「ねえ」
「何?」
「…その玉、息してる」
まるで生きているかのように、自分の意思で互いに近づき、寄り添い、レールにステップを刻む赤。そう感じれるような玉を撞きたいと願い、僕はこの場所にロブスターズワルツという名前を付けた。当時の腕前からすると随分御大層な発想だ。
このゲームで生きたセリーを撞くには、そのキュー出しのすこぶる微妙なコントロールをモノにする必要がある。数値にして一桁のパーセンテージというのはまずまともにマウスを出していたのでは制御できない。このキューを出したくても出せない状況の中で、1個目をクッションに入れてわずかに返し、2個目を三角形が同じ形になる場所まで押してやらねばならないのだ。
キュー出しが弱い分には立て直す余地もあるが、強すぎた場合は作り直しを余儀なくされることが多い。このことから、4Bにおけるセリーはどうしても弱く、小さくなりがちだ。シビれていれば尚更。1個目をクッションから浮かせきれないほどのチビりは論外としても、2個目をキチンと押しきれないことはよくある。
しかしその2個目を押す距離こそが、そのセリーが見る者の目を奪うかどうかの鍵を握っていると僕は思うのだ。1個目がレールでステップを刻み続ける姿こそがセリー本来のリズムであり、その動きは2個目のひと転がりによって躍動になる。
このひと転がりがふた転がりになった瞬間、そのセリーは壊れるかもしれない。半転がりならリカバリーができる。加減にしてわずか数パーセントの幅。
僕が転がすこの玉は今、息をしているか。