事件・事故・裁判

文字サイズ変更

福島第1原発:私立7幼稚園が危機 園児疎開、助成もなく

富岡幼稚園は週に2回、避難所に園児を集めて遊ぶ時間を設けている=福島県郡山市のビッグパレットふくしまで伊澤拓也撮影
富岡幼稚園は週に2回、避難所に園児を集めて遊ぶ時間を設けている=福島県郡山市のビッグパレットふくしまで伊澤拓也撮影

 東京電力福島第1原発の30キロ圏内にある福島県の私立幼稚園7園が存続の危機に立たされている。公立のように教室を間借りして子供を預かることができず、園児が次々と県内外に疎開しているためだ。県の私学助成金も運営実態がないため今年度はゼロ。早くも閉園を考える経営者が出始めている。

 県全私立幼稚園協会によると、5月下旬までに県内の全私立幼稚園児の8%にあたる計1537人が園を離れた。休園している7園については園児が散り散りになっており正確な数が分からないが、苦境を訴える園が多いという。

 同原発の警戒区域(原発から20キロ圏)と緊急時避難準備区域(20~30キロ圏)内には幼稚園が27園あり、うち7園が私立。富岡町の小高い丘にある富岡幼稚園もその一つだ。原発から約10キロの距離にあり、園児105人は全員県内外に避難した。運営には少なくとも園児60人を確保する必要があるが、事故の長期化とともに退園が増え、既に71人の保護者から申し出があった。

 「子供を危険な場所に通わせたくない親御さんの気持ちは十分理解できる。でもこのままでは私立幼稚園は弱っていくばかり」。堀内恵梨子園長(48)はため息をつく。

 保護者の半澤孝子さん(44)は、長男(5)の籍を同園に置いたまま、実家の神奈川県横須賀市に避難している。「初めはすぐ戻れると思った。友達もできたし、できれば同じ先生にみてほしい」というが、通う先のない長男は時間を持てあまし「幼稚園に行きたい」とせがむようになった。9月を待って横須賀市内の幼稚園に一時入園することも検討しているという。

 教諭らの悩みも深い。野口美帆教諭(22)は「園児たちはなぜ日常が崩れたのかも理解できず、精神的に不安定になっているはず。こういう時こそ一緒に遊んであげたいのに、それさえできない」と悔しがる。教諭らは避難先で雇用保険の特別措置による失業手当を受けて待機中だが、手当は給与の6割程度で、事故が長期化すれば退職者が相次ぐ恐れもある。

 同園が撤退すれば、富岡町には公立の2園しかなくなる。堀内園長は富岡での再開をあきらめ待機児童の多い関東での新設も考え始めたが、心残りは子供たちのことだ。「避難が終わったとき、誰がこの地域の子供の面倒をみるのでしょう」。当面、結論は出せそうにない。【伊澤拓也】

毎日新聞 2011年6月9日 11時31分(最終更新 6月9日 11時55分)

 

おすすめ情報

注目ブランド

毎日jp共同企画