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ハックルベリーに会いに行く このページをアンテナに追加 RSSフィード

2008-11-12

今最も見るべきダンスを踊るのは高橋みなみだ

みなさんは高橋みなみという女の子をご存じだろうか? 彼女はAKB48というアイドルグループに所属する17歳の女の子だ。つまりアイドルである。


AKB48は、昨年は紅白歌合戦にも出演し、先に売り出したシングル「大声ダイヤモンド」はオリコンのウィークリーチャートで3位に入った、日本でも有数のアイドルグループの一つだ。

はてなブックマーク界隈では、Perfumeをめぐる議論は喧しいが、それ以外のアイドルについてはほとんど言及されることがない。ハロプロ好きのはてなユーザーは多いらしいが、彼らは色々理由があってブックマークを使わないからはてブで可視化されることがあまりない。そうしてAKB48については、ハロプロファンより絶対数も少ないだろうから、彼女たちが何かの議論を巻き起こすということは全くない。


だから、ほとんどの人はAKB48のことをよく知らないと思う。それ以前に、だいたいAKB48はメンバーがとても多い(48人以上いる)から、なかなか認知しづらいというところもある。それは一般の人のみならずアイドルファン(例えばPerfumeファンやハロプロファン)でさえそうで、彼らはAKB48というグループについては知ってるかも知れないが、個々のメンバーについては多分何も――おそらく名前すら知らないのではないだろうか。つまり高橋みなみは、アイドルといっても、まだまだ一般的にはそれほど知られた存在ではない――というよりほとんど誰にも知られてない存在なのである。


今回は、そんな誰にも知られていないAKB48メンバーの高橋みなみという女の子について――そしてそのダンスについて――書きたいと思う。


高橋みなみとはどういう存在か?

高橋みなみという女の子は、AKB48の中でも突出した存在である。デビューしてから3年間、彼女はずっとグループを引っ張る中心メンバーであり続けてきた(ちなみに下のYouTube画像の、金髪の背の低い方が高橋みなみである)。

彼女は、歌も魅力的なのだが、何と言っても特筆すべきはそのダンスにある。その踊りの魅力は、もう完全にアイドルという次元を超えている。それは、いわゆるダンスを職業とする人の中に混じってさえ突出するほどの、優れて魅力的なものである。彼女のダンスは、もはやショーの領分を超えて芸術の域にさえ達している。


現在、高橋みなみは「メン★ドル〜イケメンアイドル〜」というドラマに出演中なのだけれど、この中で男装したアイドルの役を演じている。その男装した劇中アイドルグループであるところ「ペルソナ」が、物語の中で歌を歌っているのだけれど、この「3seconds」という歌のダンスが、とても素晴らしいのである。


D


ダンスというのは、ある域に達すると全ての部位の動きが絶妙なタイミングで、それこそコンマ数秒の精密さでリンクするようになる。そうして、そのリンケージが非常に魅力的なバイブレーションとなって、見る者を揺さぶる。その裡に大いなる興奮を喚起する。

但しこれは、やろうと思ってできるものではない。教えられてできるものではない。わずかに天賦の才に恵まれた者か、あるいはたゆみない真摯な努力を積み重ねた者のみに与えられる、ブレイクスルーな領域なのである。


ペルソナにおける高橋みなみのダンスは、その域に達している。この歌の彼女は、四肢のリンケージがとにかく凄い。

だから、この動画は何度見ても飽きない。それどころか、見るたびに惹きつけられる。見るたびに驚かされる。見るたびに新しい発見がある。

彼女のダンスの到達点というのは、あまりにも高い。「人間の動きの美」というものが、ここにはある。それ以前の一幅の絵としての美しさもここにはある。そう、彼女は幾重にも美しいのだ。そして幾重にも面白い。汲めど尽きせぬ美しさ、面白さの泉というものが、彼女にはある。


その面白さの理由について、野暮かとは思うが、ここで少し述べていきたい。


それはチェンジオブペースから始まる

彼女のダンスを動画のタイムライン順に追っていく。

まずは0:20辺りの動き。

メロディに合わせて、上に挙げた手を下に降ろすのだが、そこで少しだけ動きが速くなるのである。ほんの少しだけ、チェンジオブペースを図っているのだ。

そのわずかの違いが、見る者の胸に、今後の大いなる展開を予感させる。これから何かが起こりそうだという期待を与え、注目せざるを得なくなるのである。

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普通の動きも魅力的なダンスに変える独特のケレン味

次は0:26秒の動き。

ほんの一瞬なのだが、注目してもらいたいのは彼女の左手だ。ここは、横向きから正面に向き直るという、いたってシンプルな振り付けなのだけれど、向き直る直前に、わずかに左手を動かしているのである。そうして、その動きを利用して身体をくるっと回転させている。これが、なんとも言えないケレン味を醸し出しているのだ。向き直るという単純な動きを、ただの動作に終わらせず、一つの振り付けとして魅せているのである。

これは歌舞伎の見得にも通ずる。単純な動きの中にこそ、実は魅力的な動きの神髄というものが宿るのだ。それを、17歳の女の子が、アイドルソングを歌いながら実現しているのである。その倒錯に、ぼくはくらくらとした目眩を覚える。

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身体の中に入り込んだリズム

0:33。

ここでは、彼女がリズムに合わせて身体をバンプさせている。これがまた一級品なのだ。リズムが完全に身体の中に入っている。彼女自身が、一つの律動となっている。だから、見ていて非常に気持ちが良い。

彼女は、見る者の識閾下にその気持ち良さを訴えかけてくる。だから、誰もこのからめ手からは逃れることができない。彼女のダンスを目の当たりにすると、誰も、それに魅了されないわけにはいかなくなるのだ。

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静止した姿の美しさ

0:38。

ここは一転して、彼女の静止した姿の美しさが味わえる。

これはストップモーションにするとより強く伝わる。この立ち姿の美しさ。これはもう一幅の絵だ。スッと伸びた背筋。少しかしげた首。曲げた腕。そして胸からあごにかけてのシルエット……何もかもが美しい。何もかもが魅力的である。

さらに、次の写真のだらりと下げた両腕。その肩との関連性。身体と頭が織りなすシルエット。本当に、彼女は美しい一枚の絵画、あるいは美しい一体の彫刻だ。

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絶妙なバランスで配合された各要素

次は0:43辺り。

ここは、両足を開き指を突き立てるという振り付けなのだけれど、そのポーズに移行する直前、右足を跳ね上げるという動作が入る。

この跳ね上げた足の角度が完璧なのだ。そこには人間が気持ち良く感じるタイミング、人間が気持ち良く感じる角度、人間が気持ち良く感じるスピードという各要素が、絶妙なバランスで構成されている。緩急があり、静と動がある。ここには、人間が気持ち良いと感じる構成、人間が気持ち良いと感じる構造さえある。

しかも、彼女はけっして力んでない。あくまでもリラックスした柔らかい動きの中から、そうした無数の魅力を自在に解き放っているのだ。これはもはや、一つの奇跡とも言える。彼女のダンスが到達した、一つの極みだ。

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演劇的な表情によるコミュニケーション

1:45。

ここで見逃してならないのは、彼女が身体だけでなく、表情までをも含めた演劇的な表現をしているということだ。

ここでは、あごを上げ手を降ろしてくる直前に、一瞬だけまぶたを伏せて下を向いている。これが効くのである。この一瞬の所作が、見る者を引き込むのだ。

そうして、今度はくっとあごを上げこちらを見据える。すると、彼女の目を伏せる表情に引き込まれていた者は、今度はその眼差しに心を貫かれてしまうのだ。そうして、その眼差しから目をそらすことができなくなるのである。全身が痺れ、身動きが取れなくなるのだ。

この歌のタイトルは「3seconds」という。内容は、「3秒見つめるだけで落としてみせようか」という挑発的なものなのだけれど、彼女の視線には、冗談ではなくそれだけの時間で見る者を落とす強い力がある。

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身体ごと、心ごと持って行かれる連続した動き

次は0:53頃の動き。

この一連の動きは、見ていて武者震いがする。

まず身体をスッと閉じる。それを次の瞬間にパッと開く。それはあたかも花が咲くような、静かな、しかし唐突な開き方だ。

さらに彼女は息もつかせない。その開いた身体を、今度はガクッと右に折る。これで、見る者は身体ごと持って行かれる。心ごと持って行かれる。全てを、彼女に持って行かれてしまうのだ。

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豊かな四肢の動きのシンクロナイズ

1:17。

ここは、ちょっと細かい動きなのだけれど、右手をパンと後ろに跳ね上げた時に、顔も心持ちかしげるようにしている。そうして、右手と顔をシンクロさせているのだ。

これが、見る者を魅了する。その個々の動きの同調が、ダンスを立体的なものとして浮かび上がらせる。一人で踊っているのに、まるで群舞を見ているような感覚にとらわれる。

あらゆるダンスの動きには、その基本にこのシンクロナイズの気持ち良さというのがあるのだけれど、彼女はそれを十分に体現してみせる。彼女の四肢の豊かなシンクロナイズは、全てを目で追うことはできないから、見る者の感覚に訴えかける。そして感覚に訴える分だけ、見る者の心のより深いところまで届く。だから、見る者をより気持ち良くさせることができるのだ。

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ロックする力強い筋肉

1:27。

彼女は、柔らかな動きでなく力強い動きをも自在にこなす。それは身体をロックする動きに表れる。

身体をロックする(鍵をかけたように静止させる)ことの気持ち良さは、ダンスの大きな魅力の一つだ。そうして彼女のロックは、見ていて本当に気持ちが良い。完全に静止するわけではなく、わずかに震えているからだ。その震えが、心地よい波動となって見る者の心をも揺すぶるのである。

「3秒見つめるだけで」の「ダ・ケ・デ」のところで、カン・カン・カンと左右に動く一連の所作。見ていると、思わず自分の身体が動いてしまっていることに気付かされる。

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身体の中に太極図が見える

1:40。

最後、再び拳を突き上げた静止の状態から、手と身体を同時にパッと開いて腕をゆっくりと降ろしてくる。この緩急。その閉じと開き。緊張と開放。始まりと終わり。阿吽。陰陽。

言い方はなんでも良いのだが、とにかく彼女の身体は陰陽太極図のように、この世界の全てを表している。彼女の小さな身体の中に、この広い世界の全てが凝縮されているのだ。

それは、彼女がこの世界と深いところでつながっていることの証左だ。彼女が、ダンスの律動を通して、この世界そのものの化身となったことの証明だ。だから、ぼくはそんな彼女を見ることによって、この世界そのものを見ることもできるのである。

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まとめ

色々書いてはきたものの、ぼくは結局彼女のダンスを十全に表現することはできない。高橋みなみのダンスの魅力は、文字通り筆舌に尽くしがたいからだ。

だから、もしよければ、みなさんにも実際にその目で見てほしいのである。もしご自身の目で確かめられれば、ぼくと言わんとしていることはきっと伝わるはずだ。まず手始めに、「メン★ドル〜イケメンアイドル〜」というドラマを見てほしい。あるいは、今度発売される彼女っち新曲を聞くのでも良い。さらには、彼女たちはいつでも秋葉原の専用劇場で公演を行っているので、実際に赴いて確かめてもらうのも良いだろう。


ところで、もしこのエントリーを「メン★ドル〜イケメンアイドル〜」の関係者が見るようなことがあれば、ぜひとも「3seconds」が収録されたDVDを発売してほしい。それも、できれば彼女たちのダンス映像付きで(可能なら個々のメンバーをフューチャーしたバージョンでも)出してほしい。

高橋みなみのダンスは、真にプロフェッショナルと呼ぶべき、お金を払ってでも見るべき価値のあるものだ。これは、ぜひとも形にして残しておくべきだと思う。

それがもし発売されれば、ぼくが一も二もなく買うのはもちろんのこと、多くの人にもそれを見てもらい、ぼくが味わった感動を共有したいと考えている。


参考

ちなみに高橋みなみは、AKB48とは別にノースリーブスという3人組のユニットに所属していて、11月26日に「Relax!」というシングルでユニットデビューすることになっている。このシングルは、彼女たちが主演しているテレビ東京で毎週金曜深夜に放送中の「メン★ドル〜イケメンアイドル〜」というドラマの主題歌にもなっている。


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