2011年3月10日
「ウルトラセブン」第12話はなぜ再放送もDVD化もされないのか?などサブカルチャーの「封印」の謎を追ってきたジャーナリストの安藤健二さんが、洋泉社から『パチンコがアニメだらけになった理由(わけ)』を刊行した。アニメ関係者や名古屋のパチンコメーカーなどに粘り強く取材し、ファン層が重なりそうにないパチンコとアニメがなぜタイアップするのかを解き明かした。
最初のきっかけは、編集者が耳にしたうわさから。「パチンコ店の経営者が世代交代し、アニメオタクが増えたかららしい」。安藤さん自身はパチンコに興味はなく、最近のアニメはたまに映画を見る程度。「景気のいい業界同士が手を組んだのかな、くらいに思っていた」。しかし、取材に入ると実態はまるで違った。
パチンコ台のメーカーは、大型液晶画面を派手に飾り、大当たりの期待を盛り上げる映像が欲しい。安上がりな既存のコンテンツとして目をつけたのがアニメ。作品の知名度は必ずしも必要ない。
アニメ製作会社は、巨大なパチンコ市場から入るライセンス料で潤う。2006年ごろをピークにDVDの売り上げが減少し、パチンコマネーのありがたみが増す。
市場が縮小しているのはパチンコ業界も同じ。タイアップと大量宣伝で、客をつなぎとめようと必死なのだ。「実は、末期症状の患者2人が、互いの臓器を交換したようなものだったんです」
どんなアニメがパチンコ向きなのか、パチンコ店側はタイアップものを歓迎しているのか、中高生向けアニメがパチンコになることを製作会社はどう考えているのか。探偵のように謎を追う安藤さんを待っていたのは、「取材拒否」の壁。「パチンコよりも、アニメ業界のガードが堅かった。パチンコを嫌うアニメファンへの気遣いでは?と指摘する人もいるが、なぜ取材拒否なのかすらしゃべってくれないので分からない」
数々の「封印」作品を追及したこれまでの著作同様、どんな風に拒否され、どう突破するのかも書いた。「壁の向こうの結果も大事だが、何より過程が面白い。そこが私の本のキモだと思う」
元は新聞記者。足で情報を集め、核心に近い人物に話を聞き、地道に裏をとる。正統派ルポルタージュの手法だ。
「オタクネタ、サブカルネタでそういうことをする人がほかにいないので、自分に需要があるのかな。商品の宣伝めいた情報ばかりで“裏側”の話が出てこないのは健全じゃない。だからこそ、新聞社で培った手法で謎を解き、たとえ土足で踏み込むようなマネをしても、壁の向こうを暴いてみたいんです」(小原篤)
著者:安藤 健二
出版社:洋泉社 価格:¥ 1,680