気象・地震

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東日本大震災:福島第1原発事故 IAEAに提出した政府報告書の28の教訓(要旨)

 東京電力福島原子力発電所の事故は、原子力安全に対する国民の信頼を揺るがし、原子力に携わるものの過信を戒めるものとなった。今回の事故から徹底的に教訓をくみ取り、この教訓を踏まえて、我が国の原子力安全対策の根本的な見直しが不可避である。

 (1)地震・津波への対策の強化

 今回の地震は複数震源の連動による極めて大規模なものだった。地震で外部電源に被害がもたらされた。原子炉施設の安全上重要な設備や機器は現在まで地震による大きな損壊は確認されていないが、詳細はまだ不明で、さらなる調査が必要だ。津波は設計または評価の想定を大幅に超える規模だった。津波で海水ポンプなどの損傷がもたらされ、非常用電源の確保や原子炉冷却機能の確保ができなくなる要因となった。手順書では、津波の浸入は想定されていなかった。津波の発生頻度や規模の想定が不十分で、対応が十分でなかった。地震の想定は複数震源の連動を考慮し、外部電源の耐震性を強化する。津波のリスクを認識し、安全機能を維持できる対策を講じる。

 (2)電源の確保

 事故の大きな要因は必要な電源が確保されなかったこと。多様な非常用電源の整備、電源車の配備など電源の多様化を図り、緊急時の厳しい状況でも長時間にわたって現場で電源を確保できるようにする。

 (3)原子炉及び格納容器の冷却機能の確保

 海水ポンプの機能喪失によって最終の熱の逃がし場を失い、注水や原子炉の減圧に手間取った。代替注水機能や水源の多様化などにより、確実な代替冷却機能を確保する。

 (4)使用済み核燃料プールの冷却機能の確保

 核燃料プールの大事故のリスクは小さいと考えられていた。電源喪失時も冷却を維持できる代替冷却機能を導入し、確実な冷却を確保する。

 (5)アクシデントマネジメント(過酷事故へ拡大させない対策)の徹底

 アクシデントマネジメントは事業者の自主的取り組みとされ、整備内容に厳格性を欠いていた。国の指針も92年の策定以来、見直されていない。事業者による自主保安の取り組みを改め、法規制上の要求にする。

 (6)複数炉立地における課題への対応

 複数炉に同時に事故が起き、事故対応に必要な資源が分散したり、炉の間隔が小さかったため、隣接炉の緊急時対応に影響を及ぼした。一つの発電所に炉が複数ある場合、各炉の操作を独立してできるようにし、影響が隣接炉に及ばないようにする。

 (7)原発施設の配置の基本設計上の考慮

 使用済み核燃料プールが原子炉建屋の高い位置にあったため事故対応が困難になり、汚染水がタービン建屋に及ぶなど汚染水が拡大した。今後は冷却を確実に実施でき、事故の影響の拡大を防ぐ配置を進める。

 (8)重要機器施設の水密性(水の浸入防止)の確保

 海水ポンプ施設、非常用発電機など多くの重要機器施設が津波で冠水した。設計の想定を超える津波や洪水に襲われた場合も、水密扉の設置などで水密性を確保する。

 (9)水素爆発防止対策の強化

 1号機の最初の爆発から有効な手だてをとれないまま、連続爆発が発生した。原子炉建屋に水素が漏えいして爆発する事態を想定していなかった。発生した水素を的確に逃がすか減らすため、格納容器の健全性を維持する対策に加え、水素を外に逃がす設備を整備する。

 (10)格納容器ベントシステムの強化

 格納容器の圧力を下げるために弁を開くベントの操作性に問題があった。放射性物質除去機能も十分ではなく、効果的にベントを活用できなかった。今後、操作性の向上などを図る。

 (11)事故対応環境の強化

 中央制御室や原発緊急時対策所の放射線量が高くなり、運転員が入れなくなるなどして事故対応に支障が出た。放射線遮蔽(しゃへい)の強化など、活動が継続できる環境を強化する。

 (12)事故時の放射線被ばくの管理体制の強化

 多くの個人線量計などが海水につかって使用できず、適切な放射線管理が困難になった。空気中の放射性物質の濃度測定も遅れ、内部被ばくのリスクを拡大させた。事故時の防護用資材を十分に備え、被ばく測定を迅速にできるようにする。

 (13)シビアアクシデント(過酷事故)対応の訓練の強化

 過酷事故の実効的な訓練が十分されていなかった。発電所と政府の原子力災害対策本部、自衛隊、警察などとの連携確立に時間を要した。事故収束の対応、住民の安全確保に必要な人材参集などを円滑に進めるため訓練を強化する。

 (14)原子炉及び格納容器などの計装系(測定計器類)の強化

 原子炉と格納容器の計装系が過酷事故の下で十分働かず、炉の水位や圧力、放射性物質の放出量など重要情報が確保できなかった。過酷事故発生時も十分機能する計装系を強化する。

 (15)緊急対応用資機材の集中管理とレスキュー部隊の整備

 事故当初は原発周辺でも地震・津波の被害が発生し、レスキュー部隊が現場で十分機能しなかった。過酷な環境下でも円滑に支援できるよう資機材の集中管理や部隊の整備を進める。

 (16)大規模な自然災害と原子力事故との複合事態への対応

 事故が長期化する事態を想定、事故や被災対応に関する各種分野の人員の実効的な動員計画を策定する。

 (17)環境モニタリングの強化

 緊急時の環境モニタリングは地方自治体の役割としているが、事故当初は機器や設備が地震と津波の損害を受け、適切にできなかった。緊急時は国が責任をもって実施する。

 (18)中央と現地の関係機関の役割の明確化

 当初は政府と東電、東電本店と原子力発電所、政府内部の役割分担の責任と権限が不明確だった。責任関係や役割分担を見直し、明確化する。

 (19)事故に関するコミュニケーションの強化

 事故当初の情報提供はリスクを十分示さず、不安を与えた。周辺住民への事故の状況や対応、放射線影響の説明を強化する。事故の進行中は今後のリスクも含めて示す。

 (20)各国からの支援への対応や国際社会への情報提供の強化

 各国の支援申し出を国内のニーズに結びつける政府の体制が整っておらず情報提供も不十分だった。情報共有体制を強化する。

 (21)放射性物質放出の影響の的確な把握・予測

 緊急時迅速放射能影響予測システム(SPEEDI)の計算結果は当初段階から公開すべきだった。今後は、事故時の放出源情報が確実に得られる計測設備を強化し、効果的な活用計画を立て、当初から公開する。

 (22)原子力災害時の広域避難や放射線防護基準の明確化

 避難や屋内退避は迅速に行われたが、退避期間は長期化した。事故で設定した防護区域の範囲も防護対策を充実すべき範囲を上回った。このため、原子力災害時の避難の範囲や防護基準の指針を明確化する。

 (23)安全規制行政体制の強化

 原子力安全確保に関係する行政組織が分かれていることで責任の所在が不明確で俊敏性にも問題があった。原子力安全・保安院を経済産業省から独立させ、原子力安全委員会や各省も含め規制行政や環境モニタリングの体制を見直す。

 (24)法体系や基準・指針類の整備・強化

 既存施設の高経年化対策のあり方を再評価し、法体系や基準の見直しを進める。IAEAの基準・指針の強化にも最大限貢献する。

 (25)原子力安全や原子力防災に関わる人材の確保

 今回のような事故では、過酷事故への対応や放射線医療などの専門家が結集し取り組むことが必要。教育機関や事業者、規制機関で人材育成活動を強化する。

 (26)安全系の独立性と多様性の確保

 これまで(安全確保のシステムである)安全系の多重性は追求されてきたが、独立性や多様性を強化する。

 (27)リスク管理における確率論的安全評価手法(PSA)の効果的利用

 原発のリスク低減の取り組みを体系的に検討するうえで、(リスク発生の確率を評価する)PSAは効果的に活用されてこなかった。PSAを積極的に活用し、効果的な安全向上策を構築する。

 (28)安全文化の徹底

 原子力安全に携わる者が専門的知識の学習を怠らず、安全確保上の弱点はないか、安全性向上の余地はないかの吟味を重ねる姿勢を持つことで、安全文化を徹底する。

毎日新聞 2011年6月8日 東京朝刊

 

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