PCのあり方を再定義する「OS X Lion」
+D PC USER 6月8日(水)11時9分配信
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Lionの価格は29ドル。Mac App Storeを通じて販売される |
2時間超にわたるWWDC 2011基調講演のテーマは、「OS X Lion」「iOS 5」そして「iCloud」の3つだが、まずはフィル・シラー氏とクレイグ・フェデリギ氏が紹介したLionの内容について見ていこう。
【Mac用次期OSの「Lion」を写真で解説】
●10年目にして大きく生まれ変わった次期Mac OS X
WWDC 2011の基調講演で発表された製品の中では、最も登場が早い(7月リリース予定)Mac用次期OSの「Lion」は、Mac OS Xが持つ10年の歴史において、最も意義深いアップデートとなりそうだ。
ワールドワイドマーケティング担当上級副社長のフィル・シラー氏は冒頭、10年前の2001年3月に旧Mac OSの後継OSとしてリリースされたMac OS Xの初期バージョンの画面を示し、この10年の進化を見てほしいと語りながら、現行のMac OS X Snow Leopardと比較してみせた。
筆者の感想では、今回のOS X Lionは、世の中がiPhone/iPadに代表されるポストPC機器に大きく舵を取っているこの時代に、PCはどう生まれ変わるべきかという問いへの、アップルなりの回答なのではないかと思っている。
これは機能だけの問題ではない。今回のリリースで、アップルはOSの名前も、価格も、リリース方法も大幅に見直した。
そう、Mac用OSといえば、1997年リリースのMac OS 8以来、「Mac OS」を冠してきたが、今回からは「Mac」が抜け落ちて「OS X Lion」と表記されるようになった。ちなみに2007年1月に初代iPhoneが発表された時は、iPhone用OSが「OS X」と表記されていた。しかし、やがてこれが「iOS」と呼ばれ、この呼び方が定着した今、むしろMacのOSだけ「Mac」とつけるのがヤボったく感じてこうしたのかもしれない。
価格についても衝撃的だ。これまでPC用のOSといえば、Mac OS Xで129ドルと最低でも1万円は超える値付けが当たり前だったが、新OSの価格はそこから100ドルも安い、わずか29.99ドル(国内価格は2600円)だ。
しかも、OSはMac App Storeを通して、同Storeのルールで配布される(容量は4Gバイト)。つまり、同じiTunesアカウントで使っているMacであれば、何台あっても追加料金が一切不要だ。アップルのOS販売による利益は激減、あるいはほぼなくなったも同然と考えてもいい。
しかし、これは何も新しいことではなく、むしろアップルにとっては原点回帰に近い。アップルはもともと、Macをハードとソフトが一体化した製品として作っており、初期の旧Mac OSはアップデートも含め無料が当たり前だった。1980年代であれば、Macの販売店に空きフロッピーディスクを持って行くと、お店で最新OSをコピーしてくれていた(日本では日本語化のコストや並行輸入品対策で事情が違ったが)。
米国で旧Mac OSが有料化したのは20年前の1991年、Mac用OSとして初めてパッケージ化された「System 7」からだ。今回、21年目にしてアップル発売のOSパッケージがなくなり、無料でこそないもののほとんど手数料のような値段でOSが入手できるようになったことは感慨深いものがある。
決してMacの売り上げが落ち、叩き売りで安くしているわけではない。むしろ、その逆で、Macの販売がこれまでにない躍進を遂げており、絶好調の最中にあるからこそ取った大胆な戦略のようだ。
フィル・シラー上級副社長によると、現在、世界のMac利用者の数は5400万人で、さらに増え続けている。2010年と比べたPCの売れ行きは、市場全体でみると1%ほど落ち込んでいるのに対して、Macの売り上げは28%増で伸びているという。それどころかMacは、過去5年間のすべての四半期(つまり20四半期にわたって)でPC市場の平均出荷比率を上回り続けている。
「このMacがすばらしいのは、ハードウェアの魅力だけでなく、ソフトウェア、つまりOSがすばらしいからだ」とフィル・シラー氏。「そのOSが、今日、さらに進化する」。
どういう方向へ進化するのか。誕生から30年以上が経っているPCという機器(Macだけで数えても初代からすでに27年)は、歴史的経緯もあり、さまざまな不便や不合理を引きずってしまっている部分がある。そこで、2010年秋に行われた「Back to the Mac」というスペシャルイベントで紹介された通り、新OSのLionでは、PCとはまったく別の流れで突如現れ、大成功を収めたiPadからいいところを吸収しようというわけだ。
スティーブ・ジョブズCEOは、今回の講演の冒頭で「もしハードウェアが製品の頭脳や筋骨なら、その中心にあるソフトウェアは魂にあたるものだ」と語ったが、OS X Lionは、まさに新時代を告げるMacの魂ともいうべきものなのかもしれない。
●Macの利用に大きな変化をもたらす10の新機能
シラー氏によれば、OS X Lionには250の新機能が搭載されるというが、今回の基調講演ではそのうち10の機能が披露された。10の重要機能も、250以上の詳細機能も、すでにアップルの公式ページで紹介されている。そこで本稿では、筆者の解釈を交えながら、それぞれの機能を紹介できればと思う。
基調講演で挙げられた10の機能のうち、1つ目は「マルチタッチジェスチャー」だ。ここ数年で大型化してきたMacBookファミリーのトラックパッドや、2010年に発売されたMagic Trackpadの登場で、Macでもタッチ操作をするのが当たり前になった。机の上でマウスをはわせて、広い画面に対して小さすぎるカーソル(矢印)の照準を目的のメニューやスクロールバーにあわせるのは、今となってはかなり骨が折れる作業だ。一方、ジェスチャーのメリットは、2本、3本あるいは4本の指をパッド上に置いて、大ざっぱな動きをするだけでさまざまな操作をスムーズにできることにある。
アップルは、ただ新しい操作を盛り込んだだけでなく、それにあわせてウィンドウのデザインなどにも工夫を凝らした。注目すべきはスクロールバーの消失だ。マルチタッチジェスチャーのおかげで、もはや細いスクロールバーにマウスカーソルをあわせる必要がなくなった今、ある意味、スクロールバーそのものも不要になってしまった。そこで、アップルは見た目上意味がなく、気が散る要因になるスクロールバーを隠し、カーソルを近づけた時だけ表示するように変更したのだ。
しかも、3本指を左右にスワイプしてアプリケーションを切り替える動作も含め、現在アップルがiPad用に用意していると思われるマルチタッチジェスチャーとも共通化が図られている。
WWDC 2011の発表で、iOS 5以降ではiPadがPC不要で利用できることが明らかにされた。それにともない、今後はまずiPadを購入して、そこからMacに移行する人が増えてくるかもしれない。そうした時に、こうした操作の共通化がものをいいそうだ。
2つ目に紹介されたのは「フルスクリーンアプリケーション」だ。PCといえば、画面を埋め尽くすたくさんのウィンドウを切り替えながら作業するのが基本だが、このように画面に関係のないウィンドウが開いている状態は気が散りやすく集中しにくい問題もある。iPadがすばらしかったのは、アプリケーションを利用している間はほかが見えず、“そのアプリケーション専用機”になっていることだ。
フルスクリーン機能は、このすばらしい特徴をMacにも取り入れるためのものだ。対応アプリケーションは、画面右上のフルスクリーン化ボタンをクリックすれば、全画面表示となり、より作業に集中できるようになる。また、左右へのスワイプ操作で簡単にアプリケーションの切り替えができる。
アップルはほかの開発者が手本にできるように、Safari、iMovie、iCal、プレビューなど、標準添付の主要アプリケーションのほとんどをフルスクリーン対応にするようだ。デモでは、自分撮りした映像をいじって遊ぶ「PhotoBooth」が紹介された。新しいPhotoBoothでは、顔認識機能によって目の部分だけを大きくしたり(動いてもちゃんとライブでエフェクトをかけ続ける)、頭の上に鳥が数羽くるくると回るアニメーションなどが披露された。
3つ目は「ミッションコントロール」機能だ。Macはウィンドウクラッター(画面がウィンドウだらけで混乱した状態)を解決するために、これまで何度も斬新な工夫を続けてきた。現行のMac OS Xが搭載するExpose機能はその最たる例で、WindowsからMacに乗り換えた多くのユーザー(特に開発者)が絶賛する機能でもある。しかし、OS X Lionでは、このExposeを、さらに押し進めたミッションコントロール機能を提供する。
ミッションコントロールでは、画面の中央に(Expose同様に)開いているウィンドウすべてが表示されるが、その際、ウィンドウがアプリケーション単位でまとめられ見つけやすくなる。また画面の上部にはウィジェットが並んだダッシュボードやフルスクリーン動作中のアプリケーションが表示される。
また、特定のアプリケーションウィンドウの組み合わせを1画面にうまく配置したい場合は、ミッションコントロール画面上端の全画面サムネイルが並んでいる部分に新たにスペーシズ(作業スペース)を追加し、そこに配置したいウィンドウをドラッグして追加すればいい。
4つ目は、OS X Lionのリリース前に、単独機能としてリリースが開始されているMac App Storeの紹介だ。実はこのMac App Store、すでにPC用のソフトウェア流通の仕組みとして確固たる地位を確立している。アップルによれば、Mac App Storeは量販店のBEST BUYを抜き、ソフトウェア流通市場としてナンバー1の座を獲得したというのだ。
同ストアでアプリケーションの販売を行ったAutoDeskの「SketchBook Pro」は新たに100万人の新規顧客を獲得し、Feralソフトウェアは売り上げが倍増し、Pixelmatorという個人開発のアプリケーションは販売開始から最初の20日間で100万ドルを売り上げたという。OS X Lionでは、これがOS標準機能として採用され、iOS機器で人気のアプリ内課金(In-app purchase)の利用や通知機能の利用も可能になる。
さらに重要なのがデルタアップデート、つまりアプリケーションの新バージョンを丸ごと全部ダウンロードさせるのではなく、前バージョンとの差分だけダウンロードすることで通信量を減らす機能も提供されるという点だろう。
●iPadに学んだ「LaunchPad」や「再開」、Macをさらに使いやすくする注目機能
5つ目は、iPadのホーム画面に似た「LaunchPad」機能だ。操作方法はiPadとほぼ共通化されており、アプリケーションの並べ替えやフォルダ化も行える。6つ目は「再開(レジューム)」。アプリケーションを閉じても、再び起動すると前回作業中だった状態がそのまま再現される機能だ。これらもiPadならではの使い勝手のよさをMac上で再現した機能といえるだろう。
7つ目は「オートセーブ」だ。これはいちいち「保存」操作を行わなくても、Lionに最適化されたアプリケーションなら、常に作業中の書類を保存してくれる機能だ。これにより、数時間かけて作った書類がただ保存を忘れていたために一瞬にして消えてしまうという、PCで日々繰り返されてきた悲劇を黒歴史として葬ってくれる。
8つ目は「バージョン」という機能だ。PCで作業をしていると、後になってから、手を加える前のものがよかったと思い直すことがある。誤操作をした後に「保存」をしてしまい大事なデータを失うという悲劇もしばしば起こる。
そんなときに大活躍するのが、この「バージョン」という機能で、呼び出すと現行Mac OS Xのバックアップ機能である「Time Machine」よろしく、作りたての状態から現在に至るまでの書類の状態がズラっと並んで表示される。ここで画面右下の時間軸を書類が古い状態まで巻き戻したり、それを復元することができる。また、画面左半分には書類の最新状態が表示されるので、古い状態の書類からコピーし直したい部分だけをコピー&ペーストするなど、かなり柔軟な作業が可能になる。クリエイティブな仕事をするうえでも、おそらくこれまでよりも、もっと大胆な試行錯誤が可能になることだろう。
機能の呼び出し方も簡単だ。書類ウィンドウのタイトル部分をクリックするとメニューが表示されるので、ここからロック(書類の状態を維持しオートセーブしない)、複製(現在のバージョンを複製し、別の書類ファイルを作る)、最後に開いた状態に復元(書類に加えた変更をすべて取り消し、開いたばかりの状態に戻す)、そして「バージョン」機能を呼び出す、すべてのバージョンをブラウズ、といった操作を選ぶことができる。
9つ目は「AirDrop」。これはこれまでで最も簡単に、ファイルの受け渡しをする方法だ。これまでにも、さまざまなファイル受け渡し方法が開発されてきたが、結局、どれもいざという時にすぐに使えず、今なおUSBフラッシュメモリにコピーして受け渡しするのが最良のファイル交換方法だった。しかし、AirDropがこれを変えることになりそうだ。
FinderウィンドウのサイドバーからAirDropを起動すると、周囲にいるOS X Lionユーザーがアイコンで表示される。ここでファイルを渡したい相手のアイコンにファイルをドラッグ&ドロップし、相手が受け取りを許可するとファイルの転送がスタートする、という非常に分かりやすUIになっている。
もっとも、これまでにもファイル共有やBluetoothを使った転送などがあった。しかし、いざ使おうとすると、相手がネットワークに接続していなかったり、利用している無線LANでは過剰なセキュリティによってファイル共有ができなかったり、コンピューター名から相手を識別するのが大変だったり、設定がきちんとできていないために、IDとパスワードを伝える必要があったりと面倒だった。
一方のAirDropでは、ファイル交換という、よく行う操作のために、一時的にアドホック(つまり、PC同士を無線LANで直結する)という方法で操作を簡略化する、ある意味でコロンブスの卵的なファイル転送手段を取っている。
10個目の機能は「Mail」だ。新Mailはフルスクリーンで利用できるだけでなく、iPadでも採用されている2列のレイアウト(画面の左側にメールの一覧を表示し、右側に選択したメールの本文を表示)を採用。より多くのメールを見渡せるようにした。
また、短時間で会話的に何通ものメールをやりとりした場合、話の流れを追いやすくするべく、「スレッド」表示機能を搭載した。メールの末尾に付与された長い引用部分を自動的に隠して、本題の部分だけを時系列に並べて表示してくれる。会話のスレッドをひと通り読み終わったら、ウィンドウの上部に表示されるお気に入りバーなどを使ってフォルダに仕分けることも可能だ。さらに差出人や宛先だけでなく、件名の一部、キーワード、時期といった複合条件で簡単に絞り込める強力な検索機能も搭載される。
●ここからPCの新しい歴史が始まる
今回紹介された10の新機能では、確かにアップルがいうようにiPadの先進性から学んだ機能も多い。例えば、マルチタッチジェスチャー、フルスクリーン操作、App Store、Launch Pad、再開、オートセーブやメールの表示方法などは、いずれもPCに比べてiPadのほうが使い勝手がよかった部分だ。
しかし、OS X Lionは、単にiPadに追いついただけで終わりにしたのではなく、「ポストPC機器の時代でも、やっぱりPCは必要」と思わせる形に、それぞれの機能を昇華させている。
例えば、フルスクリーン操作も、すべてフルスクリーン操作にするのではなく、時には大きな画面を生かして、複数ウィンドウを並べて操作するスタイルも強要しつつ、それらの異なる作業スタイルをミッションコントロール機能を通してうまく統合している。また、オートセーブ機能も、うまくバージョン機能と組み合わせたことで、同じ作業でもPCで行えば、より大胆かつ複雑な試行錯誤が可能になる。メールも、普段使いならiPadで十分だが、これまでの膨大なメールの蓄積の中から効率よく目的のメールを探し出したり、フォルダで整理するのであれば、Macが便利ということになる。
このシンプルに作業するiPadスタイルと、一歩踏み込んだMacスタイルの作業の線引きは、なかなか絶妙なのではないかと筆者は思っている。
このほか、OS X Lionには、フルスクリーンのデモ中にちらっと見せたSafariにも、ブラウザ標準の「後で読む」リストに記事を登録する機能が用意されていたり、急速に増えているWindowsからMacに乗り換えるユーザーを支援する乗り換え機能(移行ツール)の改善、iChatプラグイン、Core Mediaエンジンといった機能がスライドで紹介された。
さらに公式ホームページの全機能一覧には、日本語音声読み上げやピクチャーインピクチャーのズーム機能、Macの調子がおかしくなった時、復元用パーティションからMacを起動して修復や復元をする機能、縦書き入力・表示対応、ことえりの変換ウィンドウのデザイン・機能変更、Appleカラー絵文字フォントの搭載といった項目も並んでいる。
これまで「こうなったらいいな」と思っていた機能が一気に搭載された印象で、期待は高まる一方だ。
27年前、今日のPCの原型をつくったMacが、OS X Lionで生まれ変わり、ポストPC時代の新しいPCのあり方を提示しようとしている。ここから始まるPCの新しい可能性には大いに注目したいところだ。
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最終更新:6月8日(水)11時9分
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