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大連立の政局 - 鳩山由紀夫と亀井静香が賛成する奇怪
民主党と自民党が大連立を画す理由は、消費税とTPPの政策にあり、この二つを選挙を経ずに実現するところにある。大連立を組めば、二つの政策について民意を問わずに済み、総選挙の争点から外すことができる。それが第一の狙いだ。特に消費税は選挙の鬼門で、過去の選挙でそれを打ち出した側は惨敗してきた経緯がある。2年前の衆院選もそうだし、昨年の参院選もそうだった。選挙で消費税増税が争点になり、仮に二党で賛成・反対の立場が分かれた場合、票は反対を唱えた政党の方に流れ込む。消費税が争点になった瞬間、二党は相手に対してアドバンテージを取るべく、増税率や実施時期の公約で駆け引きするのであり、そうすると、官僚とマスコミが思惑するストレートな方向に流れず、曖昧になったり、大きく後退して歯止めがかかる選挙結果になるのである。マスコミが事前にどれほど洗脳工作して、「世論」を「増税賛成」に固めても、選挙になれば、国民は洗脳から覚醒して消費税増税に拒絶反応を示す。政党はその生理と法則を熟知しており、消費税増税を選挙で訴えることに恐怖症を持っている。TPPも同じだ。だから、選挙を経ずに消費税増税とTPP加盟を決めたいのであり、そのリスクを冒さない最も具合のいい方策が大連立なのである。


菅直人は、昨年、消費税増税を決める前は選挙をすると言い、増税時期も次の衆院選以降と言っていたが、5/30に提出された「税と社会保障の一体改革」の報告書では、来年4月から増税実施という方向になり、今年の臨時国会に法案を提出するという報道になった。前言撤回は辞任で辻褄を合わせるのであり、官僚側は報告書を提出し、首相が正式に閣議決定(6/20)したという既成事実を作り、次の政権(大連立)に閣議決定の履行を迫る魂胆だ。消費税とTPP以外に、大連立には二つの目的と事情がある。一つは、岡田克也の保身であり、不信任案否決後の両院議員総会で首を刎ねられる前に、先手を打って石原伸晃と組み、大連立の政局を仕掛けて、両院議員総会に突撃して来る小沢派に牽制を刺したということだ。先週末まで、菅直人の辞任は両院議員総会の攻防とセットになっていて、今週、執行部と小沢派との間で党内抗争の続きが演じられる筈だったが、岡田克也らが菅直人の早期辞任を求める政略に転じ、それを大連立と組み合わせる政局に焼き直し、小沢派による追撃に煙幕を張った恰好になっている。つまり、両院議員総会に対するカウンターとしての菅斬りと大連立であり、政局のテンポラリーなタクティックスで繰り出した意味がある。だからこそ、その目的を遂げ、すぐに下火になった。

もう一つは、原発の賠償法案(スキーム)の先送りと、世論の空気を原発から政局に入れ替えることである。こうして、不信任案の次は大連立、大連立の次はポスト菅と、政局に次ぐ政局を間断なく続け、報道を政局一色で埋めることで、国民の関心を原発から離し、脱原発に傾斜した世論の流れを止めることができる。早速、昨日(6/7)、海江田万里が7月の原発再稼働を目指す発言をし、それをマスコミ報道で流させた。浜岡停止からまだ1か月しか経っていない。2週間前の状況に戻って考えれば、2週間後に経産相がこんな発言をするなど論外で、すなわち原発推進派の勢いが急速に巻き返している。それを可能にしたのは、先週の政局騒動であり、あの一撃で空気が入れ替わった。そして、脱原発の動きを見せた菅直人が失脚したことが大きい。政局を機に原発推進派が反撃に転じて、浜岡停止以前の状況に押し戻している。大連立となれば、当然、原発推進派である自民党の政策の影響力が増す。そうした政治状況の変化を見逃さず、時機を捉えて経産省が原発の運転再開を打ち上げた。昨夜、NHKのクローズアップ現代で、浜岡停止の問題が特集されたが、内容は酷いもので、解説にUBS証券の人間を出演させ、LNGのコストが嵩むとか、計画停電の恐れが出るとか、浜岡停止に対する否定的な議論ばかりで番組を埋め尽くした。

この放送は、明らかに、経産省の原発再稼働宣言と計画を合わせており、官僚とNHKが連携して情報工作を仕組んでいる。クローズアップ現代は、すっかり反動的なプロパガンダ番組に変わった。また、原発の「設計から見直す」とした昨日(6/7)のIAEAへの報告書とも平仄が合っている。「設計を見直す」ということは、新しい原発を作り続けるという意味だ。エネルギー政策を白紙に戻すと言った菅直人の方針転換とは矛盾する。菅直人のレームダックの政局を受けて、この報告書の内容になったのだろう。先週の小沢一郎と自民党による政局の裏には、どうも原発推進勢力の暗躍の疑いが臭う。前の記事で、原発推進派は、真夏の電力需要のピーク時に謀略に出て、意図的に計画停電を強行するだろうという懸念した。だから、既存の火力発電所に十分の設備余剰があり、原発を全基停止させても電力供給に不足は生じない事実を広める必要があると言い、その情報戦を制する必要があると言った。それから1か月経ち、そうした事実認識は広まっておらず、相変わらずマスコミは「3割を原発に依存」の言説を刷り込んでいる。気づいているかどうか、自民党内で原発を批判していた河野太郎が、この政局ではすっかり影を潜め、6/6の「テレビタックル」にも出演していない。入れ替わりに石原伸晃が自民党の顔になり、堂々と原発推進論を吐く局面に変わっている。

さらに、大連立には、選挙の候補者調整の裏がある。岡田克也らの思惑は、選挙後も大連立を続けることで、事実上の保守合同の体制で政権を永久安定させることである。消費税増税、TPP加盟、集団的自衛権、道州制、外国人移民、憲法改定と、民主党と自民党の基本政策に違いはなく、抵抗勢力である小沢派を排除すれば、二党の連立政権の固定に何の支障もない。次の選挙では、現在300名いる衆院の民主党議員のうち、70名の小沢派議員を追い出し、公認せず、選挙区で候補者を立てずに与党である自民党の候補者を応援すればいい。そういう目論見がある。実際に、二党が政策協定して大連立を組み、一つの内閣に入れば、石原伸晃が言うように、半年で簡単に連立を解消して総選挙などという推移にはならないだろう。来年1月に連立を解消して総選挙と言うとき、自民党は与党なのか、野党なのか。自分が組んだ予算に対して選挙で反対ができるのか。何を争点にして国民に問い、民主党の何を批判するのか。選挙で二党が過半数に届かなければ、また連立となるのだが、それでは何のために連立解消して選挙するのか。復興に1年は長すぎると石原伸晃は言うが、それは逆で、1年後も震災復興と原発事故が喫緊の国家課題であることは間違いない。おそらく、大連立しても復興はスピードアップせず、遅滞は続き、被災地が選挙どころではない環境は半年後も変わらないだろう。

しかし、私の推測では、民主党の党内抗争が本当に分裂に向かうかは微妙だ。もし、小沢派がマニフェストを捨てて主流派とくっつく展開になれば、民主党は割れず、大連立は必要がなくなる。前提条件が消える。6/6に谷垣禎一が大連立に慎重な態度を示し、民主党の党内情勢を見極める必要があると発言したのは、そういう判断なのであり、小沢派の追放と党分裂を確定させた後で、自民党の主導権で大連立を固めようという意味に他ならない。民主党の分裂を簡単に信用できないのであり、先週の政局で小沢一郎に泡を吹かされた谷垣禎一は、小沢一郎の権謀術数に疑心暗鬼なのだ。今回、やや奇妙に感じるのは、あの鳩山由紀夫が大連立を歓迎する立ち回りをしている点である。鳩山派所属で小沢系の議員である川内博史は、大連立の策動を大政翼賛会だと痛烈に批判、twitterで見事な正論を言っている。「岡田幹事長の言う大連立は、大増税・原発推進・TPP・対米従属・マニフェスト完全放棄の政権だ。だいたい菅さんと一緒に責任を取ってもらわなければならない岡田さんが、次のことを語るって感覚が信じられない。真の挙党体制の為に、岡田さんには、しばらく静かにしてもらっていた方がよい」。これこそ国民の率直な代弁だが、であるとすると、親分で菅降ろしを仕掛けた鳩山由紀夫の大連立賛成の立場と齟齬が生じる。民主党の分裂を誰よりも恐怖し、その回避とトロイカ再生に動いていたのが鳩山由紀夫だったはずだ。

不審なのは、亀井静香も大連立に賛意を表明したことである。6/5のNHKの日曜討論で、岡田克也が滔々と大連立の意欲を述べ、その直前のフジの番組でと同じく、向き合った石原伸晃にラブコールを送ったとき、下地幹郎が、横に座っている岡田克也に対して、「与党の幹事長が軽々しく大連立などと言うもんじゃない」と一喝する場面があった。この話が唐突で寝耳に水であり、事前に何の相談もなかった事情を証明する生映像で、下地幹郎にすればこの反発は当然だろう。ところが、それから3時間後のNHKニュースで、亀井静香が大連立肯定の発言を出すのである。下地幹郎の反応とは全く逆だ。これは奇妙であり、裏に何かがあると疑いを持たざるを得ない。基本的に、岡田克也らの大連立政局は、小沢一郎に近い者を排除するためのもので、鳩山由紀夫も亀井静香も一掃される立場にある。世代交代の論理において邪魔な老醜だ。その図式で考えれば、鳩山由紀夫と亀井静香の二人が岡田克也の大連立に賛同するのは腑に落ちない。さらに、大連立について、小沢一郎が何も発言をしていない点もある。谷垣禎一が慎重になったのは、自民党内に反対論が根強いのに加えて、こうした魑魅魍魎が整理できなかったためと思われる。兵である川内博史と下地幹郎が反対し、将である鳩山由紀夫と亀井静香が賛成している。これはまた、例のごとく、敵を欺く前に味方をの布石で、小沢一郎が策謀をめぐらせているのではないかと、警戒と疑念を深めるのは無理もない。

いずれにせよ、6月は菅辞任とポスト菅で騒動になる。原発への危機感は薄れる方向を余儀なくされ、脱原発の世論機運は殺がれ、被災地への支援行政は滞ったまま報道から遠ざけられる。政治の主導権がマスコミと官僚の手に渡り、口先だけの「復興」の空文句が飛び交い、消費税増税の世論操作で報道で固められる。菅降ろしの政局を始めた小沢一郎の責任は重い。



by thessalonike5 | 2011-06-08 23:30 | 東日本大震災 | Trackback | Comments(0)
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