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@展覧会:川端実展 変化し続けた抽象

 川端実(1911~2001)は50年代末にニューヨークへ渡り、抽象画家として成功を収めた。生誕100年を記念し、54点を集めた回顧展が神奈川県の横須賀美術館で開催中だ。変化の軌跡を浮き彫りにしている。

 祖父の川端玉章、父の茂章ともに日本画家。恵まれた環境でおのずと画家を志したが、実の実たるゆえんは、洋画の道を選んだことである。

 戦前作品の多くは焼失・紛失しており、展観は戦後の作品から始まる。当初はフォービスム、キュビスムの影響を強く受けた具象作品。10年後には完璧な抽象画となる。両者の中間に、機械や工場を描いた作品も存在するとはいえ、驚くほどの激変ぶり。この変化は、本展の見どころの一つだ。

 抽象の幕開けを告げた作品の一つが「リズム 茶」。ダイナミックな筆遣いに日本の書の影響を見て取る向きもあるが、絵の具が丁寧に塗り重ねられ、むしろ綿密な構成力が際立つ。迷いも感じさせない。はた目には突然でも、本人にとっては満を持しての抽象画転向だったのだろう。本作が米国・グッゲンハイム国際展で賞に輝き、これを機に移住した。

 実の抽象画が日本的な要素ありと言い切れないのは、実より年上で、ほぼ同時期に米国で成功した岡田謙三を思い出せば分かりやすい。詩的な画面で「ユーゲニズム」と称された岡田の抽象画は、日本的と呼ぶにふさわしい。対する実の絵画は、当時、米国で頂点を迎えていた抽象表現主義の文脈に沿うものとして映る。といって、迎合した窮屈さもない。日本にいた50年代、アンフォルメルと呼ばれたフランス仕込みの抽象絵画に接しながら深入りせず、アメリカの抽象に希望を求めたことが興味深い。

 70年代は「緑のフォルム」のような限られた色面と幾何学的構成で、奥行きと柔らかさをたたえた作品が誕生した。このあたりは「日本的」と呼べそうだが、年齢を重ね、肩の力を抜いて造形と色を追究した結果なのかもしれない。

 7月3日まで。【岸桂子】

毎日新聞 2011年6月7日 東京夕刊

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