震災被災地の宮城県の6市町では、建築基準法に基づく震災後の建築制限によって、店や家屋の新築や改築などが事実上できない。復興計画が決まるまで、無秩序な開発を防ぐためだが、商店主らの営業再開の足かせにもなっている。せっかく店を直しても、計画策定後に移転を求められる可能性があり、商店主らは「顧客が離れていってしまう」と焦燥感を募らせている。【須藤唯哉】
石巻市内で豆腐屋を営む3代目の林光次郎さん(55)は「地域に愛着がある」と営業再開を決めた。店は津波で浸水、機械は海水をかぶって使えなくなり、現在修復工事を進めている。「ある程度リスクを負ってでも動き出すしかない。売り上げは減るけど1年待ったらゼロになる」。修繕費は1000万円を超える見通しだ。
復興計画に伴う区画整理などで、店の移転や立ち退きを求められたら、これまでの修繕費が補償されるか分からない。林さんは5月下旬、町内会の商店主らとともに「制限の即時解除」を求める要望書を市に提出した。
建築制限への不満や戸惑いの声が多いため、石巻商工会議所は5月25日、市担当者による説明会を開いた。個人事業者ら約50人が出席し「今の店舗で営業設備を復旧させたらもう動かせない」「小さな家が建つくらいの修復費用がかかるのに、移転を求められたら生活できない」などの意見が相次いだ。これに対し、市側は「『できるだけお金のかからないように修繕してください』『将来の区画整理に備えてください』としか答えられない」などと回答した。
建築制限の期間が最長で今年11月まで延長できるようになったことも個人事業者を不安にさせている。当初は震災発生日から最長2カ月だったが「早期の復興計画策定は困難」として特例法が成立し、最長8カ月まで延長できるようになった。
石巻商工会議所の浅野亨会頭は「建築制限で(営業再開などに向けた)前向きな活動ができない」と批判する。「建築制限をかけるだけで、個人事業者らに何もしてはいけないというのは、かすみを食べて生きていけ、というものだ」
建築基準法第84条に基づく措置で、県や自治体が建築を制限する。制限区域に指定されると、新築▽改築▽増築▽移築は原則禁止される。宮城県内での制限区域は、石巻市▽気仙沼市▽東松島市▽名取市▽南三陸町▽女川町の6市町の計約1660ヘクタール(今月6日現在)で、阪神大震災の時よりも約5倍広い。
毎日新聞 2011年6月7日 12時39分(最終更新 6月7日 12時44分)