[ドイツ脱原発]日本に突きつけた挑戦

2011年6月10日 09時42分このエントリーを含むはてなブックマークLivedoorクリップに投稿deliciousに投稿Yahoo!ブックマークに登録
(7時間10分前に更新)

 ドイツ政府が「脱原発」を決めた。17基ある原子力発電所のうち8基はすでに閉鎖、残り9基を2022年までに閉鎖する。

 福島の原発事故を受けた重い決断だ。世界が共有するエネルギー問題に大きな一石を投じた。波紋は欧州に広がりそうだ。

 米国やフランスは原発重視の方針を堅持しているが、スイスは5月下旬に原発を34年までに廃止することを決めたほか、イタリアは今月中に原子力発電再開の是非を問う国民投票を実施する予定だ。ドイツの脱原発は欧州で原子力政策を見直す世論を拡大させるきっかけになりそうだ。

 環境先進国のドイツは風力など自然エネルギー開発で世界をリードする取り組みを進めているとはいえ、全電力量を補うにはまだ十分でない。電源構成は原子力が23%、太陽光、風力、バイオマスなどの再生可能エネルギーが17%を占めている。20年までに後者を35%まで引き上げる計画だ。

 風力発電は世界一の規模を誇り、最も有力視されているが、風力発電地帯の北部から人口が多い南部へ送電するシステムの整備には多額の投資が見込まれる。

 また、電力が不足した場合は周辺諸国と融通しあうことにしており、結局原発大国フランスに依存した「脱原発」との批判もある。ドイツ政府は他国に依存しない電源開発を目指す方針だ。

 課題は多いものの、ドイツの背中を押したのが福島原発事故だった事実は日本にとって重い問いかけだ。

 ドイツは原発問題を長く議論してきた。

 きっかけはチェルノブイリ原発事故だった。1998年に政権に就いたシュレーダー首相が脱原発を打ち出し、2000年に電力会社との間で段階的に脱原発を進めるとの合意をまとめた。

 しかし、電力不足が予測されたため、メルケル首相は昨秋、原発延命を決めた。再生可能エネルギーの開発資金を確保するために原発を継続稼働させると説明した。

 このためドイツでは原子力が「未来のエネルギー」ではなく、新たな電源を開発するまでの橋渡しとして認識され、すでに「消えゆくエネルギー」という国民合意が成立している。

 福島の事故でその認識が再覚醒(かくせい)された。一貫して原発支持だったメルケル首相が方針転換せざるを得ないほど、日本の原発事故の衝撃は大きかったということだ。

 ところで、沖縄の電力事情で原発は必要かどうか、沖縄電力に聞いてみると、原子力発電所1カ所で需要を満たし、余剰が生じるほどだという。すると火力発電所などを持つ意味がなくなるが、事故のときに外部電力がないと福島と同様に「ブラックアウト」(電源喪失)を引き起こす。

 万が一の事故を考えると沖縄では新エネルギー開発を目指す方がより現実的な選択となる。

 ドイツの決定を夢物語と斜に見るのは容易だ。でも背中を押したのが日本の事故であることを忘れてはならない。

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