明認方法を施すことによって第三者を悪意・有過失にできるため、それほど問題ないと考える。むしろ実務家の立場から、集合動産譲渡担保に関してであるが、譲渡担保権者は目的物をしっかり管理すべきであり、このような負担を担保権者に課すとしてもそれは当然のことである、との指摘もある。
ここでの結論として、基本的には譲渡担保の法的構成は担保的構成が実質に近く妥当であると考えるが、いまだ理論的に整然としておらず、もうすこしの担保的構成の発展が必要であると考える。本発表では所有権的構成が妥当であるともおもえる発表をしたがあくまで判例が所有権的構成に固執することの解釈からのものであり、自身としては担保的構成が妥当と考える。完全に担保的構成が主流となるにはあとすこしの発展が待たれるところである。
(5)譲渡担保権に基づく物上代位の可否
つい最近、最決平成11年5月17日、において譲渡担保に基づく物上代位が肯定されたばかりである。ただこの判決の射程についてはいまだ議論の余地があり、判例が完全に物上代位を認めたものであるかが未確定である。そこで今一度譲渡担保に基づく物上代位について考えてみたい。
そもそもこのことは物上代位が認められるのかといういことではなく、物上代位なのか所有権に基づくものなのか、という違いである。
担保的構成で考えると、担保権というものは目的物の価値を把握するものであるから、目的物の変形物である債権などについて物上代位が認められることは当然の帰結となる。
しかし所有権的構成で考えると、そもそも物上代位を認めるのではなくその所有権に基づいた権能を認めればよいことになる。
この違いをあらわすと、譲渡担保の設定された動産を第三者が滅失させてしまった場合を考えるとよい。担保的構成からは譲渡担保権者は譲渡担保に基づいて設定者が有する加害者にたいする損害賠償請求権に物上代位することになる。
所有権的構成から考えると、譲渡担保権者はその目的物の所有者であるのだから、その所有権に基づいて損害賠償請求すればよいのである。
このように結論にはあまり違いは無く、どちらかというと理論的な対立にすぎない。