ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
わたしの現場

パソコンで情報格差改善
視覚障害者にIT指導

 

伊東 正樹(いとう・まさき)さん



 琵琶湖東側の湖岸道路沿いに建つ滋賀県立視覚障害者センター=彦根市松原1丁目12の17、TEL0749(22)7901=が、情報提供部門主任・伊東正樹さん(39)の職場だ。

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パソコンを前に、IT関係の電話相談に対応する伊東さん(滋賀県立視覚障害者センター)
 日本大学法学部で学び東京で就職したが、その後古里の彦根市に戻り、2001年春からセンター職員となる。点字・録音図書貸し出しを中心に、視覚障害者支援を専門とするセンターは、当時、IT(情報技術)利用推進事業に本格的に取り組み始めていた。伊東さんはパソコン講習会の立ち上げを任される。講師は県内の全盲の習熟者に依頼し、ワンクール5回の講習会を始めた。

 「福祉もITも縁はなかったが、情報格差の改善を仕事にしたかった。勤めてみると、視覚障害者にとっての情報不足は健常者と比較にならないほど基本的生活にかかわる切実な問題で、ショックを受けた」と伊東さん。「メールができれば、点字が読めない人とも第三者の介在なく手紙のやり取りができる。インターネットを使えば必要な時にニュースが聞け、音声や点字データで読書ができ、買い物もできる。移動や情報障害の軽減にITの有効性は高い」

 センターは02年から、パソコンの困り事相談に応じて個人宅に出向き支援をする事業を始める。「真ん中に琵琶湖がある滋賀県は交通の便が悪く、遠隔地の視覚障害者が彦根まで来るのは困難なこと。また、画面もマウスも使わない視覚障害者のパソコン操作は、一般的なパソコン技術だけでは手助けが難しく、専門のサポーターが出向くことが重要だった。この事業はセンターの特色になった」

 多い時は3人のサポーターが常駐し依頼は年間1000件にも上ったが、予算切れで3年で終了。現在は県の同様事業の一環でITサポーター1人が配置されている。

 しかしパソコンを使いこなせる視覚障害者はまだ少数派だ。定員6〜8人の講習会を年数回開くが、これまでの受講者数は県内の視覚障害者3174人(10年3月末現在)の1割に届かない。厚生労働省が5年ごとに実施する調査によると、視覚障害者のパソコン利用率は01年が5・0%、06年が12・4%と増えているが、同じ06年の全国のパソコン普及率80・8%(総務省調べ)にはほど遠い。

 IT機器の進化で、カセットテープの録音図書はデイジー図書(デジタル録音図書)への移行が進み、利用者は専用の録音再生機の操作を求められる。携帯電話の変化やテレビの地デジ化もある。「変化に遅れず、弱視や全盲と一人一人違う障害程度に合ったIT利用支援が大切だと思う」。

 ITに親しんでもらおうと、パソコンボランティアらと交流するITサロンを月2回開き、パソコン室は原則開放。講習会をセンター外で開く試みも始めた。「誰もがITを使いこなせるように底上げしなければ。そのためにIT支援のできる人材がもっと必要だ」

 伊東さんは4月に日本盲人福祉委員会の呼びかけに応じ、東日本大震災の被災地支援に入った。その時に立ち寄った視覚障害者宅でのこと。「倒れた家具の片付けより何より先に、パソコンの接続を望まれたのが心に残る」という。