2011年4月12日 9時51分 更新:4月12日 13時41分
日本臓器移植ネットワークは12日、関東甲信越地方に入院していた10代前半の男子について、脳死判定と臓器提供を家族が承諾し、法的に脳死と判定されたと発表した。15歳未満の脳死臓器提供は、昨年7月17日に全面施行された改正臓器移植法で可能になり、実施されるのは国内で初めて。
移植ネットによると、男子は交通事故で頭部に重傷を負い、関東甲信越地方の病院に入院していた。主治医から回復の見込みがないとの説明を受けたが、移植ネットの移植コーディネーターから家族が臓器提供について話を聞くことに同意。9日午後0時28分に移植ネットに連絡があった。コーディネーターが同日、家族に面会。男子の父母やきょうだいの計3人の総意で提供を決めたという。
男子の両親は「息子は将来、世の役に立つ大きな仕事をしたいと言っていた。彼の身体を役立てることが、彼の願いに沿うことだと考えた。身体の一部だけでもどこかで生き続けていると考えると、彼を失ったつらさや悲しみから少し救われるような気がしている」と話しているという。 改正法の運用指針(ガイドライン)では、全ての年齢で脳死臓器提供について拒否の意思を示すことができ、口頭でも有効とされる。男子と家族は臓器提供について生前に話していなかったが、男子は提供を拒否していなかったという。
虐待を受けていた子どもからの臓器提供を防ぐため、改正法の運用指針は18歳未満からの脳死臓器提供を行う場合、医療機関に専門委員会の設置とマニュアルの整備を求めている。移植ネットによると、病院では指針に基づき虐待防止委員会を設置し、児童虐待に対するマニュアルも整備。病院が虐待のないことを確認し、倫理委員会でも臓器の摘出が承認されたという。
11日午前11時33分、家族が脳死判定と臓器摘出に承諾する書類を提出し、心臓▽肺▽肝臓▽腎臓▽膵臓(すいぞう)▽小腸の提供を承諾。1回目の脳死判定は11日午後6時3分に始まり同日午後8時25分に終了。2回目は12日午前5時15分に始まり、同日午前7時37分に終わった。
97年の臓器移植法施行後、脳死判定は129例目、臓器提供は128例目になる。
心臓は大阪大病院で10代の男性▽肺は東北大病院で50代女性▽肝臓は北海道大病院で20代男性▽膵臓と腎臓の一つは藤田保健衛生大病院(愛知県)で30代女性▽もう一つの腎臓は新潟大病院で40代男性--に移植される予定。小腸は医学的理由から断念された。【河内敏康、大場あい】
【ことば】改正臓器移植法
2009年7月に成立し、10年7月17日に全面施行された。本人の提供意思が不明でも生前に拒否していない限り、それまで認められていなかった15歳未満を含め、家族の承諾のみで脳死臓器提供が可能になった。18歳以上では今月11日時点で家族承諾による提供例が38例あった。実施例については、脳死判定や移植に至る手続きが適正かどうか、厚生労働省の検証会議が事後検証する。