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ラインハート教授に聞く、外貨準備の低採算性と日本のデット・キャパシティ

2011/06/07 06:23

 

 米国を代表する女性経済学者で、共和党政権なら米経済諮問委員会(CEA)委員長候補との呼び名が高い、ピーターソン国際経済研究所のカルメン・ラインハート上級フェローにインタビューし、先週金曜日の産経朝刊に掲載しました。ウエブでアップされていなかったので、拙稿を末尾にご紹介しますが、今回のテーマは外貨準備の有効活用です。

 

 

 「何だ外貨準備の有効活用はお前のところの主張だからだろ」という反対意見を予想しますが、筋の悪くないテーマだから関心を持ちました。以下に述べるように、外貨準備は低採算な国家ビジネスであり、リストラ&再生を目指すわが国として見直すのは当たり前の作業だと思うからです。今まで中身が不透明だった同件を取り上げるのは、まさに国家のガバナンスの問題です。

 ラインハート教授は、昨年夏に米連邦準備理事会(FRB)のバーナンキ議長などが出席するジャクソンホール・シンポジウムで、米国が日本のような長期の低成長経済に陥る「ジャパニフィケーション」(日本化)リスクに警鐘を鳴らした論文を寄せました。

 最近は90兆円にものぼる日本の外貨準備に関心を寄せており、「いざと言うときの備えなのは分かっているが、今は国難にあるわけでしょう」と外貨準備資産・負債の有効活用を主張しています。

 注意すべきは、彼女が問題視しているのは、そもそもの国としての公的債務の多さであり、ファイナンス用語でいう、日本国の「デット・キャパシティ」(借り入れ調達力)の有効活用を求めている点です。日本の為替介入は金融緩和効果を伴わない不胎化であります。「リフレ効果もないに大切なキャパシティを使うのは勿体ない」という議論なのです。

 

外貨準備は、為替介入を目的に、円で調達した資金をドル投資する円キャリーです。これがリスクに見合うリターンがあるのかというと--日本政府側は「(外貨準備の制度が出来た)1952年からのもうけ(積立金額)は52兆円に達した」としていますが、一方で、現在の一人当たり名目GDPもその間、約60倍に拡大しています。

 

外貨準備のグロスの利益だけを勘案してもこの59年間でみれば年1%利回りに過ぎないのですが、一人当たりの名目GDPのリターンである年16%あるのです。大きな差ですね。

 

果たして外為市場のボラティリティに相応しいだけのリターンかも疑問です。昨年5月の一年間で計算すると、ドル円レートの平均は1ドル85円。為替取引のリスクを示す標準偏差は3円94銭と平均値の4.6%に相当します。

 

つまり、為替介入でよっぽど輸出が伸びるのならとにかく、利ざやで約1・5%(運用が100%5年物の場合。デュレーションがもっと短いはずなので、利ざやはもっと低い可能性あり)なのに4.6%のリスクを取るのは、運用形態としてはクビを傾げざるを得ません。

 

以下が拙稿でございますが、実際に掲載された原稿とは若干違うのでご了承下さい。

 


 

 東日本大震災を契機に日本政府が優先的に取り組むべきことは

「公的債務と就業人口減(老齢化)という最大の問題に取り組んでもらいたい。具体的には採算の低い資産の処分、長期的視野での増税、政府債務のカット、資金不足の年金・社会保障の大幅見直しが喫緊の課題になっている。これまでは抜本的な先送りしてきたので、国富がどんどん減っている。国内総生産GDP)に対する公的債務の比率が200%を超えている財政構造は持続可能ではない」

約90兆円にも達した外貨準備高の見直しを唱えている。

「円売りドル買いの為替介入を続けたので外貨準備高の大半がドル建ての米国債(短期の財務証券)となっているが、米国金融緩和を続けているので米国債は歴史的な低利回り。運用体としての外貨準備高は円での調達金利との利ざやが縮小したうえに、為替リスクを抱えている」

円は基軸通貨ではないのでドルを持つべきでは

お金が足りないときは流動性の高い低採算資産から売るのが常識だ。外貨準備を減らせば円高になるというが、米国債は売買が活発で、時間をかければ処分しやすい。外貨準備を心配すべき国は固定相場制で対外純債務を抱える国。だが、貯蓄超過の日本はまったくの逆だ。対外純債権国かつ変動相場制なので、現在のレベルほど外貨準備を積み上げる必要が無い

ドル資産に対応して、外貨準備金には円建ての負債がある

「外貨準備の問題は米ドルを購入するために短期証券を発行して円を再び市場から吸い上げている点だ。債務国の日本に必要なのはインフレ期待。折角マネーを調達する余力があるのなら、調達したお金を低金利の米ドル債ではなく、復興目的でもいいからよりリターンの高い事業に投資するべきだ

「積みあがった政府債務、歪んだ課税制度、高い失業率に底入れが見えない住宅市場と米国経済だって問題だらけだ。だが、金融危機以降の米連邦準備制度理事会FRB)が必死に進めた金融緩和策は日本の復興策にとっても参考になるはずだ。

 

カテゴリ: マネー・経済  > 経済政策    フォルダ: 政策

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コメント(3)

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2011/06/08 00:03

Commented by ana5 さん

よく引き合いに出されるのが
国家ファンドですね

東芝・ソニーの液晶統合は「官主導」、経営トップと上場時期が焦点に
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-21573620110607?pageNumber=2&virtualBrandChannel=0

私は震災被害地の土地を全部ドルで買えば良いと思います
復旧が終われば、有期借地権を売れば良い

 
 

2011/06/10 12:46

Commented by 松浦肇 さん

To ana5さん

ドル決済特区。沖縄金融特区もそうでしたが、
某省のおかげで日本には絶対特区が出来ません。

 
 

2011/06/10 18:46

Commented by ana5 さん

経済特区で思い浮かぶのは
沖縄返還の時流通していたドルの買い上げですね
あの時、沖縄でドルの流通を許していれば
出費も抑えられ、香港より沖縄は栄えていたと思います
香港返還の華僑資本を取り込んでね~

世界は変わっていたかも?
角栄氏の親中路線も有ったし

経済SFでも書かれたいかがですか?

 
 
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2011/06/10 04:14

中国の高速鉄道 少し妄想してみる? [ana5 の暇に任せて一言、二言…]

 

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2011/06/07 18:48

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