ここから本文エリア

現在位置:asahi.comマイタウン北海道> 記事

《防災を問う 原発》揺れへの備え 足踏み

2011年06月01日

写真

写真

泊原発の近くにある岩内港では、釣りを楽しむ人の姿が多く見られた=岩内町、上田幸一撮影

写真

《防災を問う 第2部原発》(2)

■専門家は「対策強化を」

 「日本海側では海溝型の地震は起きない」

 北海道電力の佐藤佳孝社長は4月末の記者会見で、泊原発(泊村)の地震対策をめぐるやり取りの中で、こう話した。

 北電の投資家向けの説明資料には「東日本大震災は海溝型プレート境界で発生した地震。日本海側には海溝型地震を発生させるプレート境界がない」とある。

 プレートとは、地球を覆う厚い岩板。東日本大震災の震源域となった太平洋側では、「太平洋プレート」が「北米プレート」と激しくぶつかり、押し負けて日本列島の下へと沈み込む。

 二つのプレートの境目が日本海溝。ぶつかり、沈み込んで岩板が壊れ、巨大な海溝型地震を引き起こす。

■日本海にも「境界」

 「日本海側にもプレート境界があるとの学説が定着してきた」。北大地震火山研究観測センター長を務め、奥尻島を襲った1993年の北海道南西沖地震(M7・8)を調査した島村英紀・武蔵野学院大特任教授はそう明かす。

 学説が生まれるきっかけは83年の日本海中部地震(M7・7)。「なぜ、この場所で海溝型並みの大きな地震が起きるのか」と注目された。

 そして南西沖地震が起きた。北海道から東北地方への日本海側で地震が列をなして発生しているとみられた。島村教授は「日本海側には海溝はまだできてはいないだろう。だが、二つのプレートがぶつかり合い、その境界で地震が起きている」と分析する。

 泊原発の地震対策は国が定める耐震指針に基づく。過去の地震を分析、活断層を調べて原発を襲う地震を想定する。揺れの強さを示す指標は「ガル」。泊原発1号機が運転を始めた89年は370ガルを想定した。

 北電は2006年の国の指針改定で泊原発周辺の活断層を再び調べ、南西沖地震と同じ規模の地震も考慮した。その結果、「想定を上回る最大550ガルまで耐震安全性が保てる」と国に報告。大がかりな補強工事をしなくても、耐震安全性は保てるとしてきた。

 独立行政法人・防災科学技術研究所によると、04年の新潟県中越地震では1千ガルを多く記録するなど、電力各社の想定を上回る揺れも観測されている。

 島村教授は「プレート境界で起きる地震だけでなく、直下型地震への備えも必要」と指摘する。直下型地震は「どこで起きても不思議ではない地震」とし、泊原発は耐震対策をより強化すべきだと提唱する。

 だが、国が新指針で進める原発の耐震安全性評価は大震災で止まったままだ。

■活断層の指摘否定

 活断層を巡る耐震安全性評価も状況は似ている。

 東洋大の渡辺満久教授(変動地形学)は09年の日本地震学会で、日本海の積丹半島沖約10キロの海底に長さ60〜70キロの活断層があると発表した。北電の調査では活断層が見つかっていない海域で、しかも泊原発にほど近い場所だという。

 渡辺教授は「泊原発近くの海岸が過去の地震で隆起した形跡がある。M7・5級の地震が起こりうる」とした。北電は地質調査を行い、その指摘を否定する報告書を国に提出したが、国の判断は示されていない。

 菅政権は、中部電力に浜岡原発の運転停止を求めた。根拠の一つが地震調査研究推進本部の「30年以内に震度6強以上の地震が起きる確率」。確かに浜岡原発は84・0%と高かったが、福島第一原発は0・0%。泊原発が0・4%といっても安心はできない。

 北電の佐藤社長は4月末の会見で言った。「科学的に根拠がない対策は不安をあおる」。泊原発の耐震安全対策は先行きがまだ見えない。

(綱島洋一)

PR情報
朝日新聞購読のご案内

ここから広告です

広告終わり

マイタウン地域情報

ここから広告です

広告終わり