2011年6月8日18時54分
12年間、この日を待ち続けていた。宇宙飛行士の古川聡さん(47)は8日未明、カザフスタンにあるバイコヌール宇宙基地から、初めて宇宙へと旅立った。砂漠の空には北斗七星がまたたき、虫の声が響く。エンジンの光が夜空に見えなくなり、少し遅れて打ち上げ成功が伝えられた。拍手と歓声がわき起こった。
古川さんの妻や息子、母親ら家族は、約1キロ離れた見学席にいた。母の浩子さん(74)は「子どものころからの夢だった宇宙に旅立った姿をみて、一緒にアポロ11号の月着陸を見て興奮した思い出がよみがえりました」と談話を発表した。
家族おそろいのTシャツには「あきらめない Keep smiling」の文字。12年間、訓練に明け暮れた日々への思いと、東日本大震災の被災地への思いを込めたという。
古川さんは東京オリンピックが開催された1964年、横浜市に生まれた。
5歳時の69年7月、アポロ11号の月面着陸をテレビ中継で見た。今でも、行きたい天体は月だ。小学生のときにはウルトラセブンに夢中になった。「悪役」の怪獣の言い分を聞きながら、「地球を大切にしない地球人の方がおかしい」と思うようになった。同時に、天文学や宇宙工学に関心を持ったという。
東京大医学部を卒業した89年から10年間、外科医を務めた。勤務医となって9年目の当直中、国際宇宙ステーション(ISS)で科学実験をするニュースを見て、昔のあこがれがよみがえった。
99年にISSに滞在する日本人宇宙飛行士に応募し候補に選ばれた。01年に正式に宇宙飛行士に認定、08年に今回のクルーに任命され、あこがれがようやく現実となった。
09年にソユーズでISSに向かった野口聡一さん(46)も打ち上げを見守った。「古川さん、やったね、という感じ。12年の苦労が報われた素晴らしい打ち上げだった」と語った。(石塚広志、バイコヌール=佐藤久恵)