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[26637] 王達と駄犬の共演 (Fate×リリカルなのは)
Name: マイケル◆22054d9e ID:0104a474
Date: 2011/06/06 22:56
はじめまして。マイケルといいます。
このSSはギルガメッシュ(ギル&子ギル)と兄貴(ランサー)、そしてイスカンダルがなのはの世界に向かう話です。


この三人に関してのSSを書いてみたいと思い投稿させていただきました。
この作品はFateと魔法少女リリカルなのはのクロスオーバー小説です。


設定は(Fate)第5次聖杯戦争終結後つまりHollowになります。で(なのは)PT事件解決後、つまりA'Sの始め辺りです。
初めての投稿なので文章や構成などが中途半端になったりするかもしれません。


ですが、閲覧された方のアドバイスや感想をもとにより良くできるように努力していきますのでよろしくお願いします。


この小説は一時の気持ちにより作成し投稿したものですので、いくつか内容に矛盾が生じるかもしれません。
また、オリジナル設定やこの2作品と関係のないネタが幾つか存在します。


これ等の事を理解したうえで、「それでもいいです」「問題ありませんよ」などの気持ちを持っている方のみ次に進んでください。
これらが許容できない方は「戻る」をクリックすることをお勧めします。



[26637] 王達と駄犬の共演 (Fate×リリカルなのは) プロローグ
Name: マイケル◆22054d9e ID:0104a474
Date: 2011/06/08 00:20


―――聖杯戦争―――。


それはあらゆる願いが叶うと言われる万能の願望機「聖杯」を求める7組の英霊と魔術師による奪い合い。
その聖杯戦争も最後まで生き抜いた勝者が聖杯を手にすることなく終えた後の話になる。


現在、これまでの事がまるで夢だったような平穏に満ち溢れているここ冬木市。
第4次聖杯戦争が終結してから10年の月日が流れ、第5次聖杯戦争も終結を迎えてから数日が経っていた。


暗い空から太陽が出始めたのか、眩しい朝日が部屋の窓越しに入り込む。
そんな休日の穏やかな冬木市の町中に何の変哲もなく建っている一つの家。
表札には「マッケンジー」という名前が書かれている。


その家には現在居候が2人いるのだが、そのうちの一人は第4次聖杯戦争でライダーのクラスを授かり、王として戦場を駆けた巨漢のサーヴァント、征服王イスカンダルであった。
本来、サーヴァントは聖杯戦争が終結すると同時に消滅するはずなのだが……。
この世に留まりたいというライダーの意思が強く、マスターが魔力供給を続けることでライダーは今もまだこの世に留まり続けていた。


居候しているライダーはサーヴァントでありながら部屋で煎餅をかじりながらビデオを見たり、時には町に買い物に出かけたりと、誰もが現代に馴染んでいると思うような生活を日々送っていた。
そして、この日もライダーはビデオを見ながら煎餅を噛り付いている。
ちなみにこの時間はライダーにとって至福の一時となっている。


「おい、ライダー」


そんなライダーの楽しみの中に一つの声が割り込んできた。
その声の主は言うまでもなくライダーのマスターであるウェイバー・ベルベットである。
ビデオ鑑賞中の事もあったのか、不満を抱きながらライダーは声のする方へ顔を向ける。


「どうした?」


「これからバイトに行ってくるから。ちなみにお爺ちゃんとお婆ちゃんも外出してるからな。オマエもし町に出掛けるんだったら、しっかり鍵をかけて行くんだぞ」


ウェイバーは部屋に入りライダーにそう言い終えると颯爽と出て行ってしまった。
本来魔術師を目指している筈のウェイバーだったが、第4次聖杯戦争をキッカケに考え方が変わる。


――もっと他の事に興味を持ちたい――。


そして自分の知らない世界をもっと見てみたいなどの理由からライダーと共に旅をすることを決めたウェイバーはその旅費を稼ぐためにバイトを続けていた。


「さて……これからどうしたものか?」


ライダーはビデオを見つつこの後をどうするかについて考えていた。
現在ここにあるレンタルビデオは既に見尽くしてしまい、これ以上なく暇を持て余していた。


考え抜いた結果、ライダーは町に出掛けることにした。
ヴェイバーに言われた通りに家の鍵を掛ける。


外へ出ると太陽の光がとても眩しく、絶好の出かけ日和と思いながら商店街へ向かう。
商店街に無事到着すると何か面白いものがないかと見回りながら冬木の商店街を歩いていく。


そう考え歩いていると、前を歩いている二人組の中にふと見覚えのある後ろ姿が目に入った。
毛皮のファーをあしらった白のエナメルに迷彩模様のズボン。
そして燃えるような金色の髪が日光に当たり、よりいっそう輝いている。


だが、その姿はライダーの知っている姿とは一つだけ違っていた。
その後ろ姿は自分の知っている姿より身長がかなり小さい。
一瞬人違いとも思ったが、あそこまでファッションや髪型が似ている奴はそうはいないと考えたのか。
ライダーはすぐさまその人物に後ろから声をかけた。


「よぉ、金ピカ。珍しいな、こんなところで会うと―――」


「あれっ? 誰かと思えばライダーさんじゃないですか?」


そこまで言いかけたところでライダーは、目の前の少年を注視したまましばらく思考停止していた。


目の前にいるのはどう見ても小学生程度の少年である。
それは、今自分に返ってきた言葉を聞いても明らかだ。


では、単純に人違いなのか――。
だが、ライダーは人違いという選択肢はないと確信していた。


たしかに見かけは少年である。


だが、その華奢な体から放たれる魔力。
相手の全てを見透かしてしまうような透き通ったルビーのような紅い瞳。
そして、自らを象徴するその金髪。


その全てがかつてこの征服王と死闘を繰り広げたもう一人の王である英雄王の姿と一致していた。
また、この少年は自分の事をライダーと呼んだのなら自分の正体を目の前の少年は知っている。
この少年があの金ピカである可能性は高い。
そんな考えを巡らし、いつの間にか静まり返ったこの場を二人組のもう一人が打ち破った。


「…おい、成金王子。誰だよこの馬鹿デカイ奴は? こんな厳ついサーヴァントは今回の聖杯戦争で見た覚えがないんだが」


「?? …あっ!? そういえばランサーさんはまだ面識がありませんでしたっけ。紹介しておきますよ。第4次聖杯戦争のサーヴァントとして召喚されたライダーさんです」


ライダーが声をかけた人物。
それは第4次聖杯戦争でアーチャーのクラスを授かった黄金のサーヴァント、英雄王ギルガメッシュ(今は子ギル)。
そして第5次聖杯戦争でランサーのクラスで現界した最速のサーヴァント、クランの猛犬クーフーリンである。


「ところで、ライダーさんはこんなところで何してるんですか?」


目の前のギルガメッシュと思われる人物に唐突にそんな質問を投げかけられるが、動揺しつつもライダーは答えた。


「…なに。少し退屈を持て余していたのでな。こうして市場を回っていたのだが…、貴様なら良い娯楽を知っているのではないかと思ってな。」


「それはいいタイミングですね。今話題になっている最新のゲームを取りに行くところだったんですよ。よかったらライダーさんも一緒にやってみます?」


その返答はライダーにとっては少し意外であった。
なぜなら彼の記憶の中でのギルガメッシュは他人に簡単に施しを与えるような奴ではなかったからだ。


体が幼児化しただけでこうまで性格が変わってしまうものなのか。
やはり自分の勘違いだったのか。
だが、そんなライダーの疑問を払拭するかのようにギルガメッシュはその疑問について答えた。


「別に警戒する必要はないですよ。この姿は単にある薬の力で子供になってるだけですから。時間が経てばライダーさんがよく知る自分に戻りますよ」


「いや、戻らなくていいから。ずっと子供のままでいろよなオマエ」


「いやいやランサーさん。僕だってあのマスターの罵倒を受け続けたくありませんから」


全てはこの二人のマスターであるカレン・オルテンシアの魔の手から逃げる為の口実だった。
互いを生贄に捧げつつも二人は商店街まで逃げてきたようだ。
大人に戻ってしまうという事実に顔を顰めつつもそんなことを嘆くランサーとギルガメッシュのやり取りは傍から見ると無邪気な兄弟という感じになっている。
その答えにライダー自身も納得がいったのか、いつもの調子を取り戻したようだった。


「なんだ。そういうことだったのか。一瞬人違いかと思ってビビったわい。しかし、さすがバビロニアの英雄王。娯楽という点においても抜かりはなかったか。それで、どんなゲームなのだ?」


こうしてしばらく三人が話をしているといつの間にか周りには多くの人でごった返していた。
それも当然のことである。
ここ冬木市は元々外国住居者が多く、特に休日はこの商店街に買い物に来る客が多いのだ。


加えて、周りから見れば商店街のど真ん中で2mを超える巨大な男とモデルと間違えてしまうような長身で青髪の美男子。
そしてゴージャスな服装を着こなしている金髪美少年が話し合っているのだ。
周りに人が集まるのも無理はない。


その周りの騒ぎが気になり始めたギルガメッシュは説明する前に颯爽と商店街の一角にあるゲームショップに入っていってしまった。


こうして成り行き上二人になってしまったランサーとライダー。
二人の唯一の繋がりであるギルガメッシュがいないため、必然的に沈黙がこの場を包み込む。
とはいえここは休日の商店街。
そんな二人の間を持たすような様々な雑音が飛び交っているのも事実な訳なのだが――。


ギルガメッシュが店に入っていってから数十分。
さすがに退屈を感じたのか、ランサーは興味本位も兼ねて自分の隣にいるライダーと話をすることにした。


「少しいいか、ライダーのサーヴァントだっけ。テメェ一体何者だ?」


目の前の巨漢のサーヴァントの正体について、まず意の一番にランサーは尋ねた。
この時、ランサーはライダーが自分よりも強さで優っているのは何となく理解していた。
だが、あのギルガメッシュと拮抗するほどの宝具を持っているとなるとそんな英雄は必然と人数が絞れてくる。


元々、ランサーはマスターである言峰綺礼から第4次聖杯戦争について武勇伝という形である程度の情報を聞かされていた。
そして、ランサーが一番驚いた内容がギルガメッシュと同等の強さを持ち合わせているサーヴァントの話についてだった。


ギルガメッシュの宝具の強さは何度か目の前で見たこともあり、それも理解していた。
その人類最古の英雄王に並ぶ英雄とはいったい誰なのか。
そんな疑問がランサーの胸中を満たし、ふとそんな質問をライダーに投げかけていた。


「余は征服王イスカンダル。第4次聖杯戦争でライダーとして召喚されたサーヴァントである。そういう貴様はランサーと言っていたな」


「ああ。オレはランサーのサーヴァントだ。まぁ真名を明かすんならアイルランドの光の御子、クランの猛犬クーフーリンだ」


――征服王イスカンダル――
その名前を聞いてランサーは納得がいった。


かつてアケメネス朝ペルシアを殲滅してギリシャから北西インドまでに到る
世界初の大帝国を創り上げた大英雄であり伝説の征服王、それがこの男の正体だったのだ。


その正体を知った今では、このサーヴァントから発せられる独特の威圧感も納得できる。
これはおそらく王のみが持つ一種のオーラのようなものであるのだろう。


そんな事を考えていると店の中から子ギルが出てきたのだが、よく見ると何も持っていない。
一瞬何しに行ったんだと思ったが、その2人の疑問も直ぐに消えていた。
ただ単に持ち物を「王の財宝」の中にしまってあるだけなのだと。


本来、王の財宝は自分が生前集めた宝具を自由に取り出すことが出来る宝具なのだが、
それを考えると今の子ギルの宝具の使い方は明らかに間違った使用方法だと言えるだろう。


「取りにいってきましたよー。ところで何処でやります? ウチのマスターはこういう娯楽道具があるとすぐに粗大ゴミに出してしまうからどこか安心してプレイできる場所がいいんですけど」


「そうだな、そう考えると坊主の家がいいんじゃねえか。あそこなら広いし多少人数が増えても問題ねぇだろ」


「それなら余の住まいを使うといい。今はマスターも家主を出掛けていて余一人だ。それなら心配あるまい。」


「確かに落ち着いてプレイできた方がいいか、それでいいか成金王子?」


「ボクは全然構いませんよ。一度ライダーさんの家に遊びに行きたいと思っていましたしね」


こうして話が決まった三人は人込みをすり抜けつつ、ライダーの住居であるマッケンジー家に向かうのであった。





目的地に着いた三人はそのゲームを始める準備に取り掛かっていたのだが―――。


「……一体何なのだ? それは……」
「……一体何なんだ? それ……」

子ギルが王の財宝から取り出したそのゲームを見た二人が堪らずそう尋ねた。
その気持ちも尤もであり、そのゲームは大きいカプセルのような入れ物の形をしていた。
ちょうど大きなゲームセンターに置いてある体感ゲームのような大きさである。


「これはですね。最近発売する予定の体感シミュレーションゲームです。なんでも自分の住む世界とは全く違う世界を自分が実際に体感できるというものらしいですよ。ちょうどモニターを募集していたらしくて、発売前にプレイさせてもらえることになったんで、今日そのゲームを取りに行く予定だったんですよ。名を確かコ○ーンと言うそうですよ」


「ほぅ。これがそのゲームか……。噂には聞いていたが実物はより一層いいな。気に入ったぞ!」


「あ~っ。最近騒がれてるあの話題の体感シミュレーションゲームか。へぇ~、これがそのゲームか」


各々がそんな興味を示しつつゲームの準備が出来た三人は、早速そのゲームを試してみるためにカプセルの中に入り指定の位置に着く。


「ところで聞き忘れていたのだが…、今回は一体どんな世界を体感できるのだ?」


「そうそう! 俺もそれが気になってたんだよ」


このゲームの凄いところは自分がいる世界とは全く違う別の世界を自分が疑似体験できるところにある。
その世界がどこであるかということが二人は気になって仕方がない様子だった。
そんな二人の心境を察した子ギルは簡単に概要を話し始める。


「簡単に言うとですね。今回は魔法を使って戦う世界を体感できるみたいですよ。まぁ、これ以上は秘密です。大体ゲームの内容がわかっちゃったらつまらないでしょう。」


「フム…確かに。だが、最後に簡単にゲームの操作やクリア内容について確認したいのだが…」


「まぁ、最低限の操作方法や情報ぐらいは知っていて問題ねえだろ。ホラ、早く教えろよ」



―――ゲーム説明。
[ゲームクリア条件:未知なる世界のマスター達と共にとある事件を解決する事。
ゲーム中は各プレイヤー同士念話を使い会話することができる。
自身の体を維持できない程のダメージを負う、又は魔力値が0になるとその世界から消滅する。
その世界のマスターが脱落する。又はプレイヤー全員が消滅した時点でゲームオーバーとなる。]



「クリア条件は行く世界によって異なるらしいんですけど…。まぁ今回の世界の大まかなルールはこんなところですよ。あと、今回は僕たち三人のプレイヤーの他に敵として多数サーヴァントが参加していますのでゲームバランスは取れている筈ですよ。理解しましたか? 二人共くれぐれも足手まといにならないでくださいね」


「ハッ、誰に向かって言ってんだよ。テメェも俺の足を引っ張るなよ」


「言っておれ。貴様こそ余の足を引っ張らぬ事だな。ハッハッハ!!」


そんな会話を交わしながらゲームの電源を入れた三人の意識は徐々に薄れていき途絶えていった。







あとがき
はじめまして、マイケルです。


第2話からなのはの世界に飛びます。いよいよ話が本番に入るって感じです。
これからもがんばっていきますので、よろしくお願いします。



[26637] 王達と駄犬の共演 (Fate×リリカルなのは) 1話
Name: マイケル◆22054d9e ID:5ac7a9ee
Date: 2011/06/08 00:18



ゲームの電源を入れた三人は、気が付くと幾つもの街灯に照らされた見知らぬ街中にいた。
日も落ちて既に薄暗いにも関わらずに街は人通りが激しくとても賑やかである。


「さてと、全く知らない世界にやってきたはいいが、まずどうするよ?」


未知なる世界へと飛んできて開口一番にランサーがそんな疑問を口にする。
一方、ゲーム慣れしている二人の王は次にとる行動がわからないランサーに対して盛大な溜め息を漏らしていた。


「とりあえず、マスターとやらを探す必要があるな。」


「そうであろうな。マスターに出会わぬことには始めようにも始められん」


「なるほどな…って、おい金ピカ。 テメェいつの間に元に戻ったんだよ!?」


ランサーの驚きも尤もである。
ゲームが始まる時まで幼児化していたギルガメッシュがいつの間にか元の姿に戻っていたのだから。


「いやなに、せっかく用意させた遊戯だからな。趣向を変えて今だけ我に戻ったのだ」


などと軽口を叩くギルガメッシュに『戻らなくてもいいのに』といったような表情で現実逃避を続けるランサー。
そんなランサーを現実に引き戻すかのようにライダーは二人にこれからの行動について話を切り出した。


「とりあえず皆の衆。ここからは三手に分かれてマスターを探すとしよう。この世界ではプレイヤー同士で念話が使える。このように固まって探すよりは格段に効率も良かろう」


そんな現状を把握しているライダーの提案は的確な方法だと判断した二人はその提案に乗る。


「ところでよ。マスターを探すのはいいが、どうやってマスターを見分けるんだよ?」


「マスターは膨大な魔力を所持している。一目でわかる筈だ」


「なるほどな。んじゃ、マスター捜索といくか」


その後の方針が固まるとマスターを捜索するために三人はまるで鉄砲玉のように各方面へと散って行った。







海鳴市 市街地


何の変哲もない一つの町。
日中には存在していた爽やかな風と太陽の光も漆黒の闇によって綺麗に消え、あるのは静まり返った町の静けさと闇を照らす月の光だけだ。


そんな海鳴市に位置するここ市街地には今二人の戦士が降り立っていた。
全身に赤い服を纏い、闇の書のページ蒐集に励む鉄槌の守護騎士ヴィータと盾の守護獣ザフィーラである。


「どうだ? ヴィータ、…見つかりそうか?」


「いるような…いないような…、この間から時々出てくるあの巨大な魔力反応。あれが捕まれば一気に20ページ位はいきそうなんだけどな」


二人はここ最近毎日闇の書のページ蒐集を行っているのだが、その蒐集ページもまだ半分にも達していない。
にも関わらず二人は淡々と蒐集を続けていた。


「二手に分かれて探そう。闇の書は預ける」


「OK、ザフィーラ。あんたもしっかり探してよ」


「心得ている」


いつものようにザフィーラがそう言い出す。
その提案はヴィータにとって恒例となっていたので当たり前のように承諾する。
それを確認したザフィーラはいつものように単独でリンカーコアを回収するため飛んでいった。


「さて、あたしもとっとと始めるか……封鎖領域展開」


ザフィーラと別れ一人になったヴィータは先程から探していた目標をいち早く探し出すため、ここ等一体に広域結界を張り対象の捜索に意識を集中させる。
そして、不意にその動きを止めた。


「魔力反応、…本物見っけ!!」


ヴィータはつい先程から探していたリンカーコアの存在をついにキャッチしたのだ。
その方角を確認するや否やヴィータはそのリンカーコアの魔力反応を目指して一目散に飛んで行った。







先ほどヴィータと別れた直後にとてつもない魔力反応を感知したザフィーラは市街地の最南端に位置する場所に来ている。


「一足遅かったか…」


だが、来るのが少し遅かったのか。
先ほどまであった巨大な魔力反応が感じられない。


無駄足だったと判断し、今来た道を戻ろうとしたその時、ザフィーラは不意にその足を止めていた。
輝く雷鳴とともに不意に現れた一人の男がザフィーラの目の前に立ち塞がる。


その姿は二頭の神牛が牽引している戦車。
戦車に乗っている2mを余裕で超える大男。
その雄大な姿は独特の威圧感を身体全体から放っていた。


「殺気を納めよ。王の前であるぞ」


ザフィーラが向けている殺気に感づいたのか、目の前の大男が威厳のある声でそう宣言する。
ザフィーラ自身殺気を抑えるつもりは毛頭なかったが、目の前の男の有無を言わさない圧倒的な威圧感に無意識的にザフィーラは殺気を抑えてしまった。


「余はライダー。征服王イスカンダルである。問おう、貴様が余のマスターか?」


この男の質問の意味や意図が全く分からないザフィーラであったが、
しばし困惑しつつも否定の意味を込めて言い放つ。


「マスターなどではない。闇の書の主に仕える守護獣ザフィーラだ」


ザフィーラのその言葉を聞くと同時にライダーは、キュプリオトの剣を抜き手綱を強く握り直す。
そもそも、ライダーの今の目的は、この世界のマスターを探し出すことにある。
ならば、今ここで戦闘を行う必要はまるでない。


しかし、ライダーは久々の戦闘で自分の内にこれ以上ない胸の高鳴りが感じていた。
確かに無駄な戦いではあるがこの胸の高鳴りがある限りライダーにとっては、それはどのような戦いであろうとも無駄という概念自体が存在しない。


「では重ねて問おう。余の軍門に下る気はないか?」


ライダーが最後の質問を投げかける。
話ができる敵ならば、誰にでもこの交渉を持ちかけるのがライダーの心情。
事実第4次聖杯戦争でもランサーとセイバーに対して「モノは試し」という理由で、真名を明かした上にこの提案を上げている。
それはこの征服王イスカンダルの破天荒な性格故でもありカリスマ性があってこそ通用する理論でもある。


だが、ライダー自身もこの話が通らないことは薄々わかっていた。
何しろ殺気全開で自分を待ち構えていたのだ。
自分の軍門に下る筈がない。
それでも気が付けばこの交渉を持ちかけていた。
逆を言えばこの交渉が決裂すれば次の瞬間には戦闘が始まらざるを得ない。


「断る。私が命を懸けて守るべきは我らが主のみ、断じて貴様ではない」


「では貴様は、余の敵で相違ないのだな」


「そのようだ」


お互いに相手が自分にとって味方ではないことだけ確認すると、それまで抑えていた殺気を全開でまき散らす。


そして次の瞬間。


昼夜を見事に逆転させるほどのまばゆい雷鳴。
それを圧倒するほどの猛々しい征服王の咆哮によって、この二人の戦いの幕の火蓋が切って落とされた。


「AAAAALaLaLaLLaLaLaLaie!!」


「でえええええやああああっっ!!」









ここ市街地の最西端に位置する場所。
その上空を通り過ぎていくのは一人の剣士、闇の書の守護騎士・将であるシグナムであった。
いつまでも念話が通じないことに異常を感じ、ヴィータのサポートに向かう最中だったが……


「よぉ、いい夜だな嬢ちゃん。そうは思わねえか」


現在その足はこの突然現れた一人の男によって止められていた。


全身に纏う蒼と敵を見据える赤い瞳。
そしてその男の手に握られている全身の蒼とは相反する紅い槍。
その槍はまるで幾多の人間の血によって染まっている、そんな禍々しい気配を漂わせている。
そしてその槍を持ち、気軽に声を掛けてきているその男にも隙は微塵もない。


「管理局の者か、私に何の用だ?」


シグナムは軽い殺気を含めて、目の前の男に言い放つ。
ここまででシグナムは目の前の男が只者でない事を察知する。


強さというものは何も戦いの中だけで発揮されるものでは断じてない。
それこそ普段の何気ない仕草などからも見る人が見れば色々な情報が感じ取れる。


事実こちらを軽く見据えている目の前の男を一目見てシグナムは感じていた。
『この男は只者ではない』と脳が告げている事。
そして騎士としての直感が最大限の警告を発している事を。


「いやなに。少し話を聞きたくて声をかけただけなんだけどな」


「私はお前と話すことなど何もない。それよりも今は時間が惜しい。そこを退いてもらおうか」


「退く気はねえって言ったら?」


シグナムの要求にまるで、売り言葉に買い言葉と言わんばかりにランサーは挑発を仕掛ける。
ランサーとてこの女がマスターでない事は薄々分かっていた。


魔力量は確かに高い。
だが、それは平均と比べて高いというだけ。
ギルガメッシュが膨大と言う程の高さではないのがその証拠。


目の前の敵が携えているのは一本の剣だ。
おそらく接近戦を主体とする戦い方なのだろう。
それならば魔力量がそこまで多くないのも頷ける。


「決まっている。力尽くで退かすのみだ!!!」


ランサーの挑発が合図となり、シグナムはレヴァンティンを構え、カートリッジを補充する。
そしてこの市街地で二つ目の戦闘が唐突に開始されたが、傍から見るに二人の差は歴然だった。


ランサーは繰り出されるシグナムの攻撃を難なく受け流し、受け流すと同時に攻撃に転じている。
一方シグナムはランサーから繰り出される攻撃を目視することが出来ず、自らが培ってきた戦いの勘でなんとか捌いていた。


それもそのはず、槍の攻撃は剣の攻撃とは違い、突く事で真価を発揮する武器である。
薙ぐというのは上からであれ横からであれ攻撃上のラインは線として見えるために対処は比較的しやすい。
だが、突きというのは真正面から見ればそれは一つの点でしかなく、最も視認することが難しい攻撃の一つである。
そしてランサーの攻撃は見てから対処していたのではもはや間に合わないほどのスピードと化していた。


「くっ!!」


正に神速の如し――。


一回二回とランサーが突きを出す度にシグナムの守りが崩されていく。
その度にシグナムから苦悩の声が漏れる。
今目の前に立ちはだかっているのは、自分が今まで相手にしてきたどの敵よりも強いとシグナムは戦いの最中で理解していた。


「ふぅ、・・強いな。私が戦ってきたどの相手よりも実力が上だ。オマエの名前は?」


「気に入った相手とは名を交わす主義でね。だが生憎本当の名は明かせねえんでな。オレの名は、まぁランサーとでも呼んでくれ」


「ランサーか…。その名前、覚えておこう」


「そういうテメェは何者だ? 剣士にしちゃ腕が立つが、セイバーって感じじゃねぇな。そもそもサーヴァントの気配が感じられねえ」


ランサーは瞬時に見抜いていた。
自分と対峙している相手からはサーヴァントの気配が感じられない事を。


「私は闇の書の守護騎士。ヴォルケンリッターの一人、シグナムだ」


「シグナム…、いい名前じゃねえか」


戦いの中でお互いの実力を認め合ったように、互いに自己紹介を交わす。
ランサーは久しぶりに巡り会えた好敵手のような存在に血を滾らせており、それはシグナムとて同じだった。


「オレはアンタみたいな武人は嫌いじゃねぇ。正直もう少しこの場で討ち合っていたかったが、…どうやらそうもいかねぇみてぇだ」


戦闘の最中では気付くこともなかったのだろうが、相手と会話を交わしている今ではその異常が見て取れた。
ランサーはたった今、ここ一帯に張られている結界に気付いたのだ。


ここまでのやり取りでシグナムがこの世界のマスターでないと確信する。
するとまるで急用をとっさに思い出したかのようにランサーは戦線を離脱しようとする。
だが、それを見過ごすシグナムではない。


「待てランサー、逃げるのか!?」


「追ってきてもかまわねぇが、その時は決死の覚悟を抱いてこい!!」


最大限の殺気を込め、シグナムに忠告を残したランサーは恐るべきスピードでその場から去って行った。
その気になればシグナムは追うこともできたが、なぜかその気にはなれなかった。


先ほどの戦闘でも自分がランサーより劣っていたのは明らかである。
これ以上ランサーと討ち合えば自分の方が危なくなるとシグナムは確信していた。
去っていくランサーの後姿をしばらく見送っていたが、ふと我に返り本来の目的を思い出したシグナムは急いでヴィータのサポートに向かっていった。







同時刻 海鳴市 桜台町


海鳴市に住むごく平凡な小学3年生の高町なのは。
ひょんな事がきっかけで別世界の住民であるユーノ・スクライアと出会い魔法少女となった彼女は今、明日提出しなければならない宿題を片付けている最中であった。


宿題がひと段落したところで一息つくと、なのははふと机の上にある一枚の写真に目を移す。
そこに写っていたのは同級生のアリサとすずか。
そしてPT事件で知り合い友達となったフェイト・テスタロッサだった。


「…フェイトちゃん…」


現在フェイトはミッドチルダのアースラにいるユーノやアルフと共に裁判の最終日を迎えている。
そんなフェイトの事が心配になったなのははこうして写真を見ることでその気分を少しでも紛らわしているらしい。


『警告、緊急事態です』


そんななのはの耳に聞こえてきたレイジングハートの声に意識を翻す。


「これは……結界!?」


レイジングハートの言葉で我に返ったなのはは今この町に張られている結界に気がついた。


『対象、高速で接近中』


自らのデバイスのその言葉を聞いたなのははレイジングハートを握りしめ、空へと飛び立った。


「レイジングハート、セーット・アップ!!」








異常を察知してバリアジャケットを纏い上空へと出たなのはだが、まだその魔力反応はなのはには確認できない。
だが、その誤認もすぐに解消される。


『来ます!』


レイジング・ハートの警告と共に対象が姿を露わにした。
前方から丸い物体がなのはに向かって一直線で飛んできたのである。


「あれは・・・誘導弾。・・・ッ!!!!」


レイジングハートのサポートもありその物体がいち早く確認する。
咄嗟にシールドを展開することでなんとか敵の攻撃を止めることができている。
しかし、その誘導弾も相手にとってはただの囮に過ぎなかった。


「おらああぁーー!!! テートリヒ・シュラーク!!」


不意に聞こえてきたその声にその方角に咄嗟にシールドを張った。


だがその攻撃は先程の誘導弾とは訳が違う。
囮でなく本命として撃ち込まれたその攻撃は威力が格段に高い。
さすがのなのはも相殺するどころか威力を弱めるので精一杯である。


しかし、敵の追撃を予測できていたなのはは何とか敵の不意打ちを凌ぎ切り、体勢を立て直すことに成功した。


「いきなり襲いかかられる覚えはないんだけど、何処の子!? 一体何でこんな事するの!?」


不意打ちを受けたなのはは敵に向かって問いただす。
なのはからすれば何の理由もなしにいきなり知らない人に攻撃を加えられたのだ。
その理由を聞かずにはいられない。


だが、ヴィータにすればそんな敵の事情など知ったことではない。
なぜならヴィータにとってこの場で成さなければならない目的はただ一つ。
敵のリンカーコアを回収し、闇の書のページを蒐集することにあるのだから。


魔力弾を再び出現させ、問答無用に攻撃を始めるヴィータ。
だが、なのはは理由もなしにただ戦う気はさらさらない。
しかし、目の前の敵が話し合いに応じてくれるようにはとても見えなかった。


「話を聞かせてくれなきゃ、わからないってば!!」 


『ディバイン・バスター』


なのはも自分の最も得意とする砲撃魔法で反撃を試みる。


「!?」


ヴィータにとっても予想外の反撃だったのか。
回避反応が若干遅れ、その砲撃はヴィータの帽子を貫き頭の上を掠めていった。


だが、その反撃が今より悪い事態を引き起こすことになろうとはなのはは知る由もなかった。


帽子を貫かれたヴィータの表情はもはや誰が見ても明らかである。
その赤い騎士の顔は瞳の色が変貌し、狂戦士(バーサーカー)の如く怒りの感情に満ち溢れていたのだ。


(…あちゃ~…)


その表情の激変になのは自身も『ちょっとやり過ぎたかな』と深く後悔する。
しかし、既に手遅れの状態、その予感は見事に的中する形となった。


「てめええーーー!!」


怒りを露わにしたヴィータはその怒声とともになのはに再び襲いかかる。


「アイゼンッ、カーリッジロード!」 


その言葉を合図にグラーフアイゼンにカートリッジが装填されるカートリッジシステム。
それは自身の体への負担を度外視し、一つ一つの攻撃の威力を底上げするシステムである。


「えっ!?」


だが、まだ現代では普及していないこのシステムはなのはにとっては未知のシステムに相違ない。


「ラケーテン・ハンマー!!」


そんな威力が上乗せされた一撃がもし直撃でもしようものなら、それは即死になりかねない致命傷を負うことになる。なのはとてそれは承知していた。
しかし、ヴィータの攻撃にはさらに補正がかかり相殺することはおろか、ダメージを軽減させることさえ困難な一撃と化していた。


「ああぁぁーー!!」


結果としてカートリッジロードされたアイゼンの一撃はなのはのシールドを簡単にブチ抜き、そのまま後方のビル内へと吹き飛ばした。


「うっ……っ…」


咄嗟にレイジングハートでガードしたため致命傷はなんとか避けることができたなのはだが、その姿は既に満身創痍だった。
レイジングハートは崩壊寸前であり、ダメージのあまり上半身の武装が既にボロボロの状態。
反撃を試みようにも視界には半分霞みが掛かっており、体も満足に動かなくなっていた。


勝ちを確信し冷静を取り戻したのか、
なのはに歩み寄るヴィータの瞳の色が次第に元に戻っていく。
勝敗は事実上決しており、あとは満身創痍のなのはにトドメの一撃を入れるだけで勝負は終わる。


(こんなので…終わり? ……イヤだ。…ユーノくん、…クロノくん、…フェイトちゃん!!!)


もはやこの戦況を変えることは無理であることを悟ったのか。
なのはは目を閉じ目の前の現実から目を遠ざける。
そしてなのはの頭上に最後の一撃が振り下ろされた―――。




『ガキンッ!!!!』




目を閉じたなのはの耳にふと、そんな打撃音が聞こえてきた。


(――やられちゃったのかな――。)


そう思うが自分の体に何かが当たった感触はまるでない。
打撃音が確かに響いたのに何の感触もないのであれば、それは敵の一撃が寸前のところで止められたに違いない。


だとしたら助けてくれたのは一体誰なのか。
そんな疑問が湧きあがりなのははゆっくりと目を開いた。


「えっ!?」


そんななのはの目に映し出された光景は信じられないものだった。
なのはに直撃する筈だったヴィータの一撃をたった一本の剣が防いでいた。


だが、なのはが驚いていたのはそこではなかった。
その剣は誰に握られているわけでもなくそこにあるのが
当たり前だと言わんばかりに宙に出現しているのだから。


「なっ!?」


この事態には当然ヴィータも驚いていた。
目の前の敵の仲間や管理局員が現れたのではい。
ただ1本の剣がこれ以上ないというタイミングで出現し、自分の攻撃が防がれていたのだ。


だが、目の前の敵がこれ以上何か抵抗ができるとも思えない。
そう思えるほどになのははボロボロであったのだ。
ならば、この目の前に現れた剣は何なのか。
そんな驚きと疑問がヴィータの中で混ざり合っていた。




「地を這う雑種風情が。誰の許しを得て我の物に手を出している?」




「「ッ!?」」


そんな騒然とする戦場に不意に聞こえてきたその声に二人は身構える。
そしてその声が自分のすぐ後ろから聞こえてくるものだと最初に理解できたのはなのはだった。
だが、その声はなのはにとって自分が出会った仲の誰にも該当しない声である。
なのははその声の主が誰なのかを確認するために恐る恐る後ろを振り向いた。そこには――。








”黄金に染まる一人の男が立っていた”








「誰だテメエは!? そいつの仲間か!?」


その男を見るや否やヴィータは驚きと苛立ちを隠しきれない心境で男に尋ねる。
あらゆる意味でイレギュラーな事態に瀕死のなのはも事態が飲み込めずにいた。


「雑種に名乗る謂われはない。失せるがいい、道化」


そんな答えるのが当たり前のような問いもその男にとっては答える必要が見出せなかったようだ。
そして次の瞬間にはこの男以外の全ての者が絶句するような事態が起こっていた。


突如背後の空間が次々と歪みだし、その歪みから剣、槍、斧、矛、棍といったありとあらゆる武器が出現し始めた。
その武器は一つ一つにありとあらゆる装飾が施されていた。
とてつもなく強い魔力を放つ物もあれば武器によっては禍々しい殺気を放つ武器もある。
その光景は信じ難い程に神々しく壮大である。


男は薄ら笑いを浮かべた後に片手を上げ、軽く指を鳴らす。
その音はとても透き通っており、どこまでも反響していくようなきれいな指の音だった。


しかしそれが合図だったのか、その男の指が鳴らされた正に瞬間の出来事。
歪んだ空間から出現していた全ての武器が敵であるヴィータに向けて発射された。


「くっ、やべぇ…」


男の背後から打ち出された武器の嵐を自分一人ではどうにもできないと、瞬時に判断したヴィータは全力でこの場から撤退することに専念する。
自分が張っている結界のせいでこの状況を他のヴォルケンリッター達に伝えることができない今の状況。
ヴィータにできることは一旦仲間と合流してこの状況を伝えることにあった。
またそうしなければならないほどにその攻撃は強力だった。


しかし、紙一重であったがグラーフアイゼンでなんとか全ての射撃を凌ぎ切ったヴィータは、安全圏と思われる空高くへと飛翔していった。


満身創痍の状態でいるなのははその戦闘を霞みのかかった目で見ているほかになかった。
そんな朦朧とした状態でいる中、今のなのはにとって最も信頼できる救援者がヴィータと入れ替わりに現れる。


「「なのは!!」」


PT事件で共に戦ったフェイト、ユーノの二人だった。
だが、ふとその二人の足が止まり、目の前の男に身構えつつあった。


つい先程までこの場所でなのはが戦っていたのは現在のなのはの状態を見てもわかる。
そして、そのボロボロのなのはの傍に立つ一人の男。


三人の頭の中から導き出された答えは簡単だった。
それは、この男こそがなのはをボロボロにした張本人に他ならないと。


「はあーー!!」


自分にとって唯一の友達をここまでボロボロにしたという行為に、フェイトは怒りを露わにして男に襲い掛かる。


「やめてフェイトちゃん!! その人は私を助けてくれたの。敵じゃないよ」


しかし、誤解による攻撃も次の瞬間にはなのはの声によって制止させられていた。
なのは一言ですべての誤解が解ける。
男が瀕死のなのはを救ってくれた事。
そしてなのはと戦っていた敵を追い払ってくれた事。
それを全て理解した時、先ほどこの男に向けていた殺気を思い出し、
フェイトは謝罪と感謝の意味を含めて頭を下げた。


「あ、あの…すみません。誤解してしまって、それとなのはを助けてくれてありがとうございます」


「フム、本来なら極刑に処してやるところだが、…まぁ良い。そこのマスターに免じて今の無礼は不問に付すとしよう」


今までのなのはの戦いを霊体の状態で傍観していた男は、この高町なのはこそがこの世界のマスターであると確信していた。
その根拠は魔力量の違い。
今現れた三人、そして先程襲いかかってきた敵。
この全員と比べてもなのはの魔力量は飛び抜けている。
これだけの魔力量を備えているのなら、この世界のマスターでもなんら不思議はないと判断したのだろう。


『おい、成金王子。ここ等一帯にいつの間にか結界が出来てるぞ。とりあえず一旦合流した方がいいと思うんだがどうする?』


と、なのはをまじまじと見ている男に唐突にランサーからの念話が聞こえてくる。


『フンッ。まぁ、その方が得策か。ならライダーにも合流するよう伝えておけ』


『オレが!? …チッ、わーったよ。ライダーにもそう伝えておく』


相変わらずの人使いの荒さに不満を漏らしながらも、了解の意思を告げたところでランサーの念話が途切れた。


「さて、我はあの雑種と戯れてやるとするか。女、そこの小娘を助けに来たのであれば早く治療を施してやるがいい。手遅れになる前にな」


遥か上空へと飛翔していったヴィータを確認した男は、フェイトに一言そう言い残すとまるで幽霊のようにその場から消えていった。


「消えた…?」


目の前で起きた現象にしばし呆然とするが、今はそれどころではない。
立ち去った男の言う通り、自分達はなのはを助けに来たのだ。ならば早くなのはを治療しなければならない。


「ゴメンなのは、遅くなった。フェイトの裁判が終わってみんなでなのはに会いに行こうと思ったんだ。けど念話は通じないし、調べてみたら広域結界が張られていたから慌てて来たんだ」


これまでの経緯を話すユーノをよそにフェイトはボロボロのなのはに駆け寄り、急いで治療を開始する。
だが、それよりもフェイトはなのはに聞いておかなければならないことがあった。


「なのは、さっきの人は一体誰? なぜなのはを助けてくれたの?」


「…わからない。だけど、少なくとも…私たちの敵じゃない…気がする」


「うん、そうだね。なのはがそう言うんなら、そうだよね」

皆、口には出さないが、この場にいた全員が先程の男の異常な魔力に気付いたようだ。
その魔力量はすでに、なのはの魔力量に匹敵する程の量であった。


そして、それに相手に有無を言わさない程の威圧感。
気を緩めれば、一瞬にして全員がヘビに睨まれたカエルのようになっていただろう。


(あの人は一体……)


「アイツはただの人間じゃねぇ。本人が言うには人類最古の王様らしいぜ」


男の容量が図れない事にしばし考え込むフェイト。
そんな彼女の疑問に答えるかのように先程男に念話を飛ばしていたランサーがその場で実体化を図る。
フェイトの疑問を見透かしているかのようにランサーは答えた。


「「「!?」」」


その場にいた全員が一斉に後ろを振り向く。
どうやら誰もいきなり現れたこの男の気配を感知できなかったようだ。


一方警戒して襲い掛かってくるものかと思っていたランサーだが、いつまで経っても誰も動かない。
どうやら、こちらに敵意がないことをこの場の全員が読み取ってくれたようだ。


「あの…あなたは一体、…それにさっきの人を知っているんですか?」


突然の出来事でしばし唖然としていた一同だが、なのはを助けてくれた人の正体が気になったフェイトは目の前の男に尋ねた。


「まぁ、まずは質問に答えておこうか。オレの名はランサー。アンタらの言う金髪の男の知り合いだ。んで、付け加えておくならもう一人いる仲間もオレもあの金ピカも、アンタらと敵対するつもりはねえよ。むしろアンタらと手を組むために来た。どうやらアンタらがこの世界のマスターみてぇだからな」


先程の人と目の前の人が自分達の敵ではない事がわかっただけでもなのは達にとっては僥倖であった。
もし、この二人が自分達の敵であったなら、今頃自分達はやられているというイメージが容易に想像がついたのだろう。
なのは達は皆、盛大な安堵の声を漏らしていた。


「君達の敵でないことはわかったけど、もう一つだけ聞かせてほしい。君達は一体何者なんだ?」


目の前のランサーと名乗る男が自分たちの敵でないことはわかったが、その正体が気になり、冷静な思考を保っていたユーノがランサーに尋ねていた。


しかし、それも当たり前といえば当たり前の事。
先程なのはの目の前で行われていた攻撃は、明らかに自分の知らない世界の魔法である。
いや、あの攻撃はもはや魔法であったかが疑わしいと思えるほどに異質であった。
なのはの目の前に突然現れたとてつもない魔力を帯びた幾つもの武器。
それをいとも簡単に操り、自分を助けてくれた金髪の男。
聞きたいことは山のようにあった。


「まぁ、マスターであるアンタらには答えておいた方がいいかもしれねぇな。オレ達は別の世界から来た者で、オレ達の世界ではサーヴァントと呼ばれる存在だ」


「「「サーヴァント?」」」


ランサーの話を聞いていた全員が見事に首を傾げていた。

「ワリィ、ちと分かりずらかったな。サーヴァントっていうのはだな、簡単に言うと実在した英雄の事だ」


「ええっ!! じ…じゃあ……あなたも何処かの国の英雄なんですか!?」


告げられる事実に頭が追いつかずに、思わず驚いてしまうと同時になのはは興味津々の様子だった。


「ああ。オレはケルトの英雄クー・フーリン。ちなみにさっきの金ピカは古代ウルクの英雄王ギルガメッシュ。もう一人はたしかマケドニアの大英雄、征服王イスカンダルだった筈だ。アンタらも神話を少しでも聞き齧ってるなら名前ぐらいは聞き覚えがあるんじゃねえか?」



―――ギルガメッシュ。
シュメール・バビロニア神話の半神半人の英雄であり、人類最古の英雄王とも謳われている。


―――クー・フーリン。
突けば30の棘となり破裂し、刺せば因果を逆転させ必ず心臓を貫く呪いの朱槍ゲイ・ボルグを持つ。
少年時代の事件より“クランの猛犬”と呼ばれるようになったケルト神話の大英雄。


―――イスカンダル。
アレキサンドロス大王とも呼ばれ、アケメネス朝ペルシアを殲滅。
ギリシャから北西インドまでに到る世界初の大帝国を創り上げた大英雄。




後世に名を残し、英雄として語り継がれている者がなのは達の目の前にいる。
だが、そんな現実離れした話をいきなり聞かされたところで信じられる訳がない。

実際、ユーノはランサーが話した内容を信じる事が出来なかった。
そんな話を信じるほど馬鹿ではないといわんばかりの表情でランサーに疑惑の目を向けている。


しかし、なのはとフェイトの考えは全く正反対であった。
先程までユーノのようにランサーを疑っていたが、会話を交わすことによってランサーが善か悪かを識別し、信用するに足る人物なのかを二人は見極めていた。
相手の真意、そして属性などを瞬時に判断できた二人は、ランサーの言葉に偽りはないと認識していたのである。


「さっきの手を組むという話、私は構いません」


「私も、全然構わないよ」



ランサーの共闘に対し、二人はそろって受諾の意思を見せていた。


「なのは、フェイト! これはそんな簡単に信用していい事じゃない」


さすがに二人揃って共闘の意志を見せるとは思っていなかっただけに、ユーノは予想とは違う答えに動揺していた。


「大丈夫だよ、ユーノくん。だってこの人、騙し討ちとか裏切りとかするようには見えないから」


「うん。私もそう思うんだ」


(!? ……ほう、あの会話でそこまで見抜いていたとはな。見た目はアレだが、人の本質を見抜く力が優れてやがる。なるほどな、どうやらこの世界のマスターとして選ばれるだけのことはあるってわけか)


出会ってから数分と経たずにそれだけのことを見抜き、まだ小さい子供にも関わらず自らに宿している膨大な魔力量を宿している。
そんな目の前の二人に対してランサーは素直に感心していた。


「んじゃまあ、共闘の証としてとりあえず握手といこうか」


自らのマスターに不足はないと確信したのか、ランサーはなのは達に握手を申し出る。
なのは達3人は差し出されたランサーの手を順番に握り返す。


これが合図だった。
ランサー達サーヴァント3人となのは達の間に契約が結ばれていた。




“ギルガメッシュ“ クラス:アーチャー  マスター”高町なのは“  属性:混沌・善

筋力B 耐久B 敏捷B 魔力EX 幸運A 宝具EX

クラス別能力:対魔力B+ :単独行動A+
固有スキル:黄金律 :カリスマA+ :神性B
宝具:王の財宝 :天地乖離す開闢の星 :天地波涛す終局の刻




“イスカンダル“ クラス:ライダー マスター”ユーノ・スクライア“  属性:中立・善

筋力A 耐久A 敏捷C 魔力B 幸運A+ 宝具EX

クラス別能力:対魔力D :騎乗A+
固有スキル:軍略B :カリスマA :神性C
宝具:遥かなる蹂躙制覇 :王の軍勢




“クー・フーリン” クラス:ランサー  マスター“フェイト・テスタロッサ”  属性:秩序・中庸

筋力B 耐久B 敏捷EX 魔力B 幸運D 宝具A+

クラス別能力:対魔力B
固有スキル:戦闘続行C :矢除けの加護 :神性B
宝具:刺し穿つ死棘の槍 :突き穿つ死翔の槍




マスターとなった三人の頭の中に突然浮かんだのは、自分達と契約を交わしたサーヴァントの情報だった。


「これは、君達のプロフィール?」


「契約は完了した。これでオレ達の情報がアンタ達に届いたはずだ。まぁ簡単な自己紹介代わりとでも思ってくればいい。後は、五月蠅いのを片付けるだけかねぇっと!!」


「!?」


先程までの軽い雰囲気が一瞬にして消え去り、戦闘モードへと瞬時に気持ちを切り替える。
そして、次の瞬間にはなのは、フェイト、ユーノの3人に向けて放たれていた短剣24本を槍で全て弾き落としていた。


「攻撃!? 一体どこから!?」


「全然…見えなかった。フェイトちゃんは見えてたの?」


「うん、一瞬短剣のような物が横切るのが見えたから」


その表情には動揺の色は一切見られないが、敵の気配を全く感じなかった事にフェイトは焦りを隠せなった。
その投擲もランサーの前では無力同然と化してしまう。


ランサーは攻撃面も決して侮れないが本領は防御面にある。
卓越した俊敏性と豊富な戦闘経験を併せ持つランサーは防御に回れば余程の戦力差がない限りまず破られない。


加えてこの場では更にランサーの固有スキル“矢除けの加護”によって殆どの投擲攻撃は簡単に弾く事が出来る。
もし、今ここにいるのがランサー以外であったなら間違いなく全てを防ぎきる事など出来なかっただろう。


「気配を探っても無駄だろうぜ。なんせ相手がアサシンだからな。奴の気配遮断スキルは並大抵じゃねえ。しかも、どうやら短剣の飛んできた方向からすると1匹2匹じゃなさそうだな」


ランサーはマスター達を守りながらアサシンの気配を探る。
気配遮断スキルを持つアサシンといえども,自らが攻撃態勢に入るその瞬間。
そこで気配の遮断が甘くなってしまい、まさにその一瞬の隙をランサーは狙っていた。
だが、相手が複数となるとそう簡単にはいかない。


現在ランサーが辛うじて捉えている気配だけでも3つ。
もしこれ以上増えようものならマスター達を守り抜きながらではいくら防御に特化しているランサーでも凌ぎ切れない。
だが、実際はランサー達の周りを取り囲んでいるアサシン達も攻め倦んでいた。


対象を確実に殺れると思いながら放った短剣だった。
しかし結果は神速のスピードで割り込んできたランサーに全て落とさてしまい、こちらの存在に気付かれてしまった状況。
これ以上迂闊に動けば真正面からの戦闘になる。
そうなればアサシンが不利なのは明白だ。


そう、ただ単純な接近戦ではアサシンはランサーに及ばない。
しかしサーヴァントには本来そういった実力差を一瞬にして覆す宝具が存在する。


実際アサシンはもう既にこの場で一つの宝具を発動していたが、アサシンの正体が掴めていないランサーにはアサシンが現在宝具を使用しているのかどうかさえ分からなかった。


この場でアサシンが使用したのは“妄想心像(ザバーニーヤ)”。
それは自身と同じ個体を出現させ自身の特徴やステータスを共有させる、いわば増殖の宝具である。


この宝具によって、アサシンは既に幾つもの個体へと増殖。
現在なのは達の周りを現在6体ものアサシンが囲んでいた。
白兵戦ではランサーに分があるとはいえ、6体ものアサシンがいればランサーも簡単には切り崩せない。


アサシンの姿を確認できないランサーはひたすら敵の気配を探っているが、その隙を突き再びなのはとフェイトに再び短剣が投げられる――その数12。


「そこっ!」


二度目の投擲で慣れが生じたのか。
フェイトは自分に対して投擲された短剣をバルディッシュで見事に叩き落とした。
同時に短剣が投擲されたと思われる場所に向かってプラズマランサーを放つ。


その狙いは見事的中した。
そして次の瞬間には何もない空間から白いマスクをつけた黒い顔がうっすらと出現する。
その光景は闇に紛れる影のようでもある。


「ほぉ、サーヴァントでもない身でワタシの気配を見事に捉えたか。中々に腕の立つ御仁よな」


「あなたは一体!?」


目の前のもはや人とは言えぬ奇怪な生物に対し、フェイトは己の冷静さを忘れたかのように声を荒げていた。


「知れたこと。そこのランサーが言った通りだ。ワタシはアサシンのサーヴァント」


「そのテメェがここで姿を晒したって事は、ここで一戦交えようってことでいいんだよな」


ランサーは殺気を飛ばしながら戦闘意志があるかどうかを確認する。
そんなランサーの期待とは裏腹に目の前のアサシンには攻撃してくる気配がない。


しかし、この時点でもう別のアサシンが目的に接近していた。
この時点でその気配にだれか一人でも気がつけばまだ間に合ったのかも知れない。
だが……。


「いや、今回ワタシが成すべき事は一つだけ…それは…」


アサシンがそう言葉を区切った時にはもう手遅れだった。



『ドスっ!!』



そんな鈍い音がこの場に響き渡る。


「っ!? ……あっ…ああっ…」


「「「なっ!!?」」」


完全に虚を突かれた。
そこにはフェイトの横で回復しきっていない体を引きずりながらの状態で立っていたなのはの胸部から黒い手が生えるように伸びていた。
生えるようなその手に収まっていたのは光の結晶、即ち”リンカーコア”。
なのはのリンカーコアが根こそぎ引き抜かれたのだ。


「蒐集、開始」


アサシンが一言そう呟くとなのはのリンカーコアが即座に消える。


「テメェ!!」


自分の獲物を横取りされた時のように殺気をまき散らしアサシンに襲い掛かるランサー。
だが、自分の任務を無事遂行できたアサシンにとって今ランサーと戦うつもりはまるでない。
もはやこの場にとどまる必要がないと判断したアサシンはランサーの槍が届く直前にその身を霊体化させて戦線を離脱した。


「チッ、逃げやがったか…」


「「なのはっ!!」」


リンカーコアを引き抜かれたなのはに駆け寄るフェイトとユーノ。
しかしなのははもう立っていることはおろか意識を保つこともできなくなり、その場に崩れ落ちた。


「オレはアサシンの後を追う。アンタらはそこの嬢ちゃんをひとまず安全な所へ連れて行け。」


倒れたなのはに治療を施そうとする二人に一言そう告げると、ランサーは立ち去ったアサシンの後を追って行った。







アースラ艦内


本局ではそこまでの一部始終を本局の全員がモニター越しにその画像を見ていた。


「いけないわ。至急向こうに医療班を飛ばして」


なのはの状態が深刻と見たリンディ提督はすぐになのはの回収を命ずる。
そして、局員の中で唯一クロノだけがモニターに映し出されている一つの映像に釘付けになっていた。


「アレは……第一級捜索指定遺失物。ロスト・ロギア、闇の書」


「クロノ君、知っているの?」


ただひたすら闇の書が映る映像を無言で眺めながら、淡々とその物の内容を語るクロノにエイミィが尋ねた。


「ああ、知っている。少しばかり…嫌な因縁があるんだ」


平静を装ってエイミィの質問に答えているが、クロノの内心は心穏やかにはいられなかった。
闇の書を見てから自らの手に想像以上の力が入っている。
いや、力が入らずにはいられないと言った方が正しい。


かつて、この闇の書が関わった事件でクロノは自分の父親を亡くしている。
クロノにとってこの闇の書は自分の父親を殺した元凶とも呼べる存在。
そんな昔を思い出しながら、クロノはモニターに映る闇の書をいつまでも眺め続けていた。







紆余曲折あったなのは達の上空。
市街地ではこれ以上ない激しい戦闘が繰り広げられていた。


「中々に楽しませるではないか雑種。そら、もっと足掻いて見せよ」


歪んだ空間から次々と発射される数々の宝具。
それは僅か数撃で相手のバリア及びシールドを貫いてしまう程に強力であった。
もはや結界を解除せざるを得ない状況までヴィータは追い込まれていた。

(くそっ!! なんなんだよアイツ…。さすがにこれ以上戦闘を続けるのは無理か。カードリッジも残り一発しかねーし)


ギルガメッシュの王の財宝の前にヴィータは成す術なく防戦一方になり、カードリッジをほぼ使い尽くしてしまっていた。


目の前の敵に対し心の中で罵倒するヴィータ。
だが、その隙を見逃すギルガメッシュではなかった。


「さて、そろそろ引導を渡してやろう。幕引きの頃合だ」


その一瞬の隙を突き、再び王の財宝から宝具を射出する。その数8廷。


「ッ!!」


不意を打たれ反応が遅れたヴィータは咄嗟にシールドを張るが、それも焼け石に水である。
そんな事はここまでギルガメッシュの攻撃を見てきたヴィータが一番よく理解している。

残り一発のカードリッジを駆使して6撃までは防ぐことが出来たがそこで頼みのシールドが破られる。
だが、残り2撃がまだ残っている。
その2撃はまるでそこでシールドが割れるとわかっていたかのように時差を付けて射出された。


(ヤバい――)


今度ばかりは防ぎきれない。そう悟ったヴィータであったが、



「下がれ、ヴィータ」



その2撃はヴィータに届く直前で割って入ってきた救援によって弾かれていた。


「大丈夫か、ヴィータ」


「シグナム!?」


ヴィータの間に割って来たのは闇の守護騎士でありヴォルケンリッターの将・シグナム。
ヴィータが一番信頼している仲間の一人である。
シグナムはレヴァンティンでヴィータに直撃する2撃を瞬時にたたき落としていた。


「ごめんシグナム。助かった」


「あまり状況は芳しくないな。どうしたヴィータ? お前にしては珍しく油断でもしたか」


「油断なんかしてねーよ!! アイツ、とんでもなく強いぞ」


ヴィータのその一言を聞いただけでシグナムは目の前の敵が如何に強大であるかを見抜く。
ヴィータの実力は同じ守護騎士であるシグナムは誰よりも理解している。
そのヴィータがいつもの減らず口を叩かず、純粋に加勢しに来てくれたことを有難がっていた。
その事実だけでも目の前の敵がどれだけ手ごわいかが手に取るようにわかる。


「ヴィータ。ここはマズイ。結界を解き、直ちに離れるぞ」


これ以上戦闘を続けることが危険だと思ったシグナムはヴィータに結界を解くように命じる。
いつものヴィータなら命令を無視して敵に突っ込んでいったかもしれないが、今回は敵との戦力差が有り過ぎた。
ここは引くが最適だと判断したシグナムに従うしかないと思ったヴィータは直ちに結界を解除した。


「次に会ったときは容赦しねぇからな。覚悟しとけ!!」


目の前の敵に一言捨て台詞を吐くと、ヴィータはシグナムと共に戦線を離脱する。


「負け犬に相応しい捨て台詞だな。」


そんな二人が去った跡をギルガメッシュはいつまでも楽し気に眺めていた。







なのはのリンカーコアは今や風前の灯であった。
一刻も早くアースラに戻らなければなのはが危ない。
だが結界を壊さない限りなのはを連れて逃げることもできない。


八方塞がりかと思われたその時、ここ等一帯を覆っていた結界が突然消え失せた。
どうやらギルガメッシュと戦闘していた相手が結界を解いたようだ。
そして、同時に本局から転送された医療班が到着する。


目の前の危機が去った今これ以上この場に居続けるのはマズいと判断した二人はランサーの忠告を素直に受け取り、なのはを抱えて本局のアースラへと早急に帰還していった。








あとがき
どうも、マイケルです。
今回なのはにギルガメッシュ、そしてフェイトにランサー、ユーノにイスカンダルという人選で進んでいく予定です。
ステータスがちょっとヤバい気もします。まぁマスター連中がアレですから(笑)
次回からは敵側にもサーヴァントを出すつもりですので、より一層闘いが激しくなっていくと思います。
完結を目指してこれからも頑張っていきますのでよろしくお願いします。



[26637] 王達と駄犬の共演 (Fate×リリカルなのは) 2話
Name: マイケル◆22054d9e ID:0104a474
Date: 2011/06/08 00:17



時空管理局艦船 ――アースラ――。


アサシンにリンカーコアを引き抜かれたなのはは、フェイトとユーノの二人によってアースラの医務室に運びこまれていた。


幸いにもなのはの容体は思ったより酷くはなく、引き抜かれたリンカーコアは再生し始めている。
ヴィータとの戦闘によるダメージもおおよそ回復している状態だ。


「う…んっ、…あれっ、ここは?」


医務室のベッドに運び込まれてから数時間。
なのははようやく意識を取り戻した。


自分がアサシンにやられてしまい、ここに運び込まれた事を直ぐに思い出す。
そう、思い出せば前の戦闘では本当に色々な事の連続だった。


問答無用でいきなり襲い掛かってきた赤い戦闘服を纏った正体不明の敵。
やられる寸前だった自分を助けてくれたギルガメッシュ。
フェイトのスピードよりも速く戦場を駆け抜けていたランサー。
そして、ランサーの話していたもう一人の仲間のサーヴァント。


それ等の事をいろいろ考えていたがリンカーコアが再生し始めているとはいえ、まだ力がまともに入らず思考がろくに働かない。
そんな状態のなのはは仕方なく寝たまま呆然と天井を眺めていた。


目覚めてからどれ程たったのか、なのははふと顔を横へ向ける。
――と、そこにまるで図ったかのようなタイミングでギルガメッシュとライダーの二人が医務室へと入ってきた。


「ほう? もう目が覚めたか。存外にリンカーコアの再生能力が高いのだな、小娘」


「それもそうだがこの小娘、この華奢な体に似合わず膨大な魔力を宿しておるな。さすが貴様のマスターといったところか、金ピカ」


「戯け、我のマスターだぞ。これくらいの魔力は宿していて当然だ」


一触即発といった会話をなのはは朦朧とした頭で聞いていたが、やがてそのうちの一人があの時自分を助けてくれた人と認識する。


「えっと、あの時は助けてくれてありがとうございました。…あの、あなたは…」


戦いの最中にいろんな事がありランサーが話したことは最早上の空であったようだ。
なのははあの時と同じ質問を二人に投げかける。


「確か雑兵が貴様等に事情は説明したと言っていたのだが」


男の言う雑兵とはランサーの事なのだろうとすぐに察するが、なぜ雑兵なのかということを追求するのは事が面倒になりそうなのでやめておいた。


「あの、まだちょっと頭がボーッとしていて、あんまり覚えてなくて…」


「我にそのような事をわざわざ説明させる気か、身の程を弁えろよ小娘」


――話しにくいよ~――。


それがなのはのギルガメッシュに対する第一印象だった。
あまり相性が良くないのか。


対してギルガメッシュは不敵な笑みを浮かべながらなのはを見ている。
かつて自分に無礼を行った奴に対しては雑種と罵ることが殆どであったが、なのはに対してはなぜかそう罵ろうとはしなかった。


その相手が自分のマスターであった事も理由の一つではあるが、ギルガメッシュは妙な気持ちに囚われていた。
それは親近感、あるいは既視感に該当するものだろう。


肝心の質問の説明が全くされていない事に気が付き説明を要求したいなのはだが、何かとてつもなく機嫌を損ねたらしい。
ギルガメッシュは説明してくれそうもなかった。


「ならば余がもう一度小娘のために説明してやろう。さて、何から説明すればいいものか」


どうしたものかと考えていると、ライダーが助け舟を出すかのように割って入ってきた。

「あの、それじゃあなぜあの時、初対面の私を助けてくれたんですか?」


「それは小娘よ。貴様達が余達のマスターであるからに他ならぬ」


「マスター?」


魔法少女となってからは比較的よく聞く単語だが、その内容が不明なだけになのはは首を傾げる。


「応とも! 余達がこの世界の者ではない事は既に知っておるな。そもそも余達はこの世界のマスター達と共にとある事件を解決するためにこの世界に来ておるのだ」


あまりに突拍子もない事を聞かされたためか、なのははしばらく呆然としていた。
しかし、時空管理局でも別の世界から時空を超えてくるという話は何度か覚えがあった。
実際そういった機関に手を貸していたなのはにとっては、徐々にそういった突拍子のない事が日常化していたのか。
比較的早く正気に戻り男の話を冷静に処理していた。


「その、とある事件ってなんですか?」


先程の説明を聞いたなのはは当然持つ疑問を男にぶつけた。
男はしばし沈黙していたが、その巨体から発せられる野太い声で返されたのは実にあっけらかんとした答えだった。


「それはわからん。とりあえずマスターである貴様達に手を貸していれば、いずれそのとある事件の正体もわかるであろう」


「はあ、なるほど…。あの、そういえば名前を教えてもらえますか? まだ聞いてないので」


「おおっ! 余としたことがうっかりしておったわい。余はライダー、征服王イスカンダル。まぁ長ったらしい名前なんでな。余が以前の世界で使用した名前だがアレクセイでも良いぞ」


「我は人類最古の英雄王ギルガメッシュ。そういえばマスターである貴様の名前を聞いてなかったな。小娘、名を名乗るがいい」


「なのは、…高町なのはです」


「フム、良い名前だな。小娘」


自己紹介をしたばっかだというのに、ギルガメッシュは名前を呼ぼうとはしなかった。
一方衰弱しているなのはに軽い自己紹介を済ましたライダーは椅子から立ち上がり医務室を出ていこうとする。


「もう行っちゃうんですか?」


「マスターの目が覚めたのでな。もう余までここにいる必要はなかろう。余は少し用事を思いついたのでな、しばし出てくる」


「ライダー」


そう言い残し医務室から出ていこうとする征服王の足をギルガメッシュの一声が見事に制止させていた。


「わかっておるわい! 何かあれば直ぐに戻る。それなら文句はなかろう」


「承知しているのなら良い。退室を許すぞライダー」


ギルガメッシュが一体何を言おうとしているのかが直ぐに理解できたライダーは、鬱陶しげに答えて医務室を出て行った。


急にライダーの態度が一変した事に面食らうなのは。
だが、ライダーが退室したことによって齎されたこの部屋の沈黙によって、そんな疑問も瞬時にかき消される事になる。


「…………」


「――――」


この雰囲気を何とかしたいなのはだが、ギルガメッシュの放つ異様のない威圧感のようなものによって声が出てこない。


この気まずい雰囲気の中一体どれだけ時間が経ったのだろうか。
堪りかねたなのはは覚悟を決めて目の前に座るギルガメッシュに声をかける。


「あの、…あの時の突然現れた剣は一体――――」


「コレの事か?」


なのはの質問に答えるようにギルガメッシュは瞬時に目の前に先の戦闘で使用した剣を出現させる。
取り出されたのはカリバーン、北欧の支配を与える樹に刺さった剣の原型である。


見た目は何の変哲もないただの剣である。
しかし、その内に秘められた魔力の膨大さが見て取れるなのはには、その剣がどれほどの至高の宝剣であるかが一瞬で理解できた。


「…凄い…」


辛うじてそんな簡潔な感想を述べるのが精一杯だった。
並の者ならそのあまりの至高の逸品故、声すらも出てこない。
だが、そんな何でもない言葉もギルガメッシュからすれば全く別の意味を持っていた。


「ほぉ、我が財宝の価値を一目で見抜くとはな。
それにこの巨大な魔力、高町なのは。俄然お前に興味が湧いてきたぞ」


王の財宝から取り出した宝具を逸早く看破していた自らのマスターをギルガメッシュはまじまじと観察していた。
目の前にいるのはどう見てもどこにでもいる小学3年生の少女である。
しかし、彼女の魔力量はキャスターを凌駕していても何らおかしくない程なのだ。

そんなぎこちない会話が続く中再び医務室のスライド式のドアが開く。


そんな気まずい雰囲気の中入ってきたのは、今のなのはにとって最も会いたかった人物フェイト・テスタロッサ。
そして彼女のサーヴァントであるランサーだった。


「おっ、もう意識が戻ったのか。思ったより早かったな」


「なのはっ!!」


どうやら先程退室していったライダーからなのはの意識が戻ったことを知り、飛んで来たようだ。
部屋に入ってきた二人はギルガメッシュを横切り、なのはの元へやってきた。


「フェイトちゃん。…ゴメンね、せっかくの再開がこんなんで」


「そんな、私は全然…それよりもなのは、体は大丈夫?」


「私は大丈夫。元気元気…あ…れ…?」


途端、立ち上がったなのはの足が唐突に縺れる。


無理もない。
意識は回復したとはいえまだ安静にしていなければならない状態である。
にも関わらず、突然立ち上がった事により立ち眩みが来たのだろう。


「なのはっ!?」


元気であることを証明しようとベッドから降りるなのはだが、まだリンカーコアの再生が始まったばかりであり足元がフラついている。
しかし、倒れそうになったなのはをフェイトがうまく支えてくれていた。


「なのは、やっぱりまだ体が…」


「ゴメンね。まだ…ちょっとフラフラ…。あれ?フェイトちゃん。デバイスはどうしたの?」


「なのはのレイジング・ハートの修理のついでにバルディッシュのメンテナンスをするからってエイミィに言われてね。預けてきたんだよ」


久しぶりの再会である二人をしばらく傍観していたランサーとギルガメッシュであったが……


「雑兵、行くぞ」


「ああ」


自分達がこの場にいることがこの先とてつもない場違いになる事に感づいたのか、早々に退室していった。


その二人が退室するのを待っていたのか。
フェイトはなのはに今自分が抱えている一つの疑問を相談し始めた。
その内容はどうやらあの二人の前では話せないことのようである。


「ねぇ、なのは。なのははあの人達の事どう思う?」


「あの人達って、ギルくんやアレクセイさんの事?」


ギルガメッシュの名前は一度も呼んだ事はなかったが、なのはは彼の事を呼びやすいようにギルくんと呼ぶように決めていたようだ。


「うん。あの時は咄嗟の状況だったからつい信用しちゃったけど、あの人達と手を組んで大丈夫かなと思って。私はランサーしか知らないけど、そのランサーでも並外れた戦闘能力を持ってるし、もしかしたら敵で私達が騙されてる可能性もあるかもしれないって思って」

アサシン6体に囲まれて撤退も防衛もままならない状態であったため、
無条件でランサーの言うことを信じていたが――。
落ち着きを取り戻した今簡単にランサーを信じてしまっていいのかフェイトは悩んでいた。


P・T事件以前までの彼女ならこのように人を疑う事も無かったのかもしれない。
だが、今のフェイトは管理局の魔導師。
素性の知れない相手をそう簡単に信用する訳にもいかなかった。


だが、そんな心配は無用だと言わんばかりになのははフェイトにかぶりを入れる

「大丈夫だよフェイトちゃん。あの時も言ったけどアレクセイさんやランサーさんって騙すとか裏切るとか、そういう事をする人に見えないから。ギル君はちょっとわからないけど…」


「そっか、なのはがそう言うんなら私も信じるよ」


フェイトにとってなのはは自分を救ってくれた恩人であり、一番の友達でもある。
そのなのはの言う事に間違いはないだろうと判断したフェイトは、これ以上三人を疑うことはしなかった。


「なのは」


「フェイトちゃん」


久々の再会を果たした二人は嬉しさのあまり互いが互いを抱き締め合っていた。
もはやこの状況に他の誰かがいようものなら、それは完全なる場違いに相違ない。
こうなることを予期してギルガメッシュとランサーはこの部屋を去って行ったのだった。







医務室を出たランサーとギルガメッシュは、アースラ艦内を歩きながらこれからの行動について歩きながら話していた。


「で、この世界のマスターとは無事接触できたと。だけどこれからどうするよ? まだ解決する事件が何なのかもわかってないんだぜ」


「フム、まぁ待機だな。果報は寝て待てと言うだろう。暫くはこの世界を見て回り、無聊の慰めとしよう」


「そんな呑気に構えてていいのかよ」


「構わぬ。現在の成すべき事がない以上此方が動くのは望ましくない。
当面は敵の出方を見るとしよう。ところで雑兵、あの後アサシンを追って行ったようだが何か掴めたのか?」


「いや、途中で撒かれちまった。さすがにアイツが引き籠っちまうとオレでも追うのが難しくてな」


「役に立たん奴め、まあ良い。いずれ奴の方からノコノコとやってくるに違いない。そこで一蹴すれば良いだけだ」


現状では確かにその解決すべき事件が何なのかさえ分からない状態であるため、ギルガメッシュの策は理にかなっていた。
その一方でランサーは自分と戦ったアサシンの事が気になっていたようだ。


「だがよ、サーヴァントのオレ達はともかくマスターの嬢ちゃん達が狙われる可能性だってあるぜ。マスターが倒されてもダメなんだろ?」


「確かにその可能性は十分にあるな。敵側にもサーヴァントがいるとなればよもやアサシンだけという事もなかろう。雑兵、貴様は暫くマスターの守護に回れ」


「まぁ確かに凌ぐだけならオレの得意分野だし、アサシンなら宝具以外の殆どの攻撃は防げるはずだからな」


ギルガメッシュの策が今は得策と判断したランサーは霊体化し、この場を去って行った。
同じサーヴァントであるランサーを駒のように動かせるのも、彼のカリスマ性があって初めて可能になるのだろう。

ランサーが霊体化するのを確認したギルガメッシュはアースラの艦内を把握するという目的でひたすら艦内を歩き回り始めたのだった。







海鳴市 風芽丘図書館


先程医務室を抜け出したライダーはかつて自分が愛読していたホメロスの詩集が無性に見たくなった。


どこかに大きな図書館はないかと艦内を聞いて回っていると、マスターであるユーノから風芽丘図書館の場所を聞き、現在に至る。


「んー? …ほぉ~~」


ライダーにとって本がたくさん並んでいる図書館に来る事が珍しい事だったらしい。
物珍しさに周りを見渡していたがここに来た本来の目的を思い出すと、目当ての本を探すため1段1段指をさしながら細目にチェックしていく。
その単純作業を30分近く繰り返してライダーはようやく目当ての本を探し当てた。


「おおっ!! やっと見つけたわい」


そしてホメロスの詩集をその場で読み始めるが、暫くすると図書館内にチャイムが鳴り響く。
おそらく一定時間経つとこのチャイムが鳴る仕組みになっているのだろう。
一休みのため本から顔を上げると本棚の間から一人の少女の姿が目に入った。


「んっ? アレは…」


その少女は上の棚に入っている本を取ろうとしているが、体が不自由なのか車椅子に座ったまま手を伸ばしていた。
その状況を見かねたライダーは読みかけの詩集を持ったまま、少女の元へ行き代わりに本を取っていた。


「ホレ。この本で良かったか? 小娘よ」


「あ、はい。ありがとうございます」


少女は自分が取りたかった本を受け取ると一言お礼を言い、満面の笑顔を向けていた。
どことなく発音が独特であった。どうやら地方から出てきた子供らしい。


「私、八神はやてって言います」


「余はライダーで良いぞ。しかしはやてよ、貴様付き添いはおらんのか?」


先程の本の取り方からしてはやてが体のどこかに障害を負っていることは確かである。
しかし、そんな障害者であれば大抵一人は付き添いがいるものだ。
しかし、はやての傍に付き添いがいない事を疑問に思ったライダーははやてに尋ねた。


「多分カウンターの方にいると思います。ところでライダーさんはそれ一体何を読んでるんです?」


「余が読んでいたのはコレだ。ホメロスの詩集であるぞ。余が愛読している本の一冊だ」


そこから暫く話し合っていた二人であったが…。
気が付くとそれなりに時間が経っていたのか。
はやての付き添いと思われる人物がはやてに対し声をかけて来た。


「こんなところにおられたのですか」


「あっ、シグナム。ゴメンな~、ちょう話が長なって」


(…シグナム?)


ランサーからその名前を名乗った剣士と戦っていた話を戦闘を終えた後に聞いていた。
ライダーは目の前の人物が紛れもなく同一人物であることに気付いたが、あえてこの場はその事を口にはしなかった。


ここは図書館の中。
こんな所で万が一戦闘が始まろうものなら一般市民にも壮大な被害が出てしまう。
相手もこのような公共の場で剣を抜いたりはしないだろうが、それでもここは問わない方が得策だろう。


これ以上この場にいない方が良いと感じたライダーは、先程知り合ったはやてに一言別れの挨拶を告げてから図書館を後にした。


「あの、先程の人は一体…」


主と話をしていた相手が気になったのか、シグナムははやてに尋ねた。

「ああ、あの人はライダーさん。私が本に手が届かなくて困ってたところを助けてもらったんよ」


「ああ……それは…よかったですね」


主に悟られまいと笑顔を向けるシグナムだが、シグナムもまたライダーに違和感を感じていた。


2mを超えていると思われる巨体もそうだが、その体から発せられる異様のない威圧感。
そして一瞬此方に飛ばされた殺気はどことなくシグナム自身が戦ったランサーの雰囲気と似ていたのである。


だが、幸い前回の戦闘でライダーと直接面識がなかった。
そのため、今その疑惑が確信へと変わることはなかった。

「シグナムは今日晩御飯何食べたい?」


そんなことを頭の中で考えていると、はやてが今夜のご飯のリクエストについて聞いてきていた。


「いえ、私はこれといって……」


「そっか~、じゃあスーパーで品物見ながら決めよっか。ところでヴィータは今日もお出かけさんか?」


「はい。どうやら遅くなるみたいですが、ザフィーラも付いていますので心配は要りませんよ」


今の主とそんな会話を交わしながら、シグナムは今日の夕飯の材料を買うためにはやてとスーパーへ向かうのだった。







図書館を後にしたライダーは退屈凌ぎのためにこの海鳴市の至る所を歩いて回っていた。
それこそ街の隅々まで歩き回っていたが、少し休憩したくなったライダーは町中のある喫茶店に目を付ける。
店の看板には『喫茶・翠屋』と書かれている。


元の世界にいたときは基本的にこの手の店に入る事を止められていた。
そのため、喫茶店に入ったことのないライダーは好奇心に駆られ、喫茶店の中へと入っていこうとした。
が、店の表札を見た瞬間ライダーの動きがしばし止まる。
そこには「高町」と書かれていた。


「高町? …確か金ピカのマスターの名前も同じだったな」


一瞬偶然かとも思ったがおそらくここがなのはの住居で間違いないと思うライダーであった。
別にこれといった根拠があったわけでもない。
ただ単にライダーの英雄としての勘がそう告げていたようだ。


そして、そこがなのはの住居であるとわかった途端ライダーは踵を返す。
確かに休憩したかったことも事実だが、ここでマスターの家族である一般人に姿を晒す事で後々面倒を背負い込むことになるかもしれない。
ふと、前回の聖杯戦争でライダーが姿を堂々と晒し、
マッケンジー宅に入って行った事でマスターであるウェイバーに激怒された事がライダーの頭の中でフラッシュバックした。

今は関わらない方が得策と考えたライダーは略奪した本を持ちアースラへと戻ろうとしていたが、ふとその足が止まる。



「…ほぅ、…なるほどな」



その時ライダーはある気配を感じ取っていた。
それはサーヴァントにしか感じ取れないサーヴァントの気配である。


それと同時に辺りが包まれる。
どうやらここ等一帯に結界が張られたようだ。
今の今まで賑やかだった周りから人が一瞬にして消え失せていた。


「これは…意外と近くにいるな。そういえばランサーがアサシンと遭遇したと言っておったな。まぁ相手が誰であろうと余が速やかに蹂躙してやろうではないか」


ランサーとギルガメッシュがアースラの艦内にいる今、ライダーがサーヴァントの気配を感じ取った。
だとすれば今感じている気配は敵のサーヴァントに他ならない。


その敵のサーヴァントの正体を確かめるため、ライダーはキュプリオトの剣を取り出し天を指す。


「来たれ、神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)!!」


怒号のような声を張り上げ、空間を一刀両断する。
真っ二つに切られたその空間からは二頭の神牛が神威の車輪を牽引して現れる。


ライダーは颯爽と自らの宝具に乗り込み手綱を入れると共に、神威の車輪は常識では考えられないスピードで空に向かって走り、敵のサーヴァントの気配がする方へと駆け抜けて行った。







アースラ艦内


ランサーにマスターの護衛を任したギルガメッシュはアースラの中を粗方周り終えていた。
その後、詳しい話を聞きたいとの事で自らのマスターである高町なのは。
そしてフェイト・テスタロッサと共に医務室におり、フェイトの後ろには霊体化したランサーが待機していた。
なのははどうやら普通に動ける程度には回復したようであり、足取りが軽やかである。


「ところで、ライダーは今何処に?」


この場に唯一いないランサーがフェイトは気になっているようだった。
そんなフェイトにギルガメッシュが面倒臭そうに回答する。


「確か町に出掛けてくると言っていたな。詳しく知りたいのならば本人に直接聞け。念話は通じる筈だ」


「わかった。やってみる」

契約でつながっている者同士で念話を送れる事を知るとフェイトは自分のサーヴァントに念話を飛ばす。


『ライダー。聞こえるライダー?』


『……――……』


しかし、その返答はいくら待っても返ってこなかった。


「おかしいな。念話を送ってるのに、返事がない」


「フム、なるほどな。急用ができた。出るぞ」


「えっ!? で、出るって何処へ?」


いきなり部屋を出ていこうとするギルガメッシュに対しなのはが呼び止める。


「先の戦闘場所だ。どうやらあの場所の近くで一悶着起こっているようだからな」


「そ、それってどういう事?」


「意外と鈍いのだな。どうやらライダーが得体の知れぬ雑種と交戦しているようだ」


念話を送った相手が返事を返してこない。
その事実だけでギルガメッシュは全てを察して自分が今とるべき最善の行動を取っていた。
そのことに少なからずなのはとフェイトは驚いていた。


――その瞬間。


にアースラ艦内に警報が響き渡り、その警報は緊急事態を示している。
ギルガメッシュの予感は見事に的中していた。


「それと雑兵、お前はここに残れ」


「はぁっ!? なんでだよ!?」


ギルガメッシュからマスターの守護を任された直後なだけにさすがにその言葉はランサーの神経を逆撫でさせていた。
ランサー自身もこの言葉には納得がいかない様子を見せている。


「どうやら本命が現れたのでな。10年間待ち続けた甲斐もあったというものだ。この宴に我が参加せずしてどうする!? そもそも貴様のような駄犬が王の宴に参加できるとでも思ったのか」


「チッ、わーったよ。オレはここで待機してりゃいいんだな」


ここでギルガメッシュの提案を断り強引に付いていく事もできた。
だが、この男は間違ってもそんなことを許す奴ではない事をランサーはこの場の誰より理解していたのか。
反論する気も起こさずに素直に指示に従うことにした。


「その通りだ。さて、では行くとするか」


「「うんっ!!」」


自分のサーヴァントを助けにいかなければという考えで頭が一杯にある
なのはとフェイトはギルガメッシュの後に続き部屋を飛び出していった。







海鳴大学病院屋上


海鳴市に所属するここ海鳴大学病院屋上では現在リンカーコアを求めて二人の騎士が舞い降りていた。
その姿はどちらも漆黒に包まれ異様な殺気をまき散らしている。
その一人は姿形がぼやけ、まるで彼を包み込む影が彼の姿を隠しているようでもあった。


「Aaaa…rarararraaa……」


「そっちはどうだバーサーカー。こちらはどうやらハズレのようだ」


「………」


セイバーの問いに唸りながらも微かに首を横に振る。最近起きているリンカーコアが連続して奪われる事件。
これは本来ヴォルケンリッターの4人が行っていたことだが、この二人も4人とは別にリンカーコアを蒐集しているようだった。


「どうやらこの場所は違ったようだ。次に行くぞ」


「AAaararara!!」


「どうしたバーサーカー? ……ムっ!?」


いきなり唸り声をあげるバーサーカーであったが、セイバーはその唸り声が誰に対して挙げられているのかを瞬時に理解する。



物凄いスピードでこちらに向かってくるサーヴァントの気配。
それは以前のセイバー、そしてバーサーカーのどちらも面識のある相手であった。


やがてこちらにやってくるその姿は空飛ぶ戦車に騎乗する一人の大男。
それは紛れもなく第4次聖杯戦争で召喚されたサーヴァント、征服王イスカンダルであった。


「近くでサーヴァントの気配がするからわざわざ足を運んでみたが、
 よもや貴様等であったとはな。バーサーカー、そしてセイバーよ」


聖杯戦争という責務抜きでかつて戦った英雄と再び会いまみえた事に
ライダーはこれ以上ない笑みを浮かべる。


しかし、セイバーの状態がかつてのセイバーでない事にライダーは不快感を訴え始める。
今のセイバーは王としてあってはならない不純物が混入し、それがセイバーを黒化させている原因に他ならない。


「道は違えど貴様もまた王であったろうに。よもや英雄として最低限の誇りさえも見失ったか! 貴様のそのような姿はもはや痛々しすぎて見るに堪えぬ」


かつて王であった好敵手に対し、憐れむように言葉を投げかける。


「ほう、ならばその最低限の誇りさえも見失った者の一撃を受けてみるか、ライダーよ」


「いいだろう。どうやら貴様が見ていた歪みきったその理想という名の痛ましい夢は、余が直々に覚ましてやる必要があるようだな。今の貴様は反英雄と対して差はない。貴様がなおその間違った道を歩み続けると言うのならば、余がその道を正してやろうではないか。死してなお滅ぼさぬ、制覇してなお辱めぬ、それこそが征服王たる余の覇道だ!!」


「バーサーカー、お前は下がっていろ。
 …面白い。ならば我が剣を見事受けきってみるがいい!!」


セイバーの言葉を受け取るとバーサーカーは瞬時に霊体化し姿を消した。
そして売り言葉を放つセイバーに買い言葉で返すライダー。
もはや二人の頭の中は今この場で矛を交える事以外に有りはしない。
そしてこの戦いは最早何人たりとも邪魔をすることが許されない。
そんな決意を持って行われる一戦でもあった。


「では始めるか、セイバーよ。貴様とはいずれ矛を交えようと先約を取り交わしておったな。では今この場でその約束を果たし合おう。今の貴様の英雄としての真価、この征服王が見届けてやる」


お互いに剣を抜き、向かい合う。
狭すぎず遠すぎずといったその間合いは、どちらかが動けばそれが合図となり戦闘が開始される。
そんな絶妙な間合いであった。


「AAAAALaLaLaLaLaLaLaaaeeee!!」


その静止状態から先に仕掛けたのはライダーであった。
先手必勝といわんばかりに神威の車輪を走らせセイバーに突っ込んでいく。


「ッ!?」


一方セイバーは完全に不意を突かれた状態だった。
実質セイバーもライダーと同じタイミングで仕掛けるつもりであったのだろう。
カウンターのタイミングで駆け抜けてくる神威の車輪の攻撃に不意を突かれ、なんとか直撃しないよう避ける事が精一杯であったようだ。


セイバーとて油断していた訳ではない。
ライダーの対軍宝具である神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)の脅威をセイバーは知っている。


前回対決した時もセイバーの対城宝具、約束された勝利の剣(エクスカリバー)の発動がライダーの神威の車輪において最強の走法、遥かなる蹂躙制覇(ヴィア・エクスプグナティオ)の直撃より僅かに早かったためセイバーの勝利だったが、その宝具の発動が少しでも遅れていたら結果は逆になっていただろう。


だがこの場に至ってはその疾走を視認する事すら適わなかった。
セイバーは黒化しているとはいえ未来予知に近い直感スキルを持ち合わせている。
その直感のおかげで直撃は免れたが、彼女の顔面を覆っていたヘルムが真っ二つに割れ左側腹部から血飛沫が宙を舞った。
どうやらライダーが直撃する直前に薙いだ剣と神威の車輪の両脇に位置する鎌が掠っていたようだ。


時間にしてみればほんの数秒の出来事であるが、それでも情報としては十分である。
今目の前に立ちはだかっているライダーはもはや以前のライダーとはまるで違うとセイバーは肌で感じていた。


「ほぉ、どうやらあの時とは比べ物にならんな。一体何がここまでオマエを変えた?」


「さてな。以前の貴様なら難なく対処できたと思うのだが」


「戯言を、今の私こそが本物だ。貴様が戦ったアルトリアはもはや紛い物に過ぎん」


セイバーのその言葉を聞いたライダーの顔からは、もはや怒り以外の感情が全く存在していなかった。
その殺気に満ちた目はまるで見る者全ての戦意を喪失させてしまう程である。
その怒りの原因はかつて王として矛を交えた好敵手を侮辱された事にある。


「余から言わせてみれば貴様のような紛い物が王を名乗っている事自体が胸糞悪い!! 王とはな、全ての人民の羨望を束ね、その道標として立つ者を指すのだ!! その点で言えばまだ以前のセイバーの方が王としての輝きを放っておったわい」


罵声を浴びせながらライダーは以前セイバーが語った王道を思い出していた。


第4次聖杯戦争で三人の王が集い、互いの意見をぶつけ合った聖杯問答。
そこで明かされたセイバーが聖杯に託す望み。
その内容は王による救済であり、それはライダーにとってとても意味のあるものとは思えなかった。


『――王が国に捧げるのではなく、国が、民草が、その身命を王に捧げるもの――。』


それがライダーの王道でありライダー自身もその王道を貫き通してきた。


だが、元々唯一無二の王道に成否が有るはずもない。
ライダーもセイバーの王道が間違っていると言っていたが、それはセイバーの王道を否定したかった訳ではない。


同じ王であるセイバーに自らの王道を理解させたかっただけなのだ。
道が違えてもセイバーもまた一国の王であり、この征服王イスカンダルと矛を交えた英雄なのである。


その誇り高き騎士の王を、黒い泥に汚染され別人と感じる程に奈落に落ちた目の前のサーヴァントが侮辱している事がライダーは何より許せなかった。


そんな険悪な状況な中、ライダーの危機を察知して
医務室を飛び出していったフェイトとなのは、そしてギルガメッシュが到着した。


「ライダー、大丈夫!?」


「なんとか間に合ったみたいだね、フェイトちゃん」


どうやら二人の不安は取り越し苦労だったようでライダーは今だ健在であった。
そんな中、霊体化し今まで口を閉じていたバーサーカーが突然実体化を図る。
それはまるで仇敵を見たかのように激しく唸り始めた。


「AAArurururu!!」


「ほほぅ、誰かと思えばあの時の狂犬ではないか」


「ギルガメッシュ、あの鎧の騎士を知ってるの?」


「あの狂犬はバーサーカー。第4次聖杯戦争の時に召喚された雑種だ。他にも我と面識のある雑種が幾つか敵としてこの余興に参加しているようだが。フン、中々に良い開幕ではないか」

最早腰を抜かしてもおかしくない程の殺気を向けられているにも関わらず、眼中にないと言わんばかりにスルーしながら、フェイトとなのはの質問にギルガメッシュは答えていた。


「どうしたライダー? 貴様が手を煩わせているのは珍しいな」


「フン! これがこの時代で言うところの腐っても鯛というやつなのだろうな」


「何っ?」


珍しく憎まれ口も叩かないライダーが腐っても鯛と表している相手にギルガメッシュは目線を送る。
その瞬間、まるでこの世の者ではない者を見るような目でギルガメッシュは凝視していた。
その姿はかつてギルガメッシュが求婚し、普段関心を示さない彼が唯一愛を向けるまでに至った相手であるセイバーである。


それは間違いない。
だがその至高の女である彼女は今黒い泥に汚染され、かつての輝きは見る影もなくなっていた。


そのセイバーを覆う泥にギルガメッシュは心当たりがあった。

それも当然である。
なぜなら現在セイバーを汚染しているあの泥はかつてギルガメッシュがその身に浴びたモノ。
そして最終的には全て飲み干したモノであり、それは聖杯から毀れ出ている泥そのものであったのだから。


「よもやここまで変わり果てているとはな。興覚めもいいところだ。手段は問わん。ライダー、その雑種を始末しろ!!」


かつて至高の女とまで評価していたセイバーの変わり果てた姿を見たギルガメッシュは、今戦闘しているライダーにセイバーの抹殺を命じていた。
そのギルガメッシュの顔からは明らかに不快感や怒りの表情が見て取れる。


「貴様とは相容れぬと思っておったが、初めて意見が一致したな金ピカ。この汚物は速やかにこの征服王が処分するとしよう」


ライダーの言うとおり、珍しく二人の意見は一致していた。
そして、その一致を合図にライダーが自らの宝具を発動させる。


「これは――、……結界…か?」


瞬間、周りは熱風の砂塵で覆われ生暖かい空気が流れ始める。
やがて、今自分達がいるこの世界が徐々に浸食されていく。


そこには、――無人の平野が広がっていた。
誰がいるわけでもなく、何かがあるわけでもなく、唯々平野がどこまでも続いている。


「その目に焼き付けておけよ小娘共、あれが王と呼ばれる者の姿だ」


「「えっ!?」」


ライダーが以前発動した宝具、王の軍勢を思い出すギルガメッシュ。
今ここでなのはとフェイトにこの宝具を見せておく事で英雄と呼ばれ、
王と称えられる者がどういった者なのか、理解が早まると判断した。
自分の横にいるマスター二人によく見ているようにギルガメッシュは命令する。

その後ライダーの周りには義兵達が次々に実体化していく。
その数はまるでその平野を全て埋め尽くすほどではないかと思える程であった。


「見よ、これが我が無双の軍勢。死してなお余に忠誠を誓う伝説の勇者であり永遠の朋友達、彼らとの絆こそが我が王道。征服王たる余が誇る最強宝具、王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)!!」


「「「おおおおおオオオオッッ――!!!」」」


キュプリオトの剣を天に翳し自らの王道を語るライダーの姿はどこまでも雄大であり壮大であった。


そして、この瞬間なのはとフェイトは実感する。


自分達が信じた仲間がどういった者であったのか。
また、その命が尽きた後でも後世に名を残し、世界にその名を轟かせる英雄と呼ばれる人物が一体どれ程の者なのかという事を。


「「……――!!」」


その壮大であり雄大なライダーの姿を見た二人は、あまりの出来事に目を奪われて自分達が素直に思った感想を口に出すことすら忘れていた。

実際に王と言われてもピンとこなかった二人だが、この光景を見て理解する。
自分達はどれ程偉大な英雄を味方に付けているのかということを。
全ての兵を束ねその道標として立つ者であり王としてのカリスマ性にその存在感。
どれをとっても王と呼ぶに相応しい姿であった。


「さて、久しいな。ブゲファラス」


キュプリオトの剣で切断された空間から駆け出し、いつの間にか自らの隣にまでやってきていた愛馬にライダーは一言交わし騎乗する。


「それでは始めるか、セイバーよ。余の宝具、王の軍勢を見事凌いでみるがいい」


戦闘開始の一言と共にライダーは愛用の剣であるキュプリオトを抜く。
その剣先はこの場の唯一の敵であるセイバーに向けられていた。


そして次の瞬間。
ライダーの天にも届こうかという咆哮により戦いが始まった。


「AAAAAALaLaLaLaLaLaie!!」


それは殺し合いではなく、最早片殺しと誰もが見て思った。
また、それほどまでに圧倒的で勝敗は明らかであった。


何より数が違い過ぎる。


ライダーの軍勢はこの広大な平野を全て埋め尽くすほどの数なのだ。
それをたった一人で倒す事など英雄王ギルガメッシュ以外不可能である事は王の軍勢を展開しているライダー自身が誰よりもよくわかっていた。


たとえセイバーが聖剣エクスカリバーを抜いてもそれを発動させるよりライダーの軍勢が駆け抜ける方が早い筈である。


ならばこの場で負けはあり得ない。
そう確信していたライダーは軍勢と共に生前駆け抜けたこの大地を再び駆け抜ける。



そして――、決着は実に呆気なかった。


ライダーの軍勢が駆け抜けた後には何も残っていない。
それは軍勢の攻撃に耐えきれずにセイバーが消滅した何よりの証拠である。
また、敵が消滅した事によりライダーの固有結界が崩れ始め、平野を埋め尽くしていた義兵達が消えていった。


「フンッ、やはり紛い物であったな」


興が冷めたと言わんばかりにライダーは不満を言い捨てる。
それは期待外れからくるものか。
それともかつてのライバルに対する哀れみからくるものなのか。
それはライダー自身にもよくわかっていなかった。


その壮大なる姿に今まで呆然と見ていたなのはとフェイトだったが、ライダーが敵を倒したことに気が付くとすぐさまライダーに駆け寄っていく。


「ゴメンねライダー。遅くなって」


「なあに、あの程度の相手なら余一人で片づけられると思ってな」


ライダーの余裕も尤もである。
白兵戦最強と言われるサーヴァントと呼ばれるセイバーとの戦闘だったが、終わってみればライダーの圧勝である。
宝具を使用したとはいえ、その内容はセイバーが防戦一方であったと言っても過言ではない。


だがそれも無理ないのだ。
第4次聖杯戦争時もライダーはまるで素人の魔術師であるマスターに呼び出されたにも関わらず、ステータスが全て平均以上という破格の強さを持ち合わせていた。


そのライダーの今のマスターはフェイト・テスタロッサである。
その魔力は高町なのは程ではないにしろそれでも基準よりは遥かに高い。
そのマスターとの契約補正によりライダーのステータスはさらにアップしている。


今やライダーは聖杯戦争のサーヴァントにおいて、
BS(バランスブレイカー)に当てはまるほどの強さを誇っているのだ。
いくらセイバーが最良のサーヴァントと言われていても鼻から勝負にもならないのは当たり前だった。


「サーヴァントの気配を感知し、この場所で戦闘していたのだが。
 …どうやらあの2人だけであったようだな」


「そうみたいだね。とりあえずさっきの戦闘もあるし一度アースラに戻った方がいいかな」


「我はまだ用があるのでな、お前はどうする?」


「私もギルくんと一緒に行くよ。フェイトちゃん、悪いけど先に戻っててくれるかな」


「わかった。じゃあ私はライダーと一緒に先に戻ってる。気を付けてねなのは」


「うん、ありがとうフェイトちゃん」


ライダーの消耗が激しいことを見抜いていたフェイトはなのはに一言告げるとライダーと共に開かれたゲートでアースラへ帰還する。


「ねぇ、ギルくん。さっき言ってた用って何なの?」


やがて二人の姿が見えなくなったのを切っ掛けになのはがギルガメッシュに尋ねていた。


「我が言わずとも直ぐにわかる。………いい加減にその収賄なる姿を晒したらどうだ? 雑種」


ギルガメッシュは誰もいるはずのない所に向かって侮辱とも取れる暴言を吐く。
誰に向かって話しているのか疑問に思ったなのはだが、それも一瞬に過ぎなかった。


ギルガメッシュが声を向けるその方向にうっすらと現れる白い骸骨のマスク。
それは前回なのはのリンカーコアを奪い去った相手であるアサシンの再来だった。

姿を見せたアサシンは霊体化を解き、その姿を現す。
しかし、その数は前回の比ではない。
その数はざっと数えても20体以上。
しかもその大量な数によりいつの間にかなのはとギルガメッシュは周りを囲まれていた。


「ど、どういうこと!? 何で同じ相手がこんなにいっぱいいるの!?」


「何故も何もあるまい。とりあえず今はこの目障りな雑種を一蹴しておく必要がありそうだな。後ろの雑種は貴様に任せる。安心しろ。あの程度の雑種ならお前でも難無く倒せる筈だ」


「ええっ!? というかレイジング・ハートは今修理中だから無理だよっ!」


そう、歩ける程度には回復しているが彼女のデバイスであるレイジング・ハートはまだ整備中。
勢いでアースラを飛び出してきてしまったが、今のなのはには戦う術がない。


「チッ、使えん奴だ。まあいい。宴としてはその方が盛り上がる。小娘、串刺しになりたくなければその場を動かぬ事だ」


前回落とされた相手に周りを囲まれているせいなのか、なのははこれ以上なく取り乱していた。
だが、ギルガメッシュにそのような焦りはあるはずもない。
これだけの状況にも関わらず、ギルガメッシュはどこまでも笑みを浮かべ続けていた。
それは己の慢心からくる極上の笑みであった。


「さて、では開幕と行こう。せいぜい持ち堪えてみせよ。雑種っ!」


アサシンに向けて放った言葉と同時に宝具・王の財宝が展開される。
ギルガメッシュの背後の空間が歪みだし無数の穴が出現。



「王の財宝」



周りを取り囲むアサシンを見据えながらギルガメッシュは己の宝具の真名を口にする。
そして次の瞬間にはその穴から出てくる無数の武具が次々に敵であるアサシンをめがけて投擲された。


投擲される武具はそれぞれがまるで意志を持つかのようにアサシンに降り注ぐ。
その投擲武器は以前と同じで剣、槍、斧、弓、それこそあらゆる武器があった。


「――――ギッ!!」

「ギャアアアアアア!!!」

「グアアアア!!!」


まるで第4次聖杯戦争の再現だった。
数が多くなっているとはいえ元々ギルガメッシュとアサシンでは勝敗は最初から決しているようなものである。
休みもなく投擲される数々の宝具がアサシンを的確に捉え、貫いていく。





時間にしてみればほんの10秒ほどだったのだろうか。
王の財宝が降り注いだ後に残ったのは串刺しになったアサシン達の残骸だけだった。
そのアサシンもあまりのダメージに肉体が維持できなくなったのか次々に消滅していく。
あっという間に終わってしまったのが物足りなかったのか。
ギルガメッシュは軽く舌を鳴らして踵を返す。


「さて、用は済んだ。引き上げるぞ」


「じゃああの時言ってた用って、この事だったの? …って、ちょっと待ってよー!」


なのはの話を既に聞いておらず、来た道を戻り始めるギルガメッシュの後をなのはは必死に追っていった。



[26637] 王達と駄犬の共演 (Fate×リリカルなのは) 3話
Name: マイケル◆22054d9e ID:5ac7a9ee
Date: 2011/06/08 00:48
――海鳴市・桜台――


昨夜の騒ぎとは打って変わって穏やかな朝を迎えたなのははいつもの様に特訓を行っていた。
ライダーを追った先で行われた戦闘が終わった後は異常も特にない。、
その後アースラに帰還したなのはとフェイトはそこで解散となり、なのはは自分の家へ帰る形となった。


現在7時半になる中、なのはは海鳴市の桜台に来ている。
この桜台は海鳴市に立つ大きな丘でなのはが魔法を使うようになってからの特訓場所になっている。
この日もなのはは早起きをしてこの桜台に特訓に来ていた。


目を瞑り精神を集中させ始めるにつれて追跡弾が実体化し始める。
が、リンカーコアが再生しきっていない事が響いているのかコントロールがいつもの様にうまくいかない。


「はぁ~~っ」


あまりの衰弱ぶりになのはは大きく落胆する。



「そんなに大きな溜息をついてどうした?」



そんなか弱い背中を見せているなのはにいつの間にそこにいたのか、ギルガメッシュが声を掛けてきた。


「朝早くにお前がここに来るのが見えてな。気になって見に来たが、このような早朝から特訓とは随分と熱心だな。」


「あっ、ギルくん。ちょっとね、追跡弾をうまく飛ばすための特訓をしてたの。今はちょっとリンカーコアが治ってないからうまくいかなくて……」


そう言うなのはの周りには幾つもの空き缶が転がっている。
おそらくこれを的にして特訓を行っていたのだろう。
空き缶には幾つもの穴が開いており、穴は十中八九追跡弾によって開けられたものに違いない。


その打ち捨てられたような空き缶をギルガメッシュは暫く視線を送っている。
すると何を思ったのか空き缶を拾い上げて空高くへと真上へ放り投げた。


「よく見ておけ」


「えっ?」


ギルガメッシュが一体何を始めるのかわからなかった。
そしてそれはギルガメッシュが鳴らした「パチンッ」という指の音によって唐突に始められた。


その時、真上から落ちてきた空き缶が何かに当たり再び宙を舞う。
それが何であるかが始められた時にはわからなかった。、
しかしそれが続けられるうちになのははようやく気付く。


ギルガメッシュが指を鳴らした瞬間に出現した魔力で生成された閃光のようなモノ。
その閃光とんでもない速さで飛んでいき、空き缶の底に掠る形で当たっていた。
その光は空き缶に当たるとすぐに軌道修正し、再び同じ事を繰り返す。


それを見ていると普段自分がここでしている特訓と変わらない。


それも束の間である。
今まで幾度となくここで特訓をしていたなのはは自分が飛ばしていた追跡弾との微妙な違いに気が付いた。


ギルガメッシュの放った閃光はその軌道が恐ろしいほどに正確であった。
毎回空き缶の同じ所に掠るように当たり続けているせいか、一部分がすり減っているようにも見える。
その軌道の描き方はなのはが今まで思い描いてきたどの軌道よりも的確で無駄がなかった。


普段なのはがここでしている事と同じ事をギルガメッシュは行っていた。
それが間もなく100回目に到達する。
するとこれでラストと言わんばかりに空き缶が派手に上がり、脇に設置されていたゴミ箱に綺麗に入った。


「すごーい。どうやったらそんなにうまく扱えるの!?」


目の前の出来事に素直に感心するなのはにギルガメッシュは肩を竦めて問い掛ける。


「魔法を扱うにおいて最も重要なモノは何かわかるか?」


春先に事件に巻き込まれてから魔法を使い始めたなのはは、今自分が思いつく一番の答えを口にした。


「え…えっと、……集中力…かな」


「あと一つ重要なモノがあるな」


「そ…それって、何?」


「イメージだ」


“イメージ”即ち想像力。


魔法を扱うにおいて最も重要な要素とは集中力とイメージの二つだとギルガメッシュは断言した。
だが、なのはにはそのイメージが魔法とどう関係するのかが理解できなかった。


「でも、イメージって言ってもそれが魔法をうまく扱うのとどう関係するの?」


「フム、どうやら直接見せた方が分かり易いか。小娘、我と初めて対面した夜の事を覚えているか?」


「うん、それは覚えてるよ。突然目の前に剣が現れた時の事だよね」


なのはにとってよほど印象に残っていたのだろう。
あの夜に起こった出来事の全てが鮮明に思い出せると言っても過言ではない位に印象深かったようだ。


「ならば目を閉じてその剣を頭の中で思い出してみろ」


真意はわからないがともかくギルガメッシュに言われた通りになのはは目を瞑る。
後に頭の中であの夜と医務室で見た一本の聖剣を思い出す。


一切の装飾がなくそれでいてこれ以上なく鮮麗であった剣。
目を閉じれば鮮明に思い出せる。


「思い出せたよ」


「ならば今思い出した剣をイメージしながらこの空間に手を入れてみよ。お前のイメージが完璧ならその剣が出てくる筈だ」


ギルガメッシュがそう言うといつの間にか王の財宝が展開され、そこに繋がる一つの空間が出現していた。
なのははギルガメッシュに言われた通りにあの時の剣をイメージしながら王の財宝へと手を入れる。


『ゴソゴソ…ガシャン!』


「…これかな」


暫くすると、どうやら手ごたえがあったようだ。
なのはは一本の剣を掴んでおりそれを宝物庫から取り出す。
それは紛れもなくなのはとヴィータの間に出現したカリバーンの原型であった。


「なるほどな。どうやらイメージは上手く出来ているようだ。なら我が先程やった事を思い出しながら我と同じことをやってみろ」


先程と同じく意図の読めない指示だが、とにかく言われた通りの事をなのはは始めた。
いつもの特訓と何一つ変わらない追跡弾によるシューティングモード。
先程ギルガメッシュが行っていた軌道に全く無駄のない魔力の閃光を思い出しながら、いつもの特訓がスタートして空き缶が宙を舞う。



そう、いつもとなんら変わらなかった……ただ一つを除いては。



「えっ!? これって……」



それは追跡弾を飛ばしているなのは自身が一番驚いていた。
その追跡弾の動きは今までとは全く違う動きを見せていた。


その動きは正に先程ギルガメッシュが目の前で披露し、自分が頭の中で思い描いていたイメージ。
一切の無駄がない自らの理想の動きとほぼ一致していたのである。


若干の違いはあるものの、普段自分が行っていた時の軌道とは比較にならない程に正確に目標へ向かう。
軌道修正にも無駄が減り格段に性能が上がっていた。
そんな中あっという間に100回目が当たり空き缶は綺麗にゴミ箱に入った。


「理解したか、それがイメージの違いだ。そういえば我の世界でもいつだったか贋作者(フェイカー)が言っていたな。『イメージするものは常に最強の自分だ』…とな。贋作者と言えどかつては英雄だったものの言葉だぞ。有難くその言葉を心の奥底に刻みつけておく事だな」


「最強の……自分…」


そう言われてなのはは考えてみるが、最強の自分というイメージが全く浮かんでこない。
しかしそれは当然の事であり、何も今回のケースに限った事ではない。
人は未来が分からないからこそ、その未知なる先をいろいろ想像し目指し努力する。
もし、最初からその未来が分かってしまっていたらそれは所謂ネタバレである。
人生の中でこれ程つまらなく感じる事もそうは無い。


「今は分からずとも良い。いずれお前にも分かる時が来る。ところで話は変わるが、時間はいいのか?」


自分の変わり様に戸惑っている最中にふとギルガメッシュに言われ、なのはは傍にあった時計台を確認する。
すると、時計は既に8時15分を指しており、それを見たなのはの顔色がすっと変わる。


「えー!? もうこんな時間!? ごめんねギル君、私これから学校だから。あーもう、今日からフェイトちゃんが転校してくるっていうのに」


「あの小娘もお前と同じ学校なのか」


「うん、リンディさんが転校手続きをしてくれたみたいなんだけど」


「ほう、…という事は転校生が二人もお前のクラスにやってくるという事か」


「えっ……二人?」


週末明けからフェイトがなのはの通う聖祥小学校に転校してくる事。
これはリンディ提督からすでに聞いていたが、ギルガメッシュの言うあと一人が誰なのか。


気になって仕方ないなのはだが、今はそんなことを考えている時間はない。
本来ならもう家を出て学校に着く頃であり、分かり易くいうところの遅刻寸前である。
ベンチに置いておいた自分の荷物を手に取るとなのはは大急ぎで学校へ向かっていった。








なのはの家の近所に造ることになったここ臨時作戦本部。
この本部では今エイミィとクロノの二人が闇の書の映像を見ている最中だった。


「ロストロギア、闇の書の最大の特徴はそのエネルギー源にある。闇の書は魔導師の魔力と魔法資質を奪うためにリンカーコアを吸収するんだ」


闇の書の存在を既に知っていたクロノは、闇の書の性能について淡々と語っていた。
だがそれは単なる知識からだけではない。
かつて父親の死と深く関わった闇の書との因縁からくるものでもあった。


「つまり、なのはちゃんのリンカーコアも闇の書の被害に遭ったって事?」


「ああ、間違いない。闇の書はリンカーコアを吸収するとその蒐集した魔力や資質に応じてページ数が増えていく。そして最終頁である666頁まで全て埋めることで闇の書は完成する。また、本体が破壊されるか闇の書の主が死ぬかすると白紙に戻って別の世界で再生されるため、闇の書の永久封印は不可能と言われてるんだ。様々な世界を渡り歩き自らを生み出した主に守られ、魔力の核であるリンカーコアを吸収することで永遠に生きる危険な魔導書。それが闇の書だ」


「完成するとどうなるの?」


気になる内容ではあった。
だが、逆に聞かない方が良かったと思えるような事実でもある事をエイミィは聞いてみる。


「少なくとも、ロクな事にはならない」


クロノから帰ってきた答えは予想通りの答えでもあり、少しあっさりとした答えだった。
それを聞いたエイミィも思わずため息を漏らしている。


「そういえば、頼んでおいた闇の書の守護騎士の情報の方はどうだ?」


そんな重苦しい雰囲気を打ち破るようにクロノはふと思い浮かんだことを口にした。


「良くないね、昨夜もまたやられてる。今までより少し遠くの世界なんだけど、魔導師が十数人。野生動物が約4体」


エイミィはそう言いながらタッチパネル式のリモコンを操作し、一つの映像を映し出す。
それは闇の書の守護騎士によってリンカーコアを蒐集されたと思われる巨大生物の映像だった。


「リンカーコアさえあれば人間でなくてもいいみたいだな。正になりふり構わずって感じだな」


映像を見たクロノは素直に感じたことを口にしていた。


「とにかくいま私たちがやるべき事は闇の書の完成前の捕獲だね」


「ああ、守護騎士たちを捕獲してさらに主を抑える事が当面の目的だ」




「何やら熱心に話し合っておるな。作戦会議でもしておったのか?」




今後の作戦について確認する二人だが、突然割り込んできた第三者によって二人の意識はそちらに向く。
別室で霊体化して待機していたイスカンダルが話が終わったのと同時に実体化し、二人の話に割り込んできた。


「どうした? 二人揃って何を辛気臭い顔をしておるのだ」


「ライダー。ここには入ってくるなって言っておいた筈だぞ」


やれやれと言わんばかりに注意を促すクロノだが、イスカンダルは軽く流している。
この男は言って聞くような奴ではないことをクロノも薄々理解しているのか、半分投げやりな感じで警告していた。


「まぁそう固い事を言うな。余からも一つ坊主に情報をやろうと思ってな。今話に出ていた闇の書だが、ページ蒐集を行っているのは守護騎士だけではない。余と同じサーヴァント現在2人が闇の書の蒐集を行っている事を確認している。その2人はアサシンとバーサーカーだ」


本当は黒化したセイバーもいた。
だが既に倒した相手であった事があったため、イスカンダルはその名前を出そうとはしなかった。


「その話は本当なのか?」


イスカンダルの話を聞いたクロノはすぐにその話の信憑性を確かめる。
もし、その話が本当なら迅速に対策を考えなければならない。


「ほぼ間違いないだろうな。小娘のリンカーコアとやらが蒐集された時の事だ。それを行ったのはアサシンであるとランサーから聞いておる。貴様等も映像越しで見ていたのだろう」


ライダーの問いにクロノは軽く頷く。
実際その時の映像をアースラから一部始終見ていた二人はその話が全部本当の話であることを理解する。
戦闘能力が低いアサシンでも気配遮断というスキルがあるために決して楽観視できない相手である。


そして今はレイジング・ハートとバルディッシュが共に整備中という事態。
満足に戦うことが出来ないなのはとフェイトをひとりにさせておく訳にはいかなかった。
万が一二人が襲われた場合最悪の事態を引き起こしかねないからである。


「悪いがライダー。暫くなのはとフェイトの護衛を頼めるか」


そう考えたクロノはイスカンダルに二人の護衛を頼んでいた。
それが今取れる最善の策と言えるだろう。


「構わんが、敵のサーヴァントと守護騎士の方はどうするのだ?」


「すまないが、そちらには暫くランサーに事を当たってもらうことになりそうだ」


クロノが出した案は妥当と言えば妥当な案であった。
今はとにかく二人のデバイスの完治が最優先事項である。
ならばその間少しでも敵からの時間稼ぎがほしい所。


また、ランサーの対魔力があれば大抵の魔法は無効化できる。
ランサー自身の戦闘能力を併せて考えれば、3人の中ではランサーが一番適任である事をクロノは見抜いていた。


「まぁ妥当なところだな。ランサーには余から直接伝えておく」


クロノにそう言い残すとイスカンダルは霊体化してこの場を静かに立ち去って行った。


「事情を知っているとはいえ、あのデタラメな強さは呆れるな」


イスカンダルを見ていてふと昨夜の事を思い出したのか。
クロノとエイミィは昨夜の戦闘の映像を開いて鑑賞し始める。
移っているのはランサーとアサシンだった。


モニター越しで見ていてもとても追い切れるものではない速さで相手を翻弄するランサー。
目標を的確に射抜く短剣を雨あられと投擲しているアサシン。
その戦いは最早自分達の戦いとは根本的に何かが違っていた。


目の前でモニターで繰り広げられている戦いは魔法を一切使用していない純粋な武器のみによる打撃戦。
かつて英雄として名を轟かしその名を後世に残し続けてきた英雄同士の戦闘にクロノは目を奪われつつあった。


「これが……英雄と呼ばれる者の戦いか…」







キーンコーン、カーンコーン。


現在8時40分。聖祥小学校に1時間目の始まり10分前のチャイムが鳴り響く。


桜台を慌てて飛び出していったなのははチャイムが鳴る直前に教室に到着した。
なんとか遅刻を免れることが出来たのだがここまで来るのに相当飛ばして走ってきた様子で息を切らしていた。


「珍しいんじゃない? なのはがこんなチャイムの直前に来るなんて」


「大丈夫? なのはちゃん」

遅刻寸前で入室してきたなのはに声を掛けてきたのは、クラスメートの友達であるアリサとすずかの二人だった。


「う…うん、なんとかね。それよりも聞いて聞いて!!
 今日フェイトちゃんの他にあともう1人転校生がこのクラスに来るらしいの」


「えーっ、本当に!? どんな人? 名前とか聞いたの?」


「フェイトちゃん以外にも転校生が来るなんて、楽しみだね」


フェイト・テスタロッサの他にも転校生がこのクラスにやってくる事に、アリサとすずかもこれ以上ない興味を示している。


「えーっと、ゴメンね。急いでたから名前を聞きそびれちゃって」


遅刻しそうになり慌てていたために肝心の名前を聞き忘れてしまったなのはは”エヘヘ”と苦笑いを浮かべていた。


「まぁいいんじゃない。どうせすぐに分かる事なんだし」


名前が分からない事に少々残念そうにしていたすずかに、アリサが慰めるように言った。
それと同時に教室に担任の先生が入ってくる。
それを合図に教室の中で騒いでいた生徒が一斉に席に座り始め、なのは達も急いで自分の席に着いた。


「みなさん、おはようございます」


「「「「「おはようございます!!」」」」」


教室内にクラス生徒全員分の挨拶が響く。
同時に先生は気持ちのいい挨拶に穏やかな笑顔を見せていた。


「さてみなさん、実は先週急に決まった事なのですが。なんと今日から新しい転校生が二人もこのクラスに入ってきます」


先生のこの一言で教室中が一斉に騒がしくなり始めた。
皆転校生と聞いてどんな人なのかという期待でいっぱいであり、それはなのは達も例外ではない。


「海外からの留学生さんです。フェイトさん、ギルガメッシュさん、どうぞ」


(!?……今…ギルガメッシュって)


その名前を聞いたなのはは目を白黒させて考え込んでいた。
誰がどう見ても立派な大人に見えるギルガメッシュが自分と同じ小学校に来るとはいったいどういう事なのか。


しかし、結果としてギルガメッシュがこのクラスにやってくる。
それなら先ほど別れ際にギルガメッシュが言っていた事も、なぜそんな事を知っているのかという事も説明がつく。


とにかく突然のハプニングとも言える出来事になのはの頭の中は軽くパニック状態になっていた。


「「失礼します」」


そんな中、教室のドア越しに聞こえてきた二人の声。
そして数秒後に教室のドアが開き、二人の海外留学の転校生が入室してきた。


その内の一人は来ることがあらかじめ分かっていたフェイト・テスタロッサ。
気になるもう一人の転校生はフェイトと同じ金髪であり、ルビーのような透き通った紅い瞳をしている男の子だった。


その光景は何も知らない人が見れば兄と妹。
又は姉と弟みたいに見えてしまう程だった。
二人は黒板の真ん前に立つと一人ずつ自己紹介を始め、先生が黒板に二人の名前を書き始める。


「フェイト・テスタロッサです。…よろしくお願いします」


「ギルガメッシュです。よろしくお願いします」


フェイトは少々緊張していたのかもじもじしながら自己紹介をしていた。
そんなフェイトとは裏腹にもう一人の転校生であるギルガメッシュはこういう雰囲気に慣れているのか。
クラスの人全員ににこやかにほほ笑みながら自己紹介に入る。


ふと、そんなギルガメッシュとなのはの目が合う。


『おはようございますなのはさん。随分慌てて学校に走って行ったようだけど、間に合ってよかったですね』


瞬間、ギルガメッシュからなのはに対して念話を飛ばされていた。
なのはの頭の中に直接聞こえてくる念話。
この一言により目の前の男の子が自分の知っているギルガメッシュであるとなのはは確信する。


『やっぱり、ギル君だよね!? その姿どうしたの?』


どうやらなのははギルガメッシュの体が突然子供になっている事に驚いているようだった。
一方、その質問を予想していたギルガメッシュはすぐさま返答を返す。


『この姿ですか?これはちょっとした薬の効果で今は子供の姿になっているだけですよ。一定時間経てばなのはさんのよく知る自分に戻りますから。まぁ、詳しい事はまた後で話しますよ』


そこまで聞くとギルガメッシュからの念話が不意に途切れる。
暫くして自己紹介を終えたフェイトとギルガメッシュは指定された席に着いた。


結果、ギルガメッシュはなのはの一つ後ろの席であり、フェイトはなのはの左斜め後ろの席になった。


「はい。では1時間目の授業を始めます。みなさんお静かに」


転校生二人の自己紹介が終わると先生がクラス全体のざわつきを見事に収める。
そして通常通りに一時間目の授業に入っていった。




そして50分後……。



一時間目の授業が終わり休み時間となる。
フェイトとギルガメッシュの席の周りには案の定クラスメイトが詰め寄ってきていた。


「ねえ、向こうの学校ってどんな感じ?」
「凄い急な転校だよね。なんで?」
「日本語上手だね。どこで習ったの?」


「えっと…、あの、…その…」


机の周りを囲んでいるクラスメートから投げかけられるありとあらゆる質問に、フェイトの方は困った表情をしながら戸惑っていた。
一方、ギルガメッシュの方は質問に来ることがあらかじめ読めていたのか。
周りを囲むクラスメートの質問にテンポよく答えていて、もうクラスの感じに馴染んでいるといった感じだ。


そんなやり取りをなのは、アリサ、すずかは教室の隅から見ていた。


「二人ともすごい人気だね」


「でも、これはちょっと対応に困っちゃうんじゃないかな?」


「はぁ、しょうがないなあ……はいはーい!!」


質問攻めにされて困った表情のフェイトを見かねたアリサは手を叩きながら騒ぎを納めに入って行った。


「転入初日の留学生をそんなに皆で和訳茶にしないの。それと質問は順番に、フェイト困ってるじゃない」


「アリサ…」


こういった雰囲気があまり得意でないフェイトは助け舟を出しに来てくれたアリサに対して素直に感謝していた。


しかしその助け舟もあまり意味を持たなかった。
一つ目の質問を答えるまではしっかりと制御が出来ていた。
そこから次の質問が出されるとその後を追うように次々と質問が飛び交っている。
そんな一連をなのはとすずかはクスクスと笑いながら傍観していた。


二人の知り合いが転校してきたことによりクラスはいつも以上に賑やかになり、そんな調子で休み時間が過ぎていった。



――放課後――。



「フェイトちゃん。一緒に帰ろう」


「うん。ちょっと待っててなのは」


「あれ、二人はもう帰るんですか?」


午後の授業が終わり帰りの挨拶を済ませたなのはとフェイト。
そんな帰り支度をしていた二人にギルガメッシュが声を掛けてきた。


「うん、ギル君も一緒に帰る?」


「僕は少し野暮用がありますので。おっと、それよりも二人に伝言があるんですよ。ちなみにクロノさんからです。まず、なのはさんのデバイス、レイジング・ハートの修理は来週ぐらいまでかかるから緊急時はすぐに避難するようにとのことです。あとフェイトさんに「寄り道は自由だが、夕飯までには帰ってくるように」と言ってました」


「わかった。ありがとうギルガメッシュ」


「ありがとね。ギルくん」



「なのは~。早くしないと置いてくよー」


「フェイトちゃんも早く早く」


自分達に伝言を伝えに来てくれたギルガメッシュに素直にお礼を言った二人はアリサとすずかの二人と仲良く教室を出て行った。


「さて、僕もさっさと用事を片付けないと」


二人が出ていき、この場に自分以外誰ひとりいない状態で一言そう呟く。
そしてギルガメッシュは屋上へと足を向け、階段を駆け上がって行った。







長い階段をようやく登り切り、屋上のドアノブを捻る。
ゆっくりと開くドアから眩い太陽の光が漏れてくる。
徐々に目が慣れ、ギルガメッシュの目に映し出される光景。
それはこの海鳴市が一望できると思えるような景色だった。


「へぇ、中々いい景色だ。ここはいわゆる隠れスポットってやつかな。いつか由紀香と一緒にこんな景色を眺めてみたいな。」


目の前の景色を目の当たりにしてギルガメッシュはそんな一言を呟いていた。


「どうでもいいけどよ。お前ここに来た本来の目的忘れてねえか?」


そんな鑑賞に浸っているギルガメッシュにいつの間にか背後にいたランサーが現実に引き戻すかのように歩み寄る。


「失礼ですねランサーさん。別に忘れてなんかいませんよ。大体ランサーさんにも敵のサーヴァントの捜索を頼んでいた筈ですが」


「まあ今はサーヴァントの気配も感じねえしな。アイツらならライダーが付いてるから大抵の奴なら何とかするだろ。それよりうまくクラスには入れたのかよ?」


「心配性ですね、ちゃんとなのはさんと同じクラスに入れましたよ。クラスの雰囲気もいいし僕にとっては居心地いいですよ。よかったらランサーさんもどうですか?」

ギルガメッシュは自分が飲んだ薬と同じものをランサーに差し出す。
取り出したのは“若返りの薬”。
飲む事で一定時間子供の姿に戻ることが出来るのだが、ランサーは全く興味なしと言わんばかりに拒否していた。


「冗談。子供に戻るのはテメェだけで十分だぜ。生憎とオレは今の自分が気に入ってるもんでね、子供に戻るつもりは全くねえよ」


断固として拒否するランサー。
それはランサーの子供姿に興味があったギルガメッシュからすればつまらないことこの上ない返答だった。
そのためギルガメッシュは少し肩を竦めて溜息をついていた。


ちなみに今ランサーが着ているのはいつもの戦闘服ではなかった。
アロハシャツとチェーンを付けたGパンという間違いなく一般人から注目を浴びそうな服を着ている。


「それよりも、本命は見つかったのかよ?」


ランサーはそんな俯き軽くブルー状態になっているギルガメッシュにここに来た目的の結果を聞いていた。


「ええ、首尾は順調ですけどそれにしても随分大規模な結界ですね。そういえば第5次聖杯戦争でも似た宝具が使用されてましたよね。ランサーさんは心当たり有りませんか?」


当時のマスターである言峰綺礼から第5次聖杯戦争のある程度の内容は聞かされていたため大まかには把握していた。
しかし、あくまで大まかにしか知らないギルガメッシュは第5次の時に召喚され、各サーヴァントの偵察をしていたランサーに尋ねてみる。


「ああ、そういえばライダーがこれによく似た宝具を使用していたな。確か真名は『他者封印・鮮血神殿(ブラッドフォート・アンドロメダ)』だった筈だ。なるほどな。これを利用してこの町にいる奴のリンカーコアを一気に蒐集しようってハラかよ」


魔力は生物であれば質は違えど誰でもその内に宿している。
今回のように大量の人間から蒐集することが出来ればそれだけ闇の書のページ蒐集も捗る。
そういった意味では今回張られている結界は以前より凶悪になっている。


その決定的な違いは結界の規模である。
今回の結界、ブラッドフォート・アンドロメダはこの海鳴市をほぼ全部覆っていた。


第5次聖杯戦争では保険として使われたため小規模であった。
しかし今回はなりふり構わずに魔力の源であるリンカーコアを蒐集する事が目的のためにとてつもなく大規模になっていた。


まだこの結界が第5次聖杯戦争のライダー(メデューサ)のものだという確証は現時点ではない。
だが町全体に張られている結界がそれを物語っていた。
何より以前この宝具が使用された時と状況や目的が酷似している。
それにより二人は既に結界の主をメデューサだと当たりを付けていた。


自分達と同じサーヴァントが他にも敵としてこのゲームに参加しているという話。
それならメデューサが敵側にいる可能性はもはや決定的と言っていいだろう。


その可能性を考慮して3人が話し合った結果。
マスターを含めた沢山の学生が集まり、海鳴市全体を見渡せる学校に潜入して確認するべきという結論に至った。
そして今回はギルガメッシュがマスターの守護も兼ねて学校へ転校という形で学校へ入る事になっていたのだ。


「そういえば結界と言えばこっちの世界に来た直後にもここ等一帯に結界が張られてましたよね。今町全体に張られているのとは違うみたいですけど」


「元々世界が違うからな。マスターの嬢ちゃん達でも当たり前のように空を飛んで戦闘していたからな。どうやらこの世界では魔法が主流になってるみたいだし、初日に張られた結界も魔術でなくて魔法の一旦なんだろうよ」


既に確信しているかのようにランサーは言い切る。
そして、ギルガメッシュもランサーの主張は概ね間違ってはいないと判断するや否や、なるほどと言わんばかりに頷いていた。


「それじゃあ当面の目的は宝具を使用される前にライダーさんを始末する事ですね」


「そう言う事になるな。方針としては分かり易くていいんじゃねえか。あと一つ付け加えるとあの宝具の発動にはある程度の日数はかかっていたな。だがこの様子だともってあと1~2日ってところか」

イスカンダルとギルガメッシュ、そしてランサーがこの世界に来てから今日で2日目になる。
初日に結界が仕掛けられたとなれば確かに猶予はあと僅かであった。


「あまり時間はありませんね。とりあえず僕はこれで起点を順番に潰していきます。敵のサーヴァントの方はランサーさんに任せますよ」


そう言うとギルガメッシュは王の財宝から一つの短剣を取り出していた。
それは刃の部分が雷のように曲がっている不可思議な剣だった。


「何だ、その短剣は?」


「あれ、知らないんですか? 確かキャスターさんが同じ宝具を使っていた筈ですが」


ギルガメッシュが王の財宝から取り出した宝具。
それは第5次聖杯戦争に召喚されたキャスターが所持していた宝具『破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)』。


これにより第5次聖杯戦争では三大クラスであり白兵戦最強と謳われるセイバーの契約を無効化。
その上キャスターの支配下になるという事態に陥った。


破壊力という点では正直話にもならないが、ある一点に関しては反則とも取れる型破りな宝具になる。
それはあらゆる魔術による生成物を初期化する裏切りと否定の剣。
使い方によっては状況が一変する正に一発逆転の宝具である。


しかし全てのサーヴァントと一度は闘っているが、その殆どが様子見で切り上げられていたランサーは、その宝具に見覚えがあるはずもない。


実際、アーチャーとセイバーがキャスターの手に堕ちた事。
その時に衛宮士郎及び遠坂凜と手を組んでいたランサーは知っていた。ただその詳しい方法までは分かっていなかったのだ。


「なるほど、コレが問題の宝具かよ……」


ギルガメッシュからその短剣を見せてもらうとその時の事を思い出したのか。
目の前の短剣を見ながらランサーの表情が見る見るうちに不快なものになっていく。


しかし、それも無理はない。


この宝具によってアーチャーが二度に渡り遠坂凜を裏切ったという事実がランサーの脳裏に焼き付いている。
そして、ランサーが何より嫌う事それもまた“裏切り”である。


英雄でありその剣を主のために捧げるという誓いを立てておきながら二度もその誓いを破った事。
あまつさえ英雄でありながら誇りが不要とまで言い放ったアーチャーがこれ以上なく嫌いだった。


「まあランサーさんが不快になるのももわからなくはないですけどね。もしまた出会ったらその時に後悔させてあげればいいじゃないですか。とにかくサーヴァント討伐の方は任せましたよ」

目の前の短剣を睨みつけているランサーに宥めるように言う。
相方が持つルールブレイカーを王の財宝に戻すと屋上を後にして階段を降りて行った。


「チッ! まぁ済んだ事だしな、確かにアイツの言うとおりだ」


既に屋上を降りて行ったギルガメッシュの方向をランサーはいつまでも上の空で見ながらランサーは自分の過ちを振り返っていた。


そんな物思いに耽ってからどれくらい時間が経ったのだろう。


ふと、気が付くともう夕方に差し掛かっていた。
海の向こう側に輝く夕焼けがとても眩しく光り、その光が町全体を綺麗に染め上げている。


そんな夕焼けの景色を暫く眺めていた。
――しかし、そう呑気に構えている訳にもいかない。
メデューサの始末を任された以上その期待に応えなければならない。
そうしなかった場合、ギルガメッシュの体が元に戻った後でどんな罵倒で罵られるか分かったものではない。
そう考えたランサーは、屋上を去りメデューサ散策のため町中へと向かうのだった。





[26637] 王達と駄犬の共演 (Fate×リリカルなのは) 4話
Name: マイケル◆22054d9e ID:5ac7a9ee
Date: 2011/06/08 15:16
海鳴市一番のデートスポットであるここ海鳴臨海公園。
ギルガメッシュは学校を含めた町中の結界内に幾つも存在する基盤の魔法陣を虱潰しに潰して当たっており、現在この場所に来ていた。


「ふぅ、これで20個目か。さすがにこれだけ結界の規模が大きいと魔法陣の量も段違いだな。でも今日だけでも結構潰せたし、これで少しでも時間が稼げればいいんだけど…。」


結界を消滅させるためには結界を張った本人であるメデューサを倒す事が一番手っ取り早い方法。
だが、肝心のメデューサの居場所が全く分からないため、以前遠坂凜が取った方法と同じように時間稼ぎをするしかなかった。


しかし、そんな危機的状況に面しながらもギルガメッシュの顔に焦りは微塵もない。
むしろその顔にあったのは笑顔。
楽しいことを見つけ、ひたすらそれに夢中になった時に浮かべるような笑みである。


そう、ギルガメッシュは楽しんでいた。
元々暇つぶしに始めたこの余興だったが、かつて矛を交えた英雄達ともう一度戦える。
大半がギルガメッシュの中では雑種として分類されていたとはいえ、少なからずギルガメッシュを楽しませた者もいた。
そんな者たちとの聖杯や令呪に縛られることもなく英雄の銘を競い合うことのできる本当の真剣勝負。


聖杯戦争に参加したサーヴァントであれば、少なからずどのサーヴァントも抱いていた願望であり、ゲームという形ではあるがこの世界はそれが見事に実現されている。
その事にギルガメッシュは大変満足していた。
そしてその気持ちは共にこの余興に参加したイスカンダルとランサーも感じているに違いない。


そんな事を思いながら暫く作業を続けていたが、ふとその手を止めて空を見上げる。
気が付けばもう周りは真っ暗であった。
街頭でいくらか明かりはあり、場所が場所なだけに人通りはまだ激しいが、公園の時計台を見ると時計は午後9時を指していた。


ここら辺が潮時だと感じたギルガメッシュは踵を返し、自分の住居に帰ろうとしたがよく考えてみればそのようなものは存在しなかった。
正確にはギルガメッシュ達三人はアースラに個室を用意されていたのだがギルガメッシュは―――


『このようなみすぼらしいところが王の部屋だと!? 戯言を抜かすにも程があるぞ!! もうよい!! 部屋は我の方でなんとかする!!』


などと言い、その個室がよほど気に入らなかったようで結局この海鳴市の何処かに寝床を構える事にしたのだが、正直この町について詳しくないギルガメッシュはどこに何があるかまだ正確に把握していない。
考え抜いた結果、町を見渡してホテルを探すことにしたのだが一向に見つからない。
この町は見た目以上に色々な施設があり、町としてはかなり大きい部類である。


それならホテルの一軒や二軒はあっても不思議ではない。
そう考え街中を歩いていたが予想以上に町が広く、このままでは目的地にたどり着く前に夜が明けてしまう。


どうしようかと思案に暮れていたがふと名案を思い付く。
そして即座に行動に移り、ある人物に念話を送り始めた。


『すみません夜遅くに。まだ起きてますか?』


『あれっ、ギルくんどうしたの? こんな時間に』


ギルガメッシュの思いついた名案はそう、この町に住み尚自分のマスターであるなのはにホテルの場所を聞くというものだった。
念話から聞こえてくるなのはの声はとても眠たそうであった。
既に床に就いていたのか、念話の所々に欠伸が混じっているようにも聞こえる。


『ちょっとなのはさんに聞きたいことがあって。この町にホテルはありますか?』


『ホテル? ……そういえば最近月守台の温泉街に「ホテル・浦島」っていう大きいホテルが建ったってお兄ちゃんが言ってたけど、えっと場所は…北側の山を越えた先にあるよ。あと温泉街まで結構距離あるけど大丈夫?』


自分を歴史上の英雄だと知った上で尚、同級生の友達のように優しく接してくるなのは。
そのマスターの声を聞いていたギルガメッシュは、契約を交わしたマスターと初めて対面したアースラの病室で自分がなのはに対して感じていた擬視感が何を指し示していたのかを今ようやく理解する。


今自分が念話を通している相手である高町なのは。
このマスターはかつて自分が求婚まで行い、そして矛を交えた相手であるセイバー。
そして薬で小さくなった自分が好きになった三枝由紀香の二人とどこか似ていたのだ。


だが、あの時に感じたもう一つの要因である親近感がギルガメッシュは解せなかった。
確かに膨大な魔力を宿しているが今までで自分と似ている所などまるで見当たらない。
なのはがセイバーや由紀香と似ているのならばなぜ親近感などを感じるのか。


『大丈夫ですよ。ありがとうございますなのはさん』


思う事は色々あるがそれは後回しでもいいと思ったギルガメッシュは情報を提供してくれたなのはに一言お礼を言った後で半ば強引に念話を切った。


「さて、場所は分かったしそろそろ行くとするか」


目的の場所が分かったからなのか、ギルガメッシュの足取りも先程より軽やかになる。
そのまま商店街の通りを歩いていると、とある店先に見覚えのある後姿が目に入った。


「あれっ? あの後ろ姿は……」


周りの人とは明らかにサイズの違う巨体とこの12月にTシャツ一枚の後ろ姿。
考えるまでもなく征服王イスカンダルであった。


「こんなところで何やってるんですか?」


「おお、金ピカではないか。こういう市場をひやかす楽しみは戦場の興奮に勝るとも劣らぬからな。こうして時々商店街に足を運んでおるのだ。そういう貴様は宿は見つかったのか?」


アースラの個室を断固拒否して出て行った事が気になり、ギルガメッシュに尋ねた。


「ええ、もうホテルの場所は分かりましたから今から向かうところなんですけど場所がちょっと遠くてですね。もし暇ならライダーさん、お願いできませんか」


この男の性格をよくわかっているイスカンダルはギルガメッシュが何を自分にお願いしますと言っているのかを一瞬で察知する。


イスカンダルのクラスはライダー(騎乗兵)であり、それを象徴する宝具・神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)を持ち合わせている。
歩いていけば間違いなく1時間以上はかかるが、神威の車輪を走らせればここから目的場所まで10分とて掛からない。


「まぁ余は構わんが既に夜も更けた事だしな。ついでに余も行って構わんか?」


本来なら自分以外お断りと言いたいギルガメッシュであるが、自分のために宝具を使ってくれるイスカンダルの頼みを無碍にするというのは後味が悪い。


「いいですよ別に」


複雑な心境のギルガメッシュから返された答えはそんな素っ気ない一言だったが、ホテルに一度泊まってみたかったイスカンダルからすれば願ったり叶ったりだった。


「では行くとするか。来たれ、神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)!!」


ノリノリの気分でキュプリオトの剣を振り下ろすと同時に現れるイスカンダルの宝具。
ギルガメッシュには見慣れたものだが改めて見ても宝具としての強さがよくわかる。


全てを蹂躙し尽くす巨大な車輪の両脇に光る禍々しい鉈の刃にその車輪を牽引する二頭の神牛ゴッド・ブル。
それは正にライダーの名に相応しい騎乗宝具であった。


「ほれ、少々乗り心地は荒いがまぁそこは我慢して乗るがいい」


ライダーは自らの宝具に騎乗すると急かすように手招きをする。
手招きを受けたギルガメッシュが颯爽と神威の車輪に乗り込むとイスカンダルが同時に二頭のゴッド・ブルに手綱を入れた。
すると手綱を入れられたゴッド・ブルはその夜空全体に響き渡るような雄叫びを上げると同時に無人の荒野を駆け抜けるが如く天を駆け抜けていった。






20分後……。

時間通りに目的のホテルに着いた二人はホテルの中に入っていき、現在ギルガメッシュがチェックインを済ませていた。


その間イスカンダルは暫くホテルのロビーに置かれているテレビをソファーに座り見ていた。
が、数分程するとギルガメッシュが戻ってくる。
手には部屋のカギが握られていた。


「随分早かったがもう手続きは済んだのか」


「ええ。思い切ってこのホテルの所有権ごと買い取ってきましたので、部屋は好きに使ってもらって結構ですよ」


「…………――」


その言葉を聞いて暫くイスカンダルは呆然としていた。
いや、というよりは今のギルガメッシュの言葉が理解できなかったという方が正しいか。


知っての通りギルガメッシュは正真正銘の金持ちであり、それを称えるような固有スキル黄金律を持ち合わせている。
ギルガメッシュはその持前の金を使用し、このホテルごと買い取ってきたのだ。
その行動は正に成金そのものである。


「じゃあ僕は最上階のスイートを使用しますので、もし良ければライダーさんも同室に来ますか?」


ホテルに泊まってみたかったのは事実だが、折角のホテルで一人きりで泊まるというのも味気ない。
それならば話し相手が一人でもいた方がマシであると考えたイスカンダルはギルガメッシュと同室に泊まることにした。


部屋が決まると早速そのスイート部屋に入る二人。
さすがスイートというだけの事はあった。
部屋に設置されたベッドは2つだが、とても2人で泊まるには勿体ないほど部屋は広々としていた。
加えてシャンデリアやツインベッドなどその部屋に置かれている全ての物、部屋のあらゆる処から高級感が漂ってくる。


「ほぉ、これがスイート部屋か。中々いい部屋ではないか」


「当然ですよ。なんせこのホテルで一番いい部屋ですからね。やっぱりホテルはスイートに限りますよ」


その時のギルガメッシュを見ていると、『姿形は違うとはいえ、根本は何も変わらんな』とイスカンダルは心の底から思う。


そんな金持ち発言全開のギルガメッシュを無視してイスカンダルはベランダに顔を出す。
辺りもすっかり暗くなっているが、街のネオンライトや移動する車の光などで照らされる海鳴市の町。


まるで暗闇に光る蛍のように綺麗だった。
全てを覆い隠す闇のような黒とそこに映る儚く見えるような小さな町の光が美しいコントラストを描いている。


「そういえばランサーの姿が見えぬが、どうしたんだ?」


景色を暫く見ていたイスカンダルは、この場に唯一いないサーヴァントであるランサーが気になったのか所在を唯一知るギルガメッシュに尋ねる。


「ランサーさんにはマスター達の護衛を頼んでありますから。多分アースラに寝泊まりしている筈ですよ」


イスカンダルの最強宝具である王の軍勢によって確かにアサシンは敗れた。
が、既に第4次聖杯戦争でアサシン(ハサン・ザッバーハ)と面識のあるギルガメッシュとイスカンダルは一種の不安が拭えなかった。


アサシンの宝具・”妄想心像”はアサシン以外の者は自身を分裂させる宝具という事までしかわからない。
そう、肝心のアサシンがこの宝具によって一体何体まで増えているのかが分からないのだ。


『王の軍勢』によって相当数のアサシンが消滅するのを間近で見ていた二人だが、あれで全部とも限らないために油断は禁物である。


隠密行動及び暗殺に長けるアサシンが確実に消滅したことを確認しない限り此方から行動を起こすのはリスクが高すぎる。
ある程度の敵の数や情報がわからなければ此方からは動きようがなかった。


「まぁ隠れ住むだけしか能のないアサシンなど余の敵ではないがな」


心の中で思っている事とは裏腹にイスカンダルは余裕の表情を見せつける。
確かに単純なサーヴァントの力の差にしてもイスカンダルはアサシンの能力を遥かに上回っている上にイスカンダルは一度アサシンを倒している。


その事実に加え、元々イスカンダルはギルガメッシュと同じ王であり、焦りや不安といった感情が存在しないに等しい。


また、この征服王は今までありとあらゆる無理を己の信念で貫き通してきた。
そのためか、このような劣勢は良いハンデ位にしか考えていないようであり、その余裕は王として神話に名を残したこの二人のような英雄が持てるものに違いない。


そんな相方を見ていたギルガメッシュが浮かべているのもいつもの笑顔だった。


「そうですね。でも酷使しすぎるのもいけませんよ。そうでなくてもライダーさんの宝具『王の軍勢』は魔力の消費が激しいんですから」


「なんだ、気付いていたのか」


「当たり前です。気付かないとでも思ってたんですか」


一方的な結果だったとはいえ、宝具を使用しての真剣勝負を行った者同士だからこそ出来る互いを理解した上での言葉のキャッチボール。
その交わされた会話には言葉以上の意味が含まれている。
ギルガメッシュの言う通りなのか、イスカンダルも隠さずに自分の現状を素直に認めていた。


イスカンダルの宝具『王の軍勢』は固有結界。
心象風景を具現化して世界を浸蝕する大魔術であり、本来魔術師にしか扱えない。
それをイスカンダルは自分が率いた軍勢全員の心象風景を一つにする事で固有結界の維持を可能にしていた。


だが欠点も当然存在する。
固有結界は世界を塗り替える大禁呪である故に発動させるために必要な魔力量がとてつもなく多い。
そのため、連続で使用するという事が余程の状態でない限り不可能なのだ。


イスカンダルとて例外ではない。
サーヴァントである以上魔力が尽きれば肉体を維持できなくなるため、軽々に切り札を出す訳にもいかない。


「確かに貴様の言うとおり宝具の使用で幾らかの負担があったからな。余はもう休ませてもらうぞ」


もはやギルガメッシュ相手に取り繕う必要はないと感じたイスカンダルはベッドに横になり休息を取る事にした。
床に着くや否や直ぐに鼾が聞こえてくる。
どうやら思いの外負担が大きかったようだ。


静まり返ったスイートルーム。
ギルガメッシュはベランダから海鳴市の夜景に黄昏ながら――、静かにポツリと一言呟いた。


「さて、そろそろ本命を狩りに行くとしましょうか」







同時刻:海鳴市・八神家


現在闇の書の主である八神はやての家であり、ヴォルケンリッターの守護騎士4人の住まいでもあるここ八神家では夕食が終わり各自自由行動を取っていた。


はやてとシャマルは現在入浴中。シグナムとヴィータ、そしてザフィーラはソファーに座りながらテレビを見ていた。いつもならはやてと一緒に入るはずの二人が珍しく昨日今日と続けて入浴の時間をずらしていた。


「お風呂好きが珍しいじゃねえか。しかも二日連続で一緒に入らねえなんて」


その事に心当たりのあるヴィータが鎌をかけるようにシグナムに話しかけた。


「たまにはそういう事もある。ところでそういうお前も珍しいな。主と入らないなんて」


「多分、シグナムと同じ理由だよ」


同じように鎌を掛けあい、同じように答えを返す二人を見ていたザフィーラは、その原因が何なのかを悟り二人に問い詰める。


「昨夜の戦闘か?」


「聡いな。その通りだ」


「相変わらず鋭いよな。まぁその通りなんだけど」


ザフィーラの思っていた事はピタリと当たっていたのか、
シグナムとヴィータはそれぞれの傷跡が見えるように服を捲り上げる。
シグナムは左腹部、ヴィータは右腕にそれぞれの戦闘で付けられた武器による傷跡が残っていた。


しかし、ザフィーラにはここで一つの疑問が思い浮ぶ。


見た感じでも付けられた傷はそう酷いものではない。
治療を施せば直ぐにでも治りそうな小さな傷なのに、なぜその傷を二人はそのまま放置しているのか。


その理由を考えるが、この二人が意味もなくただ傷を放置する理由が見当たらない。
謎ばかりが深まる中、シグナムがその疑問を見透かしていたかのようなタイミングで静かに口を開く。


「おそらく原因は、私達が戦った奴の持っていた武器そのものの性質だろう」


「どういう事だよ、それ?」


シグナムの言っている言葉の意味が理解できないのか、ヴィータは更なる説明を要求する。


「考えてもみろ。もしこの傷が治らない原因が何らかの魔法によるものだったとしたら、
それがミッドチルダ式であれベルカ式であれ我々が気付かない筈がない。だが、実際は今の今まで原因が全くわからなかった。となれば原因は魔法以外の何か別の原因があるという事だ」


「なるほど、確かにそうかもしれねえな。アタシが戦ったあの金髪の男も一度も魔法を使ってなかったしな」


「ああ、私が戦ったランサーと名乗るあの男も魔法は一切使用していなかった。単純に槍のみの接近戦闘だったからな。そういえばザフィーラ、お前もどうやらその時誰かと交戦していたようだが」


いきなり話を振られたザフィーラだが、冷静にその時の事を思い出しながら質問に答え始める。


「ああ、名をイスカンダルと言っていた。2mを超える大男だが、奇妙な乗り物に乗っていた」


「乗り物? そりゃまた随分変わった戦闘スタイルだな。どういう乗り物だよそれ?」


「一言で言うと陸空どちらも同じように疾走する馬車のような乗り物だ。二頭の牛がその乗り物を牽引していた」


ザフィーラと戦った魔法を一切使用せずに空を駆け抜ける馬車に乗る大男。
ザフィーラの話を聞いていた二人は確信する。
この場の三人が戦った者達が使用していたのは確実に魔法とは別の概念であると。


「それにしてもアイツ等一体何者なんだろうな。正体は全くわからねえし、とんでもなく強いときてる」


「確かに、そして何より戦い慣れているあの無駄のない動き。もしかしたら奴等も私達と同じ戦う事を目的にこの世に生を授かった者かもしれないな」


闇の書の主の守護騎士の将としてランサーと戦ったシグナムはランサーの強さ。
そしてランサーが自分達とどことなく似ていると感じており、事実その予感は大凡的中していた。


守護騎士もサーヴァントも自分のマスターを守護するという点では見事に一致し、その肉体を魔力で保っているという点でも同じである。
また互いに様子見の戦いとはいえ、打ち合った事である程度相手の事を看破する事が出来ただけでも首尾としては上々だろう。


そうして暫く三人が話していると、風呂から上がったはやてとシャマルがリビングに入ってきた。


「二人ともお先に♪」


「ふぅ~、いい湯やった。おっ、三人集まって楽しそうやな~。何や面白い事でもあった?」


「いえ、これといって特に」


少々不意打ちではあったが、はやてに話しかけられる直前まであった険しい表情を瞬時に捨て、穏やかな笑顔でシグナムは話し始める。


そのやり取りを見ていたザフィーラ、ヴィータ、シャマルの三人は同時にある事を思った。


闇の書の主が八神はやてになってから、守護騎士全員が変わったという事を。
それはもちろんこの場の全員にとって良い事だった。


前回までの闇の書の主は皆守護騎士達にただ淡々と命令を下し、まるで道具のように扱っていた。
それ故に守護騎士達もただ命令に従うという単純な主従関係に従っていただけだった。


だが、今回の主である八神はやては違った。
戦う事で闇の書の完成させることが目的の筈の守護騎士達をまるで家族のように暖かく迎え入れてくれた。
また、そんな事情など関係ないと言わんばかりに現在も守護騎士達と生活を共にしている。


そしてその生活は守護騎士達に大きな変化を齎した。
本来なら感情を持つ筈のない守護騎士がしっかりとした感情を抱き始めたのだ。
その感情が大きくなるに連れ、守護騎士である4人もはやてとの生活がこれ以上なく暖かく、最早今の自分達の全てと言っても過言ではない程だった。


今の守護騎士4人にとって目的はただ一つ、主である八神はやてを守る事。
これは主により自分たちが持ち始めた感情が齎した変化に違いない。


「ヴィータ。少しいいか?」


三人が考え事をしていることで妙に静まり返ったこの場だったが、シグナムの一言が出た事によりいつもの賑やかな八神家に戻っていた。


「んっ、なんだよシグナム?」


いつの間にか庭の方へ移動し、首でこちらに来るように指示しているシグナムの元へヴィータは早足で駆け寄った。


「お前が戦っていたあの男は名を名乗ったか?」


単刀直入に聞くシグナムの表情は何時になく真剣である。


「いいや。アタシも正体を訪ねたけど答えなかったし。だけどアイツ、
おそらくアタシが今まで戦ってきた中でも一番だと思う」


あの夜の戦闘で、これ以上ないタイミングでヴィータに直撃する筈だった宝剣と宝槍を防いだシグナムだが、その攻撃の脅威は攻撃を防いだシグナムとそれまでギルガメッシュと戦闘していたヴィータが一番よく理解していた。


あれだけの数の武器を投擲しているのであれば、その一発一発の威力はそこまで高いものではない。
ギルガメッシュの『王の財宝』を初めて見た二人は最初そう思っていた。
だが、実際は全く逆である。
打ち出される武具はカートリッジを駆使したヴィータのシールドを容易く貫いていた。


ギルガメッシュの宝具『王の財宝』から打ち出される武器は全ての宝具の原型である。
それは神話上では英雄王ギルガメッシュの死後、世界各地の英雄達が扱った武器のオリジナル。


その武器の威力は計り知れず、持つ者によっては必殺の武器ともなり得る至高の武器である。
禍々しい呪いを宿しているモノもあれば膨大な魔力を宿す武器も存在する。
そんなより優りの古今東西の武具を全て所持しているギルガメッシュは最早サーヴァントのみに対する脅威だけでは収まらない。


成り行きとはいえ、そのギルガメッシュと一瞬でも戦闘を交えたのだ。
もう少しでもあの場に留まっていれば、ヴィータもシグナムも無事では済まなかったに違いない。


また、そう思ったからこそあの時シグナムも即座に撤退を命じていた。
これまで幾多の戦場を切り抜けてきた守護騎士だからこそあの場の危険を感じ取る事が出来たのだ。
そう、この結果はシグナムとヴィータが掴み取った唯一の生き延びるための道――。いや、最善の策だったと言える。


「何れにせよ敵であることに変わりはないが、それよりランサーを食い止めていた髑髏の仮面をつけていた影のような奴がいたな。アイツについては何か知っているか?」


「いや、アタシもわかんねーよ。闇の書の蒐集を手伝ってくれた事もあるし少なくともアタシ達の敵じゃねえと思うけど」


確かにヴィータの言う通りである。
理由はどうあれ自分達が随分前から目をつけていた者のリンカーコアを闇の書に蒐集してくれた事。
これは紛れもない事実であり、その目的は守護騎士4人と一致している。


だが、その事実を考慮しても何か感じるものがあるのかシグナムは納得がいかない様子だった。
それは言うならば不信感。
守護騎士として長い人生を送ってきた者の勘とも言えるものがシグナムの決断を躊躇わせていた。


まるで『信用してはならない』と心の中で何かが告げているようである。
形にならない不信感をシグナムはどうしても拭いきれなかった。


「そう警戒する必要もねえだろ。別にアタシもシグナムもシャマルもザフィーラも今のところ何ともねーし、もし敵だとしてもそれがわかったその時に一緒に始末すればいいだけだしな」


不安を抱いているシグナムを諭すようにヴィータが言う。
そんな何気ない言葉一つでもシグナムの不安を払拭させるには十分だと思ったのか。
ヴィータはそれ以上この話を蒸し返す事はしなかった。。


「…そうだな」


ヴィータの言葉で迷いを振り切った二人の間にはもう先程までの張り詰めた空気は綺麗に消えていた。


「ヴィータ~シグナム、風呂お先にな」


そんないつも通りの二人に先に風呂に入ったはやてが声を掛けてくる。
そんな自分のマスターにヴィータは急に思い出したように話を切り出した。


「そういえばはやて、冷凍庫にあるアイス食べていいかな?」


「おまえ、夕食をあれだけ食べてまだ食うのか」


先程の騎士としての顔を捨て、家族としての顔に戻ったヴィータは食後用に買っておいたアイスを食べようとしている。
しかし夕食直後だと言うのにお構い無しと言わんばかりにアイスを食べようとするヴィータにシグナムは半分呆れるような声を漏らした。


「うっせーな、育ち盛りなんだよ。はやての御飯はギガ美味だしな」


余程はやての御飯が美味かったのか、豪語するヴィータの顔は実に晴れやかだ。


「しゃーないな。――ただしチョットだけやで」


晴れやかな表情のヴィータを見ていたはやてが即承諾の意志を見せると、子供のような喜びようでアイスを食べに冷凍庫の方へと走っていった。


「シグナム」


「はい?」


ヴィータがこの場にいなくなったのを見計らったはやてがシグナムに声を掛ける。
その表情は真剣であった故にシグナムもある程度の心構えで話を聞くことにした。


「シグナムは皆のリーダーやから一つ約束してくれるかな。現マスター八神はやては、闇の書には何も望みない。私がマスターでいる間は闇の書の事を忘れてええ。皆の仕事は家で仲良く過ごす事、それだけや。約束できる?」


その内容は今までの闇の書の主からはとても考えられなかった。
本来闇の書は完成するまではただ周りの者から魔力を奪うだけの書物に過ぎない。
その力を真に発揮するのは全ページが蒐集されてからの話なのだ。


また、一定期間リンカーコアの蒐集が止まっていると最終的には主の魔力を吸い取っていくという正に正真正銘の魔力食いのロスト・ロギア。
それ故に守護騎士達は闇の書の完成を目標により早くリンカーコアを蒐集していた。


だが、今回はやてがシグナムに約束させた内容は闇の書の主としては明らかに矛盾している。


そんな矛盾している主からの約束だがシグナムは疑問ひとつ抱くことも無く微笑みを返しながら主の問いに静かに答えた。



「誓います。騎士の剣に賭けて」



笑みを浮かべながらシグナムは主はやてに答えを返す。
そして暖かい生活を提供してくれる主はやてに感謝しながら守護騎士4人はいつものように平穏な夜を満喫していた。




あとがき。
投稿するのが大分遅くなりました。
期待していた方、本当にお待たせしました。
さて、今回はギルガメッシュが中心となった話でしたが、できるだけ原作に沿いながらもオリジナルも適度に入れていこうと思います。
あと、夜の街をゴルディアスホイールで疾走するイスカンダル――、どことなくサンタクロースを連想しましたね。姿形が似てるからでしょうけど(笑)


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