福島県・郡山市。
町の中心部にある多目的ホール「ビッグパレットふくしま」は、原発事故で避難を余儀なくされた人たちが暮らす県内最大の避難所となっている。
<記者リポート>
「福島県郡山市のこちらの避難所ではピーク時の2,000人からは減りましたが、今も1,000人近くが生活しています」
避難している人のほとんどが、福島第1原発の20キロ圏内で警戒区域となった富岡町などの住民だ。
避難生活は、すでに3か月近くに及び、疲れから体調を崩す人も増えている。
<植田裕一さん(27)・富岡町>
「落ち着きはしないですよ、どうにもならないですし。家にはもう帰れないのかな〜、と皆さん思い始めてますから」
<斉藤トシ子さん(83)・富岡町>
「原発でね、帰りたくたって帰れないんだもん。着るものを取りにいくこともできない。とにかく帰りたいってことだけですね。ここで死にたくないから。もう歳だから」
当初の危機的状況は脱したとは言え、依然終息のメドは立たない福島第1原発事故。
ただ、周辺の町の住民はこれまで「安全対策は万全だ」と繰り返し説明を受け、多くの人がそれを信じてきたという。
(Q,(原発を)どういうふうに思ってましたか?)
<林憲子さん(75)・富岡町)>
「安全だ安全だって言ったから、信じるほかなかったです」
<斉藤トシ子さん>
「(原発は)安全、安全って言ってましたからね、そう思ってました。だから見に行ったこともないし…」
では、その「安全性の説明」とは、どのようなものだったのか。
ここに「マル調」が入手した1枚のチラシがある。
今から10年前、経済産業省が福島第1原発の地元、双葉郡の全世帯、2万2,000戸にもれなく配ったとされるものだ。
チラシでは安全対策を万全にするものとして、ある組織の存在が強調されていた。
「原子力安全・保安院の新設。約260人の体制で原子力の安全を守ります」(チラシの中身)
その組織とは、「原子力安全・保安院」だ。
保安院は経済産業省にあって、原発の安全性をチェックする機関。
しかし今回の事故では、その対応の甘さが様々なかたちで露呈した。
背景として指摘されたのが、電力会社との「もたれ合い」とも言うべき密接な関係だ。
<東京電力 南直哉社長(当時)・2002年8月>
「心からお詫びを申しあげる次第でございます」
2002年に福島原発などで発覚した「トラブル隠し」。
原子炉部品にひび割れが数多く見つかっていたにも関わらず、それを長年にわたり隠蔽していた重大な不正だ。
発覚したのは原子炉メーカーの技術者の内部告発からだったが、告発を受けた旧通産省と原子力安全・保安院は2年間に渡りそれを公表しなかったばかりか、告発者の氏名などを東京電力側に通報していた。
さらには、当時の保安院の幹部がその後、電力会社に再就職していたことも明らかになった。
(Q、電力会社に再就職されるのはおかしくありませんか?)
<四国電力 中村進取締役>
「広報の方で一元的にアレしてますんで」
原発を推進してきた自民党にあって、一貫して反原発を主張してきた河野太郎議員はこう指摘する。
<自民党 河野太郎衆議院議員>
「(保安院は)もともと経産省の下につくられましたので、我々は推進する側から人間が来て『規制します』と言っても、その人間はやがて推進する側に戻っていって、極端に言うとそのまま偉くなって電力会社に天下るわけですから、これで規制ができるはずがない」
では、福島での原発の安全性チェックは、どのような問題を抱えていたのか。
「マル調」は内情を知る重要人物に、直接話を聞くことができた。
起きてはならない事故が、現実のものとなった福島第1原発。
安全性のチェック体制は、どこに問題があったのか。
「マル調」は、その内情を知る人物に取材した。
元福島県知事の佐藤栄佐久氏(71)。
2006年に収賄事件で逮捕・起訴されたが、一貫して無罪を主張し、現在上告中だ。
手元には、知事時代に原発の技術者らから受けた内部告発の記録がいくつも残されていた。
<佐藤氏が内部告発内容読み上げ>
「極めて短期の定期検査で工程的にも無理があり、”安全・安心が第一”と謳っていることとは異なる」
原発には元々中立的だったという佐藤氏。
しかし2002年の「トラブル隠し」発覚以降は、国を公然と批判するようになった。
<福島県 佐藤栄佐久知事(当時)・2002年8月】
「(トラブル隠しは)2年前に分かってたようなんですね。2年間何をしてたのかと」
特に、技術者からの内部告発が東京電力側に筒抜けになっていたことには、憤ったという。
<佐藤氏>
「私は怒りましたよね。体質がね、どうしようもない体質。国と東電の関係、国というか当時の通産省ですね」
それ以降、原発技術者らの告発は保安院ではなく、佐藤氏のいる福島県に寄せられるようになっていったという。
<佐藤氏>
「国が信用できなくなったんで、皆さんは私どもの方に告発してきた」
「役所の腐った部分は、本当にやりたい放題に推進とチェックが。チェックがないシステムなんて許されない。こういう事故が起きて当たり前ですよね」
そしてこの問題のさらに核心を知る人物が、アメリカにいた。
ゼネラル・エレクトリックの元技術者で、日系三世のケイ・スガオカ氏だ。
トラブル隠しを発見し内部告発を行った技術者とは、このスガオカ氏のことだ。
告発は危険を冒してのものだったにも関わらず、当初はまともに扱われていなかったという。
<元GE技術者 ケイ・スガオカ氏>
「(訳)東京電力と通産省は、まるで『グローブと手』のような関係でした。同じ組織のようなもので、東京電力が通産省をだますことは簡単でした」
内部告発によって、原発を規制する官庁と電力会社の「もたれ合い」が解消されると期待したというスガオカ氏だったが、今回の事故を見てこう感じているという。
<ケイ・スガオカ氏>
「(訳)正直言って日本は変わっていませんよ。(告発の後)きっと変わる、変わらざるを得ないと思いましたが、私は間違っていました」
先月27日、福島第1原発の内部を視察したIAEA(国際原子力委員会)の調査団。
総理補佐官に手渡した報告書では、日本側に次のような改善を要求していた。
「原子力の規制システム(保安院)は、その独立が確保されるべきである」(IAEA報告書)
そして、政府も7日、ようやく「保安院を経済産業省から独立させる」方針を示した。
「想定外」の言葉ではとても片付けられない住民の苦しみ。
安全と安心を取り戻すために、事故の徹底した検証が求められている。
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