2011年6月6日14時20分
福島県に続き、東日本各地の下水処理施設の汚泥から相次いで放射性物質が検出され、影響が広がっている。国は処分できる明確な基準を示せず、行き場のない汚泥や焼却灰はたまる一方。セメントの原料などとして再利用できるはずが、受け取りを拒否する業者が相次いでいる。
■「6月中しかもたない」
「あと数日で置き場所がなくなる。いったいどうすればいいのか」
川崎市の下水処理場4カ所からの下水や雨水を処理する入江崎総合スラッジセンター(川崎区)の大河内孝所長はため息をつく。
5月13日の調査で、汚泥から放射性セシウムが1キロあたり470ベクレル、焼却灰から1万3200ベクレル検出された。焼却灰は市内の業者がセメントに再利用してきたが、「安全が確認されるまでは」と搬入を拒否。炉内では保管しきれず、二重の袋に入れ、通路の壁際に高さ約2メートルまで積み上げる。これまでに約550袋、計220トンに達した。
東京都立川市の下水処理場では、地下1階倉庫の半分を焼却灰を詰めた袋が占める。セメント業者は5月上旬から受け取りを拒否。汚泥と焼却灰からはセシウムやヨウ素が検出された。服部敏之・市下水処理場長は「6月いっぱいしかもたない」。
管理する8カ所の処理場いずれからも検出された茨城県も汚泥の搬出を停止。穴を掘ってゴム製シートを敷き、ブルーシートを重ねて汚泥を流し込む。焼却灰は二重の袋に入れ、鉄板の上に置いている。農業集落排水処理施設でも、82カ所のうち78カ所で汚泥からセシウムが検出された。
セメントの原料として受け入れてきた業者は「自治体が搬出を再開したら受け入れる。ただ、製品が1キロあたり100ベクレルを超えていないか検査する」と話す。
作業員の不安も大きい。立川市では作業員はゴーグルにマスク、防塵(ぼうじん)服の完全装備だ。埼玉県秩父市は急きょ、防護服を発注。3日には同市など地域の1市3町が、具体的な処理方法や基準を国に求める緊急要望書を知事あてに提出した。
住民への不安も広がる。さいたま市は処理施設で継続検査をし、結果をホームページに掲載する。埼玉県も施設に線量計を置くことにしている。
■国、近く基準決定
福島県が汚泥からセシウムが検出されたと発表したのは5月1日。放射性物質に汚染された雨水が下水道管に流れ込み、下水処理の過程で濃縮されたとみられ、福島から離れた地域でも放射性物質が見つかるようになった。それまで国に指針はなく、11日後に当面の考え方を発表した。
汚泥1キロあたり10万ベクレルを超えるかどうかで対策を分け、飛散防止策をとり、監視できる状態で保管できるなどとした。しかし、最終処分できる基準はなかった。近く、新たな基準や対策を決める方針だ。
下水道法は自治体に汚泥の再利用を求め、8割はセメントや肥料に使われている。国はセメントとして利用して1キロあたり100ベクレル以下になれば問題ないとしているが、実際は再利用は滞っている状態だ。
■1キロ17万ベクレル
水道水から放射性ヨウ素が検出され、東京都が乳児への摂取を制限していた3月下旬。東京都江東区の下水処理施設で汚泥の焼却灰から1キロあたり17万ベクレルの放射性物質が検出された。他の施設でも確認されたが、都は「国の基準がなく、問題視しなかった」とそのまま再利用に回したという。
国が5月に基準を示したため、23区の焼却灰は処分場に保管することに。放射性物質の数値は4月より下がっていたが、セメントと混ぜて固め、東京湾の埋め立て地の処分場に埋めて土で覆った。それでも5月25日の埋めた場所の放射線量は、同日の新宿区と比べると、3〜8倍ほどの数値だったという。
「売れないと収益が減ってしまう。これまで通り売りたいのだが……」。そう心配するのは長野県だ。
諏訪市にある終末処理場は灰などに高濃度の金が含まれることで有名だ。金鉱脈が温泉に溶け出し、下水に流れているなど理由は諸説ある。県は3年前から灰の売却をはじめ、年間数千万円の利益がある。しかしこの灰などからセシウムを検出、留め置いた状態だ。