2011年 七夕記念ハルキョン小説短編 ハルヒがポニーにする理由
俺が初めてハルヒのポニーテール姿を見たのは、あの閉鎖空間に巻き込まれた翌日の教室での事だった。
その時のハルヒは新学期にそれまで伸ばしていた髪を切っちまったもんだから、ポニーテールと言えるのか怪しいもんだったがな。
やはり閉鎖空間でハルヒにキスをする前に何を言って良いのか解らなくて口走ってしまった言葉が原因なんだろうな。
お前は偶然ポニーテールもどきの髪型にしたと言うが、無理があるぞ。
やっぱりあの頃から少しでも俺の事を意識し始めていたんじゃないのか?
長門に閉鎖空間からの脱出方法を聞かされた時は驚いたよ。
それが俺がハルヒを意識し始めたきっかけには相違無い。
俺はまるっきり好きでも無い女にキスをするなんて芸当が出来るほど器用では無いからな。
次にハルヒのポニーテール姿を見たのは七夕も迫った七月の事だ。
喜緑さんがSOS団の部室を訪れ、俺達は行方不明になったコンピ研の部長氏の部屋へ行き調査する事になった。
そこでもハルヒは傍若無人に振る舞い、冷蔵庫の中を漁りわらび餅を食べてしまうわ、勝手に部長氏のパソコンのDドライブを覗いてしまうわやりたい放題だった。
部長氏は長門と古泉の活躍によって閉鎖空間から救い出せたわけだが、ハルヒは部長氏に報酬としてさらにパソコンを要求したのだ。
そして部長氏が拒否すると、ハルヒは例によって脅迫を始めやがった!
「そう、それならあんたが部屋のパソコンで見たサイトの履歴を暴露するわ。それとも、Dドライブの中身の方が良いかしら?」
「や、止めてくれ!」
部長氏はすでにハルヒからパソコンを一台奪われている。
こんな悪習が何回も通じるとハルヒのやつに味を占めさせてはいけない、さすがに部長氏がかわいそうになってきた。
そこで俺はハルヒを止める事にした。
「何よキョン、団長に盾つくなんていい度胸しているわね!」
いつもならハルヒの迫力に圧されてしまうのだが、今回の俺は本気だった。
「ハルヒ、自分の欲しいものが何でも手に入ると思ったら大間違いだぞ! 他人から無理やり奪い取るなんて言語道断だ!」
側に居た古泉の顔色が変わるのを無視して、俺はハルヒに説教を始めた。
ハルヒは口をアヒルみたいにとがらせて聞いていた。
「わかったわよ、ただパソコンが欲しいなって言ってみただけ」
不機嫌そうにハルヒはそう言うと、コンピ研の部室を出て行った。
その後のハルヒは団長席で静かに黙り込んでいた。
突然「帰る」と一言つぶやき、俺と目を合わせる事無く部室を出て行った。
「涼宮さんはすっかりつむじを曲げてしまられたようですね」
「古泉、あんまりハルヒを甘やかすな」
俺は目の前のハルヒの横暴を見過ごした古泉に腹が立っていた。
しかし、古泉はいつもの微笑みを俺に返すだけだった。
その日の翌日、ハルヒは教室の自分の席で面白くなさそうな顔で頬杖をついていた。
ハルヒの髪型はポニーテールだった。
この時の俺は、まだハルヒの意図をくみ取れる程では無かった。
たぶん、気まぐれでポニーテールにしたのだろうと結論を出した。
いや、心の底ではひょっとしたらと疑問を持っていたのだが、否定する気持ちの方が強かったんだ。
俺が決定的にそれを確信したのは文化祭に向けた映画撮影をしている最中での事だった。
ハルヒは文化祭においてSOS団で映画を公開すると言い出して、俺達を巻き込んだ。
俺もハルヒの提案に魅力を感じないわけでは無い。
だから映画撮影そのものには反対はしなかった。
しかし、俺達SOS団のメンバーを人形だと言われた時は本当に腹が立った。
俺達SOS団は仲間じゃなかったのかよ!
そう思っていた俺は悔しくて、古泉が止めるより早くハルヒを思いっきりぶん殴っていた。
殴られたハルヒは目を丸くして俺を見ていた。
ハルヒに驚かされる事は日常茶飯事だが、ハルヒが驚くのは珍しいから俺の方が驚いちまったぜ。
そしてその後に見せたハルヒの表情は、俺を驚愕させた。
ハルヒは目から涙を流して顔を真っ赤にして怒りだした。
それはまるで子供が癇癪を起こした様だった。
そしてハルヒは腕に着けていた”超監督”の腕章を叩き付けて俺達の前から立ち去って行った。
俺達はハルヒに何も声を掛ける事は出来なかった。
ハルヒの姿が消えた後、古泉はいつに無く真剣な眼差しで俺をにらみつけて来る。
「いったいどういうつもりですか、涼宮さんに手を上げるなんて?」
「じゃあ黙ってハルヒの言う通りにしていればいいのか」
「その通りです、我々は涼宮さんの精神安定剤なのですから」
「だからって、ハルヒを腫れ物に触るように扱う事は俺には出来ん」
「僕はとてもあなたの考えには賛成できませんよ」
古泉はハルヒが中学生の時散々振り回されているんだからな、そんな先入観を持って恐れてしまうのは解る。
でも、少しはハルヒのやつを信じてやっても良いんじゃないか?
あいつも自分で気付いても良い頃さ。
地面に置き去りにされた”超監督”の腕章を拾い上げながら想像していた。
明日の朝、ハルヒは教室でポニーテール姿で俺を待っているだろうと。
そしてそれは予想通りになった。
ハルヒのその姿を見た俺は、笑い出したくなった。
お前は何て不器用なやつなんだ。
俺にはお前が謝っている事は解っているさ、ハルヒ。
だから俺はもうお前を責める事はしないぜ。
「ハルヒ、これを落として行ったぞ」
俺はさりげない仕草でハルヒに”超監督”の腕章を返してやった。
腕章を受け取ったハルヒは太陽のような笑顔になって元気を取り戻した。
その日の放課後も映画の撮影が再開されたのは言うまでもない。
「キョン、早く来なさい! 水が冷たくて気持ち良いわよ!」
ポニーテールで水着姿のハルヒがそう言って俺を手招きした。
夏休みを目前に控えた7月7日、俺達は海に来ている。
周りには長門や古泉、朝比奈さんの姿は無い。
なぜかと言えば、俺とハルヒは長門や古泉、朝比奈さん達と違う大学に進学したからだ。
俺とハルヒは世間一般で言うデートと言うものをしているからだ。
そして、ハルヒは今日だけでなく昨日もおとといもその前も、ずっと髪型はポニーテールだ。
でも、俺達の間には別に困る事は無いんだ。
「悪かったわね、アンタが課題の締め切りに追われていたのに海に出掛けたい何てワガママ言ってさ」
「良いんだ、そのおかげで俺も課題を早く完成させることが出来たからな。補講の心配が無くなったんだ、今日は思いっきり遊ぶぞ!」
……だって、こうしてハルヒは素直に謝る事が出来るようになったからな。
それにハルヒはこんな穏やかな笑顔を浮かべられるようになったし、ポニーテールで魅力は136%に上がった。
過去の俺が今の俺を見たら凄い羨ましがるだろう。
そう言えば今日はポニーテールの日だったな。
由来は少し強引な気もするが、ポニーテールを考えついた人物に感謝だ。
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