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米良美一
(10/22)

■めら・よしかず
 1971年5月21日、宮崎県生まれ。洗足学園大学音楽学部を首席で卒業。96年にソロCD「母の歌/日本歌曲集」でデビュー。97年公開のアニメーション映画「もののけ姫」(宮崎駿監督)の主題歌を歌って注目される。ドイツ、オランダでの生活をへて、今年夏に帰国した。11月18日に東京オペラシティコンサートホールでリサイタル。

ようやく抜け出した“もののけたたり”

米良美一
 2年半ぶりのアルバム「ノスタルジア」(キングレコード)を発表したところです。今ね、長いトンネルを抜けたような気分なんですよ…。

 20代の後半、「もののけ姫」で大きな注目を浴びたでしょ。クラシックから始めた私が、大きな作品に出合って、ストックしていた技術を超えたような表舞台に出てしまいました。

 あのころ、九州の田舎からポーンッて出てきて−、杉村太蔵さんじゃないけど、棚ぼたで人気が出ちゃった。自分でも、“イケてるなあ、神様に愛されすぎてる”って思っていました。

 それが、もののけの後にゴシップが出たりして、28から31歳くらいは踏んだりけったりだったんじゃないかな。

 20代では天から与えられたものを、無意識に歌っていただけのように思います。何の肉体的な開発もしてなかった。だからでしょうか、そのうちに、声が思うように出せなくなってしまって…。

 テノールって、本来はプラシド・ドミンゴみたいに大男が歌うもの。相手の女性も180センチくらいの大女だったりする。

 私の場合、肉体的なハンデがあるからこそ、体力勝負なんですよ。

 4年ほど前から、肉体改造をしよう、と整体や気功、ダンベルなどを始めました。

 そこで出会った整体の先生に、「精神が弱いと肉体も弱くなる」と教えられ、逃げてきたことに向き合い、努力しようと思いました。

 高い声が出なくなり、「もののけ姫」が歌えなくなっていたんです。その先生に「今出せる声で歌えばいい。人の心の裏を歌えばいい」と言われました。

 そして、勧められたのが、今回のアルバムにも収録した「ヨイトマケの唄」。ご存じのとおり、40年前に美輪明宏さんが作られた歌です。

 美輪さんとは、私が初めてテレビ出演したときに共演して、「あなたの声にはヨーロッパの香りがするわ」と言っていただいたんですよ。「もののけ姫」には美輪さんが出演されたし、何かとご縁があります。毒の吐き具合なんかでも、私と感性が同じ方、と尊敬しています。

 「ヨイトマケ」、存在は知ってはいましたが、歌ったことはありませんでした。実際に歌ってみたら、すごく乗って歌えたんですよ。

 実は、あの歌、私自身にも重なる部分があったんです…。



「ヨイトマケの唄」私の人生そのまま

米良美一
 私が生まれ育ったのは宮崎県西都市というところ。今、両親が66−67歳で、田舎では遅いほうの子供でした。ひとりっ子です。

 農業が中心のところで、親も畑や山仕事で暮らしを立てていました。東京に出て、音大に入る−なんていうのは遠い、ホワイトカラーとは無縁の世界です。歌だって、両親や祖父母が詩吟や民謡、演歌が好きだったくらい。

 私が4歳の時、「岸壁の母」を歌ったら、涙を流して感激してくれた人がいて、それが歌を好きになるきっかけですね。

 高校の時に音大進学を勧められたんですが、そういう家庭ですから、父親は大反対。でも母は、「あたしが一人になっても、こん(この)子を大学まで出す」って言ってくれて…。経済的にも苦労をかけたと思います。

 そういう経験があるから、今歌っている「ヨイトマケの唄」は、私の人生にそのまま重なります。

 美輪明宏さんが書かれた詞に「高校も出たし 大学も出た 僕はエンジニア」というくだりがあるんですが、これを歌手にすれば、みんな同じ。

 ヨイトマケが何か…、今の人には分からないでしょう。機械を使わない、昔の地ならし作業、人の力でやっていたんですよね。あれは日本人の原点じゃないかって思いますよ。

 この歌を歌うと、私の中の“闇”の部分が鎮まるんです。

 自分のスキャンダルや下ネタにフタをして、きれいごとでいたのが、闇の部分も見られるようになったと思います。

 どこで歌っても怖くない気持ちになれました。



今、求めるのは肉よりソウル

米良美一
 天使の声で「もののけ姫」を歌ったのだとしたら、“父ちゃんのためならエンヤコラ”と今、「ヨイトマケの唄」(アルバム「ノスタルジア」収録)で歌っているのは、地に足をつけている感じです…。

 え? 恋人ですか。今はいませんよ。前はね、「肉」で見てたんです。自分でも、色気づいて、のぼせていたような。

 私、尽くすタイプなんです。三つ指ついて、“お帰りなさい”みたいな。でも、やってあげすぎるとダメ。相手も稼ぐようじゃないと。

 好みは、一言でいうと美しい人。ゲイってことよりも、美しいものに手を出したい。美意識が高いんです。

 この夏、スペイン、ドイツの音楽祭に参加して高い評価をいただきましたが、ヨーロッパで生活するうちに、彼らは男とか女とか関係ないってことが分かりました。アーティストであるほど中性的で神みたいになっていく。求めるのは、肉じゃなくて中身、ソウルなんですよ。

 遊んでたのは、あの時(7年前の暴行騒動)だけですよ。あの後は、怖くて…。有名人・米良美一でないといけないことに、自分が壊れていってしまったんだと思います。

 今は、自分のために歌っているし、一人でいることが幸せに感じる。背負っているものを他人で埋めようとはしません。

 恋愛相手も一生現れないかもしれないけど、自分の中にある新しい感覚、それが咲き始めた花みたいに思えます。