直嶋正行・経済産業相は、7月21日、経産省内で、インタビューに応じた。(石合力、野島淳)
――世界的に原子力ルネサンスと呼ばれる状況の中、政府としては、原子力を含めたインフラ輸出を成長戦略にどう位置づけていますか。
「今後の日本の経済成長を考え、政府ではインフラをシステムで輸出しようと言っている。原発だけに限らず、その他の発電インフラ、水、高速鉄道などをターゲットにして推進する。アジア・中東地域などの新興国では、インフラ不足が激しく、インフラ整備が最重要課題となっている。こうした国々のインフラ整備の後押しをして、成長を促し、その成果を日本も頂くという考え方だ」
――UAEでの原発商戦では、昨年10月に大臣も現地に行かれました。個別の商戦で大臣が行かれるのは珍しいのではないですか。
「原発だけでなく、日本がかかわる油田権益の更新もテーマだった。皇太子にお目にかかり、これまでの日本とUAEの関係を配慮して欲しいと申し上げた」
――結果的に韓国に敗れました。
「残念だった。ただ、その結果、なぜ負けたのかよく見え、今後に生かせる面もあった。敗因は二つある。まず、韓国は、国営電力会社が中心になり、プラントメーカーはその下についていった。電力会社が相手国からニーズを聞き、提案に反映できる仕組みを作っていた。一方で、日本は従来型の企業コンソーシアムで、意思決定が遅いし、きちんと要望に答えられなかったのではないか。二つ目は、価格。これはかなり開きがあると聞いている。日本企業でどこまでできるかは分からないが、価格についても勉強していかないといけないだろう」
「今までのプラント中心の輸出の仕方では、競争についていけない。水も鉄道も長期にわたり運転を支援していかないと、相手国には受け入れてもらえない。その反省から、原発では、官民で新会社をつくることになった。相手国のニーズをどう受け止めるか。長期で考えられる立場の人たちに入ってもらおうということで、電力会社が加わることになった」
――UAEの件では、当時の鳩山首相も直に皇太子に電話をされています。トップセールスが弱かったということでしょうか。
「これは持論だが、例え人間関係があっても、最後は経済合理性がないと勝てない。品質の良さとか、相手からの要望に対する反応の良さとかいうことも総合して商品価値が問われる」
――官民会社は、民間企業の集まりです。そんなに相手国の要望に対して、反応よくできるでしょうか。
「日本の大企業は、タコツボ化していると思う。自社の中の意思決定にとても時間がかかる。これをどう乗り越えるかが問われているのではないか。自動車業界や電機業界も含め、日本の産業全体が、過去の成功体験が通用しないという過渡期にある。原発ビジネスだけでなく、日本の企業が今後も世界でやっていけるかどうか。(新会社は)ある種の試金石ではないか」
――新会社は当面、ベトナムを視野に入れています。
「新会社は10月の設立に向け準備中で、当面、ベトナムに対してこちらからの提案をまとめていきたい。全て新会社で対応ということにはならず、欧米などの先進国は、従来型のプラント輸出もあるだろう」
――電力会社は新会社の中核となる予定ですが、新興国での原発の経験がありません。
「電力会社の経営面からみても、外需の取り込みが今後、必要になってくるだろう。地域に閉じこもっていた日本の電力会社が成長していく、そういう時代になったのではないか」
――新成長戦略の中で、原発の海外展開にどんな支援策がありますか。
「企業が海外へ投資をしたり輸出をしたりする際にかける貿易保険の対象範囲を広げる。原発などのインフラは、長期の資金が求められる。相手国の政策変更で事業が続けられなくなるといったリスクも、貿易保険でカバーできるようにする。長期の投資資金の出し手として、年金資金の一部を使う制度設計も検討したい」
――軍事協力も含めて原発を売り込む国がある中、日本はどう対応しますか。
「日本は軍事協力はできないので、相手国の人材育成、技術向上にしっかり手を貸す。ただ、原発も鉄道も水関連事業も、海外での実績が少ない企業や地方自治体が運営の中心となるケースが少なくない。人材育成などで国が支援していく必要があるだろう。在外公館だけでなく、日本貿易振興機構(ジェトロ)の海外事務所で、相手国の要望を把握するなど、情報収集力を高めることも重要だ」
――菅政権と鳩山政権で成長戦略の方向性に変化はありますか。
「変わらない。前政権は仕込みの段階。これからいよいよ実行段階に入る。原発に限らず、低炭素社会の実現に向けて、早く成長戦略全体を回していきたい」
――未経験の新興国市場を狙わなくても、環境が整った先進国で原発は売れるという意見があります。
「成長著しい新興国市場で、新技術を投入して競争していくのは、世界の流れではないか。新興国のプロジェクトに参画することを通じて、日本の原発技術のレベルアップにつながるだろう」
――原発の稼働率が低いことが海外展開のネックだという指摘があります。
「安全を確保しながら稼働率を上げていくための努力をしている。地元の理解を得ながら、60%程度の稼働率をどうやって80~90%に上げられるか。米国の例なども見て工夫したい」
――核不拡散という課題と原発輸出は両立できますか。
「日本は国際原子力機関(IAEA)から50年もの間、査察を受け続け、IAEA体制に貢献してきた。原発を他国に輸出することで、日本の技術のみならず、原子力の平和利用を続けてきた経験も生かせる」
――原発を輸出する中で、燃料をどう確保するか、廃棄物の処理をどうするかという問題が出てきますが、日本としてはどう対応するのですか。
「廃棄物の処理は、それぞれの国でやってもらうしかない。それらを引き取る余裕は、現状では日本にない。世界で原発つくるということになると、核不拡散、廃棄物などの処理、原発の日常的な安全性が問われる。この3つの点を国際的にきちんと対処する必要がある。燃料供給についても、IAEAを始め、国際的な枠組みで管理しようという構想がいくつか出ており、日本も議論に積極的に参加する」
――核不拡散条約にも入らず、核実験をしたことがあるインドと原子力協力協定を結び、原発を輸出することには世論の批判があります。それにどう答えますか。
「2008年に原子力供給国グループ(NSG)でインドを、原子力輸出の例外化にすると決めた。この時点で日本もNSGに入っており、容認している。日本だけがだめだといっても、国際社会全体は、インドに原発を輸出するという方向で進んでいく」
「ただ、日本では国民感情もあるから、慎重にインドの様子を見てきた。インドは『約束と行動』と言っていて、核実験のモラトリアム(一時停止)を約束した。それをきちんと守っていると日本も判断した。日本がインドと協定を結び、関与していくことは、約束と行動をさらに継続させるのにプラスになる。さらにインドとの2国間関係を強化し、世界的に的に環境問題に貢献する意味もある。日本の技術を世界に生かせるのだ」
(文中敬称略)