事故収束には、政府、東電、現地対策本部の3者が一体となって取り組まなければならないが、当初から懸念されているコミュニケーション不足や信頼関係の欠如が解決されたとは言いがたい。政府内も官邸、経済産業省、内閣府原子力安全委員会などがバラバラ。政府は「原子力との戦争」に臨んでいるとの自覚を持ち、一体となって取り組めるよう努めるべきだ。
コミュニケーション不足が最も顕著に表れたのが、1号機への海水注入をめぐる問題だ。当初は「55分間海水注入が中断された」と発表され、結果的に現場の所長が注入を継続していたことを明らかにした。3者の間で「伝言ゲーム」が繰り広げられたことが混乱につながったのではないか。所長の判断は当然であり、もし私が所長でも同じ判断をしただろう。
もちろん、東電に大きな責任があることは変わらない。全電源喪失がどれほどの異常事態なのかという認識が社内で共有されていれば、水素爆発を回避できた可能性もある。東電幹部に「原子力の問題は社内の専門家に任せておけばいい」との安直な雰囲気があったのではないか。日常の作業に追われ、安全の根本について社内で議論することも怠っていた。情報公開の姿勢も極めてずさんだった。
国や電力会社、メーカーなどのいわゆる「原子力ムラ」の体質が事故の一因になった面もある。ムラは長年固定メンバーで構成され、津波などのリスクを警告する外部の意見を黙殺してきたことは否定できない。
工程表では、来年1月までに冷温停止を目指すとの目標を示したが、実現のために循環注水冷却システムの確立を急がなければならない。長期的には炉心や使用済み核燃料プールの燃料を取り出して保管する必要もあり、10年単位の視野で取り組む覚悟も必要になるだろう。
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■人物略歴
70年、東大大学院修了。同年東京電力入社。原子力計画部長などを経て00~02年、福島第1原発所長。副社長などを歴任し、07年から現職
毎日新聞 2011年6月9日 東京朝刊