安定ヨウ素剤による甲状腺への線量低減策を講じるかどうかの判断基準が用いられています
緊急被ばく医療のスクリーニングレベル
I-131を想定し、I-131で汚染した空気を小児が吸い込んだ場合に、その小児の甲状腺の線量が100mSvに達する空気中濃度に対応した沈着量として誘導されています。
通常のGMサーベイメータでは13kcpm(=13×103count per minute)に相当します。
この計数率は通常のBGの200倍程度にあたります。
I-131の吸入摂取を防止する措置が講じられていた場合には、汚染密度(=単位面積あたりの放射能)と甲状腺の線量の関係は異なります。
計数率が高くてもそれが直ちに線量が高いことは意味しません
スクリーニング基準は、小児での安定ヨウ素剤の予防的投与の基準として考えられており、この基準を超えることが体への影響が懸念される線量を受けたことを意味しません。
吸入による回避線量が高いことが想定される場合には、内部汚染の防止策を講じることが重要です。
福島県の指針
避難所以外でサーベイを受ける場合
国の事務連絡
線量を左右する因子
空気がどの程度I-131に汚染しているかだけではなく、どの程度それを吸い込むかで線量の大きさが決まります。
除染の基準を超える汚染であったとしても、ただちにそれが重大なリスクであることを意味しません。
厚生労働省の通知に沿った測定方法
体表面汚染検査から 甲状腺線量の推計
不確かさが大きい方法です
体表面汚染の計数率から 体表面汚染の換算
体表面の放射性物質を計測する目的
内部被ばく
外部被ばく
その他
表面汚染密度から計数率の換算
核種、汚染面積、検出器のサイズに依存
口径5cmφの標準的なGMサーベイ
40Bq/cm2が13kcpmに相当
40Bq/cm2の意味
表面汚染は空気中の放射性物質が降下したもの
表面汚染密度と空気中濃度を関連づけ
→ヨウ素の沈降速度: 0.1 cm/s
→滞在時間:24時間
→沈降高さ:8,640 cm
→空気中濃度:4mBq/cm3
成人の一日の呼吸量:22.2 m3/d
成人の吸入摂取量:8.9×104 Bq/d
成人の吸入による実効線量換算係数:1.5×10-5 mSv/Bq
成人の吸入による実効線量:1.3 mSv
乳児の一日の呼吸量:4.0 m3/d
乳児の吸入による摂取量:8.9×104 Bq/d
乳児の吸入による実効線量換算係数:1.3×10-4 mSv/Bq
乳児の吸入による甲状腺等価線量換算係数:2.5×10-3 mSv/Bq
乳児の吸入による実効線量:0.5 mSv
乳児の吸入による甲状腺線量:10mSv
摂取した放射性物質の量から実効線量や等価線量への換算係数
小児甲状腺線量100mSvのリスク
甲状腺への線量が1Gyで致死性甲状腺がんの過剰発症は3人/1万人
→甲状腺がんそのものの発症はその10倍
1×10-5のオーダーのリスク
→小児(0~14歳)での甲状腺がんによる死亡率は人口100万人に対して3人程度
→安定ヨウ素剤の予防投与は正当化しうるが著しく高いリスクとも言えない(比較の基準にもよりますが)
汚染のインパクト
内部被ばく
体表面汚染を内部に摂取した場合の線量推計
汚染密度 4E+01 Bq/cm2
→体表面積 1.6E+04 cm2
→汚染量 6.4E+05 Bq
I-131
実効線量係数(mSv/Bq)
→吸入摂取 1.50E-05
→経口摂取 2.20E-05
線量(mSv)
→吸入摂取 10mSv
→経口摂取 14mSv
I-131による1.3kcpm程度の汚染が全体的にあり、その汚染を全部摂取してもリスクは限定的
I-134
汚染量 3.2E+05 Bqと仮定
実効線量係数(mSv/Bq)
→吸入摂取 2.0E-05
→経口摂取 1.9E-05
線量(mSv)
→吸入摂取 6mSv
→経口摂取 6mSv
I-137
汚染量 3.2E+05 Bqと仮定
実効線量係数(mSv/Bq)
→吸入摂取 3.9E-05
→経口摂取 1.3E-05
線量(mSv)
→吸入摂取 13mSv
→経口摂取 4mSv
放射性セシウム
→吸入摂取 19mSv
→経口摂取 10mSv
放射性セシウムによる1.3kcpm程度の汚染が全体的にあり、その汚染を全部摂取してもリスクは限定的ではあるが、除染措置は十分に正当化されうるレベル
皮膚への線量
皮膚についた場合の皮膚への線量率はI-131では、1Bq/cm2あたり1.3μSv/h程度
→ICRU Report 56
→40Bq/cm2の汚染で50μSv/h程度
I-131による1.3kcpm程度の汚染が皮膚にあっても長時間放置しなければリスクは限定的
皮膚についた場合の皮膚への線量率はCs-134では、1Bq/cm2あたり1.0μSv/h程度
→ICRU Report 56
→20Bq/cm2の汚染で20μSv/h程度
皮膚についた場合の皮膚への線量率はCs-137では、1Bq/cm2あたり1.4μSv/h程度
→ICRU Report 56
→20Bq/cm2の汚染で28μSv/h程度
放射性セシウムによる1.3kcpm程度の汚染が皮膚にあっても長時間放置しなければリスクは限定的
降下物による皮膚への汚染
降雨時とそれ以外では降下物の量は10倍程度異なると考えられます。
埼玉県における降下物(ちり、雨水等)の検査結果
例えば降雨があった2011年4月12日のCs-137の降下量は107 [Bq/m2/day]であり、降雨がなかった翌日(2011年4月13日)のCs-137の降下量は6 [Bq/m2/day]となっています。
一日間の汚染が皮膚にたまったとすると、降雨時は100 [mBq/cm2]となり、それ以外の日では、0.6 [mBq/cm2]となります。
なお、降下量は条件によって変動します。埼玉県での観測値で最も大きかったのは、2011年3月22日のI-131の22,159 [Bq/m2/day](=2.2 [Bq/cm2])でした。
2011年3月22日の都内の地表面でのγ線線量率(1cm線量当量率)の測定風景
除染の意味合い
100kCPMが除染基準です
例はほとんどない
100kCPMの汚染は300Bq/cm2に相当
1.5m2の汚染範囲であるとすると5MBqの汚染に相当
線量推計メモ
空間線量率から空気中濃度
I-131
0.1μSv/hの時に30Bq/m3
Cs-137
0.1μSv/hの時に20Bq/m3
検証されたデータではありません(visual monte carloによる計算)。
空気の吸入による内部被ばくと経口摂取による内部被ばくはどちらが大きいですか?
状況によります。
また、どちらの寄与が大きいかだけに着目することの意義は限定的です。
計算例(仮想的な例です)
○吸入摂取
・一日の平均空気中濃度:50Bq/m3
・一日に吸う空気量20m3/d
→一日の摂取量:1kBq/d
○経口摂取
・飲料水濃度:1kBq/l
・一日に飲む飲水量:2l
→一日の摂取量:2kBq/d
【参考】
東京のピーク濃度:250Bq/m3
チェルノブイリ原子力発電所事故時の我が国での空気中濃度:1Bq/m3程度
I-131でのごくごく簡単な計算例
空気中濃度 30 Bq/m3
空気の密度 0.00129 g/cm3
→1.29 kg/m3
β線
放出比 0.817
最大エネルギー 0.606 MeV
eV→J 1.60E-19 J/eV
一崩壊あたり 9.70E-14 J
一時間崩壊数 108,000 /m3
一時間放出エネルギー 1.1E-08 J/m3
吸収線量率 8.1E-09 Gy/h (最大エネルギーを使っているので過大評価)
γ線
放出比 0.817
エネルギー 0.364 MeV(他のエネルギーもあります)
一時間放出エネルギー 6.3E-09 J/m3
吸収線量率 4.9E-09 Gy/h(他のエネルギーを使っていないので過小評価)
合計すると0.1 μSv/h