ゲームの電源を入れた三人は、気が付くと幾つもの街灯に照らされた見知らぬ街中にいた。
日も落ちて既に薄暗いにも関わらずに街は人通りが激しくとても賑やかである。
「さてと、全く知らない世界にやってきたはいいが、まずどうするよ?」
未知なる世界へと飛んできて開口一番にランサーがそんな疑問を口にする。
一方、ゲーム慣れしている二人の王は次にとる行動がわからないランサーに対して盛大な溜め息を漏らしていた。
「とりあえず、マスターとやらを探す必要があるな。」
「そうであろうな。マスターに出会わぬことには始めようにも始められん」
「なるほどな…って、おい金ピカ。 テメェいつの間に元に戻ったんだよ!?」
ランサーの驚きも尤もである。
ゲームが始まる時まで幼児化していたギルガメッシュがいつの間にか元の姿に戻っていたのだから。
「いやなに、せっかく用意させた遊戯だからな。趣向を変えて今だけ我に戻ったのだ」
などと軽口を叩くギルガメッシュに『戻らなくてもいいのに』といったような表情で現実逃避を続けるランサー。
そんなランサーを現実に引き戻すかのようにライダーは二人にこれからの行動について話を切り出した。
「とりあえず皆の衆。ここからは三手に分かれてマスターを探すとしよう。この世界ではプレイヤー同士で念話が使える。このように固まって探すよりは格段に効率も良かろう」
そんな現状を把握しているライダーの提案は的確な方法だと判断した二人はその提案に乗る。
「ところでよ。マスターを探すのはいいが、どうやってマスターを見分けるんだよ?」
「マスターは膨大な魔力を所持している。一目でわかる筈だ」
「なるほどな。んじゃ、マスター捜索といくか」
その後の方針が固まるとマスターを捜索するために三人はまるで鉄砲玉のように各方面へと散って行った。
■
海鳴市 市街地
何の変哲もない一つの町。
日中には存在していた爽やかな風と太陽の光も漆黒の闇によって綺麗に消え、あるのは静まり返った町の静けさと闇を照らす月の光だけだ。
そんな海鳴市に位置するここ市街地には今二人の戦士が降り立っていた。
全身に赤い服を纏い、闇の書のページ蒐集に励む鉄槌の守護騎士ヴィータと盾の守護獣ザフィーラである。
「どうだ? ヴィータ、…見つかりそうか?」
「いるような…いないような…、この間から時々出てくるあの巨大な魔力反応。あれが捕まれば一気に20ページ位はいきそうなんだけどな」
二人はここ最近毎日闇の書のページ蒐集を行っているのだが、その蒐集ページもまだ半分にも達していない。
にも関わらず二人は淡々と蒐集を続けていた。
「二手に分かれて探そう。闇の書は預ける」
「OK、ザフィーラ。あんたもしっかり探してよ」
「心得ている」
いつものようにザフィーラがそう言い出す。
その提案はヴィータにとって恒例となっていたので当たり前のように承諾する。
それを確認したザフィーラはいつものように単独でリンカーコアを回収するため飛んでいった。
「さて、あたしもとっとと始めるか……封鎖領域展開」
ザフィーラと別れ一人になったヴィータは先程から探していた目標をいち早く探し出すため、ここ等一体に広域結界を張り対象の捜索に意識を集中させる。
そして、不意にその動きを止めた。
「魔力反応、…本物見っけ!!」
ヴィータはつい先程から探していたリンカーコアの存在をついにキャッチしたのだ。
その方角を確認するや否やヴィータはそのリンカーコアの魔力反応を目指して一目散に飛んで行った。
■
先ほどヴィータと別れた直後にとてつもない魔力反応を感知したザフィーラは市街地の最南端に位置する場所に来ている。
「一足遅かったか…」
だが、来るのが少し遅かったのか。
先ほどまであった巨大な魔力反応が感じられない。
無駄足だったと判断し、今来た道を戻ろうとしたその時、ザフィーラは不意にその足を止めていた。
輝く雷鳴とともに不意に現れた一人の男がザフィーラの目の前に立ち塞がる。
その姿は二頭の神牛が牽引している戦車。
戦車に乗っている2mを余裕で超える大男。
その雄大な姿は独特の威圧感を身体全体から放っていた。
「殺気を納めよ。王の前であるぞ」
ザフィーラが向けている殺気に感づいたのか、目の前の大男が威厳のある声でそう宣言する。
ザフィーラ自身殺気を抑えるつもりは毛頭なかったが、目の前の男の有無を言わさない圧倒的な威圧感に無意識的にザフィーラは殺気を抑えてしまった。
「余はライダー。征服王イスカンダルである。問おう、貴様が余のマスターか?」
この男の質問の意味や意図が全く分からないザフィーラであったが、
しばし困惑しつつも否定の意味を込めて言い放つ。
「マスターなどではない。闇の書の主に仕える守護獣ザフィーラだ」
ザフィーラのその言葉を聞くと同時にライダーは、キュプリオトの剣を抜き手綱を強く握り直す。
そもそも、ライダーの今の目的は、この世界のマスターを探し出すことにある。
ならば、今ここで戦闘を行う必要はまるでない。
しかし、ライダーは久々の戦闘で自分の内にこれ以上ない胸の高鳴りが感じていた。
確かに無駄な戦いではあるがこの胸の高鳴りがある限りライダーにとっては、それはどのような戦いであろうとも無駄という概念自体が存在しない。
「では重ねて問おう。余の軍門に下る気はないか?」
ライダーが最後の質問を投げかける。
話ができる敵ならば、誰にでもこの交渉を持ちかけるのがライダーの心情。
事実第4次聖杯戦争でもランサーとセイバーに対して「モノは試し」という理由で、真名を明かした上にこの提案を上げている。
それはこの征服王イスカンダルの破天荒な性格故でもありカリスマ性があってこそ通用する理論でもある。
だが、ライダー自身もこの話が通らないことは薄々わかっていた。
何しろ殺気全開で自分を待ち構えていたのだ。
自分の軍門に下る筈がない。
それでも気が付けばこの交渉を持ちかけていた。
逆を言えばこの交渉が決裂すれば次の瞬間には戦闘が始まらざるを得ない。
「断る。私が命を懸けて守るべきは我らが主のみ、断じて貴様ではない」
「では貴様は、余の敵で相違ないのだな」
「そのようだ」
お互いに相手が自分にとって味方ではないことだけ確認すると、それまで抑えていた殺気を全開でまき散らす。
そして次の瞬間。
昼夜を見事に逆転させるほどのまばゆい雷鳴。
それを圧倒するほどの猛々しい征服王の咆哮によって、この二人の戦いの幕の火蓋が切って落とされた。
「AAAAALaLaLaLLaLaLaLaie!!」
「でえええええやああああっっ!!」
■
ここ市街地の最西端に位置する場所。
その上空を通り過ぎていくのは一人の剣士、闇の書の守護騎士・将であるシグナムであった。
いつまでも念話が通じないことに異常を感じ、ヴィータのサポートに向かう最中だったが……
「よぉ、いい夜だな嬢ちゃん。そうは思わねえか」
現在その足はこの突然現れた一人の男によって止められていた。
全身に纏う蒼と敵を見据える赤い瞳。
そしてその男の手に握られている全身の蒼とは相反する紅い槍。
その槍はまるで幾多の人間の血によって染まっている、そんな禍々しい気配を漂わせている。
そしてその槍を持ち、気軽に声を掛けてきているその男にも隙は微塵もない。
「管理局の者か、私に何の用だ?」
シグナムは軽い殺気を含めて、目の前の男に言い放つ。
ここまででシグナムは目の前の男が只者でない事を察知する。
強さというものは何も戦いの中だけで発揮されるものでは断じてない。
それこそ普段の何気ない仕草などからも見る人が見れば色々な情報が感じ取れる。
事実こちらを軽く見据えている目の前の男を一目見てシグナムは感じていた。
『この男は只者ではない』と脳が告げている事。
そして騎士としての直感が最大限の警告を発している事を。
「いやなに。少し話を聞きたくて声をかけただけなんだけどな」
「私はお前と話すことなど何もない。それよりも今は時間が惜しい。そこを退いてもらおうか」
「退く気はねえって言ったら?」
シグナムの要求にまるで、売り言葉に買い言葉と言わんばかりにランサーは挑発を仕掛ける。
ランサーとてこの女がマスターでない事は薄々分かっていた。
魔力量は確かに高い。
だが、それは平均と比べて高いというだけ。
ギルガメッシュが膨大と言う程の高さではないのがその証拠。
目の前の敵が携えているのは一本の剣だ。
おそらく接近戦を主体とする戦い方なのだろう。
それならば魔力量がそこまで多くないのも頷ける。
「決まっている。力尽くで退かすのみだ!!!」
ランサーの挑発が合図となり、シグナムはレヴァンティンを構え、カートリッジを補充する。
そしてこの市街地で二つ目の戦闘が唐突に開始されたが、傍から見るに二人の差は歴然だった。
ランサーは繰り出されるシグナムの攻撃を難なく受け流し、受け流すと同時に攻撃に転じている。
一方シグナムはランサーから繰り出される攻撃を目視することが出来ず、自らが培ってきた戦いの勘でなんとか捌いていた。
それもそのはず、槍の攻撃は剣の攻撃とは違い、突く事で真価を発揮する武器である。
薙ぐというのは上からであれ横からであれ攻撃上のラインは線として見えるために対処は比較的しやすい。
だが、突きというのは真正面から見ればそれは一つの点でしかなく、最も視認することが難しい攻撃の一つである。
そしてランサーの攻撃は見てから対処していたのではもはや間に合わないほどのスピードと化していた。
「くっ!!」
正に神速の如し――。
一回二回とランサーが突きを出す度にシグナムの守りが崩されていく。
その度にシグナムから苦悩の声が漏れる。
今目の前に立ちはだかっているのは、自分が今まで相手にしてきたどの敵よりも強いとシグナムは戦いの最中で理解していた。
「ふぅ、・・強いな。私が戦ってきたどの相手よりも実力が上だ。オマエの名前は?」
「気に入った相手とは名を交わす主義でね。だが生憎本当の名は明かせねえんでな。オレの名は、まぁランサーとでも呼んでくれ」
「ランサーか…。その名前、覚えておこう」
「そういうテメェは何者だ? 剣士にしちゃ腕が立つが、セイバーって感じじゃねぇな。そもそもサーヴァントの気配が感じられねえ」
ランサーは瞬時に見抜いていた。
自分と対峙している相手からはサーヴァントの気配が感じられない事を。
「私は闇の書の守護騎士。ヴォルケンリッターの一人、シグナムだ」
「シグナム…、いい名前じゃねえか」
戦いの中でお互いの実力を認め合ったように、互いに自己紹介を交わす。
ランサーは久しぶりに巡り会えた好敵手のような存在に血を滾らせており、それはシグナムとて同じだった。
「オレはアンタみたいな武人は嫌いじゃねぇ。正直もう少しこの場で討ち合っていたかったが、…どうやらそうもいかねぇみてぇだ」
戦闘の最中では気付くこともなかったのだろうが、相手と会話を交わしている今ではその異常が見て取れた。
ランサーはたった今、ここ一帯に張られている結界に気付いたのだ。
ここまでのやり取りでシグナムがこの世界のマスターでないと確信する。
するとまるで急用をとっさに思い出したかのようにランサーは戦線を離脱しようとする。
だが、それを見過ごすシグナムではない。
「待てランサー、逃げるのか!?」
「追ってきてもかまわねぇが、その時は決死の覚悟を抱いてこい!!」
最大限の殺気を込め、シグナムに忠告を残したランサーは恐るべきスピードでその場から去って行った。
その気になればシグナムは追うこともできたが、なぜかその気にはなれなかった。
先ほどの戦闘でも自分がランサーより劣っていたのは明らかである。
これ以上ランサーと討ち合えば自分の方が危なくなるとシグナムは確信していた。
去っていくランサーの後姿をしばらく見送っていたが、ふと我に返り本来の目的を思い出したシグナムは急いでヴィータのサポートに向かっていった。
■
同時刻 海鳴市 桜台町
海鳴市に住むごく平凡な小学3年生の高町なのは。
ひょんな事がきっかけで別世界の住民であるユーノ・スクライアと出会い魔法少女となった彼女は今、明日提出しなければならない宿題を片付けている最中であった。
宿題がひと段落したところで一息つくと、なのははふと机の上にある一枚の写真に目を移す。
そこに写っていたのは同級生のアリサとすずか。
そしてPT事件で知り合い友達となったフェイト・テスタロッサだった。
「…フェイトちゃん…」
現在フェイトはミッドチルダのアースラにいるユーノやアルフと共に裁判の最終日を迎えている。
そんなフェイトの事が心配になったなのははこうして写真を見ることでその気分を少しでも紛らわしているらしい。
『警告、緊急事態です』
そんななのはの耳に聞こえてきたレイジングハートの声に意識を翻す。
「これは……結界!?」
レイジングハートの言葉で我に返ったなのはは今この町に張られている結界に気がついた。
『対象、高速で接近中』
自らのデバイスのその言葉を聞いたなのははレイジングハートを握りしめ、空へと飛び立った。
「レイジングハート、セーット・アップ!!」
◆
異常を察知してバリアジャケットを纏い上空へと出たなのはだが、まだその魔力反応はなのはには確認できない。
だが、その誤認もすぐに解消される。
『来ます!』
レイジング・ハートの警告と共に対象が姿を露わにした。
前方から丸い物体がなのはに向かって一直線で飛んできたのである。
「あれは・・・誘導弾。・・・ッ!!!!」
レイジングハートのサポートもありその物体がいち早く確認する。
咄嗟にシールドを展開することでなんとか敵の攻撃を止めることができている。
しかし、その誘導弾も相手にとってはただの囮に過ぎなかった。
「おらああぁーー!!! テートリヒ・シュラーク!!」
不意に聞こえてきたその声にその方角に咄嗟にシールドを張った。
だがその攻撃は先程の誘導弾とは訳が違う。
囮でなく本命として撃ち込まれたその攻撃は威力が格段に高い。
さすがのなのはも相殺するどころか威力を弱めるので精一杯である。
しかし、敵の追撃を予測できていたなのはは何とか敵の不意打ちを凌ぎ切り、体勢を立て直すことに成功した。
「いきなり襲いかかられる覚えはないんだけど、何処の子!? 一体何でこんな事するの!?」
不意打ちを受けたなのはは敵に向かって問いただす。
なのはからすれば何の理由もなしにいきなり知らない人に攻撃を加えられたのだ。
その理由を聞かずにはいられない。
だが、ヴィータにすればそんな敵の事情など知ったことではない。
なぜならヴィータにとってこの場で成さなければならない目的はただ一つ。
敵のリンカーコアを回収し、闇の書のページを蒐集することにあるのだから。
魔力弾を再び出現させ、問答無用に攻撃を始めるヴィータ。
だが、なのはは理由もなしにただ戦う気はさらさらない。
しかし、目の前の敵が話し合いに応じてくれるようにはとても見えなかった。
「話を聞かせてくれなきゃ、わからないってば!!」
『ディバイン・バスター』
なのはも自分の最も得意とする砲撃魔法で反撃を試みる。
「!?」
ヴィータにとっても予想外の反撃だったのか。
回避反応が若干遅れ、その砲撃はヴィータの帽子を貫き頭の上を掠めていった。
だが、その反撃が今より悪い事態を引き起こすことになろうとはなのはは知る由もなかった。
帽子を貫かれたヴィータの表情はもはや誰が見ても明らかである。
その赤い騎士の顔は瞳の色が変貌し、狂戦士(バーサーカー)の如く怒りの感情に満ち溢れていたのだ。
(…あちゃ~…)
その表情の激変になのは自身も『ちょっとやり過ぎたかな』と深く後悔する。
しかし、既に手遅れの状態、その予感は見事に的中する形となった。
「てめええーーー!!」
怒りを露わにしたヴィータはその怒声とともになのはに再び襲いかかる。
「アイゼンッ、カーリッジロード!」
その言葉を合図にグラーフアイゼンにカートリッジが装填されるカートリッジシステム。
それは自身の体への負担を度外視し、一つ一つの攻撃の威力を底上げするシステムである。
「えっ!?」
だが、まだ現代では普及していないこのシステムはなのはにとっては未知のシステムに相違ない。
「ラケーテン・ハンマー!!」
そんな威力が上乗せされた一撃がもし直撃でもしようものなら、それは即死になりかねない致命傷を負うことになる。なのはとてそれは承知していた。
しかし、ヴィータの攻撃にはさらに補正がかかり相殺することはおろか、ダメージを軽減させることさえ困難な一撃と化していた。
「ああぁぁーー!!」
結果としてカートリッジロードされたアイゼンの一撃はなのはのシールドを簡単にブチ抜き、そのまま後方のビル内へと吹き飛ばした。
「うっ……っ…」
咄嗟にレイジングハートでガードしたため致命傷はなんとか避けることができたなのはだが、その姿は既に満身創痍だった。
レイジングハートは崩壊寸前であり、ダメージのあまり上半身の武装が既にボロボロの状態。
反撃を試みようにも視界には半分霞みが掛かっており、体も満足に動かなくなっていた。
勝ちを確信し冷静を取り戻したのか、
なのはに歩み寄るヴィータの瞳の色が次第に元に戻っていく。
勝敗は事実上決しており、あとは満身創痍のなのはにトドメの一撃を入れるだけで勝負は終わる。
(こんなので…終わり? ……イヤだ。…ユーノくん、…クロノくん、…フェイトちゃん!!!)
もはやこの戦況を変えることは無理であることを悟ったのか。
なのはは目を閉じ目の前の現実から目を遠ざける。
そしてなのはの頭上に最後の一撃が振り下ろされた―――。
『ガキンッ!!!!』
目を閉じたなのはの耳にふと、そんな打撃音が聞こえてきた。
(――やられちゃったのかな――。)
そう思うが自分の体に何かが当たった感触はまるでない。
打撃音が確かに響いたのに何の感触もないのであれば、それは敵の一撃が寸前のところで止められたに違いない。
だとしたら助けてくれたのは一体誰なのか。
そんな疑問が湧きあがりなのははゆっくりと目を開いた。
「えっ!?」
そんななのはの目に映し出された光景は信じられないものだった。
なのはに直撃する筈だったヴィータの一撃をたった一本の剣が防いでいた。
だが、なのはが驚いていたのはそこではなかった。
その剣は誰に握られているわけでもなくそこにあるのが
当たり前だと言わんばかりに宙に出現しているのだから。
「なっ!?」
この事態には当然ヴィータも驚いていた。
目の前の敵の仲間や管理局員が現れたのではい。
ただ1本の剣がこれ以上ないというタイミングで出現し、自分の攻撃が防がれていたのだ。
だが、目の前の敵がこれ以上何か抵抗ができるとも思えない。
そう思えるほどになのははボロボロであったのだ。
ならば、この目の前に現れた剣は何なのか。
そんな驚きと疑問がヴィータの中で混ざり合っていた。
「地を這う雑種風情が。誰の許しを得て我の物に手を出している?」
「「ッ!?」」
そんな騒然とする戦場に不意に聞こえてきたその声に二人は身構える。
そしてその声が自分のすぐ後ろから聞こえてくるものだと最初に理解できたのはなのはだった。
だが、その声はなのはにとって自分が出会った仲の誰にも該当しない声である。
なのははその声の主が誰なのかを確認するために恐る恐る後ろを振り向いた。そこには――。
”黄金に染まる一人の男が立っていた”
「誰だテメエは!? そいつの仲間か!?」
その男を見るや否やヴィータは驚きと苛立ちを隠しきれない心境で男に尋ねる。
あらゆる意味でイレギュラーな事態に瀕死のなのはも事態が飲み込めずにいた。
「雑種に名乗る謂われはない。失せるがいい、道化」
そんな答えるのが当たり前のような問いもその男にとっては答える必要が見出せなかったようだ。
そして次の瞬間にはこの男以外の全ての者が絶句するような事態が起こっていた。
突如背後の空間が次々と歪みだし、その歪みから剣、槍、斧、矛、棍といったありとあらゆる武器が出現し始めた。
その武器は一つ一つにありとあらゆる装飾が施されていた。
とてつもなく強い魔力を放つ物もあれば武器によっては禍々しい殺気を放つ武器もある。
その光景は信じ難い程に神々しく壮大である。
男は薄ら笑いを浮かべた後に片手を上げ、軽く指を鳴らす。
その音はとても透き通っており、どこまでも反響していくようなきれいな指の音だった。
しかしそれが合図だったのか、その男の指が鳴らされた正に瞬間の出来事。
歪んだ空間から出現していた全ての武器が敵であるヴィータに向けて発射された。
「くっ、やべぇ…」
男の背後から打ち出された武器の嵐を自分一人ではどうにもできないと、瞬時に判断したヴィータは全力でこの場から撤退することに専念する。
自分が張っている結界のせいでこの状況を他のヴォルケンリッター達に伝えることができない今の状況。
ヴィータにできることは一旦仲間と合流してこの状況を伝えることにあった。
またそうしなければならないほどにその攻撃は強力だった。
しかし、紙一重であったがグラーフアイゼンでなんとか全ての射撃を凌ぎ切ったヴィータは、安全圏と思われる空高くへと飛翔していった。
満身創痍の状態でいるなのははその戦闘を霞みのかかった目で見ているほかになかった。
そんな朦朧とした状態でいる中、今のなのはにとって最も信頼できる救援者がヴィータと入れ替わりに現れる。
「「なのは!!」」
PT事件で共に戦ったフェイト、ユーノの二人だった。
だが、ふとその二人の足が止まり、目の前の男に身構えつつあった。
つい先程までこの場所でなのはが戦っていたのは現在のなのはの状態を見てもわかる。
そして、そのボロボロのなのはの傍に立つ一人の男。
三人の頭の中から導き出された答えは簡単だった。
それは、この男こそがなのはをボロボロにした張本人に他ならないと。
「はあーー!!」
自分にとって唯一の友達をここまでボロボロにしたという行為に、フェイトは怒りを露わにして男に襲い掛かる。
「やめてフェイトちゃん!! その人は私を助けてくれたの。敵じゃないよ」
しかし、誤解による攻撃も次の瞬間にはなのはの声によって制止させられていた。
なのは一言ですべての誤解が解ける。
男が瀕死のなのはを救ってくれた事。
そしてなのはと戦っていた敵を追い払ってくれた事。
それを全て理解した時、先ほどこの男に向けていた殺気を思い出し、
フェイトは謝罪と感謝の意味を含めて頭を下げた。
「あ、あの…すみません。誤解してしまって、それとなのはを助けてくれてありがとうございます」
「フム、本来なら極刑に処してやるところだが、…まぁ良い。そこのマスターに免じて今の無礼は不問に付すとしよう」
今までのなのはの戦いを霊体の状態で傍観していた男は、この高町なのはこそがこの世界のマスターであると確信していた。
その根拠は魔力量の違い。
今現れた三人、そして先程襲いかかってきた敵。
この全員と比べてもなのはの魔力量は飛び抜けている。
これだけの魔力量を備えているのなら、この世界のマスターでもなんら不思議はないと判断したのだろう。
『おい、成金王子。ここ等一帯にいつの間にか結界が出来てるぞ。とりあえず一旦合流した方がいいと思うんだがどうする?』
と、なのはをまじまじと見ている男に唐突にランサーからの念話が聞こえてくる。
『フンッ。まぁ、その方が得策か。ならライダーにも合流するよう伝えておけ』
『オレが!? …チッ、わーったよ。ライダーにもそう伝えておく』
相変わらずの人使いの荒さに不満を漏らしながらも、了解の意思を告げたところでランサーの念話が途切れた。
「さて、我はあの雑種と戯れてやるとするか。女、そこの小娘を助けに来たのであれば早く治療を施してやるがいい。手遅れになる前にな」
遥か上空へと飛翔していったヴィータを確認した男は、フェイトに一言そう言い残すとまるで幽霊のようにその場から消えていった。
「消えた…?」
目の前で起きた現象にしばし呆然とするが、今はそれどころではない。
立ち去った男の言う通り、自分達はなのはを助けに来たのだ。ならば早くなのはを治療しなければならない。
「ゴメンなのは、遅くなった。フェイトの裁判が終わってみんなでなのはに会いに行こうと思ったんだ。けど念話は通じないし、調べてみたら広域結界が張られていたから慌てて来たんだ」
これまでの経緯を話すユーノをよそにフェイトはボロボロのなのはに駆け寄り、急いで治療を開始する。
だが、それよりもフェイトはなのはに聞いておかなければならないことがあった。
「なのは、さっきの人は一体誰? なぜなのはを助けてくれたの?」
「…わからない。だけど、少なくとも…私たちの敵じゃない…気がする」
「うん、そうだね。なのはがそう言うんなら、そうだよね」
皆、口には出さないが、この場にいた全員が先程の男の異常な魔力に気付いたようだ。
その魔力量はすでに、なのはの魔力量に匹敵する程の量であった。
そして、それに相手に有無を言わさない程の威圧感。
気を緩めれば、一瞬にして全員がヘビに睨まれたカエルのようになっていただろう。
(あの人は一体……)
「アイツはただの人間じゃねぇ。本人が言うには人類最古の王様らしいぜ」
男の容量が図れない事にしばし考え込むフェイト。
そんな彼女の疑問に答えるかのように先程男に念話を飛ばしていたランサーがその場で実体化を図る。
フェイトの疑問を見透かしているかのようにランサーは答えた。
「「「!?」」」
その場にいた全員が一斉に後ろを振り向く。
どうやら誰もいきなり現れたこの男の気配を感知できなかったようだ。
一方警戒して襲い掛かってくるものかと思っていたランサーだが、いつまで経っても誰も動かない。
どうやら、こちらに敵意がないことをこの場の全員が読み取ってくれたようだ。
「あの…あなたは一体、…それにさっきの人を知っているんですか?」
突然の出来事でしばし唖然としていた一同だが、なのはを助けてくれた人の正体が気になったフェイトは目の前の男に尋ねた。
「まぁ、まずは質問に答えておこうか。オレの名はランサー。アンタらの言う金髪の男の知り合いだ。んで、付け加えておくならもう一人いる仲間もオレもあの金ピカも、アンタらと敵対するつもりはねえよ。むしろアンタらと手を組むために来た。どうやらアンタらがこの世界のマスターみてぇだからな」
先程の人と目の前の人が自分達の敵ではない事がわかっただけでもなのは達にとっては僥倖であった。
もし、この二人が自分達の敵であったなら、今頃自分達はやられているというイメージが容易に想像がついたのだろう。
なのは達は皆、盛大な安堵の声を漏らしていた。
「君達の敵でないことはわかったけど、もう一つだけ聞かせてほしい。君達は一体何者なんだ?」
目の前のランサーと名乗る男が自分たちの敵でないことはわかったが、その正体が気になり、冷静な思考を保っていたユーノがランサーに尋ねていた。
しかし、それも当たり前といえば当たり前の事。
先程なのはの目の前で行われていた攻撃は、明らかに自分の知らない世界の魔法である。
いや、あの攻撃はもはや魔法であったかが疑わしいと思えるほどに異質であった。
なのはの目の前に突然現れたとてつもない魔力を帯びた幾つもの武器。
それをいとも簡単に操り、自分を助けてくれた金髪の男。
聞きたいことは山のようにあった。
「まぁ、マスターであるアンタらには答えておいた方がいいかもしれねぇな。オレ達は別の世界から来た者で、オレ達の世界ではサーヴァントと呼ばれる存在だ」
「「「サーヴァント?」」」
ランサーの話を聞いていた全員が見事に首を傾げていた。
「ワリィ、ちと分かりずらかったな。サーヴァントっていうのはだな、簡単に言うと実在した英雄の事だ」
「ええっ!! じ…じゃあ……あなたも何処かの国の英雄なんですか!?」
告げられる事実に頭が追いつかずに、思わず驚いてしまうと同時になのはは興味津々の様子だった。
「ああ。オレはケルトの英雄クー・フーリン。ちなみにさっきの金ピカは古代ウルクの英雄王ギルガメッシュ。もう一人はたしかマケドニアの大英雄、征服王イスカンダルだった筈だ。アンタらも神話を少しでも聞き齧ってるなら名前ぐらいは聞き覚えがあるんじゃねえか?」
―――ギルガメッシュ。
シュメール・バビロニア神話の半神半人の英雄であり、人類最古の英雄王とも謳われている。
―――クー・フーリン。
突けば30の棘となり破裂し、刺せば因果を逆転させ必ず心臓を貫く呪いの朱槍ゲイ・ボルグを持つ。
少年時代の事件より“クランの猛犬”と呼ばれるようになったケルト神話の大英雄。
―――イスカンダル。
アレキサンドロス大王とも呼ばれ、アケメネス朝ペルシアを殲滅。
ギリシャから北西インドまでに到る世界初の大帝国を創り上げた大英雄。
後世に名を残し、英雄として語り継がれている者がなのは達の目の前にいる。
だが、そんな現実離れした話をいきなり聞かされたところで信じられる訳がない。
実際、ユーノはランサーが話した内容を信じる事が出来なかった。
そんな話を信じるほど馬鹿ではないといわんばかりの表情でランサーに疑惑の目を向けている。
しかし、なのはとフェイトの考えは全く正反対であった。
先程までユーノのようにランサーを疑っていたが、会話を交わすことによってランサーが善か悪かを識別し、信用するに足る人物なのかを二人は見極めていた。
相手の真意、そして属性などを瞬時に判断できた二人は、ランサーの言葉に偽りはないと認識していたのである。
「さっきの手を組むという話、私は構いません」
「私も、全然構わないよ」
ランサーの共闘に対し、二人はそろって受諾の意思を見せていた。
「なのは、フェイト! これはそんな簡単に信用していい事じゃない」
さすがに二人揃って共闘の意志を見せるとは思っていなかっただけに、ユーノは予想とは違う答えに動揺していた。
「大丈夫だよ、ユーノくん。だってこの人、騙し討ちとか裏切りとかするようには見えないから」
「うん。私もそう思うんだ」
(!? ……ほう、あの会話でそこまで見抜いていたとはな。見た目はアレだが、人の本質を見抜く力が優れてやがる。なるほどな、どうやらこの世界のマスターとして選ばれるだけのことはあるってわけか)
出会ってから数分と経たずにそれだけのことを見抜き、まだ小さい子供にも関わらず自らに宿している膨大な魔力量を宿している。
そんな目の前の二人に対してランサーは素直に感心していた。
「んじゃまあ、共闘の証としてとりあえず握手といこうか」
自らのマスターに不足はないと確信したのか、ランサーはなのは達に握手を申し出る。
なのは達3人は差し出されたランサーの手を順番に握り返す。
これが合図だった。
ランサー達サーヴァント3人となのは達の間に契約が結ばれていた。
“ギルガメッシュ“ クラス:アーチャー マスター”高町なのは“ 属性:混沌・善
筋力B 耐久B 敏捷B 魔力EX 幸運A 宝具EX
クラス別能力:対魔力B+ :単独行動A+
固有スキル:黄金律 :カリスマA+ :神性B
宝具:王の財宝 :天地乖離す開闢の星 :天地波涛す終局の刻
“イスカンダル“ クラス:ライダー マスター”ユーノ・スクライア“ 属性:中立・善
筋力A 耐久A 敏捷C 魔力B 幸運A+ 宝具EX
クラス別能力:対魔力D :騎乗A+
固有スキル:軍略B :カリスマA :神性C
宝具:遥かなる蹂躙制覇 :王の軍勢
“クー・フーリン” クラス:ランサー マスター“フェイト・テスタロッサ” 属性:秩序・中庸
筋力B 耐久B 敏捷EX 魔力B 幸運D 宝具A+
クラス別能力:対魔力B
固有スキル:戦闘続行C :矢除けの加護 :神性B
宝具:刺し穿つ死棘の槍 :突き穿つ死翔の槍
マスターとなった三人の頭の中に突然浮かんだのは、自分達と契約を交わしたサーヴァントの情報だった。
「これは、君達のプロフィール?」
「契約は完了した。これでオレ達の情報がアンタ達に届いたはずだ。まぁ簡単な自己紹介代わりとでも思ってくればいい。後は、五月蠅いのを片付けるだけかねぇっと!!」
「!?」
先程までの軽い雰囲気が一瞬にして消え去り、戦闘モードへと瞬時に気持ちを切り替える。
そして、次の瞬間にはなのは、フェイト、ユーノの3人に向けて放たれていた短剣24本を槍で全て弾き落としていた。
「攻撃!? 一体どこから!?」
「全然…見えなかった。フェイトちゃんは見えてたの?」
「うん、一瞬短剣のような物が横切るのが見えたから」
その表情には動揺の色は一切見られないが、敵の気配を全く感じなかった事にフェイトは焦りを隠せなった。
その投擲もランサーの前では無力同然と化してしまう。
ランサーは攻撃面も決して侮れないが本領は防御面にある。
卓越した俊敏性と豊富な戦闘経験を併せ持つランサーは防御に回れば余程の戦力差がない限りまず破られない。
加えてこの場では更にランサーの固有スキル“矢除けの加護”によって殆どの投擲攻撃は簡単に弾く事が出来る。
もし、今ここにいるのがランサー以外であったなら間違いなく全てを防ぎきる事など出来なかっただろう。
「気配を探っても無駄だろうぜ。なんせ相手がアサシンだからな。奴の気配遮断スキルは並大抵じゃねえ。しかも、どうやら短剣の飛んできた方向からすると1匹2匹じゃなさそうだな」
ランサーはマスター達を守りながらアサシンの気配を探る。
気配遮断スキルを持つアサシンといえども,自らが攻撃態勢に入るその瞬間。
そこで気配の遮断が甘くなってしまい、まさにその一瞬の隙をランサーは狙っていた。
だが、相手が複数となるとそう簡単にはいかない。
現在ランサーが辛うじて捉えている気配だけでも3つ。
もしこれ以上増えようものならマスター達を守り抜きながらではいくら防御に特化しているランサーでも凌ぎ切れない。
だが、実際はランサー達の周りを取り囲んでいるアサシン達も攻め倦んでいた。
対象を確実に殺れると思いながら放った短剣だった。
しかし結果は神速のスピードで割り込んできたランサーに全て落とさてしまい、こちらの存在に気付かれてしまった状況。
これ以上迂闊に動けば真正面からの戦闘になる。
そうなればアサシンが不利なのは明白だ。
そう、ただ単純な接近戦ではアサシンはランサーに及ばない。
しかしサーヴァントには本来そういった実力差を一瞬にして覆す宝具が存在する。
実際アサシンはもう既にこの場で一つの宝具を発動していたが、アサシンの正体が掴めていないランサーにはアサシンが現在宝具を使用しているのかどうかさえ分からなかった。
この場でアサシンが使用したのは“妄想心像(ザバーニーヤ)”。
それは自身と同じ個体を出現させ自身の特徴やステータスを共有させる、いわば増殖の宝具である。
この宝具によって、アサシンは既に幾つもの個体へと増殖。
現在なのは達の周りを現在6体ものアサシンが囲んでいた。
白兵戦ではランサーに分があるとはいえ、6体ものアサシンがいればランサーも簡単には切り崩せない。
アサシンの姿を確認できないランサーはひたすら敵の気配を探っているが、その隙を突き再びなのはとフェイトに再び短剣が投げられる――その数12。
「そこっ!」
二度目の投擲で慣れが生じたのか。
フェイトは自分に対して投擲された短剣をバルディッシュで見事に叩き落とした。
同時に短剣が投擲されたと思われる場所に向かってプラズマランサーを放つ。
その狙いは見事的中した。
そして次の瞬間には何もない空間から白いマスクをつけた黒い顔がうっすらと出現する。
その光景は闇に紛れる影のようでもある。
「ほぉ、サーヴァントでもない身でワタシの気配を見事に捉えたか。中々に腕の立つ御仁よな」
「あなたは一体!?」
目の前のもはや人とは言えぬ奇怪な生物に対し、フェイトは己の冷静さを忘れたかのように声を荒げていた。
「知れたこと。そこのランサーが言った通りだ。ワタシはアサシンのサーヴァント」
「そのテメェがここで姿を晒したって事は、ここで一戦交えようってことでいいんだよな」
ランサーは殺気を飛ばしながら戦闘意志があるかどうかを確認する。
そんなランサーの期待とは裏腹に目の前のアサシンには攻撃してくる気配がない。
しかし、この時点でもう別のアサシンが目的に接近していた。
この時点でその気配にだれか一人でも気がつけばまだ間に合ったのかも知れない。
だが……。
「いや、今回ワタシが成すべき事は一つだけ…それは…」
アサシンがそう言葉を区切った時にはもう手遅れだった。
『ドスっ!!』
そんな鈍い音がこの場に響き渡る。
「っ!? ……あっ…ああっ…」
「「「なっ!!?」」」
完全に虚を突かれた。
そこにはフェイトの横で回復しきっていない体を引きずりながらの状態で立っていたなのはの胸部から黒い手が生えるように伸びていた。
生えるようなその手に収まっていたのは光の結晶、即ち”リンカーコア”。
なのはのリンカーコアが根こそぎ引き抜かれたのだ。
「蒐集、開始」
アサシンが一言そう呟くとなのはのリンカーコアが即座に消える。
「テメェ!!」
自分の獲物を横取りされた時のように殺気をまき散らしアサシンに襲い掛かるランサー。
だが、自分の任務を無事遂行できたアサシンにとって今ランサーと戦うつもりはまるでない。
もはやこの場にとどまる必要がないと判断したアサシンはランサーの槍が届く直前にその身を霊体化させて戦線を離脱した。
「チッ、逃げやがったか…」
「「なのはっ!!」」
リンカーコアを引き抜かれたなのはに駆け寄るフェイトとユーノ。
しかしなのははもう立っていることはおろか意識を保つこともできなくなり、その場に崩れ落ちた。
「オレはアサシンの後を追う。アンタらはそこの嬢ちゃんをひとまず安全な所へ連れて行け。」
倒れたなのはに治療を施そうとする二人に一言そう告げると、ランサーは立ち去ったアサシンの後を追って行った。
■
アースラ艦内
本局ではそこまでの一部始終を本局の全員がモニター越しにその画像を見ていた。
「いけないわ。至急向こうに医療班を飛ばして」
なのはの状態が深刻と見たリンディ提督はすぐになのはの回収を命ずる。
そして、局員の中で唯一クロノだけがモニターに映し出されている一つの映像に釘付けになっていた。
「アレは……第一級捜索指定遺失物。ロスト・ロギア、闇の書」
「クロノ君、知っているの?」
ただひたすら闇の書が映る映像を無言で眺めながら、淡々とその物の内容を語るクロノにエイミィが尋ねた。
「ああ、知っている。少しばかり…嫌な因縁があるんだ」
平静を装ってエイミィの質問に答えているが、クロノの内心は心穏やかにはいられなかった。
闇の書を見てから自らの手に想像以上の力が入っている。
いや、力が入らずにはいられないと言った方が正しい。
かつて、この闇の書が関わった事件でクロノは自分の父親を亡くしている。
クロノにとってこの闇の書は自分の父親を殺した元凶とも呼べる存在。
そんな昔を思い出しながら、クロノはモニターに映る闇の書をいつまでも眺め続けていた。
■
紆余曲折あったなのは達の上空。
市街地ではこれ以上ない激しい戦闘が繰り広げられていた。
「中々に楽しませるではないか雑種。そら、もっと足掻いて見せよ」
歪んだ空間から次々と発射される数々の宝具。
それは僅か数撃で相手のバリア及びシールドを貫いてしまう程に強力であった。
もはや結界を解除せざるを得ない状況までヴィータは追い込まれていた。
(くそっ!! なんなんだよアイツ…。さすがにこれ以上戦闘を続けるのは無理か。カードリッジも残り一発しかねーし)
ギルガメッシュの王の財宝の前にヴィータは成す術なく防戦一方になり、カードリッジをほぼ使い尽くしてしまっていた。
目の前の敵に対し心の中で罵倒するヴィータ。
だが、その隙を見逃すギルガメッシュではなかった。
「さて、そろそろ引導を渡してやろう。幕引きの頃合だ」
その一瞬の隙を突き、再び王の財宝から宝具を射出する。その数8廷。
「ッ!!」
不意を打たれ反応が遅れたヴィータは咄嗟にシールドを張るが、それも焼け石に水である。
そんな事はここまでギルガメッシュの攻撃を見てきたヴィータが一番よく理解している。
残り一発のカードリッジを駆使して6撃までは防ぐことが出来たがそこで頼みのシールドが破られる。
だが、残り2撃がまだ残っている。
その2撃はまるでそこでシールドが割れるとわかっていたかのように時差を付けて射出された。
(ヤバい――)
今度ばかりは防ぎきれない。そう悟ったヴィータであったが、
「下がれ、ヴィータ」
その2撃はヴィータに届く直前で割って入ってきた救援によって弾かれていた。
「大丈夫か、ヴィータ」
「シグナム!?」
ヴィータの間に割って来たのは闇の守護騎士でありヴォルケンリッターの将・シグナム。
ヴィータが一番信頼している仲間の一人である。
シグナムはレヴァンティンでヴィータに直撃する2撃を瞬時にたたき落としていた。
「ごめんシグナム。助かった」
「あまり状況は芳しくないな。どうしたヴィータ? お前にしては珍しく油断でもしたか」
「油断なんかしてねーよ!! アイツ、とんでもなく強いぞ」
ヴィータのその一言を聞いただけでシグナムは目の前の敵が如何に強大であるかを見抜く。
ヴィータの実力は同じ守護騎士であるシグナムは誰よりも理解している。
そのヴィータがいつもの減らず口を叩かず、純粋に加勢しに来てくれたことを有難がっていた。
その事実だけでも目の前の敵がどれだけ手ごわいかが手に取るようにわかる。
「ヴィータ。ここはマズイ。結界を解き、直ちに離れるぞ」
これ以上戦闘を続けることが危険だと思ったシグナムはヴィータに結界を解くように命じる。
いつものヴィータなら命令を無視して敵に突っ込んでいったかもしれないが、今回は敵との戦力差が有り過ぎた。
ここは引くが最適だと判断したシグナムに従うしかないと思ったヴィータは直ちに結界を解除した。
「次に会ったときは容赦しねぇからな。覚悟しとけ!!」
目の前の敵に一言捨て台詞を吐くと、ヴィータはシグナムと共に戦線を離脱する。
「負け犬に相応しい捨て台詞だな。」
そんな二人が去った跡をギルガメッシュはいつまでも楽し気に眺めていた。
■
なのはのリンカーコアは今や風前の灯であった。
一刻も早くアースラに戻らなければなのはが危ない。
だが結界を壊さない限りなのはを連れて逃げることもできない。
八方塞がりかと思われたその時、ここ等一帯を覆っていた結界が突然消え失せた。
どうやらギルガメッシュと戦闘していた相手が結界を解いたようだ。
そして、同時に本局から転送された医療班が到着する。
目の前の危機が去った今これ以上この場に居続けるのはマズいと判断した二人はランサーの忠告を素直に受け取り、なのはを抱えて本局のアースラへと早急に帰還していった。
あとがき
どうも、マイケルです。
今回なのはにギルガメッシュ、そしてフェイトにランサー、ユーノにイスカンダルという人選で進んでいく予定です。
ステータスがちょっとヤバい気もします。まぁマスター連中がアレですから(笑)
次回からは敵側にもサーヴァントを出すつもりですので、より一層闘いが激しくなっていくと思います。
完結を目指してこれからも頑張っていきますのでよろしくお願いします。