首都圏の住民の間でも居住地域の放射線量への不安が広がってきた。
原発事故の際、離れた場所でも局地的に汚染度が高い「ホットスポット」と呼ばれる地域があることが知られる。事故によって放射性物質が漏れて上空を流れる時、地形や風向き、降雨などの影響で特定の場所に降下して高い線量になる。
福島第1原発事故と並び史上最悪の「レベル7」だったチェルノブイリ原発事故では、原発から300キロ近く離れた場所が高濃度に汚染され、強制移住の対象になった。
ホウレンソウや生茶葉などから国の基準を超える放射性物質の検出が相次いだ千葉県では、県北西部の松戸市など6市が「一部の計測データで相対的に高い数値が出ている」などとして、放射線量の測定と結果の公表を求め県に要望書を出した。それを受け、県は測定を実施した。
6市は、今後も継続的な測定を県に求め、専門家もまじえたワーキンググループでデータを検討する。
また、東京都内で独自に放射線量を計測した団体の調査結果の中には、都の公式測定値よりも高いデータが出ている。23区や武蔵野地区の市などの多くが、住民の不安の声を受けて独自の測定を始めたり、今後測定を計画している。神奈川や埼玉でも同様の動きは広まっている。
文部科学省は全都道府県に委託して放射線量のモニタリングを実施・公表しているが各1カ所だ。それ以外は、大学や原発周辺のデータがあるに過ぎない。
一方で、政府が運用する緊急時迅速放射能影響予測システム「SPEEDI」の計算結果によると、福島の事故後、放射性物質の放出が最大だったとみられる3月15日午前、放射性物質は関東に向かった可能性があるとされる。
放射性物質がどんな値ならば健康に影響があるのか専門家でも見解が分かれる。何を信じればいいか住民が不安に思うのはもっともだ。水のシーズンを前にプールなど子供への影響を不安視する声もある。
住民に一番近い、市や町が住民の安心・安全に敏感に反応し、積極的にモニタリングするのは当然だろう。きめ細かいデータが示されれば、住民個々人が被ばく量を減らすための行動をとる目安になるからだ。
ただし、市などには通常、放射線の専門家はおらず、測定のノウハウもない。文科省は、ホットスポット対策について「要望が大きくなれば検討したい」との姿勢だが、原発事故対応は一義的に国の責任だ。モニタリングを強化し、バラつきが指摘される測定方法についても明確な基準を示すべきだ。都道府県の積極的な対応も求めたい。
毎日新聞 2011年6月9日 2時30分