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LOOKERS INTERVIEW No.006 (2/2)


LOAPS:今では「バンロッホ」はみんなに愛されている人気キャラクターになりましたが、きっかけはありましたか。携帯ストラップになったり、ぬいぐるみやキーホルダーが沢山発売されましたね。
展覧会でバンロッホのぬいぐるみを発表したことはありました。手作りでチャック付きなんですよ。
ちゃんとした商品になったのは、東京トラッシュという山口裕美さんがプロデュースしているサイトの企画で、メーカーにぬいぐるみを作っていただいてからですね。いざ製品になってみると、カワイくて結構人気があったんですよ。



それから、2001年にバンロッホの絵本の一冊目を出したんですが、これが一万部以上売れたんですよ。第四刷までいきました。絵本の世界では、1万部を超えたらヒットなんですよ。初めて売れた本でした。
特に宣伝はしていなかったので最初は5000部位売れただけだったのですけど、作家の江國香織さんに、その前に出したZちゃんの絵本の書評を朝日新聞で書いて頂けたり、「絵本をかかえて 部屋のすみへ」という文庫本で紹介していただいたおかげで認知度が高くなっていたのも売上が伸びたきっかけの一つですね。
自分にとっては大きな転換期で、急に新聞とか雑誌にいっぱい出たりテレビにも出たりして、世界とリンクし始めた。渋谷の大きなスクリーンにバンロッホが映ってるのを見たときは、ほんとにビックリしましたよ。


LOAPS:人形を作った事でキャラクターが知られて絵本も売れたんですね。ある程度は確信してましたか?
全くしてませんでしたよ。途中で、「あれ?おかしいぞ、あり得ない動きだな」って思いました。打ち合わせというと、人が8人位目の前にバーっと並んで、明らかにビジネスが行われてる。お金の動きも大きいし、知らない世界を見た気がしました。それまではアートファンや一部のマニアな人達、ちょっと困った人達(笑)に支持されてきたので、僕の「バンロッホ」をお母さんが子どもに読ませてると聞いた時はすごい事になったと思いましたね。そういった客層はそれまで想定してなかったから、責任を感じました。

人気が出て嬉しいけど、今は少し怖いです。以前といろんなことが変わってしまって。人気が出る前は、ずっと狭い部屋で作品や本に埋もれて暮らしてきたから。
布団をたたむと、椅子に座るしかない。同じ机でご飯食べて仕事して。良い言い方をするとジェット機かロケットのコックピットの様な感じなんだけど、調子が悪い時は「ここは牢獄か?」と思った。軟禁状態だから外には出れるんだけど、ドアを開けて外に出る度に、ここは夢の中じゃないのか、なんでここに俺はいるんだろう、信じられない、もう35歳も過ぎたっていうのに、お金は一銭もポケットに入ってない。これって夢じゃないか?ってしょっちゅう考えてたからね(笑)。
LOAPS:そこから急にビジネス展開して自分のグッズが氾濫していく事に関してどう感じてましたか、それも夢みたいな感じでしたか?
本当に忙しかったので、現実に適応するのに精一杯でしたね。
LOAPS:それは望んでいた姿ですか?
そうですね、シャレにならない位たまっていた借金が返せましたから(笑)。ずっと、どうしようもなく願っていた奇跡が起きましたね。
でも、奇跡とはいえ、周りの人達のおかげです。全部そうですよ。ヒモだったときもあったしね(笑)。自分は座って絵を描くしか能がなかったから、世の中との繋がりを作ってくれたのは全部周りの人ですね。人の紹介で雑誌に載せてもらって、今度はそれを見てくれた人の紹介で仕事が繋がっていく。全部誰かが絡んでいます。その時出会った人達の事は全部覚えてます。
LOAPS:成功されてご両親の反応はどうでしたか。
いいですね(笑)。幸せそうなんですよ。今まで心配していたんだなっていうのが分りましたね。
LOAPS:LOAPSに参加してるこれからのアーティストに一言いただけますか。
10年間はとにかくやってみること。ビジネス的なことなんかはあまり考えないほうがいい。考えないといけない時代かもしれませんが、それをやると何かが変になるという感じがする。
基本的な土台の魂の部分、そこが一番大事で、後はそこに付いて行く世界。クリエイターになるならば、作家としての魂を作っといたほうが、後々の作品も商品としてより説得力のあるものになると思います。



最初はたまたま出来たり、面白いから始めたりしますよね。そして、途中で何の為にやってるか分からなくなる人も多いと思う。だけれど、10年続けると自分を信じられるようになる。他の部分は切り捨てていかなくちゃいけないから、他のチャンスがなくなるっていうのは怖い事でもあるんだけど。だけれど、その辺が一つの区切りかな。続ける事が基本。これは大昔から変わってないと思う。というか、好きだからいつまでもやっているだけなんだけどね。ある種、お金を払ってでもやりたいことなんだから。

どの世界もそうだと思いますが、甘くないですよ。たまたま上手くいったときがあったとしても、ずっと上手くいくとは限らない。人生いい時もあれば悪い時もある。だから、続けて色々なことを学んだり考えたり、自分のことを知ったり、努力を怠らない事が大事。その方が「道」として良いですね。僕はアートは生き方だと思うから、アートの道があるとしたら、ちゃんとした「道」を通った方が見ていて美しいですよね。
LOAPS:LOAPSを見ていただいてインターネットがアートを変えてきたと感じる部分はありますか?
あるでしょうね。消費のスピードが早くなりましたよね。19世紀末と20世紀末では随分違っている。ある哲学者は、今回の世紀末の特徴は幻想を消費し尽くす事なんじゃないか、って言ってました。20世紀末に出現したインターネットを見てて思うのは、情報の氾濫と消費です。すぐ一番知りたい場所に行けてしまうけど、苦労もしないで手に入れた世界は終わってしまうのも早いんです。昔は情報量も遅くて少なかったから、あっちに行ったりこっちに行ったりを延々繰り返して、結局なんだかよくわからなくて幻想だけが膨らんでしまったりしていた。今はインターネットでピューっと答まで行けてしまう。セックスでもなんでも過剰なほど見れてしまうし、全然関心のなかったことまでマニア並みに凄く詳しくなってしまっていたりする。今日たまたまインターネットで偶然見つけて欲しいと思ったものが、二日後には外出もしてないのに家にある。書いた日記のリアクションが数分後には地球の裏側から届く。こんな時代、なかったですよね。SFにもなかった。十年一昔という言葉があるけど、いまは一年、半年でも一昔という感じなんじゃないかな。
ここまで消費の速度が早まると、今後はアートのより本質的な部分が見えてきそうですね。楽しみです。
LOAPS:最後に井口さんの今後の展開を聞かせていただけますか?


最近、茂木健一郎さんの「脳と仮想」という本を読みました。これを読んで改めて仮想ってやっぱり面白いなって思いましたね。現在の科学では太陽系の隣にも行けないし、宇宙の果ての何億光年先までがおぼろげながら見えてるのに現実にはとても行けない。仮想ではもの凄く色んな事まで分かっているのに、実際に気に掛けるのは生活費のこととか髪型のこととかだっていう、その変な感じ。これが今の我々の現実だと思う。
人間の欲望の質も分かってきたし、聞きたいことの答えがもうすでにわかっている状態。どうしようもないけど愛おしい有り様、というか。みんな映画の中の俳優のように、凄くリアルにストーリーを演じ続けてゆく世界。すでに物質や光の世界にも退屈し始めているというのは、次の世界が始まる兆しのような気がします。ニュートン、アインシュタインの次に来るような科学者の出現を強く望んでいるんじゃないかな。科学者じゃなくてもいいんだけど。暗い宇宙空間にぽっかり浮かんだ地球を見ても誰もパニックを起こさないんだから、よほど何かを信じきっているんでしょうね。

現実的な方法や集積から生まれる部分もあるけど、向こうからやってくるモノが面白い。何か不思議な世界と関係したんだなあって気がする。そのやってくる場のセッッティングのために一日中を費やしてる気がする。今後は未来にも過去にも通じるイメージを作品にしていきたいですね。

今年は1992年に出版されたZちゃんの漫画の普及版が出る予定です。 それからZちゃんの恋人役のローズちゃんの絵本や友達のカトウの絵本もそれぞれ違う出版社から出る予定です。
バンロッホは少し形態を変えて絵本の第3弾が予定されています。 他にも新しいキャラクターの絵本やSWITCHに連載していた小説の単行本化の話もあるのですが、最大の悲しい問題は私の仕事が遅いということです(笑)。
展覧会だってそろそろまた開きたいんですけどね…。

注)東京トラッシュ:http://www.so-net.ne.jp/tokyotrash/

注)山口裕美:アートプロデューサー&現代美術ジャーナリスト。東京トラッシュ主催

注)江國香織:小説家。瑞々しい文体で若い女性から非常に多くの支持を集めている。

注)茂木健一郎:脳科学者 生物物理学者 「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究。



次回のLOOKERS INTERVIEWは岡田聡 (精神科医/アートコレクター )です。




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