◆200102KHK194A2L0339CM TITLE: 「日の丸・君が代」処分事例集 AUTHOR: 編集部 SOURCE: (最終更新:2011年3月20日) WORDS:
大阪地裁1972年4月28日判決判決 | |
福岡地裁1980年6月20日判決判決 福岡高裁1980年11月26日判決 | |
京都地裁1992年11月4日判決判決 大阪高裁1996年1月25日判決判決 最高裁三小1999年1月29日判決 | |
那覇地裁1993年3月23日判決判決 福岡高裁那覇支部1995年10月26日判決判決 | |
福岡地裁1993年8月31日判決判決 | |
鹿児島地裁1994年1月28日判決 福岡高裁1995年1月23日判決 最高裁二小1995年6月29日判決 | |
大阪地裁1996年2月22日判決判決 | |
大阪地裁1996年3月29日判決判決 大阪高裁1998年1月20日判決判決 | |
福岡地裁1998年2月24日判決判決 福岡高裁1999年11月26日判決 最高裁二小2000年9月8日判決判決 | |
横浜地裁1998年4月14日判決判決 | |
浦和地裁1999年4月26日判決判決 | |
浦和地裁1999年6月28日判決判決 | |
仙台地裁2000年2月17日判決 | |
千葉地裁2000年3月3日判決 | |
青森地裁弘前支部2000年3月31日判決判決 仙台高裁秋田支判2001年1月29日 最高裁一小2001年7月12日決定 | |
東京地裁2000年4月26日判決判決 東京高判2001年1月30日判決判決 最高裁二小2001年6月29日決定 | |
浦和地裁2000年8月7日判決 東京高裁2001年5月30日判決判決 | |
福岡地裁小倉支部2000年12月26日判決 福岡高裁2002年3月7日判決 最高裁2003年9月5日判決 | |
東京地裁2001年3月22日判決判決 東京高判2002年1月28日判決判決 最高裁二小2002年7月12日決定 | |
大津地裁2001年5月7日判決判決 大阪高判2002年11月28日判決 | |
東京地裁2001年12月20日判決 | |
広島県人事委員会2003年8月20日裁決 | |
東京地裁2003年12月3日判決判決 東京高裁2004年7月7日判決判決 最高裁三小2007年2月27日判決判決 | |
東京地裁八王子支部2004年5月27日判決判決 東京高裁2005年2月10日判決判決 | |
東京地裁2004年7月23日決定決定 東京地裁2007年7月19日判決 | |
広島地裁2004年12月9日判決 | |
東京地裁2004年12月28日判決 東京高裁2005年9月8日判決 | |
東京地裁八王子支部2005年3月6日決定決定 | |
福岡地裁2005年4月26日判決判決 福岡高裁2008年12月15日判決 | |
東京地裁2005年9月5日決定 | |
大阪地裁2005年9月8日判決判決 大阪高裁2006年11月22日判決 最高裁三小2007年4月24日決定 | |
東京地裁2006年3月22日判決判決 東京高裁2006年12月26日判決判決 最高裁二小2007年7月20日決定 | |
東京地裁2006年5月30日判決判決 東京高裁2008年5月29日判決判決 | |
東京地裁2006年7月26日判決判決 東京高裁2007年6月28日判決 | |
東京地裁2006年9月12日判決判決 東京高裁2008年3月11日判決 最高裁一小2008年8月6日決定 | |
東京地裁2006年9月21日判決判決 東京高裁2011年1月28日判決判決 | |
北海道人事委員会2006年10月20日裁決裁決 | |
大阪地裁2007年4月26日判決判決 大阪高裁2007年11月30日判決判決 | |
東京地裁2007年6月20日判決判決 東京高裁2010年2月23日判決 | |
神奈川県個人情報保護審査会 神奈川県個人情報保護審議会 | |
東京地裁2008年2月7日判決判決 東京高裁2010年1月28日判決判決 | |
東京地裁2008年3月27日判決 | |
東京地裁2009年1月19日判決判決 東京高裁2009年10月15日判決 | |
広島地裁2009年2月26日判決 広島高裁2010年5月24日判決 | |
大阪地裁2009年3月26日判決判決 大阪高裁2009年9月9日判決判決 | |
東京地裁2009年3月26日判決判決 東京高裁2011年3月10日判決判決 | |
横浜地裁2009年7月16日判決判決 東京高裁2010年3月17日判決判決 | |
東京高裁2010年4月21日判決判決 |
大阪地裁1972年4月28日判決
昭和40年(わ)第6110号 公務執行妨害被告事件
大阪府議会は1963年10月11日、「官公庁及び各種学校において、日曜日を除く毎日午前9時から午後5時までの間、一斉に国旗の掲揚が行われるよう強く要望する」旨決議した。これに基づき府教育委員会は、同年11月30日、教育長名で各府立学校長宛に「国旗尊重の指導を一層徹底するするために日々国旗を掲揚することが望ましいと考えるので、特に配慮せられたい。」旨通達を出した。
このような状況下で、阿倍野高校で、A校長は国旗の連日掲揚の方針を出し、1964年12月の職員会議にはかったが、否決されるに至った。それにもかかわらず、A校長は教職員の大多数の反対を押し切って国旗の連日掲揚を実施した。1965年2月9日、交渉に派遣された大阪府立高等学校教職員組合(府高教)B執行副委員長と成績判定会議に出席するA校長との間に紛争が起こり、Bが公務執行妨害罪で起訴されたものである。裁判所は、Bの行為が可罰的違法性を欠くという弁護人側の主張に対して、次のような判断を下し、被告人を無罪とした。
(1) 国旗の掲揚については、物理的側面と教育的側面をもち、両者は不可分な関係にある以上、このような教育内容に関する問題については「校長が、教職員とよく話し合って納得のうえで実施することが望ましい」。
(2) 校長が教職員の大多数の反対を押し切って国旗の連日掲揚を強行したことは、「校務を掌る立場(学校教育法51条、28条3項)にある校長が自らの判断と責任においてなしうる事項であるかの法的評価はともかくとして、異例の措置であることは否めないところであって、阿倍野高校の教職員が校長の執った措置に反対したのも肯けないわけではない」。
(3) Bの行為は、殴る蹴る等の粗暴なものではなく、交渉を要求するための押しあいであり、公務の執行である校長の判定会議への出席も2、3分ないし3、4分遅延したにすぎず、法益侵害の程度は極めて軽微である。
(判タ283-256、教育判例百選(第3版)32事件)
福岡地裁1980年6月20日判決
昭和55年(行コ)第20号 君が代斉唱計画処分取消請求事件 却下
1980年3月19日、宗像町立自由ヶ丘小学校では卒業式が挙行されることとなっていたところ、ある生徒の父親が、卒業式において君が代斉唱の実施を計画していることは、憲法19条、20条に違反するとして当該実施計画の取消を求めた。右父親の主張のポイントは、君が代斉唱は神社神道の布教を手助けするものであり、旧憲法時代に神社神道が国教化して狂信的軍国主義の精神的基盤となったこと等の反省から、現行憲法において信教の自由等が保障されることになったことに鑑みるならば、本件卒業式において小学校児童やPTAに君が代を押しつけることは許されないというところにある。
これに対し、被告である同小学校校長は、小学校の卒業式において国歌君が代の斉唱を計画することは行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為に当たらないので取消訴訟の対象とはならない。また、卒業式は予定期日に挙行され、本件口頭弁論終結当時において既に終了していると主張した。
本判決は、君が代斉唱は卒業式における式次第の一部にすぎないものであって、計画通りに斉唱がなされても、式典に参加する児童、父兄、教職員、その他の関係者のいずれの権利義務に何らの変動を生ずるものではないことは明白であり、処分の取消しを求める訴えの要件を充足していないと判断した上で、訴えを却下した。
(福岡地裁1980年6月20日判決 却下)
(判時997-103、判タ423-130、教育判例百選(第3版)33事件)
(福岡高裁1980年11月26日判決 棄却)
京都地裁1992年11月4日判決
昭和62年(行ウ)第7号・9号・13号・19号 損害賠償請求事件 一部却下一部棄却
1986年2月上旬、京都市教育委員会(学校教育課長ら)は、「君が代」の演奏及び合唱を録音したカセットテープを市内の各小中学校の校長に配布することを決定した。この決定を受けて、被告Xは、カセットテープ290本の購入を決定し、その代金として4万4950円の公金を支出した。
本件は、京都市の住民である原告Aらが提起した住民訴訟である。原告側の主張は、被告側が行ったカセットテープの購入と配布は、日本国憲法の基本原理である国民主権に反する「君が代」の斉唱、もしくは斉唱の強制を目的とする行為であり、日本国憲法が保障する思想・良心の自由を侵害する行為である。それ故にカセットテープの購入は、違法な公金の支出に該当するというものである。そして原告Aらは、京都市に代位して、京都市教育委員会委員長、教育委員、教育委員会事務局総務課長、学校指導課長、施設課長、小中学校校長らを被告として、違法な公金の支出による損害賠償請求とカセットテープの引き渡しを請求する住民訴訟を提起したのである。
(1) 住民監査請求の相手方と住民訴訟の被告の同一性について
地方自治法242条の2第1項は、住民訴訟を提起する要件として住民監査請求を事前に行うことを規定している。この訴訟では、住民監査請求は行われているが、その対象である当該職員・相手方と、住民訴訟の被告との間にズレが生じているのである。
「住民監査請求は、その行為等が複数である場合において行為の性質、目的等に照らしこれらを一体とみてその違法又は不当性を判断するのを相当とする場合を除き、その対象となる財務会計上の行為を他から区別し、特定して認識できるように個別的具体的に摘示してしなければならない。」そして、「このことは、住民訴訟の対象となる客観的事実だけではなく、その主観的事実、即ちこれを行った当該職員ないしその相手方についても同様である。」しかし、ここで言う住民監査請求は、「当該行為等とこれを行った職員の個別的、具体的摘示によって、その対象となる財務会計上の行為を他から区別して認識できる程度」のもので充分である。関与した職員が複数である場合は「当該行為の性質、目的等に照らし同一部局員又は担当者であるこれらの職員を一体とみて、その違法性又は不当性を判断するときは、必ずしも、全職員を個別的具体的に摘示しなくてもよい」。このような場合には、「後に監査結果により判明したところに従い、職員の一部を追加ないし変更したうえ、同一部局員又は担当者である新たな被告に対しても、監査請求を経たものとして、従前の被告とともに、住民訴訟を提起できる」。
(2) カセットテープの購入と損害の発生について
「本件カセットテープの購入は、被告Xが市内の写真機店で市販の普通の録音用のカセットテープを買い受けたものであって、この時点では君が代が録音されていたものではない。この段階でカセットテープは、どのような音声をも録音できるものであって、君が代に限らず、他の教材の録音用にもなるものでそれ自体有用であり、不用品であるとは認められない。」
また、前提行為の無効が財務会計上の行為に影響を与えるとしても、「君が代」を録音するという目的は、本件カセットテープ購入の動機に過ぎず、これを相手方に表示したという事実は認められないから、本件カセットテープの購入は無効になるものではない。それ故に「本件テープ代金支払いのためにした公金支出は、債務の弁済であって、これによる損害はないというべきである」
「原因行為の違法が重大かつ明白である場合には財務会計上の行為が違法になるという違法継承を認める見解がある。被告参加人は、この見解に立ち、原因関係の君が代の録音、斉唱に重大明白な違法がないから、公金支出は違法ではないと主張する」。これに対し、原告側は「君が代」の違法性を主張し重大かつ明白な違法に限定した違法継承論を争っている。しかし、「君が代」の内容の適否は、「司法判断に適合しないものであり、本件において、このような違法継承論をとることは相当でないし、この理論そのものに疑問があり、当裁判所はこれを採用しない。」
(3) 「君が代」について
「国歌とか、それと同視される歌は国民各人の心の深層に内在するシンボルの一つでもある。国歌ないしこれに準ずるものとして、君が代の内容が相当かどうかは、内心に潜在するシンボルの適否の問題といえる。それはもともと、国民ひとりひとりの感性と良心による慣習の帰すうに委ねられるべき性質のものなのである。」「国歌とされるものは、時代と国歌や社会の推移につれて好むと好まざるに拘わらず様々な歴史を刻んでいく。それに伴いその意味や受け止め方も変遷し、あるいは陳腐化して時代に合わないといわれたり、あるいは、なお、これを伝統的なものとして維持すべきであるという対立した意見が次第に生じてくる。」「国歌とされるものの歌詞や曲が二義を差し挟まない程度に明らかに憲法を誹謗し、破壊するものであることが明白でない限り、その適否は、本来、裁判所の司法判断に適合しないものである。
(京都地裁1992年11月4日判決 判時1438-37、判タ799-258、判地自106-31)
(大阪高裁1996年1月25日判決 控訴棄却 判タ909-124、判地自149-62)
(最高裁1999年1月29日判決 上告棄却)
那覇地裁1993年3月23日判決
昭和62年(わ)第346号 建造物侵入、器物損壊、威力業務妨害被告事件 有罪
(事件の概要)
被告人は、1987年の沖縄国体の際、読谷村で行われたソフトボール競技の開始式において、スコアボード上のセンターポールに掲揚されていた日の丸旗を引き下ろし、これに火をつけ、球場内の観客に掲げて見せた後、投げ捨てた。被告人は、競技会の運営を混乱させたとして、建造物侵入、器物損壊、威力業務妨害罪に問われ起訴されたが、読谷村長の告訴状記載の「日の丸旗」は検察官の起訴状では「国旗」と記載されたため、日の丸の国旗としての法的根拠をめぐって論争が展開された。
(判旨)
被告人を懲役1年に処する。執行猶予3年。
(1)「民主主義社会においては、自己の主張の実現は言論による討論や説得などの平和的手段によって行われるべきものであって」「被告人の実力行使は手段において相当なものとはいい難く」「正当行為であるとはいえない」。
(2)日の丸旗は、国際関係においては、他国と識別するために法律等により国旗として用いることが定められているといえるが、他方、国内関係において国民統合の象徴として用いる場合の「国旗については何らの法律も存在せず、国民一般に何らの行為も義務づけていない。しかし、現在、国民から日の丸旗以外に国旗として扱われているものはなく、また多数の国民が日の丸旗を国旗として認識して用いているから」、検察官が公訴事実において、器物損壊罪の対象物として記載した「国旗」とは「日の丸旗」を指すと理解でき、訴因の特定、明示に欠けるところはない。
(3)弁護人は、器物損壊等につき軽微事件としてその法益侵害も小さく起訴猶予が相当であるのに、あえて起訴した本件起訴は平等原則に違反すると主張するが、「公訴提起が無効とされるのは公訴提起自体が職務犯罪を構成するような極限的な場合に限られる」。
(那覇地裁1993年3月23判決、判時1459-157、判タ815-114)
(福岡高裁那覇支部1995年10月26日判決、判時1555-140)
福岡地裁1993年8月31日判決
平成2年(行ウ)第24号 損害賠償請求事件 棄却
(判例タイムズ854号195頁)
大阪地裁1996年2月22日判決
平成3年(ワ)第8943号 損害賠償請求事件 棄却[確定]
府立高校の教諭A及び実習助手Bらは、卒業式当日、同校玄関前のポールに日の丸を掲揚しようとした同校長の行為を妨害し、また、入学式当日、右ポールに掲揚された日の丸を引き下ろす等の行為をしたとして、訓告の制裁を受けた。そこで、Aらは、校長のした日の丸掲揚行為及び教育委員会のした右訓告処分がそれぞれ違法であるとして、校長と大阪府に対して慰謝料の支払を求めた。本判決は次のような検討を行い、原告らの主張する違法は認められないとして請求を棄却した。
(1) 「学習指導要領、すなわち本件国旗掲揚条項は、法規としての効力をもつ」ものであり、したがって、高等学校長が、これに従って国旗の掲揚、又はこれの指導にかかわる行為をしたときには、適法な職務遂行行為に当たる。
(2) 「『日の丸』は日本を象徴する国旗であるとの慣習法が成立しているというべきである(法例二条参照)」。...「『日の丸』をめぐる現状や『日の丸』以外に日本を象徴する国旗として扱われているものが存在しないことを考えると、少なくとも現時点においては、日本の国旗は『日の丸』以外には有り得ないといわざるを得ない」。
(3) 「職員会議は校務の運営を円滑かつ効果的に行うために極めて必要かつ有効なものではあるが、これは法令上の根拠があるものではなく、また、校務の運営について最終決定をする権限も有してはいないのであって、校長はその職務を行うに当たって職員会議の意見を尊重すべきではあるが、これに拘束されるべきものとまではいうことはできない」。
(4) 「原告らは、憲法は思想良心の自由に反する行為及びこれを侵害する行為を強制されないことも保障していると主張するが、自分の考えと相容れないからといって、適法な職務行為を実力をもって妨害する行動に出ることまでを憲法が保障しているとは到底認めることができない」。
(判タ904-110、判地自146-37)
大阪地裁1996年3月29日判決
平成4年(ワ)第5768号 損害賠償請求事件 棄却[控訴]
本件は、中学校の教員で日の丸掲揚に反対の思想をもつ原告が、卒業式(平成4年3月12日)の式典で抗議の発言をし、さらに入学式(同年4月2日)において抗議のプレートを着用したことを理由に市教委から文書訓告の措置を受けたことに対し、原告が思想及び良心の自由の権利侵害として被告校長に対し民法709条に基づき、大阪市に対し国賠法1条に基づき、慰謝料の支払いを求めたものである。
(判示事項)
(1) 文部大臣が、中学校の教科事項を定める権限に基づき教育内容等について基準を定めた本件学習指導要領の基準は、教育における機会均等の確保と一定の全国的水準の維持という目的上、必要かつ合理的と認められる大綱的基準にとどめられるべきところ、「入学式や卒業式などにおいて、その意義を踏まえ、国旗を掲揚するとともに、国歌を斉唱するよう指導する」旨の「国旗掲揚条項」(文部省告示第25号)は、右大綱的基準を逸脱せず法的効力を有する。
(2) 現在においては、日の丸を日本国国旗とする慣行と国民的確信がすでに形成され、一種の慣習法となっている。
(3) 国家や地方公共団体が、教師に対し、日の丸を掲揚する卒業式等に出席し、式典の事務運営の義務を課しても、教師に内心の世界観等の告白を強制するものでないかぎり、思想及び良心の自由の侵害に当たらない。
(4) 卒業式に「壇上の日の丸に抗議します」等と発言し、「入学式に『日の丸』はいりません!」等と記したプレートを着用した原告に対し職務専念義務に反する行為として文書訓告とした市教委の措置は相当と認められる。
(鯰江中学「日の丸」裁判を支援する会「鳳仙花」1998年9月)
(大阪地判1996年3月29日:労判701-61)
大阪高裁1998年1月20日判決
平成8年(ネ)第1143号 損害賠償請求控訴事件 棄却[確定]
1.学習指導要領の法的効力
教育基本法10条は、教育行政機関が教育条件の整備確立のための措置を講ずるにあたって、「教育の自主性尊重の見地から、不当な支配となることのないように配慮すべき義務を課して」いるが、「許容される目的のために、必要かつ合理的な範囲であるならば、たとえ教育内容及び方法に関するものであっても、これを決定することは、必ずしも同条の禁止するところではない」。
2.国旗掲揚条項の法的効力国旗掲揚条項には「国旗についての一方的な一定の理論を生徒に教え込むことを強制するものと解することはできず、日の丸を巡る客観的な歴史的事実等を含め、教師による国旗についての創造的、かつ弾力的な教育の余地や、地方ごとの特殊性を反映した個別化の余地は十分に残されていると認められる。以上の点から考えると、国旗掲揚条項は、前記大綱的基準を逸脱するものとはいえず、教育基本法一〇条に抵触せず、法的効力を有すると解される」。
3.校長の権限と職員会議の決定の効力について「職員会議は、法令上の根拠がなく、校務運営について最終決定をする権限は有していないのであるから、校長がその職務を行うにあたっては、職員会議の意見を十分に聴取し、これを尊重すべきことが要請されているとはいえ、その決議が、校長の職務遂行を法的に拘束するとまでは解せない」。
4.日の丸は、国旗掲揚条項に規定される「国旗」であるか「これを慣習法と評価すべきか否かについては、なお検討を要するとしても、少なくとも、国旗掲揚条項にいう国旗とは、日の丸を指すことは明らか」というべきである。
5.卒業式等における国旗掲揚が、思想良心の自由を侵害するか「国家や地方公共団体が、教師に対し、その職務行為の一環として、日の丸の掲揚された式典の場に出席し、その式典の事務運営をする義務を課したとしても、国旗に対し敬礼をさせるなど、国旗に対する一定の観念を告白させるに等しい行為を強制する場合は格別として、そのことだけで、ただちに当該教師の思想及び良心の自由を侵害する強制行為があったとすることはできない」ものというべきである。
6.文書訓告の違法性の有無「入学式や卒業式の職務遂行中に、正当な理由なくマイクで式典の進行を妨げる発言や、一定の要求等を掲げるプレートを着用し、校長を含めた教職員ら、生徒、保護者らに対し、自己の信じる主義、思想等を発表することは、職務命令に違反し、かつ職務専念義務に反するもの」であり、許されない。
(大阪高判1998年1月20日:判地自182-55)
福岡地裁1998年2月24日判決
平成6年(行ウ)第3号 戒告処分取消請求事件 請求棄却[控訴]
X教諭の勤務する市立小学校では、卒業式に向けて六年生の旗を作るための実行委員会が設けられ、6年生によりピカソのゲルニカの絵を模写した旗が制作された。6年生児童はゲルニカの旗を卒業式場の正面ステージに掲げてほしいとの希望を有していたが、これは叶えられず、卒業式では、正面ステージに日の丸の旗が張られ、ゲルニカの旗はパネルに貼られた状態で卒業生席背面に掲げられた。
ゲルニカの旗が正面に掲げられなかったことに反発した卒業生B子は、国家斉唱時に着席し、二度にわたり「歌えません」と叫んだ。B子は、卒業証書授与の際に与えられた決意表明の機会に「私はゲルニカをステージに張ってくれなかったことについて深く怒り、そして侮辱を感じています。校長先生は私達に対して、私達を大切に思っていなかったようです。ゲルニカには平和への願いや私達の人生への希望をも託していたというのに、張ってくださいませんでした。」と述べ、卒業式場が騒がしくなったが、校長が「静かに」と言い、Xが「子どもの発言は最後までお願いします」とB子の発言を続けさせたところ、B子は「私は怒りや屈辱をもって卒業します。私は絶対に校長先生のような人間になりたくないと思います。」と述べて発言を終えた。
これに対し、市教育委員会は、「Xは、本件卒業式で国家斉唱時に、担任の児童の国家斉唱拒否の発言及び着席に呼応するかのように着席し、また卒業式が正常な進行とはいえないなか、退場の際、右手こぶしを振り上げるという参列者に多大の不信を招くような卒業式にふさわしくない不適切な行為を行った。このことは教育公務員としてふさわしくない行為であり、地方公務員法第二九条第一項の懲戒事由に該当する」として、Xに対し、戒告処分を行った。本件はXが本件処分の取消を求めた事例である。
(1) 本件着席が原告の意思に基づくものであると認められること、本件挙手が来賓や保護者に対する抗議ないしは勝利の意思表示と認められることを考慮すれば、戒告処分という、懲戒処分としては最も軽い形式による本件処分が、社会観念上著しく妥当を欠くものといえず、懲戒権の濫用によるものと判断することはできない。
(2) 小学校には校長以下の教職員が構成員となる職員会議が設置されるのが通例であるが、右職員会議の設置及びその権限に関する法令上の根拠は存在せず、儀式的行事の運営を決定する権限は校長にあると解するのが相当である。職員会議は校長の諮問機関として位置付けられるものであり、職員会議が広く認知され、通常その構成員が学校に所属する教職員全員とされることからすれば、その答申に当たる職員会議の決定が校長において相当程度尊重されるべきであるが、このことは校務に関する校長の職務権限自体に影響を与えるものではない。
(福岡地判1998年2月24日 判タ965-276)
(福岡高判1999年11月26日[控訴棄却]労判784-82)
(最二小決2000年9月8日[上告棄却])
横浜地裁1998年4月14日判決
平成6年(行ウ)第16号 訓告処分取消等請求事件 一部棄却一部却下[確定]
本件は県立学校教諭であった原告らが、入学式において、ポールに掲揚されていた日の丸を引き下ろし、県教委から文書訓告処分を受けたため、県教委に対してその取り消しを、また、県に対し国家賠償法による慰謝料の支払いを求めたものである。
本判決は、まず原告らの「訴えの利益の存否」について判断を示している。すなわち、判決は、本件訓告処分は懲戒処分と異なり、何らの法的効果も伴わないものであるから、行訴法三条二項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使にあたる行為」とはいえないとして、原告らの訴えを却下した。これに対し、賠償請求の訴えは独立の訴えとして、それ自体は適法として内容の判断に入っている。
(1) 入学式及び卒業式における国旗の掲揚は、校務をつかさどり、所属職員を監督する権限を有する校長が、学習指導要領の定める大綱的な基準に準拠して、その権限と責任に基づいて行う校務というべきであるから、校長が行う国旗の掲揚又はその指示に関わる行為をしたときは、右行為は適法な職務遂行行為に当たるということができる。
(2) 職員会議は法令上の根拠があるものではなく、決議機関ともいえず、校長の校務遂行上の補助機関と解すべきであるから、校長が校務を行うに当たって職員会議の意見を尊重することが望ましいとはいえても、その意見は校長を拘束するものではなく、校長の校務として国旗を掲揚する権限に影響を与えるものではない。
(3) 日の丸は日本を象徴する国旗であるとの慣習法が成立しているということができる。
(4) 憲法二六条の規定する子どもの教育は、教育を施す者の支配的権能ではなく、何よりもまず、子どもの学習をする権利に対応し、その充足を図りうる立場にある者の責務に属するものとしてとらえられるべきものであって、原告らの権利としてとらえることはできない。・・・教師に完全な教育の自由を認めることはできないというべきであるから、日の丸の掲揚が憲法二六条に違反するということはできない。
(5) 日の丸掲揚自体は原告らが日の丸の掲揚に反対の意思表示をする自由を侵害するものとはいえないから、原告らの憲法二一条違反の主張は採用することができない。さらに、日の丸掲揚は、これによって原告らの内心に強制を加えるものではないから、原告らの憲法一九条違反の主張も採用することができない。
(判タ1035-125、労判744-44、判地自182-55)
浦和地裁1999年4月26日判決
平成8年(ワ)第1175号 損害賠償請求事件 一部認容一部棄却[確定]
本件は、中学校の卒業式での日の丸掲揚、君が代斉唱に反対して卒業式を欠席した教員が、卒業生の担任でありながら呼名をしなかったことは、地方公務員法の職務専念義務および信用失墜行為に該当する非違行為があったとして減給処分を受けたが、右教員の懲戒処分の内申が市教育委員会の議決を経ずに県教育委員会に進達されたことから、県人事委員会が右処分を取り消したところ、右教員が、県、市、市教育長を相手取って三〇〇万円の損害賠償を請求した事案である。判決は、本件処分を適法として、県に対する損害賠償を請求を退けたが、市教育長の内申書の進達は違法であるとして、市に対して五万円の慰謝料の支払いを命じた。本件は日の丸掲揚、君が代斉唱を直接問題とする事案ではないので、この問題について掘り下げた検討を行っていない。
(1) 本件処分は、原告が本件卒業式に出席せず、生徒の呼名を行わなかったこと等の所為に対して課せられたものであり、県教育委員会が、原告の日の丸の掲揚、君が代の斉唱に対して反対するという思想、信条を侵害する目的あるいは正当な組合活動に対し圧力をかけるという目的で本件処分をしたという事実を認めることはできない。
(2) 学習指導要領では、国旗を掲揚し、国歌を斉唱することが望ましいとされており、また、校長は、本件卒業式においては、日の丸を掲揚し、君が代を斉唱することとし、南中学校の職員全員に本件卒業式への出席を指示したのであるから、・・・原告の右行為が、教職員としての職の信用を傷つけたと同時に、職務に専念す義務に違背していることは明かであるといわざるを得ない。
(3) 県教育委員会が、本件処分をするに際して、本件内申書が市教育委員会の議決を経ることなく県教育委員会に進達されたことを知っていたと認めることはできない。・・・右のとおりであるから、県教育委員会が市教育委員会の内申の一連の手続きの瑕疵があることを看過して本件処分をしたことを理由に、被告県に対し損害賠償を求める請求は、理由がない。
(労判771-45、判地自197-48)
浦和地裁1999年6月28日判決
平成8年(行ウ)第19号 懲戒処分・裁決取消請求事件 請求棄却[確定]
県立高校教諭(8名)が、校長が卒業式に日の丸を掲揚することを決定したことに反対して、担任する学級の生徒に日の丸の掲揚に反対する内容の印刷物を配布した上、生徒を放課して、卒業式の前日に予定されていた予行練習を行わなかった。これに対し県教育委員会は教諭らの行為が地方自治法33条の信用失墜行為及び35条の職務専念義務違反に該当するとして、戒告の懲戒処分をした。教諭らは教育委員会に対し本件処分の取消を求め、さらに、県人事委員会に対しその裁決の取消を求めた。判決はいずれについても違法は認められないとして、請求を棄却した。本件では、校長が日の丸の掲揚についての態度を保留し、卒業式前日の予行練習予定日の朝会において、卒業式で日の丸を掲揚塔に掲げる旨申し渡した。これに対し、原告らは、日の丸掲揚について校長と話し合う必要があるとして、第一及び第二時限は、予定どおり三年生のみの予行練習を実施したうえで、第三時限からの一年生及び二年生をあわせた予行練習を中止したのである。
(1) 国内において「日の丸」を国民統合の象徴としての国旗と定めた法規は存しないが、「日の丸」は、諸外国から日本を象徴する国旗として是認され、国内においても「日の丸」以外に国旗として取り扱われているものも存しないし、国旗として認容されていることは公知の事実である。
(2) 原告らは、本件行為は教育に密接に関連するものであり、文書の配布、行事の中止等は現場の教員の判断に委ねられているところであると主張する。...[しかし]職員は職員会議を通じて、自主的、主体的な立場から、校務の運営に必要な意見を述べることができるが、公務の運営についての最終的な決定をする権限を有するものでないことは、明かである。...本件予行練習を本件日程表に従って行うこととしたことは、校務をつかさどり、職員を監督する権限を有する校長が、その権限と職責に基づいて行う校務というべき[である]。
(3) 本件予行練習を行うことによって原告らの内心の自由に強制を加えるものでもない。
(4) 原告らは、教育局指導部次長として、事故報告書の提出及び事実確認等を指揮監督する立場にあったXが本件裁決に人事委員として関与しているので、本件裁決は、違法である旨主張する。...[しかし]Xが、原告らの本件行為について、教育局の職員に事実を調査するように指示したとしても、係る事実をもって、Xが、人事委員として、本件裁決を行うにつき中立公正を期待することができない事情が存したと認めることはできない。
(判タ1037-112、判地自199-51)
東京地裁2000年4月26日判決
平成7年(行ウ)第49号 懲戒処分取消請求事件 認容[控訴]
本件は、小学校教諭である原告が、勤務する小学校で行われた入学式当日に、校庭の国旗掲揚塔に掲揚されていた国旗を入学式の開会直前に引き降ろしたことが、地公法三二条(法令等及び上司の職務上の命令に従う義務)及び同法三三条(信用失墜行為の禁止)に違反するとして、戒告処分を受けたので、その取消しを請求した事案である。
本判決は、本件戒告処分が町教育委員会の内申をまって行われたか否かについて、関係証拠を詳細に検討したうえで、本件戒告処分に先立ち町教育委員会からの内申が被告に提出されていたことを認めることはできず、本件戒告処分はその手続において地教行法三八条一項違反の違法があるとして、本件戒告処分を取り消した。ただし、本判決は上記の手続的適法性についてのみ検討して結論を下しているので、それ以外の争点については判断していない。
県費負担教職員の任命権は、都道府県教育委員会に属するものとされているが、その服務の監督は勤務する学校を設置した市町村の教育委員会が行うものとされ(地教行法四三条一項)、県費負担教職員の任免その他の進退は、都道府県教育委員会が市町村教育委員会の内申をまって行うものとされている(同法三八条一項)。本件は、県費負担教職員の懲戒処分の取消訴訟において、市町村教育委員会からの内申と、当該懲戒処分の先後関係が争われた稀なケースである。
(東京地判2000年4月26日 判タ1053-122、判地自204-58、労判796-85)
(東京高判2001年1月30日[控訴棄却])
(最二小決2001年6月29日[上告不受理])
青森地裁弘前支部2000年3月31日判決
平成10年(ワ)第63号 懲戒処分無効確認等請求事件 認容
本件は、青森県弘前市の私立柴田女子高校の男性教諭が、1998年4月の入学式で国旗に敬礼しなかったことなどを理由に、同年6月、出勤停止4日の懲戒処分と1学年の担任から外す処分を受けたのを不服として、同校を経営する学校法人柴田学園を相手に、処分無効確認を求めたものである。青森地裁弘前支部は、原告の主張を全面的に認め、学校側に処分無効を言い渡した。
学校側の主張する処分理由は、同日の入学式で教諭が(1)担任として新入生の名前を呼ぶ際、投げやりな態度に終始した、(2)あえて日の丸に敬礼しなかった、(3)始末書の提出を求められたのに対し不当に拒否したというものである。
同校は大学から幼稚園まで7校を抱える学校法人柴田学園傘下の高校で、国旗敬礼を教育の柱の一つにしており、17年前にも学園創設記念に在校生に国旗を配り、労使が対決するなどの紛争が起きている。(毎日新聞2000年4月1日、東奥日報2000年4月1日web版)
(1) 原告の呼名が全く投げやりでやる気のないものであったかどうかは、それを聞く者の主観に多かれ少なかれ左右されうるものであることからすると、通常人を基準にした客観的判断として、原告が全く投げやりな態度であったとまで認めることはできないというべきである。仮に、被告が主張するような態度で呼名がなされたとしても、・・・本件入学式は粛々と進行し、その進行に特段支障が生じたわけでなく、生徒・父兄から苦情等が寄せられるなどして被告の信用を傷つけるといったことも認められないことからすると、右程度の原告の呼名態度をもって、「学園の信用を著しく傷つけたり、名誉を汚すような言動」(本件就業規則11条1項)がある、或いは「秩序、風紀をみだす」(同条2項)があると認めることはできないというべきである。
(2) 国民である以上、国旗に対する崇敬の念を持つべきであるかどうかということについては、原被告間において見解が大きく相違するところである。しかし、仮に、被告が主張するような見解を前提にするとしても、そのことから直ちに、国旗に対して一礼を行うことが企業秩序の一つを形成し、労働契約の内容として労働者に義務づけられると解されるわけではない。これは、被告においても同様であって、国旗に対する礼を欠いたことの一事をもって、直ちに被告の企業秩序を乱したと解することはできない。
(3) 原告は意図的に登壇の際の礼を欠いたわけではなく、たまたまこれを失念したものに過ぎないものであるから、・・・右行為によって混乱が起きたり、式進行に支障が生ずることもなく、また、生徒・父兄から苦情、抗議が寄せられたというわけでもないこと、実際、被告理事長としても、国旗に対する敬礼を欠いたことそれ自体を捉えて、原告を懲戒処分に付す考えは有していなかったことからすると、客観的に学園の信用を著しく傷つける、又は秩序を乱す行為があったと認めることはできない。
(4) 本件入学式において、原告が適切な呼名をしなかった行為及び国旗に対して一礼をしなかった行為は、いずれも被告の信用を著しく傷つけたり、名誉を汚すような言動には該当せず、被告の秩序を乱す行為にも当たらず、就業規則で定められた非違行為があったとは認められないから、このような行為について、反省の意を表すことを内容とする始末書を要求し、労働者にその提出を強制することは許されないというべきである。
(青森地裁弘前支判2000年3月31日 労判798-76)
(仙台高裁秋田支判2001年1月29日[棄却])
(最一小決2001年7月12日[上告不受理])
浦和地裁2000年8月7日判決
平成8年(行ウ)第20号 戒告処分取消等請求事件 請求棄却[控訴]
本件は同名事件 I と同一の事例で、処分を受けた教諭らが別々に提訴したため二つの判決が言い渡されたものである。本件原告の教諭(3名)は事件 I の原告の同僚である。判決は事件 I とほとんど同様の理由で請求を棄却しているので、要旨についてはそちらを参照されたい。また、判決文の多くの部分で、事件 I とまったく同じ文言が用いられている。
本件にのみ見られる原告側の主張は、原告の行為が「校長による『日の丸』強制という憲法一九、二六条、国際人権法に反する行為に対する抵抗権の行使として適法なものであり、右適法な原告らの本件行為に対する本件処分は違法である」とするものである。判決はこれについても明確な説明を欠いたまま「右主張には、理由がない」としており、説明の不十分さにおいても事件 I と共通している。
(浦和地判2000年8月7日 判地自211-69)
(東京高判2001年5月30日[控訴棄却・上告] 判例時報1778-34)
平成7年(行ウ)第123号 東京地裁2001年3月22日判決
懲戒処分取消請求事件 請求棄却[控訴]
東京都立養護学校の落成記念式典において、同校校庭の国旗掲揚塔に校長と教頭により掲揚されていた国旗を引き下ろして隠ぺいした養護学校教諭に対してなされた懲戒処分の取消請求事件。
(1) 「掲揚された日の丸旗を実力で引き降ろした上、これを自己の占有下におき、一時的にせよ校長からの返還要求にも応じなかったというもので、決して軽視できないものであること、現実に生徒らも原告による日の丸引き降ろしを見ていることからすれば、その後原告が返還した日の丸旗が再度掲揚され、本件式典がとどこおりなく行われたことを考慮しても、客観的にみて、教育公務員としての職の信用に傷をつけ、職員の職全体の不名誉となる行為であって、地方公務員法33条(信用失墜行為)に違反する違法な行為であるといわざるを得ず、・・・同時に同法32条(法令・職務命令に従う義務)にも違反するというべきである。」
(2) 原告は、本件処分が思想良心の自由を侵害するものとして憲法19条に違反するとも主張するが、校長らのした日の丸旗掲揚行為は適法な職務遂行行為であり、これを実力で妨害することまでを同条が保障しているとは到底認められないことから、この点に関する原告の主張も採用できない。」
(3) 被告は、本件処分に先立ち、原告から事情聴取を行っており、所定の手続に従って、懲戒分限委員会の答申を受けた上、教育委員会を開催し、本件処分を議決しているのであるから、本件処分の処分手続に、違法があるとはいえない。」
(東京地判2001年3月22日[請求棄却・控訴])
(東京高判2002年1月28日[控訴棄却・上告] 判例時報1792-52)
仙台地裁2000年2月17日判決
懲戒処分取消請求事件 請求棄却[確定]
1995年3月の宮城県古川工業高校の卒業式において、職員会議では日の丸を掲揚しないよう決めていたにもかかわらず、校長が日の丸掲揚を強行しようとしたため、同校教諭が日の丸を掲揚しようとしていた者から、部外者とともに実力によって日の丸旗を奪い取って掲揚を阻止し、別の場所に掲揚した学校関係者から、再び日の丸旗を奪うとともに校舎のトイレに捨てた。県教委はこれを職務命令に背いた行為であるとして、同教諭を停職6カ月の懲戒処分とした。本件は、県教委による停職処分は懲戒権の乱用であるとして、同教諭が県教委を相手取り、処分取り消しを求めたものである。
同教諭は校長が掲揚したのは職権を逸脱した行為で、それを阻止したのは思想信条の自由に対する侵害排除の正当防衛と主張していた。判決は、「原告の行為は他人の所有物への毀損行為であり、明らかに違法。教員としての信用を傷つけた」として訴えを棄却した。掲揚の是非そのものについての判断は示されなかった。(毎日新聞宮城版2000年2月18日など)
本件では、国旗掲揚妨害の他に授業中の教育活動も処分対象とされている。すなわち、英語教諭であった原告が、沖縄戦と天皇の戦争責任を語り合う集いを企画し、そのビラを授業中に配布し、さらに、授業中の生徒に対し、天皇制と民主主義の関係あるいは日本政府の戦後の経済進出についての見解を表明したというものである。判決は「このような行為が、学習指導要領に定める英語教科の目標を逸脱するとともに、学校教育法42条に定める高等学校の教育の目標に違反する」として本件処分を支持している。
(教育委員会月報2000年9月)
大津地裁2001年5月7日判決
平成7年(行ウ)第3号・第4号 戒告処分取消請求・減給処分取消等請求事件 請求棄却[控訴]
1994年3月の卒業式に関わって、県立八日市養護学校の教諭である原告Aは、職員会議で校長に対する暴言を行い、卒業式の前日に生徒の卒業証書を無断で持ち去ったとして戒告処分を受けた。県立彦根商業高校(現彦根翔陽高校)の教諭である原告Bは、卒業式当日、日の丸を掲揚するため玄関に向かう教頭から日の丸を奪い取って逃げ去り、日の丸掲揚を妨害したとして減給処分を受けた。同高校の教諭である原告Cは、卒業式当日、式場に掲げられていた日の丸を持ち去って隠匿し、日の丸掲揚を妨害したとして戒告処分をうけた。本件は、原告らが、県教育委員会に対して各処分の取消を求めるとともに、県に対して、違法な処分により昇給延伸等の不利益や精神的苦痛を被ったとして損害賠償の支払を求めた事案である。
(1)高等学校指導要領の国旗条項の設けられた趣旨は教育基本法の精神に反するとまではいえないこと、国旗条項は全国的になされることが望ましいものであること、国旗掲揚の実施方法等については各学校の判断に委ねられており、その内容は一義的なものではないこと、国旗条項は教師に対し国旗についての一方的な一定の理論を生徒に教え込むことを強制するものと解することはできないことなどを理由にして、教育における機会均等の確保等の目的のために必要かつ合理的な基準を設定したものとして法的効力を有する。
(2)日の丸を掲揚したからといって、その式典が何らかの思想に賛同を表するために開催されることになるものではなく、出席者がそのような思想に賛同を表することになるものでもないから、卒業式において国旗掲揚を実施することは、教師や生徒、保護者の内心に強制を加えるものと解することができない。したがって、国旗条項が憲法13条、19条、23条、25条、26条及び市民的及び政治的権利に関する国際規約18条に反するとはいえない。
(3)校務運営についての決定権限は法令上校長にあって、職員会議にはないのであるから、校長がその職務を行うにあたっては、職員会議の意見を十分に聴取し、これを尊重すべきことが望ましいし、また必要であるとはいえ、職員会議の決議が校長の権限よりも優先するということはできない。
(4)被告教育委員会が本件各処分をするにあたって、原告らに対し、その権利保護のため告知、弁解の機会を与えなかったとしても、直ちに裁量権の逸脱があったとまではいうことはできない。
なお、国歌条項については、本件各処分の対象行為と関係がないから、判断の必要がないとした。
(大津地判2001年5月7日 判例タ1087-117、判地自221-42)
(大阪高判2002年11月28日[控訴棄却・確定])
東京地裁2001年12月20日判決
懲戒処分取消請求事件 請求棄却
東京都田無市立小学校に勤務していた男性教諭が、1995年4月の始業式に掲揚されていた日の丸を降ろしたことで都教委から戒告処分にされたことを不服とし、取消を求めた訴訟の判決が20日、東京地裁であった。(朝日新聞2001年12月21日)
判決は「原告の本件引き降ろし行為は、実力で妨害する態様のものであったこと、児童の見ている前で行われていること、本件処分が法令上の根拠を有する懲戒処分のなかでは最も軽微な処分(戒告)であることからすれば、...本件処分が社会観念上著しく妥当を欠いているとまでは認め難い」として、原告の請求を棄却した。
その一方で、当該校長が「今までどおり行う」旨発言しながら、これに反し、従前とは異なる時間帯での日の丸掲揚を行ったことについて、「日の丸旗を巡っては様々な意見があることが考えられるから、本件のように校長が学校行事・式典における日の丸旗の掲揚を従前と異なる方法で行おうとする場合には、自己の考え、意図について十分に教職員に説明し、理解と納得を得るよう努めることが肝要であり、校務運営に関する最終的な決定権限が校長にあるからといって、そのような努力も払わないまま、いたずらに自らの権限に固執するのは...相当ではない。」として、校長の対応が「決して好ましいものとはいえない」と指摘した。
千葉地裁2000年3月3日判決
損害賠償請求事件 請求棄却
本件は、県立高校教諭に命じられた転任処分が、入学式での国旗掲揚に反対したことなどへの報復人事であり、人事権を濫用した違法な処分であるとして県等に対して行った損害賠償請求である。
(1) 原告は、県教委が定めた異動方針及び異動方策には合理性がない旨主張するようであるが、異動方針及び異動方策の目的、内容は、千葉県における教員人事の実情及びその推移に照らすと、これを是正するための方策として極めて妥当なものであり、また、人事における恣意的判断の排除ないし公平の理念にも適うものであって、優れて合理的な制度であると解すべきである。
(2) 原告は本件転任処分は持ち上がりを認めなかったことにより、高校の校務に支障を来すものであったと主張するが、持ち上がりができないような異動は特別の理由がない限り許されないということはできず、教員が持ち上がりをすべきかどうかは、異動を必要とする理由と、そのことによって現実に生ずる校務運営上の支障の有無、程度、内容等を比較検討して総合的に判断すべきものであるところ、本件においては、原告が本件転任処分により持ち上がりができなくなったとしても、このことから同校に著しい校務運営上の支障が生ずるものであったとはいえないというべきである。
(3) 原告が本件転任処分によって受けたと主張する不利益の主たるものは、持ち上がりができなかったことに基づくものであるが、・・・原告の心情は事実上のものにすぎす、法的に保護すべき利益には当たらないというほかはない。
(教育委員会月報2000年9月)
最高裁(二小)1995年6月29日判決
懲戒処分取消請求事件 上告棄却
卒業式の国歌斉唱の際に、校長の指示に反して起立せず、市教委や県教委の事情聴取等に応じなかった中学校教諭が懲戒戒告処分を受けた事例で、同教諭は人事委員会への不服申立および再審査請求が却下されたために処分の取消を求めて提訴した。
(原判決の要旨)鹿児島県教育委員会規則31条1項に基づく再審査請求は行訴法14条4項にいう「審査請求」に当たると解され、当該再審の請求自体が不適法として却下する旨の決定が県人事委員会によりなされた場合には、当該再審請求に同項は適用されず、この場合には本件処分の取消を求める訴えの出訴期間は、本件裁決書正本が原告に送達された日から起算すべきであり、同日から三ヶ月が経過した後に提起された本件訴えは、出訴期間を経過したものであり不適法である。
(鹿児島地判1994年1月28日 却下)
(福岡高判1995年1月23日 棄却)
(最高裁(2小)判1995年6月29日 棄却)
(教育委員会月報1996年8月)
東京地裁2003年12月3日判決
平成14年(行ウ)第51号 戒告処分取消請求事件 棄却
小学校の入学式で君が代のピアノ伴奏を拒否したことを理由に戒告処分を受けた東京都日野市の市立小学校教諭(50)が都教委の処分取り消しを求めた訴訟の判決で、東京地裁は3日、請求を棄却した。
判決によると、日野市の小学校に勤務していた音楽教諭は1999年4月、国歌斉唱の際にピアノで伴奏するよう校長に命じられたため「思想信条に照らしてできない」と拒否し、伴奏がテープに切り替えられた。都教委は同年6月、「校長の職務命令に従わなかった」として地方公務員法違反(職務命令違反、信用失墜行為)に該当するとして戒告処分にした。教諭側は「伴奏の強制は思想、良心の自由を保障した憲法に反する」として、戒告処分の取り消しを求め、2002年1月に提訴した。
判決理由で山口幸雄裁判長は「全体の奉仕者である地方公務員は、思想・良心の自由についても公共の福祉の見地から、職務の公共性において制約を受ける」と指摘し、「学校教育法などで、入学式において国歌の斉唱が求められていることなどから、職務命令は合理的範囲内」であり、「目的や手段に著しい不合理性がない以上、職務命令の違法性は問えない」と認定し、「職務命令は正当で、思想・良心の自由を制約するものであっても、教諭は受忍すべきものだ」と判断し、処分を適法と認めた。
京都新聞・朝日新聞 web news 2003.12.03
判決の要旨は次のとおり
(東京地裁2003年12月3日判決 判時1845号135頁)
(東京高裁平成16(行コ)13 2004年7月7日判決 控訴棄却)
最高裁第三小法廷2007年2月27日判決
平成16年(行ツ)第328号 戒告処分取消請求事件 棄却
判決の要旨
(1) 上告人は,「君が代」が過去の日本のアジア侵略と結び付いており,これを公然と歌ったり,伴奏することはできない,また,子どもに「君が代」がアジア侵略で果たしてきた役割等の正確な歴史的事実を教えず,子どもの思想及び良心の自由を実質的に保障する措置を執らないまま「君が代」を歌わせるという人権侵害に加担することはできないなどの思想及び良心を有すると主張するところ,このような考えは,「君が代」が過去の我が国において果たした役割に係わる上告人自身の歴史観ないし世界観及びこれに由来する社会生活上の信念等ということができる。裁判官藤田宙靖の反対意見(破棄差戻)
(1)私には,まず,本件における真の問題は,校長の職務命令によってピアノの伴奏を命じることが,上告人に「『君が代』に対する否定的評価」それ自体を禁じたり,あるいは一定の「歴史観ないし世界観」の有無についての告白を強要することになるかどうかというところにあるのではなく,・・・むしろ,入学式においてピアノ伴奏をすることは,自らの信条に照らし上告人にとって極めて苦痛なことであり,それにもかかわらずこれを強制することが許されるかどうかという点にこそあるように思われる。(最高裁第三小法廷2007年2月27日判決 判タ1236号109頁・最高裁HP)
広島県人事委員会2003年8月20日裁決
懲戒処分不服申立事件 請求棄却
本件は国歌斉唱指導を実施しなかった市立小中学校長に対し、県教育委員会が戒告処分を行ったことについて、被処分者が当該処分の取消を求めた不服申し立て事件である。裁決要旨は次のとおり。
(1)国歌斉唱の指導は、その性質上、地域差、学校差を越えて全国的に共通なものとして行われることが適当であるから、これを学習指導要領の一条項として規定することは、教育における機会均等の確保と全国的な一定の教育水準の維持という目的から是認されるものである。
(2)小中学校における国歌斉唱の指導は、児童生徒に精神的、肉体的な苦痛を伴うような指導を行ったり、事後の不利益取扱いを伴わせてするのでなければ、一般的には児童生徒の内心(思想及び良心)の自由を侵害することにはならない。
(3)府中市教育委員会が、請求人らの非違行為に対して何らかの措置もとらず、内申もしないことは、人事管理上著しく適正を欠くものであるから、本件処分が市町村教育委員会の内申なしに行われたことをもって、地教行法38条に違反し、違法・無効であるとまではいえない。
(教育委員会月報2003年12月)
最高裁2003年9月5日判決
賃金等損害賠償請求事件 原審破棄
勤務時間中に職専免の承認や年休の届出のないまま、運動会の国旗掲揚の件で申し入れを行った行為は、職員団体の活動であるとし、訓告を受けたことは違法であるなどとしてなされた損害賠償請求事件。
(判旨)
学校の職員が校長と職場の問題について話し合う際、どのような場合に職務離脱とみなされるかの基準が周知徹底されていなかったなどの理由から、原告になされた本件訓告を、懲戒権の濫用であると認定した原審を是認することはできない。
訓告は、地公法上明文の規定はないが、職員に義務違反があった場合に、服務の監督権を有する者がその行為を将来にわたって戒めるために行う措置であって、懲戒処分とは異なるものである。本件における原告の義務違反は、職務に専念する義務という公務員制度の根幹を成す義務違反であり、上記の諸事情があるからといって、懲戒権の濫用には当たらない。
(福岡地裁小倉支部判2000年12月26日 一部認容)
(福岡高判2002年3月7日 一部認容)
(最高判2003年9月5日 原審破棄)
(教育委員会月報2004年12月)
東京地裁2004年7月23日決定
平成16年(行ク)202号 研修命令執行停止申立事件 申立却下
(本案 平成16年(行ウ)第307号)
東京都が申立人らに対して発した服務事故再発防止研修命令の取消を求める訴えを本案として、当該本案判決の確定に至るまで本件研修命令の効力停止を求める申立て。
(判旨)
申立人らが日本国民として、憲法19条により思想・信条の自由を保障されていることはいうまでもないが、他面において、申立人らは東京都の教職員であるから、公務員としての地位に基づいてなされる職務行為の遂行に際して、全体の奉仕者として公共の福祉による一定の制約を受けることがあるのも論を俟たないところであり、一般的に、相手方は、命令権者によってなされた職務命令に従わなかった教職員に対し、その再発防止等を目的として一定の研修を受けるよう命じ、その研修において一定の指導を行うことができると考えられる。ただし、それは、あくまでも公務員としての職務行為の遂行に必要な範囲内のものに限定して許されるものであり、個人的な内心の自由に不当に干渉するものであってはならないというべきである。
したがって、本件研修が、本件職務命令等に違反した教職員に対して、公務員としての服務規律を含む教職員としてあるべき一定の水準の維持向上や職務命令違反の再発防止を目的として、それに必要な範囲内で外形的な指導を行うものにとどまるのであれば違憲違法の問題は生じないと考えられるが、例えば、研修の意義、目的、内容等を理解しつつ、自己の思想、信条に反すると表明する者に対して、何度も繰り返し同一内容の研修を受けさせ、自己の非を認めさせようとするなど、公務員個人の内心の自由に踏み込み、著しい精神的苦痛を与える程度に至るものであれば、そのような研修や研修命令は合理的に許容されている範囲を超えるものとして違憲違法の問題を生ずる可能性があるといわなければならない。
しかしながら、本件研修命令自体をもって直ちに申立人らの内心の自由が侵害されるというわけではないことのほか、そもそも現段階においては、未だ本件研修が実施されているわけではなく、その具体的な内容や方法、程度も明らかではないこと、仮に、相手方の申立人らに対するその後の対処によって申立人らに何らかの損害が発生したとしても、それは、その段階で金銭賠償を求めたり、当該処分等の効力を争うことによって別途回復可能と考えられることからすると、現時点において、回復困難な損害の発生を回避するために緊急の必要があるときに該当するものと認めることはできないというべきである。
(判時1871号142頁、労判876号80頁)
東京地裁2007年7月19日判決
平成16年(行ウ)第307号、同第314号
服務事故再発防止研修命令処分取消等請求事件 棄却
(事件の概要)
(判例タイムズ1282号163頁)
東京地裁八王子支部2004年5月27日判決
平成13年(ワ)第443号 損害賠償請求事件 棄却(控訴)
(事件の概要)
2002年2月、八王子市立石川中学の家庭科の教諭が、3年生の最後の授業で、君が代・日の丸について授業でとりあげた。その際、資料として、地下鉄サリン事件の実行犯に関する新聞記事を配り、そこには、「やりたくないという気持ちはありました。しかし、指示された以上はやるしかない、と思いました」、「正しいとか、間違っているかと考えるのではなく、上からの指示は自分で判断するべきでない、無条件に従うべきもの、という思考が徹底していたのです」なとという実行犯の証言が載せられていた。これを題材にして、当該教諭は「被告のことばをあなたはどう捉えますか。『卒業・入学式に『日の丸』を掲揚せよ、『君が代』を斉唱させよ』と、教委から指導された全国の校長のことばと同じに聞こえませんか。思考は同じ、だと思いませんか。」などと語りかけ、生徒たちに、自分の頭で考えて行動する人間になって欲しい旨を伝えた。
これに対して、八王子市教育委員会は、この授業が「地方公務員法に抵触する、教育公務員たるにふさわしくない行為であって、学校及び職の信用を著しく傷つける誠に許し難いものである」として、同年8月、当該教諭を文書をもって訓告した。本件は、当該教諭が訓告が違法であると主張して、国家賠償法1条による損害賠償を求めた事案である。
(判旨)
裁判所は次のように述べて、本件訓告は市教委に認められた服務監督権限の行使に関する裁量を逸脱するものではないとした。
「校長らを犯罪者に比肩するこのような本件授業の方法が、原告の目指した自主性の尊重という教育の目的を達成するのに通常必要となる手段であると評価することは到底困難である。そして、原告が、上記のような教育手段を採用したことに関して教育行政から事後的に訓告という措置を受けたとしても、他の教育手段によって原告の目指す教育を行うことは何ら妨げられるものではない。」
「本件授業に対して市教委がした本件訓告は、地方公務員法に基づく懲戒とは異なり、被訓告者である原告に対して直ちに法的な不利益をもたらさない指導監督上の措置であることが明らかである。」
「市教委が上記のような原告の授業方法に是正すべき点があるとして服務監督上の措置として本件訓告を行うことは、不相当なものとは言い難く、本件訓告は教育基本法10条1項の趣旨に反するということはできない。」
(東京地裁八王子支部判決 判例地方自治266号49頁)
(東京高裁2005年2月10日判決 棄却)
広島地裁2004年12月9日判決(損害賠償請求事件) 棄却(控訴)
(事件の概要)
国旗の常時掲揚のため掲揚台を新設・改修するための支出が違法であるとしてなされた住民による損害賠償請求
(判旨)
学校施設の改修等についてこれを行うかどうか、その方法等については、各校長らの合理的な裁量判断に委ねられており、その判断の内容や手続きについて裁量の範囲を逸脱したとか又はこれを濫用したと認められる場合でない限り、その判断が法的に違法であるということはできない。しかるに、校長の判断ないし選択が教育委員会の意向を受けたものであってもそのことから直ちに裁量が与えられた趣旨ないし目的に反することにならないのはいうまでもないし、国旗の常時掲揚によって生徒が国旗を身近に感ずることができるような環境を整えることを目的として行われたとされる校長らの行為が直ちに裁量権の逸脱ないし濫用であるとはいえない。
また、教職員や生徒等の意見を聞きながら円滑に校務を行うことが望ましいものとしても、校務を行うことは校長の職務であって、学校設備として適切な設備整備等が行われている以上、学校職員等の意見を聞かなかったことが直ちに裁量権の濫用に当たるものということはできない。
(教育委員会月報 2005年12月)
東京地裁2005年9月5日決定
研修命令執行停止申立事件 申立却下(確定)
(事件の概要)
平成16年度卒業式、平成17年度入学式において、職務命令に違反して国歌斉唱時に起立せず、職務命令違反、信用失墜行為により懲戒処分を受けた教諭らが、服務事故再発防止研修の受講を命じられたことについての執行停止申立
(判決理由の要旨)
行政事件訴訟法25条は、処分の取消しの訴えがあった場合において、執行不停止を原則としつつ、「処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があるとき」に限り、処分の効力、処分の執行又は手続の続行の停止をすることができる旨を定め(同条2項)、また、「重大な損害」を生じるか否かを判断するに当たっては、「損害の回復の困難の程度を考慮」し、「損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案」すべきとしている(同条3項)。
本件専門研修が、短時間のものに過ぎないとしても、その目的を逸脱し、その方法、内容、態様等において、当該教職員の思想・信条に反する見解を表明するよう強制し、あるいは、思想・信条の転向を強いるなど、その内心の自由に踏み込み、当該教職員に著しい精神的苦痛を与えるようなものであるときには、そのような研修を命じる職務命令は、受講者に対し重大な損害を生じさせるものであって、同法25条2項により効力等が停止されるべき「処分」に当たると判断される。
しかしながら、現時点において、本件専門研修については、実施される日時・場所、予定時間が2時間40分であることが明らかにされているのみである。もっとも、意見書における東京都教育委員会の主張等を踏まえると、平成16年度に行われた上記専門研修とほぼ同様の方法、内容、態様で実施されると考えられる。
平成16年度専門研修の内容等に鑑みると、これとほぼ同様の内容等で実施されると考えられる本件専門研修が、申立人である教諭らの内心の自由に踏み込み、著しい精神的苦痛を与えるようなものになるとは解されない。
(教育委員会月報 2006年12月)
東京地裁2004年12月28日判決
転任処分取消請求事件 却下・棄却
国立第二小学校では、2000年3月の卒業式で日の丸が掲揚されたことについて、「異議、質問」をしたことを理由に、教員22人中、6人が戒告処分を、6人が文書訓告処分を受けた。同小の教員である原告は、当時の都教育委員会の異動要綱に従えば、勤続年数のうえで異動の対象とはならず、また、家族の介護を抱えていたため異動希望も出していなかった。ところが、2001年4月、原告は世田谷区内の小学校への異動を命じられた。
東京地裁は「懲戒処分を受けた教員が一つの学校に偏在しているという客観的状況は、他の地区や学校との比較に均衡を失するものであり、このような不均衡は、児童・生徒の健全な発達という点からみて是正されることが望ましい。」として、都教育委員会の転任処分の取消を求める原告の請求を退けた。
(東京地裁2004年12月28日判決)
(田中伸尚「不服従の肖像」樹花舎・2006年)
東京高裁2005年9月8日判決
平成17年(行コ)第38号 転任処分取消請求控訴事件 棄却(確定)
(事件の概要)
教職員の人事異動に関する要綱の解釈と適用に誤りがあるとしてなされた転任処分の取消請求
(判旨)
公立学校における教員の異動については、人事行政上の措置として、任命権者における裁量に委ねられており、その裁量権の行使に逸脱がある場合には、違法として評価される。そして、異動要綱は、任命権者である東京都教育委員会において自ら東京都区市町村立小中学校の教員の定期異動について指針を定めたものであり、異動要綱に定める基準に合致しない転任処分については、特段の事情のない限り、裁量権の逸脱があるものと推認され、職務の遂行において違法とみられる余地がある。
当該教諭は、異動要綱に掲げる異動対象者の要件としての「教員組織上の不均衡」とは、「年齢、性別、教職経験及び教科の担当」又はこれに準ずる事由に限定されると主張するが、特定の事象に係る同種の行為に対して懲戒処分等を受けた教員が他校に比べて同一校に多数在籍するという客観的状況(教員23名中5名が戒告処分、5名が文書訓告)は、教員組織の均衡・充実、学校教育の向上という観点からみて、「年齢、性別、教職経験及び教科の担当」と同様に重要な事柄であり、定性的にもこれらに準ずる事項として扱われることに何ら不合理な点はない。
(教育委員会月報 2006年12月)
福岡地裁2005年4月26日判決
平成8年(行ウ)第22号、平成12年(行ウ)第4号(戒告処分取消等請求事件)、
平成12年(ワ)第2508号(損害賠償請求事件) 一部認容・一部棄却
主 文
被告北九州市教育委員会が平成11年9月19日付で原告Aに対してした減給1ヶ月の処分を取り消す。
被告北九州市教育委員会が平成9年7月18日付で原告Bに対してした減給1ヶ月の処分を取り消す。
被告北九州市教育委員会が平成10年7月17日付で原告Bに対してした減給3ヶ月の処分を取り消す。
被告北九州市教育委員会が平成11年7月16日付で原告Cに対してした減給1ヶ月の処分を取り消す。
原告らの損害賠償請求を棄却する。
理由要旨
1 君が代が国歌であることについて
君が代は、国旗国歌法の制定前においても、国歌としての地位にあったものであり、君が代の「君」が天皇を指すとの解釈を前提としても、君が代を国歌とすることが、憲法前文、同法1条に違反するとはいえない。
2 卒業式、入学式(以下「卒業式等」という。)に関する校長の権限について
校長は、学校教育法28条3項により、教育内容を含む学校教育の事業を遂行するために必要とする一切の事務を行う権限を有するから,学校全体の行事である卒業式等に関し、その裁量の範囲内において、式次第を決定し、その実施のために、所属教職員に対して、職務命令を発することもできる。
3 職務との関連性について
卒業式等は、教育課程の一部である学校行事として行われるものであり、その運営への協力は、教職員としての職務に関するものといえる。
4 君が代斉唱の教育課程における位置付けについて
(1)学習指導要領の定めとの関連について
ア 教科における国歌の指導に関する定めは、国歌を尊重する態度を育て、日本人としての自覚を養い、国を愛する心を育てるために、必要かつ合理的な大綱的基準といえ、教員に対し、国歌に関する指導をしなければならないという一般的、抽象的な義務を負わせる拘束力を持つものといえる。
しかし、卒業式等において国歌を斉唱するよう指導するものとする旨の定めは、特定の行事を指定して指導方法を定める細目的事項に関する定めであり、大綱的基準とは言い難い。したがって、校長が卒業式等において国歌斉唱を実施し、各教員がこれを指導しなければならないという義務を負わせる拘束力を持つものと解することはできない。
イ もっとも、卒業式等において国歌を斉唱するよう指導することは、国歌を尊重する態度を育てるという教育目的に沿うほか、学校生活に有意義な変化や折り目を付け、集団への所属感を深めるという目的にも沿うことからすれば、卒業式等において国歌斉唱を実施することは、正当な教育目的に対して、一定の教育効果が期待できる教育活動ということができる。
校長は、上記の定めを尊重し、裁量権の範囲内において、国歌斉唱を含む式次第を決定することもできる。
(2)国家、教育の信条的、宗教的中立性との関係について
卒業式等における君が代斉唱は、特定内容の道徳やイデオロギーを教え込むものといえず、国家、教育の信条的中立性に反するものではないし、また、宗教的行為ともいえないから、憲法20条1項及び2項、教育基本法9条2項に反するものでもない。
(3)児童、生徒の思想、良心の自由との関係について
君が代斉唱の実施・指導は、教育活動の一環として、合理的範囲を逸脱するものとはいえず、人格の形成、発展を助けるという教育の本質からすれば、それが内心に対する働きかけを伴うものであっても、児童・生徒の思想、良心の自由を不当に侵害するものとはいえない。
5 本件職務命令と原告らの人権との関係について
(1)憲法19条等違反の主張について
原告らの差別撤廃を求める意思、戦争に対する嫌悪、教育のあり方についての意見は、憲法19条等にいう思想、良心といえるが、君が代を歌えないという考えは、原告らの人間観,世界観と直接に結び付くものではなく、本件職務命令は憲法19条等に違反しない。
(2)憲法20条1項及び2項違反の主張について
本件職務命令は特定の宗教に結びつく行為を強制するものとはいえないから、本件職務命令は憲法20条1項及び2項に違反しない。
6 校長の裁量権逸脱の有無について
(1)教員の不起立が、教育活動における教育効果を減殺するものと考えられることからすれば、本件職務命令には必要性、合理性がある。
(2)原告らのみならず、児童、生徒や保護者にも君が代斉唱について嫌悪感、不快感を有する者があるが、他方、卒業式等において君が代斉唱を実施することを当然と考える者がいることはもとより、君が代斉唱において起立をしない教職員がいることに嫌悪感、不快感を覚える者もいると考えられることなどからすれば、本件職務命令が、ただちに、校長の裁量権を逸脱するものとはいえない。
(3)また、被告教育委員会が行った指導は、一定の国歌斉唱の方法を提示するにとどまらず、それを実施しているか否かを監督するものであり、各校長は、その指導に従わざるを待ないという事実上の拘束を受けていたといえるから、教育基本法10条1項にいう「不当な支配」を受けたといえるが、本件各職務命令は、その内容は様々であって、最終的には、各学校の状況を把握しているはずの各校長が自己の判断によって発したものといえる。
(4)前記諸事情を考慮すると、本件職務命令が、裁量権を逸脱して発せられたとまで認めるには足りず、無効であるとはいえない。
7 処分理由に信用失墜行為が含まれるかについて
処分理由書に記載されているのは職務命令違反行為のみであり、被告教育委員会は、文書提出命令に反し、議事録等を提出しないので、本件処分の理由にはいずれも信用失墜行為は含まれていないものとみなす。
8 処分の相当性について
(1)戒告処分については、地方公務員法上の処分として最も軽い処分であること、教育活動についての職務命令違反を理由とする処分であること、原告らは同様の職務命令違反を繰り返し、すでに厳重注意、文書訓告を受けていたことからすれば、裁量権の範囲を逸脱したということはできない。
(2)減給処分については、式の進行に混乱がなかったことや、原告らの教員としての適格性を疑わせる他の事情の存在が認められないこと等を考慮すると、式の進行を阻害したり、積極的な扇動行為と評価される場合は格別,給与の減額という直接に生活に影響を及ぼす処分をすることは、社会観念上著しく妥当性を欠き、裁量権の範囲を逸脱したものといえる。
9 原告らの損害賠償請求について
(1)教員である原告らに対する本件職務命令や戒告処分、指導は適法であり、不法行為となる余地はない。
また、学校用務員は、そもそも卒業式等の行事に参加する義務を負わないものと解されるが、式に参加する場合には、式の円滑な進行に対して協力すべく一定の制約を受けることを受忍しているものと解されるから、学校用務員に対する職務命令も裁量権を逸脱するものとはいえず、それに違反したことを理由とする文書訓告、厳重注意も適法であって、不法行為にはあたらない。
(2)減給処分についても、違法な処分を受けたことによる信用の低下や精神的苦痛は、特段の事情のない限り、その処分が取り消されることによって回復され、減給処分を受けた原告らに、当該処分が取り消されてもなお回復されない損害が発生したと認めるに足りる証拠はない。
(評釈:西原博史・ジュリスト1294号100頁)
福岡高裁2008年12月15日判決
平成17年(行コ)第13号(戒告処分取消等請求控訴事件) 変更
君が代で着席、教職員側が敗訴 福岡高裁判決
東京地裁八王子支部2005年3月6日決定
平成17年(む)第63号(勾留請求却下決定取消準抗告事件) 棄却
【事件の概要】
東京都町田市の都立野津田高校の敷地で日の丸、君が代に反対するビラを配ったとして、男性2人が警視庁に建造物侵入容疑で逮捕された事件で、東京地裁八王子支部が2人の勾留請求を却下したことがわかった。検察側が申し立てた準抗告も棄却され、2人は6日に釈放された。2人は取り調べに黙秘していた。【地裁決定】
上記被疑者に対する建造物侵入被疑事件について、平成17年3月5日東京地方裁判所八王子支部裁判官がした勾留請求却下の裁判に対し、同日、東京地方検察庁八王子支部検察官から適法な準抗告の申立てがあったので、当裁判所は、次のとおり決定する。主 文
本件準抗告の申立てを棄却する。
理 由
1 本件準抗告の申立ての趣旨及び理由は、東京地方検察庁八王子支部検察官作成の準抗告及び裁判の執行停止申立書(「準抗告申立書に関する追完」と題する書面を含む。)記載のとおりであるからこれを引用するが、要するに、本件被疑事実が建造物侵入罪の構成要件を充足しないとして本件勾留請求を却下した原裁判は違法であるから、これを取り消した上、勾留状の発布を求めるというものである。
2 そこで検討するに、本件被疑事実の要旨は、いわゆる中核派の構成員である被疑者が、ほか1名と共謀の上、平成17年3月4日午前8時2分ころから同日午前8時45分ころまでの間、同派傘下団体の全国労働組合交流センターが発行する「不起立闘争の拡大こそ戦争協力拒否の闘い」と見出しのあるビラを配布する目的で、東京都立野津田高等学校の敷地内に立ち入り、もって、正当な理由がないのに人の看守する建造物に侵入したというものである。
しかしながら、一件記録によれば、被疑者らが立ち入った上記高等学校の敷地部分は、同高等学校の門塀等物的囲障設備の外側に存在する土地であり、これを建造物侵入罪の客体である「建造物の囲繞地」と評価することは困難である。被疑者らが同高等学校関係者から敷地の外との境界線を示されて注意を受けたにもかかわらず敷地内に立ち入ったこと等、検察官主張の事情を考慮してもなお、同敷地部分が軽犯罪法1粂32号にいう「入ることを禁じた場所」に当たるか否かはともかく、上記の結論は左右されないというべきである。
3 以上より、本件勾留請求を却下した原裁判に違法はなく、正当というべきであり、したがって、本件準抗告の申立ては理由がないから、刑事訴訟法432条、426条1項後段によりこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。
大阪地裁2005年9月8日判決
平成15年(行ウ)第60号(損害賠償等請求事件) 棄却
枚方市教育委員会は2002年の入学式について、「平成14年度入学式の国歌斉唱時、起立しなかった教職員調査」を行った。市教委は、起立しなかった教職員の氏名、起立しなかった理由を校長に文書報告させ、それを一覧表にまとめた。これに対して、枚方市民37人が違法な調査に使った公費の返還を求めて、2003年3月31日に住民監査請求を行ったが、市監査委員がこれを監査しなかったことを受けて、30人が同年6月25日、大阪地裁に訴訟を提起した。
本件は、枚方市の住民である原告らが、当時の教育長が枚方市立小中学校長に同調査の実施を指示した不法行為により、枚方市が調査事務を担当した教職員の給与相当の損害及び調査に使用した事務用紙等の損害を被ったとして、被告に対し、教育長に当該不法行為に基づく損害賠償請求をすることを求める住民訴訟である。
枚方市個人情報保護条例は「思想・信条及び信仰に関する」情報の収集を禁止しているが、市教委は同調査を行ったことについて「服務状況の調査であって思想・信条に関する個人情報を収集したわけではない」と反論していた。ところが、後日、市民グループが同調査結果を情報公開請求すると、氏名や理由の箇所をスミ塗りした一覧表が公開され、教育長名の「部分公開決定通知書」には、「起立しなかった理由(思想、信条、信仰等に関する情報)は、個人に関する情報」と書かれていた。こうした経緯から、原告らは本件を「スミぬり裁判」と呼んでいる。
(判旨)
被告は、本件公金の支出は住民監査請求の対象となる「財務会計行為」ではないので、請求の要件を満たしていないと主張した。これに対し裁判所は、「非財務会計行為であっても、・・・・当該行為が地方公共団体に対する不法行為に該当し、そのために支出された経費が損害といえる場合もあり得る」と判断し実質審議に入った。
しかし、「本件調査は、枚方市の事務としてされたものであり、その経費は、枚方市が負担すべきものであるから、その経費をもって枚方市の損害と認めることはできない」から、教育長による本件調査実施の指示が、枚方市に対する不法行為には当たらないとした。
本件調査実施は市教委の権限を逸脱濫用したものであるとする、原告の主張に対し、裁判所は、「権限の逸脱濫用があったか否かを問わず、本件調査が枚方市の事務であり、その経費を枚方市が負担すべきことには変わりはない」とし、「権限の濫用があったか否かは、それによって権利侵害を受けた教職員がいる場合に、その教職員から枚方市に対する国家賠償請求訴訟等の中で判断されるべき問題である」と判示した。
大阪地裁2005年9月8日判決(棄却)
大阪高裁2006年11月22日判決(棄却)
最高裁(三小)2007年4月24日決定(上告棄却、上告不受理)
東京地裁2006年3月22日判決
平成16年(行ウ)426号(戒告処分取消請求事件) 棄却(控訴)
(事件の概要)
入学式において、日の丸に斜線をいれたデザインを描いたブラウスを着用して式典に出席したため、校長が上着を着用するようにとの職務命令を出したが、これに従わなかったこと等によりなされた戒告処分の取消等請求
(判決理由の要旨)
本件ブラウスを着用した姿で入学式に臨席することは、教育課程の場において校長の決定した国旗掲揚・国歌斉唱の方針に抗議する意思を表明しようとするものであって、教育公務員たる当該教員の職責に抵触し、また、入学式の円滑な進行を妨げ混乱を招くおそれのある行為であったといわざるを得ない。
当該教諭の着用するブラウスに描かれた図柄が直接、入学式参列者の目に触れないようにするため、校長が上着の着用を求める職務命令を発したことは裁量権の行使としても合理的であった。
憲法21条の表現の自由は、民主主義社会における重要な基本的人権の一つとして特に尊重されなければならないものであり、これをみだりに制限することは許されないものの、そのような自由といえども国民全体の共同の利益を擁護するため必要かつ合理的な制限を受けることは、憲法の許容するところであるというべき。
当該教諭は、学校教育の一環として行われた入学式において、教職員間に見解の対立のある事項に関し、学校長が学習指導要領に従って決定した方針に対して抗議表明を行おうとしたものであるところ、地方公務員は全体の奉仕者であって(憲法15条2項)、公共の利益のために勤務し、かつ、職務の遂行にあたっては、全力を挙げて専念すべき義務がある(地公法30条)ことを踏まえると、このような場において、上記のような意思表明を行うことは地方公務員としての職責に抵触するものであって、そのような行為が制約されるのはやむを得ない。
(教育委員会月報2006年12月)
(田中伸尚「不服従の肖像」樹花舎・2006年)
東京高裁2006年12月26日判決
平成18年(行コ)第117号(戒告処分取消請求控訴事件) 棄却(上告)
(事件の概要)
(東京高裁2006年12月26日判決 判時1964号155頁)
(最高裁(二小)2007年7月20日決定 上告棄却)
東京地裁2006年5月30日判決
平成16年(わ)第5086号(威力業務妨害被告事件) 有罪
定年まで勤務していた東京都立板橋高校の04年の卒業式に来賓として訪れた際、開式前に保護者らに国歌斉唱時に起立しないよう呼びかけたなどとして、同校元教諭・被告(65)が威力業務妨害罪で在宅起訴された刑事裁判で、東京地裁は30日、無罪主張を退け、罰金20万円(求刑・懲役8カ月)の判決を言い渡した。村瀬均裁判長は「式の遂行は現実に妨害された」として威力業務妨害罪の成立を認めた。一方で「元教諭に対する非難は免れないが、元教諭は式の妨害を直接の目的としたのではなく、式もほぼ支障なく実施された」と述べ、懲役刑ではなく罰金刑が相当だと結論づけた。元教諭側は即日控訴した。
判決によると、元教諭は04年3月11日午前9時42分ごろから午前9時45分ごろまでの間、板橋高校体育館で、午前10時開式予定の卒業式のために着席中の保護者に向かい、「今日は異常な卒業式」と訴え「国歌斉唱のときは、できたらご着席をお願いします」などと大声で呼びかけ、教頭が制止すると「触るんじゃないよ」などと怒号をあげた。校長が退場を求めても従わず、式典会場を喧噪(けんそう)に陥れ、開式を約2分遅らせるなどした。
元教諭の退出後に卒業生が入場。今回の裁判の対象になった元教諭の式場での行為と直接の因果関係はないが、冒頭の国歌斉唱時に卒業生の約9割が着席する事態が起きた。これを問題視した都教委などが被害届を出したのを受け、東京地検が異例の在宅起訴に踏み切っていた。
判決は、呼びかけの内容が学校側にすれば許容できない内容で、校長らが職責上放置できないものだから「威力」にあたる▽退場要求に従わず怒号し、校長らが対応を余儀なくされた――などとして威力業務妨害罪が成立すると判断した。
弁護側は「配布や呼びかけは私語が許されている時間帯で、教頭からの制止も受けていない」と争ったが、判決はこれを退けた。
元教諭は、教員生活最後の年に受け持った1年生の卒業を見届けるために来賓として来ていた。
「板橋高校卒業式事件」の東京地裁判決の理由骨子は次の通り。
(1) 被告の行為はそれ自体が威力にあたる行為で、現実に業務妨害の結果が生じている。
(2) 妨害は短時間だったことなどを考慮すると、懲役刑を選択するのは相当ではない。
都立板橋高校卒業式事件の経過 都教委は03年10月、入学・卒業式の国歌斉唱時の起立徹底を通達で打ち出した。問題となった式は、その後初めての卒業シーズンを迎えた04年3月に行われた。元教諭が週刊誌コピー配布や不起立の呼びかけをした式には、国旗・国歌をめぐる混乱を予想していた都教委が指導主事5人を派遣していたほか、以前から不起立に批判的だった地元都議も来賓として招かれていた。都議は式直後の議会で生徒の着席を問題視する質問をし、都教委側も元教諭について法的措置をとることを表明。学校側が被害届を出し、東京地検公安部が04年12月に在宅起訴した。
(朝日新聞2006年05月30日web版)
東京高裁2008年5月29日判決
平成18年(う)第1859号(威力業務妨害被告事件) 棄却(上告)
04年3月の東京都立板橋高校の卒業式で、君が代斉唱時の起立に反対して式の進行を妨害したとして、威力業務妨害罪に問われた元同校教諭、藤田勝久被告(67)の控訴審判決で、東京高裁(須田賢裁判長)は29日、罰金20万円とした1審を支持し、元教諭の控訴を棄却した。1審は斉唱時の起立を命じる校長の職務命令について憲法判断しなかったが、高裁は合憲とした。元教諭側は即日上告した。
(毎日新聞2008年05月30日web版)
(判例時報2010号47頁、判例タイムズ1273号109頁)
東京地裁2006年7月26日判決
平成16年(ワ)第3156号 損害賠償請求事件 棄却
国立市立小学校に教員として勤務し主に音楽の授業を担当していた原告が、以下の@ないしHの行為が原告の思想・良心の自由、信教の自由、教育の自由及び表現の自由を侵害するものであり、これにより精神的苦痛を被ったなどと主張して、国立市と東京都に対して損害賠償を求めた事案である。原告が問題にしている事実の骨子は、次のとおりである。
東京高裁2007年6月28日判決
損害賠償請求事件 棄却
日の丸に抗議するリボンを胸に着けて卒業式に出席したことで文書訓告処分にしたのは憲法違反などとして、東京都国立市立小学校に勤務していた女性音楽教諭が、市などに420万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁は28日、請求を退けた1審東京地裁判決を支持、教諭の控訴を棄却した。
(東京新聞 2007年06月28日)
東京地裁2006年9月12日判決
平成15年(行ウ)第536号 懲戒処分取消請求事件 棄却
卒業式で屋上に日の丸を掲揚した校長に抗議したなどとして、戒告処分を受けた東京都国立市立第2小の元教諭5人が処分取り消しを求めた訴訟の判決で、東京地裁の土田昭彦裁判官は12日、「抗議は不名誉な信用失墜行為で処分は適法」として請求を棄却した。
(KYODO NEWS 2006年09月12日)
東京高裁2008年3月11日判決
懲戒処分取消請求控訴事件 棄却
日の丸抗議、2審も教諭側敗訴 国立二小の卒業式
(SANKEI WEB NEWS 2008.3.12)
(最高裁(一小)2008年8月6日決定 上告棄却)
東京地裁2006年9月21日判決
平成16年(行ウ)第50号・第223号・第496号、平成17年(行ウ)第235号
国歌斉唱義務不存在確認等請求事件 一部認容
主文要旨
(判時1952号44頁、判タ1228号88頁)
東京高裁2011年2月28日判決 平成18年(行コ)第245号
各国歌斉唱義務不存在確認等請求控訴事件 取消・却下・棄却
国旗国歌義務化は「合憲」 都教委側が逆転勝訴
(SANKEI WEB NEWS 2011年01月28日)
北海道人事委員会2006年10月20日裁決
平成13年(不)第3号 不利益処分審査請求 処分取消
事案の概要
(2007年11月16日、道人事委は道教委が行っていた再審請求を却下した)
大阪地裁2007年4月26日判決
平成17年(行ウ)第21号・第25号 非削除決定取消等請求事件 一部認容
(事件の概要)
大阪高裁2007年11月30日判決
平成19年(行コ)第56号 非削除決定取消等請求控訴事件 一部認容
(経過)
東京地裁2007年6月20日判決
平成16年(ワ)第12896号(甲事件)、平成17年(ワ)第15415号(乙事件)
地位確認等請求事件 棄却
(事件の概要)
(判時2001号136頁)
東京高裁2010年2月23日判決
平成19年(ネ)第3938号
地位確認等請求控訴事件 棄却
「君が代」不起立、元教職員側の控訴棄却 再雇用訴訟
(朝日新聞2010年2月23日web版)
神奈川県個人情報保護審査会2007年10月24日答申
自己情報の利用停止の請求拒否処分に関する異議申立てについて
答申第83号 利用不停止処分取消
(事件の概要)
神奈川県個人情報保護審議会
平成20年1月17日答申 個情審議第280号
「教育委員会における神奈川県個人情報保護条例第6条
及び第8条に定める個人情報の取扱いについて」
(産経新聞 2008年1月18日)
東京地裁2008年2月7日判決
平成17年(ワ)第15718号(甲事件)、平成18年(ワ)第7392号(乙事件)
損害賠償請求事件 一部認容・一部棄却
(事件の概要)
(判時2007号141頁)
東京高裁2010年1月28日判決
平成20年(ネ)第1430号 原判決取消、請求棄却
損害賠償請求控訴事件
君が代不起立で再雇用拒否 元教職員側、二審は逆転敗訴
(朝日新聞2010年1月28日web版)
(判時2086号148頁)
東京地裁2008年3月27日判決
損害賠償請求事件 棄却(控訴)
(事件の概要)
来賓として参列した前勤務校の卒業式において、不適切な発言内容を含む祝辞を述べたことに対して現勤務校の校長による指導が、違法な公権力の行使であるとしてなされた損害賠償請求。
(判決理由の要旨)
本件指導は、校長が有する所属職員に対する監督権限に基づき行われ、その内容・態様からすれば、これが法的な効果を伴わないものであり、かつ、権力的な作用・要素を含むものでもないことは明らかといえる。このような非権力的事実行為は行為対象者に何らの法的義務を課したり、また、行為対象者の権利・利益を法的に強制するものではないことからすると、所要の行政目的を達成するための柔軟性の高い措置として、それが非権力的事実行為の性質・趣旨を逸脱するようなもの、すなわち、強度の干渉にわたったり、実質的に行為対象者に重大な不利益を与えるのに等しいなどといった事情がない限り、広く許容されるべきものと解される。
原告は、本件指導は原告の表現行為の規制となるから、内容明確な規制根拠がなければこれを規制し得ず、また、かかる規制根拠が存したとしても、その表現行為により重大な支障が生じたという場合でなければこれを規制することはできないと主張するが、本件指導のような非権力的事実行為はそもそも法定外の柔軟な措置であるから、明確な法的根拠を必須とするものではなく、また、その態様も強度の干渉や重大な不利益を被らせるようなものを想定していない以上、非権力的事実行為の国賠法上の違法性の有無を判断するのに、原告主張のような基準によるべき根拠は見出し難く、採用することはできない。
(教育委員会月報2009年2月)
東京地裁2009年1月19日判決
平成19年(行ウ)第767号 再雇用拒否処分取消等請求事件
一部認容・一部却下・一部棄却(控訴)
卒業式で君が代斉唱時に起立しなかったことを理由に、都が退職後に再雇用しなかったのは違法だとして、都立高校の元教諭の男性(62)が再雇用などを求めた訴訟の判決が19日、東京地裁であった。渡辺弘裁判長は「不起立による戒告処分をもって不合格と評価することは極めて不合理だ」と判断し、1年間の雇用報酬などにあたる211万円の支払いを都に命じた。
(朝日新聞2009年1月19日web版)
(判時2056号148頁、判タ1296号193頁、労判979号5頁)
東京高裁2009年10月15日判決
平成21年(行コ)第62号 再雇用拒否処分取消等請求控訴事件
一部取消、請求棄却(上告・上告受理申立)
君が代不起立訴訟、元教諭が逆転敗訴
(朝日新聞2009年10月15日web版)
(判時2063号147頁、労判995号60頁)
広島地裁2009年2月26日判決 懲戒処分取消請求事件 棄却
入学式や卒業式の「君が代」斉唱時に、職務命令に反して起立しなかったために広島県教委から戒告処分を受けたのは、思想良心の自由を侵害しているなどとして、県立高校の教諭ら45人が、処分の取り消しを求めた訴訟の判決が26日、広島地裁であった。橋本良成裁判長は「職務命令は不必要に原告らの信念に反する行為を強制するものではない」とし、教諭らの請求を棄却した。
(朝日新聞2009年2月26日web版)
広島高裁2010年5月24日判決 懲戒処分取消請求事件 棄却
君が代訴訟、二審も棄却 広島高裁「処分は適法」
(京都新聞2010年5月24日web版)
大阪地裁2009年3月26日判決
平成19年(行ウ)第171号 懲戒処分取消請求事件 棄却
(事件の概要)
大阪高裁2009年9月9日判決
平成21年(行コ)第64号 懲戒処分取消請求控訴事件 棄却
大阪高裁は基本的に原判決を引用し請求を棄却した。そして、「事案に鑑み」と前置きして補足説明を加えている。
東京地裁2009年3月26日判決
平成19年(行ウ)第68号 懲戒処分取消等請求事件 棄却
国旗・国歌不起立処分訴訟 都の処分は正当
(産経新聞2009年3月27日web版) (判タ1314号146頁)
東京高裁2010年3月10日判決
平成21年(行コ)第181号 懲戒処分取消等請求控訴事件 変更・請求認容
1 事案の概要
横浜地裁2009年7月16日判決 平成17年(行ウ)第41号等
国旗国歌に対する忠誠義務不存在確認請求事件 棄却
(事案の概要)
東京高裁2010年3月17日判決 平成21年(行コ)第284号
国旗国歌に対する忠誠義務不存在確認請求控訴事件 原判決取消、請求却下
君が代裁判 1審判決を取り消し、訴えを却下 東京高裁
(毎日新聞2010年3月17日)
東京高裁2010年4月21日判決 平成21年(行コ)第145号
戒告処分取消等、裁決取消請求控訴事件 控訴棄却
(事案の概要)
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