物権法 (一)


この物権法のテキスト、良くできていました。
参考書には有斐閣双書とか白露書房の「物権法講義」を用いましたが、演習書は特に購入しませんでした。

この課題、解答するにあたってテキストの範囲指定があったため、答案としては不十分ですが、
事例問題の簡単な例として、お読みいただければと思います。

なお、科目試験は、民法総則以外はすべて事例問題だったように覚えています。
どちらかというと、事例問題の方が好きな私としては、毎回、楽しませてもらった、といえます。
一応、評価はA、講評は「内容・構成とも良い」でしたが、今読み返すと表現に難があります。
回りくどい表現が多いし、シンプルさに欠けます。その点、ご了承下さい。

 甲が所有かつ登記名義を有するX土地について、甲が乙と売買契約を締結したあと、さらに丙とも売買契約を締
結した場合の効果について論ぜよ。
 甲が所有かつ登記名義を有するX土地について、甲が乙と売買契約を締結したあと、さらに丙とも売買契約を締
結した場合、いわゆる二重売買の場合、まず甲乙間ではこの締結の時点でX土地の所有権は甲から乙に移転す
る(176条)。しかし右の売買契約に基づく甲から乙への所有権移転登記がなされないうちには、社会的関係では
甲がX土地の所有権者と認められるから(177条)、未登記のうちなら甲はX土地につきさらに丙と売買契約を締
結することができる。そして、甲丙の売買契約によってこの契約の当事者である甲丙間では、その締結時にX土地
の所有権は甲から丙へ移転したことになる(176条)。しかし、この契約に基づく甲から丙への所有権移転登記が
なされないうちには社会的関係では未だ甲がX土地の所有権者と認められることになる(177条)。
 このように、甲は、乙にも丙にもX土地を引き渡すという同一内容の債務を負い、乙も丙もX土地の引き渡しを請
求できるという同一内容の債権者となり、甲が一方に履行すれば他方に対しては債務不履行(415条)になる。し
かし、物権たるX土地の所有権は、乙・丙のうち甲から所有権移転登記を受けた者だけが所有権者となり(177
条)、物に対する排他的支配権であるという物権の性質から、乙と丙とがX土地の共有者になることは許されない
のである。
 すなわち、物権にはその相互間の優先的効力があるため、もし乙の所有権取得が法律上完全に認められるな
らば、乙は対世的に所有権者となり、丙の所有権取得は法的には認められなくなる。しかし、乙の所有権取得が
未だ認められない段階においては、乙の所有権にもまだ優先的効力はないのであるから、この場合には乙の所
有権にも丙の所有権にも優先的効力はなく、乙か丙のいずれかが法律上完全にX土地の所有権を取得したもの
と認められる要件、すなわち登記(177条)を具備した時点でその者の所有権が優先的効力をもつことになり、そ
の結果、他方の所有権取得は法的に認められなくなるのである。
 他方、乙と丙はそれぞれ甲との売買契約によって、将来の弁済期(履行期)に甲に対してX土地の引き渡しを請
求しうる権利を取得しており、すなわち、特定物債権者(400条、483条、484条前段参照)となっているのである
が、物権は債権に対する優先的効力を有するため、もしX土地が一方的に引き渡されたとしても、他方が甲からX
土地の所有権移転登記を受ければ、後者は所有権に基づき前者に対してX土地の引き渡しを請求しうるのであ
る。
 ところで、甲乙は互いに当事者関係であり甲丙も当事者関係にあるが、乙と丙は互いに当事者関係に立たず第
三者関係にある。177条は第三者につき善意・悪意を問わないため、もし丙が甲乙間の売買契約において未登
記であることを知っていたとしても(善意の第三者)、177条が適用されることになる。しかし、丙が背信的悪意者
である場合には第三者には該当せず、177条の適用は否定される。けだし、177条が適用される悪意の第三者
とは、法的に認められる自由競争取引の立場に立っている者に限定されるからである。さらに、詐欺や脅迫によっ
て登記の申請を妨げた者(不登法4条)、他人のために登記を申請する義務を負っている者(不登法5条本文)、
その不動産について何ら有効な取引関係に立っていないところの全くの無権利者、不法占拠者ないし不法行為者
など(判例)は177条の第三者に該当しない。したがって、丙がこれらに該当しない限り、甲からX土地の所有権移
転登記を受ければ正当な所有権者となるのである。
 最後に、物権の移転を伴うべき売買契約が無効であったり、取り消されたり(121条本文)、解除されて(545条
1項本文)遡及的に無効になったなどの場合、物権行為の有因性説によると、物権の移転を目的とした物権行為
も当然に無効ないし遡及的無効となり、したがって、その物権行為により発生していた物権の移転という法律効果
も当然に無効ないし遡及的無効になると解される。
 よって、甲乙間の売買契約が93条但書、94条1項、95条本文等により無効であれば、たとえ売買による所有
権移転登記がなされ、かつ、甲から乙にX土地が引き渡されていても、X土地の所有権は初めから乙に移転してい
ないため、甲は依然としてX土地の所有権者であり、したがって、甲は乙に対し所有権に基づく返還請求権として、
X土地の返還と所有権登記名義の回復を請求することができ、その後、丙に対して所有権移転登記をなすことが
できる。また、甲乙間の売買契約が取り消されたり解除されて遡及的に無効になった場合(121条本文、545条1
項本文)も同様の結果となる。
                                                                 以上




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