【萬物相】5000ウォンの昼食
ソウル市内の楽園商店街から宗廟へと向かう途中、左側の狭く古びた路地に、うわさのカルグクス(韓国式の手打ち麺)店が2軒ある。カタクチイワシやアサリ、イガイなど魚介類でだしを取ったスープはさっぱりした口当たりで、手打ち麺はコシがある。3人でおいしく食べ、1万ウォン(約743円)を払うと1000ウォン(約74円)お釣りが来るため、さらに気分がいい。2軒のうち1軒には「1965年20ウォン(現在のレートで約1.5円)から」と書かれた看板があり、庶民と共に生きてきた、その店の歴史を語っている。ところが2軒とも、今年に入り価格を4500ウォン(約335円)に値上げした。
飲食店で「時価」と書かれたメニューは、客を気後れさせる。「時価」とは、天然のアワビやアラのように手に入れるのが難しく、高価な食材で作った料理の値段がその日ごとに変動することを意味する。そのような事情が分かっているため、ある程度財布に余裕がある人でなければ注文する気にはならない。ところが、手ごろな店が多いといわれるソウルのある大学周辺の食堂で、豚肉炒めに最近「時価」という表示が登場したという。
外食の値段が驚くほどの上昇傾向を示している。跳ね上がる昼食代のため、サラリーマンは500ウォン(約37円)を節約するために20‐30分歩くのは当たり前だ。ソウル・竜山電気街のトイレは、昼食の時間が終わると、食器などを洗う人たちが集まってくるという。別の会社の社員食堂に行って安く食事を済ませる、いわゆる「幽霊社員」も増えている。
「広橋水月楼で、料理だけでなく、おいしいチャングッパプ(スープご飯)を、陰暦11月初めから売り出すので、皆さんお越しください」。1898年12月、ある新聞にこのような広告が掲載された。酒場で庶民が食べたメニュー、クッパプが、食事の店のメニューとして登場し始めた。1920年台にソルロンタン(牛肉を煮込んだスープ)1杯の値段は、たばこ1箱と同じ10銭程度だった。1960年ごろ、家計の食料品支出額に占める外食費の割合は1.3%だったが、現在は48.9%にも上る。家と職場が昔のように隣接しておらず、離れている現代社会で、外食はぜいたくではなく生活の一部となった。
サムギョプサル(豚バラ肉)、ソルロンタン、ジャージャー麺、冷麺、カルグクスなど、庶民が好んで食べるメニューがさらに値上がりしており問題だ。食事代わりとして若者に人気のトッポッキ(もちの唐辛子みそいため)の値段も2倍近く上昇した。昔から「腹が満たされて初めて恥を知る」といわれている。政治は何よりも、食べることに対する国民の懸念を取り除かなければならない。政治家たちは、昼食代5000ウォン(約372円)を節約するために安い店を探し回るサラリーマンの気持ちが分かるだろうか。
金泰翼(キム・テイク)論説委員
- 安い食堂を探しさまようサラリーマン(上) 2011/06/07 11:25:35
- 安い食堂を探しさまようサラリーマン(下) 2011/06/07 11:25:46
- 社員食堂に通う「幽霊社員」とは 2011/06/07 11:26:49