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2010年 7月 6日(火)放送
ジャンル自然・科学 文化・芸能 環境

映画「ザ・コーヴ」問われる“表現”

(NO.2910)

内容紹介

©OCEANIC PRESERVATION SOCIETY.
ALL RIGHTS RESERVED 
 

和歌山県太地町で行われている伝統のイルカ漁を批判的に描き、アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門賞を受賞した映画「コーヴ」。その「隠し撮り」を用いた取材手法や、イルカの食用は危険だとする内容に地元で反発の声が高まっている。さらに「反日的だ」と上映中止を求める団体の抗議運動も激化。中止を決める映画館・上映会が相次ぐなか、今月3日、全国6館で公開が始まる。番組では、太地町の反応とともに、映画を製作したルイ・シホヨス監督のインタビューや上映を決めた横浜の映画館をルポ。イルカ漁の是非に止まらず、ドキュメンタリー映画の在り方や表現の自由にまで議論が広がる「コーヴ」上映の波紋を追う。

出演者

  • 吉岡 忍さん(ノンフィクション作家)

出演者の発言 番組中の出演者のコメントを掲載!

吉岡 忍さん(ノンフィクション作家)
【スタジオ1】

●ザ・コーヴを取り巻くこの上映の状況について

>>あんまりうなだれないで、上映を続けてほしいなと思う。いろんなものの見方があるし、考え方があって、それが行き交うってことが一番豊かな民主主義社会だと私は思ってますので、もちろん反論があっていいし、内容について批判があってももちろん構わないし、それはあるべきだと思うんですけれども、そういうものが行き交う場所、映画館はやっぱり単に娯楽映画をやるだけじゃなくて、町のカルチャーの発信地ですよね。ですからいろんな形でやってほしいなと思います。


●何かの意見を排除しようという意見に危うさを感じるか?

>>映画、まだご覧になってない方が多いと思うんで、ちょっと言いにくいんですけど、ご覧になってわかるように、これもう、イルカ漁はけしからんという話を一方的に言ってるわけですよ。漁師たちの話もなかなか聞かない。その映画を上映中止すべきだっていう意見もまた、両方の意見を聞かないで、同じ土俵に立っちゃっていて、お互いがお互いを無視したり、否定をしあって、この状況ってのは、あんまり公平じゃないと思うんですよね。ですからいろんな形でする場としてね、映画館というのはあってほしいと思うし、もう一つ僕ね、この中に出てこなかったんですけどね、大学でも、都内の大学でも2、3の大学でですね、この上映をやろうとして、中止してるんですよ。学問の府だし、自由な言論が一番大事な大学が、ちょっとこう電話があったり、抗議されたりしただけでやめてしまうってこと自体がね、僕は映画館がやめるよりももっと大事なね、この民主主義社会に対する危機だというふうに思いますけどね。


●太地町の人々も、やめてほしいという声をあげているが。

>>さっきも、横浜の映画館がありましたよね、例えばね、あそこで上映すると。これは私たちの本当の姿を映してませんという、地元の方々の意見があったとしたら、ぜひね、その町の映画館に来てしゃべってくれませんかと、それを。あるいは違うきっとフィルムもあるかもしれない。そちらもいっしょに上映しましょうよというふうに、いろんなパターンの上映のしかた、あるいは映画館の機能のしかたがあると思うんですよ。だから、そういう実験としてもやってほしいなと、私は思いますけど。


【スタジオ2】

●ドキュメンタリーの手法について

>>私ね、これ見ててね、あんまりドキュメンタリーって感じ、実はあんまり受けなかったんです。ずっと見てて、なんか勧善懲悪のハリウッド的な映画っていっぱいありますよね?主人公がじっと我慢してて、そのうちに爆発して。あの感じを非常に強く受けてて、「ロッキー」かもしれないというふうに思ったんですけどもね。日本のドキュメンタリーでは、放送でも、それからたぶん、映画でもそうですけど、いわゆる再現映像、それからいわゆるなんですか、もちろんやらせだとか、仕込みだとかというのはもちろんいけないことだってふうにされていますよね。だけど、アメリカやヨーロッパの一部では、必ずしもそうじゃないのかもしれないなと。われわれが考えているようなドキュメンタリーのあり方というものとはちょっと違うと思いますね。実は、これ、最初から企画書があってね、イルカ漁はけしからんというのはあって、それに合わせて映像とか音とかってものを調達していく、そんな感じの印象を受けるんで、いわゆるドキュメント、われわれが考えるドキュメンタリーとちょっと違うと思いますね。
涙のシーンなんかもそうですけれども、ただ、彼らのセンスっていうか、ものの考え方からすれば、これは再現であって、実際、その光景を見たら同じように涙を流すのだから、それは当然ドキュメンタリーの中に使ってもいいんだという判断をするでしょうね。

この映画、世界的に話題になったわけですよね。たまたまこの太地町が問題になったんですけれども、やっぱり言葉と映像といったものによって、そうではないんだ、われわれはこの文化を守ってきたんだ、われわれ日本の食生活はこうだったんだってことを漁師たち自身が語ってほしい、作ってほしい。でも、もちろんそんな力、すぐありません。だけどそのときにプロの、それこそドキュメンタリーの映画監督であるとか、あるいは放送局に持っていって、われわれの言い分はこうなんだということをきちんと伝えるようなものとして、作っていく。僕、今見ててね、漁師の方もカメラ、たくさん抱えてましたね。あの映像って、すごく貴重だと思うんですよ。今もなおわれわれはこの漁を大切にしているんだ、大事にしてるんだ、しかも単にむだに摂取をしてるんじゃなくて、きちんと命も大事にしながら続けているんだということもですね、説得的に語る、言葉で、表現で語る、また映画でやってほしいなと思うんですよね。