集合動産譲渡担保の再考察


   

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      そもそも譲渡担保は民法の規定には存在しないが、取引社会の要望により認められたものである。当初は、民法344条・345条に反する、または虚偽表示による脱法行為である、などの反論も存在したが現在は異論なく、判例によっても認められている非占有担保物権である。譲渡担保はその必要性から物権法定主義をも打ち破ったものであるが、その背景には取引社会の強い要望が無視できない。

従って、譲渡担保を解釈する際に実務を無視して観念的に走るのは本末転倒であると言わざるをえない。なによりも実務の視点によって解釈・運用していくべきである。  集合動産譲渡担保も同様である。
ゆえに、集合動産譲渡担保を考察するにあたって実務家の意見を重視しながら検討していきたいと考える。

(1) 譲渡担保の性質

 集合動産譲渡担保を検討するにあたって、まずここからはじめる必要があると考える。
なぜなら譲渡担保の性質はさまざまな部分で影響してくるためである。

 当初は所有権を移転するという形式から、譲渡担保権は所有権を完全に譲渡担保権者に移転するものであり譲渡担保権設定者は目的物の賃貸借または使用貸借をするに過ぎない、という所有権的構成がとられていた。

 しかし、このように解すると所有権が移転してしまうことから、様々な問題が発生してしまう。

例えば、譲渡担保権者が弁済期到来前に目的物を第三者に処分すると、処分の相手方は、譲渡担保の設定につき悪意であっても、目的物の所有権を取得し、あとは設定者が担保権者に債務不履行責任を問えるだけになってしまう。なぜならば、所有権的構成からは担保権者はほぼ完全に所有権を取得し、ただ譲渡担保の担保的目的から、移転を受けた所有権を担保目的を超えて行使しないという債権的な拘束を受けるに過ぎないからである。(注@道垣内弘人「担保物権法」252頁)

また集合動産譲渡担保を考えるに、設定者が目的物を売却する権限までを使用貸借や賃貸借から認められるのは不自然である。

         なぜこのような問題が発生するのか。
それは譲渡担保が外見上は所有権移転・内部では(当事者間では)担保権の設定 というズレによると考えられる。
 そこで譲渡担保は所有権が完全に移転するのではなく、担保権の設定に過ぎないのだからあくまでも担保権的に考えるべきであるとする説も主張された。
いわゆる「担保的構成」である。
その結果、譲渡担保の法的構成には実に様々な類型が主張された。
山川一陽先生の書いた「担保物権法」に譲渡担保の法的構成についての詳細な分類がある。
 簡単に紹介すると

@ 授権説

A 二段階物権変動説

B 物権的期待説

C 抵当権説

D 担保権説

E 虚偽表示説

以上が紹介されているが、@・A・Bは所有権的構成を念頭においた説であり、現在、有力に主張するものはいない。またEについてはもはや語られることは少ない。 またCについても反対説

(筆者注:この説によると譲渡担保目的物を設定者から取得した者は民法94条2項類推適用で保護するべきである、と主張されるがこの場合には本人たる担保権者(すなわちこの説も所有権的発想ではないか?なぜならば設定者に所有権が残っていればこのような問題は生じないはずである)の帰責性(?)を認めて権利外観法理からの帰結として94条2項を考えているようであるが、そう考えると設定者が権利者であるかのような外観を呈していてそれを信頼した第三者を保護しようという考えであるが、担保的構成をとると設定者が目的物を処分するのは自己の権限に基づく正当な権利の行使であるから94条2項類推の場面ではないと考える。この点でこの見解は採用できない)が有力である。

したがって残るDということになるのであろうか。
しかし、二段階物権変動説と多少異なる「設定者留保権説」(注A道垣内弘人・前掲253頁:内田貴「民法V」472頁)という説も有力に主張されている。

思うに、考え方としては「設定者留保権説」は優れているが、譲渡担保自体が民法の大原則である「物権法定主義」の大例外であって、そのうえまた「設定者留保権」などという物権を作り出してしまっては、物権の種類を制限することによってその価値を高めようとする民法の趣旨に反することとなる。また、所有権が移転するという外形的なものにこだわりすぎているように見受けられる。確かに譲渡担保の契約書の文言にはと『所有権を移転する』いうところがあるが、これは当初の所有権的構成からのものであり、担保的構成を考えるなら、ここははっきりと『譲渡担保権を設定する』との文言でよいはずである。

 「『所有権を移転する』という文言はあきらかに当事者の意図しないものであり、この文言に迷わされている論者が多いと考えられる。」(注B加藤雅信「非典型担保法の体系」別冊NLB no.31「担保法理の現状と課題」60頁)

ゆえにここは動産譲渡担保については動産抵当と考える「担保権説」が譲渡担保の実質的な内容にちかく、この説によるべきであると考える。


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