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'11/6/10

意見9000件の大半が「脱原発」

 原子力政策の将来について、国の原子力委員会(近藤駿介委員長)が行った意見募集に、福島第1原発事故後に9千件近くの意見が寄せられた。その大部分が、原発の廃止や再生可能エネルギーへの転換を求めるものだった。

 原子力委事務局は「寄せられた意見が国民の総意と重なるとは思わない。あくまで議論の参考」と説明。委員らは「安全対策をして(原発を)運転していけたらいい」(秋庭悦子委員)と、事故後も「原発は必要」との認識を示すが、原発の安全性に多くの疑問符が付いた今、市民感覚とのギャップが顕在化した形。

 菅直人首相が再生可能エネルギーの活用と、強力な原発推進の国策の見直しを打ち出す中、委員会の存在意義を問う声も上がっている。

 ▽放りっぱなし

 原子力委は、今回の事故で注目を集めた原子力安全委員会(班目春樹委員長)とは別組織。1956年、原子力利用を計画的に進める目的で設置され、78年に安全規制の機能を安全委に分離した。原子力利用の基本方針である「原子力政策大綱」の策定などを担う。

 原子力委は5人で構成、うち一人は東京電力顧問の尾本彰委員だ。委員の人選に関しても「産・官・学の癒着の表れ」と疑問視する意見がある。

 原子力委は3月11日の事故発生後、通常は毎週開催する定例会議を3回休会。4月5日になって定例会議を開き、昨年から進めていた新たな原子力政策大綱の策定中断など、事故を受けた見解を初めてまとめた。

 衆院特別委で対応の遅れを問われた近藤委員長は、緊急時の原子力委の役割が法的に規定されておらず、各委員が個別に活動していたと釈明。議員からは「(事故が起きても)放りっぱなし」と、当事者意識の欠如を批判する声が相次いだ。

 原子力委は、有識者から意見聴取を重ね、原子力政策で考慮すべき課題を整理するとしているが、「公表の形や時期は未定」(事務局)という。

 ▽形骸化

 原子力基本法は、原子力委の設置目的として「原子力行政の民主的な運営を図る」と明示。新大綱の策定を控え、昨年12月から国民の意見を募集し、寄せられた意見は3月7日までに66件。同8日以降は9千件を超え、原発事故への反響の大きさをうかがわせた。

 中には「事故が起これば生まれ育った土地にも立ち入れない。小さな子供が一番の被害者になってしまう」との意見や「危険におびえて暮らすくらいなら、多少生活に不自由があっても構わない」との声も。

 原発推進に批判的な意見がほとんどで「再生可能なエネルギーの開発は、技術国日本なら世界のトップになれるはず」との提言もあったが「(再生可能エネルギーが)原子力が果たしてきた役割を、すぐさま代替するとは考えていない」と大庭三枝委員。寄せられた多くの意見を施策にどう反映するのかは不透明だ。

 5月31日の原子力委定例会議に有識者として招かれた環境保護団体、気候ネットワークの浅岡美恵代表は「脱原発」を提唱。取材に対し「欧州の国では環境とエネルギーを同一官庁で扱い、全体の一部として原子力を位置付けている」と指摘。「原子力だけ特別視する日本の行政は時代遅れ。原子力委の存在意義も再考すべきだ」と語った。

 田中俊一・前原子力委員長代理も「原子力委は小さい所帯で、実務の手足がない。法律で期待された役割は、もはや形骸化していた」と話した。




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