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[28249] 丹桂 【転生オリ主戦国モノ】
Name: 茶々◆a58e8cb7 ID:17b50b16
Date: 2011/06/08 14:26
・はじめに


不慣れなオリジナルやるより得意なジャンルの方がいいんじゃないか?と考え、何番煎じかもわからない戦国時代転生ネタに手を出してみました。

見切り発車もいいとこなので、更新はかなり間が空くモノと思います。


・諸注意

作中の人物の呼び方、表記などがマチマチです。誰だよこいつとか思う人が多数登場したりするかもしれませんが、半分は自前の名前だけのモブだったりするので有名どころ以外は基本覚えなくても話の展開上大した問題はありません。

独断と偏見による硬直的な妄言を根拠に話を組み立てたりする場面もありますが、とりあえずそんな意見もあるんだと軽く流して下さい。

描写力が致命的に欠けています。それなりの箇所は後々回収しますが、細かい所は下手するとそのまま放置プレイです。

文量が残念な事になっています。

・必要なもの

生温かい目
                                                                               以上



それでは、どうぞ。




[28249] 序章 ありきたりなプロローグです
Name: 茶々◆a58e8cb7 ID:17b50b16
Date: 2011/06/08 16:56

―――小氷河期。





応仁の乱より百余年。室町は足利幕府の権威失墜を何時から始まったものとするかは未だ以て不明だが、各地に横行する山賊・水賊紛いの土豪や守護の名を借りた強欲者の暴行を、その総元締めである所の幕府が全く制御出来ない事を鑑みれば、それこそ千年以上前の隣国・漢の衰退に似て、静かに、しかし着実に幕府の影響力というものは落ち目を見ていた時期を言いかえるなら、この言葉が最も適しているのではなかろうか。



各地の諸々達は最早足利幕府などにはさしたる興味も示さず、むしろ民族的無意識の影響だろうか、日本地理的にはやや西国寄りな天下の都・京都におわす天皇を直接的に崇め奉る様になった。
それまでの幕府を介したものではなく、直接的な接触・交渉によって彼らは官位という名の大義名分を得て自らの正当性を誇示し、近隣の敵対勢力と対する上でその一歩ないし二歩先を往こうとしていた。







その先駆け的存在ともいえるのが、後に関八州に五代百年余りの大帝国を築く後北条氏の始祖、伊勢新九郎盛時こと北条早雲である。彼は類稀なる智計謀術を以て関東に胡坐を掻いて座していた足利傍系の守護連中を追い払い、後の御北条氏繁栄の基礎を築いた。



その次を担ったともいえる人物が、一介の油商人から親子二代でのし上がった長井親子、特に息子の長井規秀、出家して斎藤道三と名乗った男である。駿河今川氏の外交窓口役を担っていた早雲と違い、此方は素情がハッキリしない事から親子二代による国盗りなのか道三一人による業績なのか不明だが、後年に『下剋上』とか『成り上がり』という言葉がこれ程似合う人物も珍しい。




事実上、この両名によってこれまた隣国の三国鼎立前後にも似た激動の時代の幕は上げられたと言っても良い。
源平の争乱とも吉野朝期とも違うのは、幾つかの大勢力によって初めから決戦数が限定されていた訳ではなく、本当の意味で『乱世』だった事だろう。力と才覚さえあれば、誰もが飛び入り参加で天下取りを演じられる――――――故にこの時代は、文字通り日本全土が戦場と化して荒れに荒れた凄惨な時代であり、同時に幾つもの文化が花開いた革新的な時代でもあった。




















―――さて。

知る者は無論、疎い者でもある程度は知るこの先の流れと云えば『織田がつき、猿が捏ねた天下餅、一人座して食す家康』でおなじみの信長、秀吉、家康の三英傑による安土桃山から江戸時代への推移である。
そこに諸々のドラマがあり悲劇チックな出来事があり、最終的にはそれなんてチート的な一騎当千で無双でバサラ的な大活躍があちこちでひしめいていたこの百年余りの時代は、傍から見れば本当に楽しいものだ。




そう。『傍から見れば』の話。


内実は度重なる飢饉やら略奪の横行やら、無政府状態の悲惨さが随所に滲み出る筈のその時代にあって、当事者達にそんな事を言えば即座に首チョンパコースである。
無礼討ちなんて制度、誰が考えたんだ。中途半端な身の上のお陰で誰に対してもビクビクしなきゃいけないこっちの都合を考えて欲しいものだ。




―――うん、まぁそういう事。



多分、察しの良い人ならもう気づいているかもしれないし、お決まり過ぎてもう飽きている人もいるかもしれないけど、一応決まり文句だから言っておこう。







朝、目が覚めると知らない天井でした。






何を言っているんだって感じだけど、実際問題そうなったのだから仕方ないだろう。よくある赤ん坊の「うあー」みたいな流れで無い分まだいいのか悪いのかよくわからないが、取りあえず自由に動き回れそうなだけの身体の作りをしていたから無問題。
その後いきなり現れた丁髷のオッサンが「若、御無事でしたか」とか言い出して「若って誰だ……あ、俺か」と。
その後はこれまたお決まりの流れで、頼んでもいないのに俺(というよりこの身体の本来の主)がどうしてこうなったのかを懇切丁寧に話してくれた。



―――その言葉の端々に聞こえた「十河」とか「讃岐」が、何やら喉の奥に小骨が引っ掛かっている様な感覚を俺に憶えさせたのは記憶に新しい。



そして「本日は御養生下さい」とか言って下がったオッサンを布団から見送り、染みを数える気もないのに天井を見上げた。










「転生、ねぇ…………」



一人で呟き、何処か釈然としないながらも受け入れつつある自分に違和感を覚えた。
まるで本能的に「納得しろ、受け入れろ」とお告げを受け、それに唯唯諾諾と従っている様な、そんな感覚だ。



歴代の転生者諸兄も、果たしてこんな心境だったのだろうか。知ったこっちゃないが。









取りあえず、状況を整理しよう。
オッサンから根掘り葉掘り聞いたお陰で割と怪訝そうな目を向けられたが、取りあえず俺の方が立場が上なのか(まぁ「若」とか言ってたし)丁寧に答えてくれた。

で、その情報を整理すると、




Q2 今は何年ですか?
A2 只今永禄二年で御座います(西暦だと何年なのだろうか)。






Q3 此処はどこですか?
A3 十河城で御座います(何処だよ)。







Q4 国名とか分かりますか?
A4 讃岐国で御座います(うどんの産地……ああ、四国かという事が判明)。







Q5 貴方の名前は?
A5 高山飛騨守友照で御座います(誰だ。というか飛騨って岐阜の辺りだろう。ここ四国じゃないの?)。






Q6 親父の名前は?
A6 十河讃岐守一存様で御座います(だから誰だよ)。







そして多分、これが最も重要なファクターなのだろう。











Q1 俺の名前は?
A1 熊王丸様で御座います。






[28249] 第一話 名前の割に喰われる側です
Name: 茶々◆a58e8cb7 ID:17b50b16
Date: 2011/06/08 16:58


―――天下人とは、何ぞや。




嘗て、日本全土を支配したと言っても過言ではない征夷大将軍さえも、遥か東北の奥地である蝦夷の全土を解明するには至らなかった。蝦夷地開発が進むのは安土桃山より後、江戸時代に入ってからの事である。
そして征夷大将軍であろうと某幕府であろうと、確かに名目上は天下を統べる者として君臨していたが、それはあくまで帝を頂に置いて、という冠がつく。あくまで征夷大将軍、というより武士は『武力』という一面を以て帝の代わりに日本を纏め上げ、貴族階級から言う所の『下々』な庶民を監督、統治するという役割を与えられたに過ぎない。庶民を支配し、貴族に支配される―――それが武士という存在であり、ただその為だけの存在であった。



では、数多の群雄達は本当に『天下人』を目指したのだろうか。
答えは否、である。



彼らはあくまでも自立的な政治、軍事を目的とし、その有用な手段の一つとして『天下人』という存在を捉えていたに過ぎない。貴族的階級の政治的介入を退け、完全な独立を目的とした軍事行動が『侵略』であり、大義名分を得る為の猟官活動が『政略』であった。



それを実践し、遂には貴族にまで上り詰めたのが平清盛であり、後の豊臣秀吉である。しかしその両名は貴族からの完全な独立を果たせなかったが故に一代で栄華も虚しく滅びゆき、貴族と武士とをかなりの純度で切り離した徳川家康は二百五十年余りの天下を守った。








穿った見方も甚だしいが、少なくとも本気で天下六十余州を統べようなどと考えていた人間は極僅かだろう。
そもそもどれだけの国を統べれば『天下人』となるのか。そんな明確な決まりも縛りも何一つないのが現実の乱世であり、時代である。





終わりの見えない争いは夜明け前の空よりも暗く、往く先も見通せない。時代と云う巨星が落ち、その灯火に名も無き蟲は焼かれ、或いは火を得て圧倒的な進化を遂げた人類の様に羽ばたき、空へと舞い上がろうとしていた。





















―――どこぞのやーさん宜しくな強面が俺の親父だそうです。

一年かけてじっくり洗の……もとい教育を受け、ある程度の現状把握もそこそこな頃になって、高山さんが「お父君より書状が届いております」とか言って俺に手紙(一年やそこらで読めるわけないから代わりに読んで貰った)を渡してきたのが事の始まり。
あれよあれよという間に船に乗り、武装した兵隊さん達が俺の周りをがっちり守って「ああ、俺ってホントに若とか言われる身分なんだなぁ……」とか感慨に耽っていると、どっかで見た事ある様なやたら強面のオッサンが満面の笑みで俺を出迎えた。
うん、ふっつーに怖いよアンタ。つーか誰だよ。



「久しいのぉ熊王丸」



―――頬ずりで玉の御肌が荒れたらどうするの!え、別にいい?


つぅか痛い。ガチで痛いから髭剃って下さいよお願いしますから!!
言った所で聞いてくれない空気ビンビンですけどね!



そんなこんなで、親父殿との(俺的には)初対面です。
見た感じは某トライアングル無双でイメージグリーンな勢力のどんぐりぼってりさんです(いや、あれよりはかなーりスマートさんですよ?筋骨隆々なのは傍目からでも簡単に分かるけど)。どうせ同じ筋骨隆々なら長髭さんの方がよかったんだけどなぁ……ちなみに一番の相棒は四代目まではイメージブルーの海賊もどきな隻眼さんで、五代目からはイメージレッドの若燕さんです。



いや、これはどうでもいいか。




で、何で俺が呼ばれたのかと云えば、簡単に言えばお引っ越しだそうです。
この間、割と大きめの戦があって、その功績でこっちに城を与えられたから、どうせならこっちにみんな引っ越してこい、と。


アバウトだなー、とか考えたらいけないのだろうか。それともあれか、こっちの方が色々勉強道具が充実してるとかそんなんなのか。


「兄上に話した所、そなたの教育には実休兄が当たられるとの事。しっかり学べよ」とかなんとか言って、親父殿はそれはもう見ている側が耳を塞ぎたくなるくらいに豪気な大声で呵々大笑した。
うん、だから五月蠅いよアンタ。つーか怖ぇよ。







―――ところで実休さんて誰ですか?一休さんの親戚ですか?





そんな事を考えている内に、お城が見えてきました。















千亀利城、というらしい。
親父殿が、親父殿の兄上(現在の当主)から与えられたその城は、後で地図を見せて貰った所どうやら大阪の和歌山寄りの辺りにあるらしく、見た目四層の中身五階建て+二の丸というとんだ孔明の罠に体力を疲弊させながら、しかし一番上の天守からの眺めはそれはそれは壮大だった。
何時ぞや修学旅行で船を浮かべた大阪湾を遥か上目線で一望でき、城下町の賑わいも手に取る様に分かる。


十河城に居た頃は基本的に外出禁止令を言い渡され、仕方なしに本の虫と化していたが、どうやら親父殿曰く「供の者をつけるのであれば外出しても良い」との事。但し「余り遠出しない」という(当たり前だが)確約をつけられた。







―――で、その翌日。


「初めまして、ですね。実休居士と申します」


パネぇイケメンさんがごとうじょー!!
何この爽やかさ、とてもウチの親父殿と親類とは思えない…………!?


「あっ、はい。熊王丸と申します」


取りあえず頭を下げておいた。
するとクスクスと、何故かは知らないが笑われた。


何故だ、何故だと考え―――やはり此処はお決まりの文句だろう。





―――どうしてこうなった!?












実休居士、もとい、三好義賢は、目の前の少年の突然の動作に微苦笑を禁じ得なかった。
そもそも、自身は四国方面の統治を任されていた身でありながら、先の畠山、安見ら河内の諸勢力掃討戦の指揮を任され、以来四国の統治は自らの懐刀・篠原長房に託して兄の助力に尽くしていた。
宗家の嫡子たる義興の才気は著しく、次代の主君としては申し分ない。であればその補佐役足る人間の養育が自身の使命であると感じ、時を同じくして兄である長慶より「熊王丸の養育に務めよ」と達しを受けたのである。


そしてこうして対面し、義賢は巷の噂や一存の話が、決して誇張ではない事を悟った。


―――曰く、質素倹約を旨とする倹約家。
―――曰く、人好きのする徳の持ち主。
―――曰く、礼節を重んじる垢抜けた童。



今や天下の三好家とまで謳われる名門の一族としても、鬼の名を冠す十河一存の嫡男としても、やや物足りない気もするが、しかし人として抑えるべき所を抑えているこの少年は、義賢にとっては好印象だった。
自身の子供はいずれもまだ幼いが、何処か愚直な性情が感じて取れる。あれでは補佐には向かないだろう、と義賢は自分の子の限界を見抜いていた。


長慶にとって自分がどれ程役に立てたのかは分からないが、叶うのであれば目の前の少年には自分とは違った方向性で、自分以上に聡明な子となって欲しい。



―――そう。



(私の様に、恩に仇で報いる様な愚か者とは違う者に…………)



ふと下げた目線に映ったのは、朱色に染まった自らの両の手だった。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

見切り発車の欠点
・フラグ回収が後回し




[28249] 第二話 従兄は最早チートさんです
Name: 茶々◆a58e8cb7 ID:17b50b16
Date: 2011/06/08 17:00


―――栄枯盛衰とは常なる物。





貴族社会の頂点に君臨した藤原道長も、武家に生まれながら貴族となった平清盛も、鎌倉幕府を開いた源頼朝も、誰一人の例外もなく権力というものは移ろい、嘲笑うかの様に時代の英傑達を翻弄していった。
盛りのついた猫の様に群雄は権力という名の妖艶な乙女を奪い合い、そして最期は無残に滅びゆく。


室町、足利幕府もまた例外ではなく、実権を奪いあった山名、細川ら有力守護によってその権威を失墜させられ、嘗て日本全土に轟いていた威光は今や匹夫すら嘲笑する程の物に成り下がった。





そんな中、流星の如く現れたのが三好長慶その人であった。
僅か二十年足らずで隷属の立場から畿内一円を支配する大勢力の頭領となり、一門は繁栄を極めた平氏もかくやと云わんばかりの精強ぶり。名目上は幕臣筆頭でありながら、内実はその幕府の実権の全てを握っているといっても過言ではない彼は、しかし人の子であるが故に世の常から逃れる術はなかった。


永禄元年に屈辱的な講和を結び政治的な敗北を喫した長慶ら三好一派の隆盛に陰りが見え始めていたこの頃、ある一人の人物が元服を迎える。
それは長慶が誰よりも心待ちにし、そして三好一門の再興を告げる瞬間であった。




その名は、三好孫次郎義興。





















―――逃げろ!アレは冗談抜きでヤバイ!!

頭の中で警鐘がガンガンとがなりたてる。全身の汗腺が決壊し冷や汗が大洪水を起こし、寒気が最早焦土を一瞬で凍土と化す程の冷気を伴って襲い来る。
全速力の筈の俺の逃走はしかし亀の様に鈍重で、遊び半分の筈の彼の追走はしかし兎の様に俊敏で―――



「じたばたせんと往生せいやーっ!!」
「うきゃぁぁぁああぁぁあ!?」



背中から襲いかかってきた捕食者―――もとい、従兄(にい)さんに捕まりました。











―――ええ、ただの遊びですけど何か?


実休先生の講義の合間、つと「そう言えば熊王丸はまだ孫次郎殿にお会いしていませんでしたね」と先生が仰って、孫次郎って誰とか考えている間にまたあれよあれよと云う間に連れられてやってきたのはお隣摂津国は芥川山城。
先生曰く「山城の御手本となる城ですよ」との事で、どうやら地理条件的にはこっちの方が本拠っぽい。見た目の荘厳さでは千亀利城の方が圧倒的だが、あっちは囲まれると弱いしなー…………。


で、城内に入った所いきなり正体不明の若造(俺の元の年齢からみて)が襲いかかってきて、冒頭に戻る。




「ふっふっふっ……待ちわびたぞ熊王丸。待ち侘び過ぎて首が垂れる程に長くなるかと思ったじゃないか」
「いっそ延び切ってしまえばいいのに」



言ったら小突かれました。痛いです。

というか退いて貰えませんか?邪魔です。

また小突かれました。痛いです。







「何だ何だ、不敬な奴だな。折角俺様自ら出迎えてやったというのに」
「そうですか有難う御座いますですが子供の身の上では貴方様は重いので退いて頂けるとありがたいですというかそろそろ腹の辺りがヤバイのですが」




つぅかマジで誰だよアンタ、とか考えていたら、見かねたのか先生が助け舟を……



「孫次郎殿、御挨拶がまだですよ」
「ん、そうだったか?」








ちょ、先生ぇぇぇ!?
それはどうでもいいから!早くこの人退けて!!


が、どうやらガン無視を決め込んだらしい若造(俺視点)は、長坂橋に仁王立ちするどんぐりさんもかくやという程に息巻いて、


「俺は孫次郎義興だ。宜しく頼むぞ熊王丸」








―――義興?





どこか遠くで聞き覚えのある気がしないでもない様な気がする名前だったが、何だかさっきより比重がずんと増した腹部の圧迫にその思考は隅に追いやられた。












「お腹の辺りに違和感があります」
「情けないなぁ熊王丸。もっと身体を鍛えねば讃岐殿の様になれんぞ?」

なりたいとも思いませんが。

というか、年齢的に高校生近い人が未だ中学生未満の子供にのしかかるわ暴行振るうわ、その辺りはいいんですか?


「細かい事を気にする奴だなぁお前は。実休殿や摂津殿の様じゃないか」


摂津殿って誰ですか……って、聞いちゃいねぇ。
とか考えていたら、襖を開いて女中らしい人が現れた。


「若様、勧修寺様より使いが参っておりますが」
「尹豊殿から……急ぎか?」
「至急、申し上げたき儀があるとの事で御座います」
「ふむ…………すまん熊王丸、暫く待て。そなた」
「はっ」
「俺のいない間、熊王丸を持て成せ」
「かしこまりました」


あれ?自分とこの女中に他の男を持て成させるのっていいんだっけ?
とか考えていたら、彗星の如く現れた従兄さんは流星の様に去って行った。

部屋に残されたのは、俺と女中さんが一人だけ。



―――うん、気まずいね。



「……あ、あの」
「はい」
「にいさ…………義興様って、どんな人?」
「どの様な人かと問われれば、私共にはただ素晴らしいお方とお答えする以外にはありませんが」
「あ、そう……じゃあ、ええと、具体的に聞いても大丈夫?」
「はい」



で、そこからはまさかのずっと女中さんのターン。

元服と同時に従四位下筑前守に任ぜられ、将軍様から名前を一文字貰って(凄い名誉な事だそうです)、自分の父親と同じく幕府の相伴衆や御供衆に着いて、父親から城を譲られて、一向一揆を鎮圧して、教養豊かで……etc。

兎に角喋り出したら止められない止まらない。女中さんの話は随分掻い摘んでいるらしいが実際は従兄さんが帰ってくるまでずーっと喋りっぱなしだった。喉とか痛くないのだろうか。
しかも後半はやれ義興様はこんな所が素晴らしいだの、顔立ちも良くて性格も良いだの、誰にでも分け隔てないだの、聞いているだけでそれなんてオリ主みたいなハイスペックぶりを次々と話してかなり熱中していた筈なのに、唐突に区切って深く頭を垂れた瞬間に従兄さんが帰ってきたから驚いた。



従兄さんも大概だが、この女中さんもパネェ。足音だけで誰なのか区別がつくとかどんな獣耳だし。ついているのは一般的な耳だけどね、コスプレとかしてないからねっ!


「どうした熊王丸」
「従兄さんの凄さを思い知りました」
「そうかそうか、それは良かった」


サラリと流してもその仕草一つ一つがまるで厭味ったらしくない辺り、女中さんの話は割と真実味を帯びて俺の中に沈殿した。










「よし熊王丸、碁を打つぞ!」
「随分唐突ですね。別に構いませんが」
「都にまで届くぐらいの腕前なんだ。相当強いのだろう?」
「それなりに、と答えておきましょうか。……で、従兄さん」
「何だ?」


いや、何だ?じゃなくてですね……
その脇に置いた明らかに高価そうな茶入は何のつもりですか?実休先生の茶室にでも並んでいそうなその茶入はなんですかー?


「おぉ、こいつか」


と、ひょいと片手で茶入を持ちあげる従兄さん。
ちょ、そんな乱暴に扱っちゃ……!




「親父殿の部屋からくすねてきた」


こらーっ!?


「こいつと、お前の『アレ』を賭けないか?」
「……『アレ』って、まさか」
「知らんとは言わせんぞ?先だっての茶会でお披露目したのは知っているのだからなぁ?」


しくった!実休先生から貰ったものだからって浮かれすぎたか!?

くっ、手元には『勝負』『降伏』『逃走(成功率皆無)』のライフカードしかない!
どうする!?どうするの、俺!!


―――と、



「―――義興様、宜しいかな?」


流れをぶったぎる様な重厚な声音が、部屋の中に放り込まれた。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

幼少期のフラグ類は後々回収予定です。




[28249] 第三話 爆薬さんが怖いです
Name: 茶々◆a58e8cb7 ID:17b50b16
Date: 2011/06/08 21:18

―――英雄と梟雄の境界線は何処にあるか。



世俗的英雄とは、いかにその行いの全てが理にかなったものであり、或いは大義を抱いたものであるかという点ばかりが誇張され、それ以外の汚点には目も向けられない事が多々ある。


例え幾千万の農民を虐殺しようと、それが後に幾億万の民草を救う結果になるのであればその行いは『善』であり『義』と讃えられ、救った人数が奪った命に足らないのであれば容赦なく『悪』だの『不義』だのと烙印を押しつけられる。



それを恐れる矮小な人間は、やがて英雄の名を冠した殺戮者によって呑みこまれ、時代の闇に消えてなくなる。


だが、それに抗い、歯向かい続ける人間も少なくない。
いつの時代も逆臣は敗者であり官軍は勝者。当然の帰結の様に語られるこの図式を、しかし原初から紐解けば必ずしも逆臣が逆臣であった事は少ない。むしろ忠臣とも呼べるような行いをした人間は少なくなく、勝者である筈の人間の都合によって陥れられた事は明白だという事は知っての通りだと思う。

誰も彼もが自らの大義名分を謳い、略奪・殺戮を繰り返した血みどろの戦国乱世。
そんな中であえて堂々『悪』を名乗り、のし上がった英傑。


そんな人物を、人は『梟雄』と呼んだ。





















三好家筆頭家臣、松永弾正忠久秀は頗る不機嫌であった。
駿河、三河、遠江の三国を統べる今川治部が上洛を開始した―――からではない。


そもそも、あんな領土政策を無視した様な大軍勢による上洛が早々叶う訳がない。早くて一年、或いはそれ以上の時間がかかる事は明白なのだから、何も焦る必要は――少なくとも彼には――ない。


では何が彼を不機嫌たらしめているのか。

答えは単純に、目の前に座する呆けた様な面持ちの少年にあった。


(―――ふん、脳筋馬鹿の愚息が来たか)


彼と一つ違いで子供が生まれていたからという、ただそれだけの理由で傅役の一人として選抜し、長慶を説得して自身の配下から栄転という形で潜り込ませた高山飛騨守からの報告で、彼が此方に来ている事は知っていた。
だがその男が、どうしてこの芥川山城で、次期当主たる義興と、しかも―――


(九十九髪茄子……こんな所にあったか)


将軍、足利義政も愛用した天下無双の茶入。
将軍家から三好家に下賜された稀代の名器を、しかし義興はぞんざいに小脇に置いて上座にふんぞり返っていた。
鼻を鳴らし憮然とした面持ちから、興を削がれた事が随分と不服に見える。


―――碁盤を挟み、まるでその茶器を賭けて一局打とうとしているというのか。


「どうした、弾正」
「……失礼、しかして、何故この様な場所に九十九髪が?」
「こいつが実休殿から譲り受けた三日月と賭け碁をしようと思ってな」



三日月!
その名が出た瞬間、久秀は驚きに猛禽類の如き両目をくわっと見開いた。


三好家は京を中心とした勢力を誇り、その為か自他共に認める程に当代の流行の最先端、取り分け茶道においては第一を往く一門でもある。
分けても現当主、三好長慶は八十を超える名物を所持し、弟の実休義賢も、一時期は六十余りの名物を所有していたという。多少の誇張は含まれるだろうが、それでも天下三茄子こと『九十九』『富士』『松本』を始めとする多くの名物茶器を有していた事からも、その膨大な財力や各界への影響力というものが推し量れる。


一説には、ある商家を取り潰してまで茶器を手に入れたという噂も出る程に長慶は茶器を集め、しかも大々的に茶会を開いてはそれらを公開し、自らの力を顕示する事でその支配力を維持してきたといってもいい。
京風味のその雅な派手さが、しかし元来茶器をこよなく愛する久秀には許し難かった。




話を戻す。
三日月というのは、数ある名物の中でもかなり早くその名を挙げられる名品である。今でこそ茶入がまるで我が物顔で茶道界の中心に居座るが、元々はその大きさ、形の良さで定評のあった茶壷こそが茶道の中心にあったのだ。その茶壷の中でも最たる名器こそが『三日月』。

長慶が自らの信頼の証として実弟義賢に贈ったとも、義賢が兄との賭け事で勝利し奪ったものとも伝わるそれは、茶器狂いに近い久秀にしてみれば喉から手が出る程に欲しい一品だった。
既に手元にはこれまた天下の一品『平蜘蛛茶釜』があるが、長慶や眼前の義興の様なぞんざいな連中の手元で名物が穢されるくらいなら、いっそ自分が―――




「あのー…………」


と、思考を遮るかの様に煩わしい蠅の声が久秀の鼓膜を揺らす。
視線を向ければ、そこには茶道のなんたるかもまるで理解していない様な餓鬼が恐る恐るといった調子で視線を向けていた。


(―――ちっ、よもやこんな小僧があの『三日月』を有していようとは)


彼の話は、間諜たる飛騨守から事細かに聞いている。


―――曰く、碁打ちの才は強かなものである。
―――曰く、連歌や茶道よりも鍛錬に勤しんでいる。
―――曰く、気弱で手緩く、鬼の血は無意味。


それらの情報から元商人たる自身の脳髄がはじき出した結論は『傀儡の駒』
都に響く程の碁打ちの才があろうとそれは武将の資質には何ら関係なく、武家の者らしく鍛錬に勤しもうと所詮は十二、三の童のする事だから脅威とは思えない。最後の一つは最早決定打といってもいい。



彼には『武将』たる才覚はない。
それが久秀の結論だった。


「何か?」
「えっと…………すみません、何方様でしょうか?」
「ん?あぁ、熊王丸は初めてだったか」


主――名目上は、という冠を心中で付け足す――は一つ咳払いし、


「こいつは弾正忠久秀、親父殿の知恵袋さ」
「弾正……久秀?」


反芻し、その言葉を呑みこむ様にゆっくりと紡いだ童は―――次の瞬間、弾かれた様に飛び上がって声を張り上げた。


「―――ま、松永久秀ェェェ!?」










―――君子危うきに近寄らず。
ようするに石橋は叩いて渡れ、急がば回れ、「ままー、あれなにー?」「しっ、見ちゃいけません」でおなじみのあれである。
種をまいて変な植物を育てるくらいならいっそそのまま焼却炉にぽいしてしまえという、正に日本人の気風を表しているといっても過言ではなかろうその名言は、今生の俺の座右の銘にしようとも考えていた。その筈だった、のだが…………


(怖ぇぇぇッ!!親父殿の比じゃねぇぞこの怖さ!!)


どうにも俺は、虎の尾を踏みぬいてしまったらしい。

何だかあの後松永さんが「それならば私も参戦してよろしいでしょうか?」と、アンタ何か用事あったんじゃないんですかと思っている内にあっさり座り、それに対して空気を読んだのか読んでないのか、或いは不穏な空気を自ら召喚してしまったらしい従兄さんが「どうせなら総当たりで名物は勝者総取りにしよう」とかいうトンデモルールを持ちだしたからさぁ大変!


……と言っても、殆ど毎回の様に実休先生にこってり絞られている俺はどうやら相応の力をつけていたらしく(毎度毎度ぼろくそにやられていて実感は皆無だったが)、あちこち意表を突いてくる従兄さん相手にどうにか競り勝ち、続いての従兄さんVS爆薬さんこと松永さんは、何やら爆薬さんが鬼気迫る形相で怒涛の攻撃を繰り返し、俺には何処からか「粉砕!玉砕!!大喝采ーッ!!!フゥハハハハハハハ!!!」とか聞こえた気がしたがそんな事を考えている内にあっさり中押し。


「孫次郎殿は、碁も嗜んでおられるのですよ」……すいません先生、明日辺りから従兄さんの趣味が一つ減ってしまうかもです。


―――バチン!!



と、他人の心配をしている余裕はなかった。
眼前の碁盤もそうだが、何よりこの爆薬さん、もとい松永さん。


(ちょ、まさか俺って……!!)


考えてみれば、どうしてこの結論に至らなかったのか逆に不自然なくらいだ。
十河の息子、讃岐国ときて千亀利――通称岸和田――城、従兄が三好義興、極めつけは松永久秀。



――バチン!!



そう。
その人は畿内の名門、三好家最後の当主でありながら、家臣に実権を奪われるわ、将軍暗殺の片棒を担がされるわ、最終的に裏切り裏切られを繰り返して殺された……


(―――三好義継さんですかーっ!?)




―――バチィン!!!




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回収フラグ(という名のご都合主義)その一
高山さんは爆薬さんの間諜だったの巻



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