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パチンコがアニメだらけに

2011年2月28日

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写真:安藤健二さん拡大安藤健二さん

写真:「パチンコがアニメだらけになった理由」(洋泉社)拡大「パチンコがアニメだらけになった理由」(洋泉社)〈[著]安藤健二「パチンコがアニメだらけになった理由」〉

写真:安藤健二さんのインタビューは2月17日夕刊(名古屋本社版)に掲載拡大安藤健二さんのインタビューは2月17日夕刊(名古屋本社版)に掲載

 むかしちょっとだけパチンコをしたことがあります。名古屋の社会部時代ですから十数年前、「CR機が主流になって、大勝ちもするけど大負けもするようになった」なんて話を耳にして、なんだかよく分かりませんでしたが「記事のネタになるかも」と、半ば気まぐれで人生初のパチンコを打ってみたら、何をどう間違えたか大当たり。キョトンとしながら玉と引き換えに数個のケース(中にはライターの火打ち石が詰まっていました)を受け取って交換所に持っていくと、ウン万円に化けてしまいました。

 「はは〜ん、これはビギナーズラックだな」と思い、その後2度くらいチャレンジしたところ機械が次々に千円札をのみ込んでいくばかりで、「ああ、やっぱり」と早々に撤収しました。結局、記事のとっかかりを考えあぐねているうちに別の案件に忙殺され、取材には手をつけず。パチンコがアニメだらけになる前のお話です。

 さて、「封印作品の謎」(太田出版)をはじめとするシリーズで、「ウルトラセブン」第12話はなぜ再放送もDVD化もされないのか?といったサブカルチャーの「封印」の謎を追ってきたジャーナリストの安藤健二さんが、洋泉社から「パチンコがアニメだらけになった理由」を刊行しました。名古屋のパチンコメーカーも登場するので名古屋の文化面に書くにはちょうどいいネタだと思い、インタビューしました。前々から安藤さんの本を読み続けてきたファンでもありましたし。

 内容は書名の通り、アニメ関係者やパチンコ台メーカーなどに取材して、ファン層が重なりそうにないパチンコとアニメがなぜタイアップするのかを解き明かしたものです。最初のきっかけは、編集者が耳にしたうわさから。「パチンコ店の経営者が世代交代し、アニメオタクが増えたかららしい」。安藤さん自身はパチンコに興味はなく、最近のアニメはたまに映画を見る程度。「景気のいい業界同士が手を組んだのかな、くらいに思っていた」そうです。しかし、取材に入ると実態は大違い。

 パチンコ台のメーカーは、大型液晶画面を派手に飾る映像、大当たりの期待を盛り上げる映像が欲しい。安上がりな既存のコンテンツとして目をつけたのがアニメで、作品の知名度は必ずしも必要なし。アニメ製作会社は、巨大なパチンコ市場から入るライセンス料で潤う。2006年ごろをピークにDVDの売り上げが減少し、パチンコマネーのありがたみが増します。市場が縮小しているのはパチンコ業界も同じ。タイアップと大量宣伝で、客をつなぎとめようと必死なのです。「実は、末期症状の患者2人が、互いの臓器を交換したようなものだった」とは、安藤さんの厳しい指摘です。

 さらに安藤さんは、どんなアニメがパチンコ向きなのか、ヒットの要因は何か、パチンコ店側はタイアップものを歓迎しているのか、中高生向けアニメがパチンコになることを製作会社はどう考えているのか、探偵のように謎を追っていきますが、待っていたのは「取材拒否」の壁。「パチンコよりも、アニメ業界のガードが堅かった。パチンコを嫌うアニメファンへの気遣いでは?と指摘する人もいるが、なぜ取材拒否なのかすらしゃべってくれないので分からない」

 とりわけGONZO(「ブレイブストーリー」「ロザリオとバンパイア」などの製作会社)の取材の断り方は唖然(あぜん)呆然(ぼうぜん)。「さすがに私も怒りを覚えた」のも無理ありません。

 図らずも、今回もまた「封印」ネタのようになってしまったわけですが、数々の「封印」作品を追及したこれまでの著作同様、どんな風に拒否され、どう突破するのかも書いてあります。「壁の向こうの結果も大事だが、何より過程が面白い。そこが私の本のキモだと思う」。

 1976年生まれの安藤さんは元産経新聞記者。足で情報を集め、核心に近い人物に話を聞き、地道に裏をとる正統派ルポルタージュの手法による粘り強い取材には、頭が下がります。「オタクネタ、サブカルネタでそういうことをする人がほかにいないので、自分に需要があるのかな。商品の宣伝めいた情報ばかりで“裏側”の話が出てこないのは健全じゃない。だからこそ、新聞社で培った手法で謎を解き、たとえ土足で踏み込むようなマネをしても、壁の向こうを暴いてみたいんです」

 うーむ、私も頑張らなくては。ちなみに同書で朝日新聞2010年2月6日夕刊の記事「キャラパチ席巻、店疲弊 高い集客力、一躍主力に」が引用されており、安藤さんも「参考になりました」と言って下さいましたが、実はコレ、社会部のデスクに私がネタ出しし、社会部の記者が取材して書いたもの。お役に立ててうれしいのですが、やっぱり自分で汗をかかないとねえ……。

 「パチンコもアニメも特に思い入れがないから、客観的に書けたかな」と安藤さん。というわけで、「パチンコマネーで豪勢なアニメが出来るなら結構なことじゃない」という方も「アニメをパチンコに使うなんて、絶対に許さない!」という方も、「パチンコがアニメだらけになった理由」ぜひご一読を。

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。2010年10月から名古屋報道センター文化グループ次長。

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