■補数って?

 10、100,1000……から、ある数を引いた残りの数のことを(基数の)補数というが、今回の主役は、
それよりも1少ない、いわゆる減基数の補数(注)である。
 10進数だと、ぶっちゃけ足して(各桁が)9になる数(の組)だ。


 具体例を出すと「9−1=8」だから、8は1の補数である。いうまでもないが、1は8の補数である。


■まずは「おつり算」


 日常生活で最も多い計算は「おつりを計算すること」だろう。
 これは補数を使った計算の第一歩にちょうどいい。

速算に 10000−3452=?

を計算することは、3452の基数の補数をもとめることだけれど、

まず減基数の補数を求めちゃえばいい。そしてこれは次の方法で反射的にできる。
減基数の補数は基数の補数よりも1だけ少ないということを心に留めておくと、

次の表を覚えておく(というより反射的に出るようにしておく)だけで、
「繰り下がり」なんかに希少で貴重なワーキング・メモリを費やさずに、反射的に計算ができる

 0 なら 9
 1 なら 8
 2 なら 7
 3 なら 6
 4 なら 5
 5 なら 4
 6 なら 3
 7 なら 2
 8 なら 1
 9 なら 0


 表の中身は、なんてことない「足して9になる数字の組」なので覚えるまでもないが、反射的に出るようにしておくのが、ポイント。


■実際の計算


 9999 + 1 =10000
 3452

 ↓↓↓↓(反射的に置き換え)

 6547(減基数の補数) + 1 = 6548(基数の補数)

 何桁の引き算だろうと、最も上の位から十の位までは、自動的に置き換えることで済む。
 一の桁だけ、プラス1することを忘れなければよい。
 さらに良いことは、上の桁から計算ができるので、口頭で数字が与えられた時でも、数字を読み上げられているさなかに計算が開始できるので、数字を一旦アタマの中に蓄えなくても計算できる。
 おかげで、これまたワーキング・メモリを消費しなくて済む。


 100000000000000000
  43512809838428374
 −)
  56487190161571626

 こんな桁数が多くても大丈夫である。
 最後の一の位だけ、忘れず1プラスしておくこと。
 というより「999……9」から始めたんだ、ということだけは忘れずにいること。


■引き算と足し算を相互に変換する


 「おつり算」を反射的にできるようになることは、補数を反射的に計算できることである。
 実は、補数は、引き算を足し算にするのに用いられる。
 オーバーフロー(桁あふれ)を無視すれば、ある数で足し算することは、その基数の補数を引き算することに等しい。
 例を示そう。

 38+99
=38+(100−1)
=100+38−1
=100+37
=137

ステップを細かく分けているが、99なら100を足しておいて1引く、なんてことは誰でも思い付くだろう。ここで1は99の基数の補数である。

 38+86
=38+(100−14)
=100+38−14
=100+24
=124

やってることは同じ。頭の使い方は、「38+86だと、どしたって100超えるよな。下二桁は、86→(補数に変換)→14を足しときゃいいか。100と24だ。」といった感じである。





(注)
 基数の補数を使え、と書いてあるものがあるが、却って鬱陶しい。なぜそろばんの珠は、10から9を表すものに「進化」したのか、考えてみるといい。
 なお基数をもっとちゃんと定義しとくと、
b 進法において、自然数 a を表現するのに必要な最小の桁数を n としたとき、

  * bn − a を「b 進法における a に対する基数の補数(b の補数)」
  * bn − a − 1 を「b 進法における a に対する減基数の補数(b - 1 の補数)」

という。
 例えば、10進法において、自然数 61 に対する基数 10 の補数は 102 − 61 = 39、減基数の補数は、102 − 61 -1 =38。つまり「足して9になる数」に各桁を置き換えることは、減基数の補数を求めているのである。
 2進法において、自然数 100102( = 1810) に対する基数 2 の補数は 25 − 18 = 11102( = 1410) 、減基数の補数は011012と1と0を入れ替えた数になる。




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