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社説:放射能と健康 追跡調査を早く丁寧に

 原発事故で自分や子どもがどれだけ放射線を浴びたのか。今後も浴びる恐れがあるのか。それが将来、健康にどう影響するのか。

 東京電力福島第1原発の周辺に住む人々の大きな関心事だろう。

 福島県は福島県立医大などと協力し、県民を対象とした健康追跡調査を実施することを決めた。国も協力するという。

 こうした追跡調査は、住民の不安に応え、長期にわたる健康管理を徹底するために不可欠だ。今回のように低線量の被ばくが長く続く場合の健康影響を知る上でも欠かせない。住民のプライバシーや心情に十分留意しつつ、丁寧な調査を早く進めてもらいたい。

 事故が発生した当初、政府は「ただちに健康への影響はない」という言葉を繰り返した。しかし、多くの住民が心配しているのは、将来の発がんのリスクである。

 ところが、その心配に答える情報は十分に示されてこなかった。

 たとえば、事故発生から数日の間に原発で爆発現象が相次いだ。大量の放射性物質が放出され、特定の地域に多く降り注いだ。この時に住民がどれぐらい放射性物質を吸い込んだり浴びたりしたかは、よくわからない。

 初期の爆発以降、原発からの放出は大幅に減ったものの、住民は地面に沈着した放射性物質から放射線を浴びてきた。舞い上がる放射性物質による内部被ばくの恐れもある。食品からの被ばくも無視はできない。

 追跡調査では過去にさかのぼり個人個人が受けた放射線量を総合的に推定する必要がある。そのためのデータを政府は整理して出すべきだ。

 個人への影響を評価するために、もっときめ細かい汚染マップ作りを進める必要もある。詳細な汚染マップは、今後の被ばくを最小限に抑えるためにも欠かせない。

 一人一人の被ばく状況を推定するには、記憶が消えないうちに行動の記録を書き留めてもらうことも大事だ。簡易線量計を住民に配り、被ばく線量を直接測る必要もあるだろう。全身の計測装置による内部被ばくの実測も必要に応じて進めてほしい。

 調査に当たって、住民によく説明し、同意を得るのは当然のことだ。強制するようなことがあってはならない。個人情報の保護や、差別の防止にもよく配慮してもらいたい。精神的なケアも必要だ。

 これまで、放射線による発がんリスクは広島・長崎やチェルノブイリ事故のデータが参考にされてきた。しかし、今回の事故にはこれらと異なる面がある。後世のために科学的なデータを残すことは大事故を起こした日本の責務でもあるはずだ。

毎日新聞 2011年6月7日 2時30分

 

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