「私も、被ばくした」――蓮池透が語る、原発労働の実態(前編)
蓮池透さん |
北朝鮮による拉致問題が注目されたとき、被害者家族として“時の人”となった蓮池透さん。しかし彼が東京電力で、しかも福島第1原発で働いていたことを知っている人は少ないだろう。
蓮池さんは原発でどのような仕事をしてきたのだろうか。また今回の大惨事を、どのように見ているのだろうか。前後編でお送りする。
※本記事は6月4日に開かれたシンポジウム「そこで働いているのは誰か――原発における被曝労働の実態」の講演内容をまとめたものです。
●多くの人が原発で働き、被ばくしている
私は1977年から2009年まで、東京電力で働いていた。その間、原子力発電所や核燃料リサイクル業務を担当。最初の赴任先は福島第1原発で、そこで3年半ほど計測制御装置の保守管理などを行っていた。例えば原子炉の水位や圧力、中性子などを計測していた。
その後、本店に配属され、再び福島第1原発に戻った。2年半ほどいたが、そのときには発電所全体の安全統括を担当。定期検査の結果を旧通産省に報告したりしていた。
もちろん原発の中で、いろんな労働者がいたことは知っている。下請けとして1次、2次、3次、4次……一体何次まであるのか分からないくらい、たくさんの人が原発で働き、彼らが被ばくしている事実を知っている。原発は定期的に検査を行うが、そのとき東芝や日立などと作業契約を結ぶ。しかし東芝や日立の人が契約書にサインするわけではなく、そこからいろんな会社に作業が流れていくのだ。
東電の人間が原子炉内で作業することはなく、あくまで「管理員」という立場。どういう作業が行われているのかを、最終的にチェックしている。簡単に言えば自分たちがお願いした作業が、ちゃんとできているのかをチェックするのが主な仕事だ。
作業員名簿にはいろんな人たちの名前が掲載されている。しかしそれはリストがあるだけで、その人がどういう人なのか――ハッキリ言って分からない。街中で電柱の作業をしている人を見かけることがあるが、そこでも東電の人間が直接手をくだすことはない。電柱工事についても「管理員」という立場で、作業がちゃんとできているのかをチェックしているだけだ。
●私も、被ばくした
私は福島第1原発に、計7年ほどいた。そして、被ばくもした。通算で90〜100ミリシーベルトほど、あびている。もう私の命もあまり長くはないかもしれない。
現場では放射線量をたくさんあびた人間は「女の子しか生まれない」という噂がある。私も子どもが3人いるが、全員女の子。もちろん噂話のレベルだが、このほかこんな実話がある。作業員は放射線の異常を知らせるアラームメーターが鳴ると仕事ができなくなる。なのでアラームメーターを外に置いて作業していた。昔は頻繁に、こうしたことが行われていた。
新入社員で原発に配属されると、先輩から「鍛えてやる」と言われた。そしてアラームメーターなどを持って、放射線量の高い場所に連れていかれるのだ。私は福島第1原発1号機にある廃棄物処理建屋というところに連れていかれた。配管をまたいだとたんに、アラームメーターから「ビーッ」という音が鳴った。このように新入社員は“みそぎ”のようなものを受けさされるわけだが、今振り返ってみると「随分無駄な被ばくをしたなあ」と感じている。
私が入社したころはトラブルがあって、原発はほとんど動いていなかった。原子炉に直結している配管にヒビが入っていて、その配管を交換しなければいけなかったのだ。その作業を誰かがしなければいけないのだが、そのとき米国のGEは、たくさんの黒人を連れてきた。当時、黒人には放射線量をどのくらいまであびることができるのかといった制限がなかったので、彼らを連れて来たのだろう。
●「事故は起きない」という“神話”は崩壊した
福島第1原発で事故が起きたわけだが、いまでも周辺の放射線量は高い。私は主に3号機を担当していたが、今では見るも無残な姿。個人的には残念で、かつ心配な気持ちが強い。
福島第1原発から海を見ると、波は穏やかなことが多いので、まさか、あれほど巨大な津波が襲ってくるなんて想像もできなかった。1つの原子炉で炉心損傷が起きる確率は年間で10のマイナス6〜7乗、つまり100万年、1000万年に1回程度と説明されていた。
今振り返ってみると「なんだ、この数字は?」と思うのだが、当時は「炉心損傷なんで起こり得ない」と思っていた。しかし今回の事故で、その“神話”は崩壊した。工学的に炉心損傷は起こりえないわけだが、さらに安全性を高めるために、東電はアクシデントマネジメントという方策をとった。10年ほど前のことだったと思う。
このアクシデントマネジメントというのは原子炉を冷却する電気系統が使えなくなったときに、消防用の消火水を原子炉の中に注入したり、原子炉格納容器から蒸気を抜く「ベント」をしたりするもの。この対策をとることによって、原子炉での炉心損傷が起きる確率が10のマイナス6〜7乗から、さらに20〜30%安全性が高くなると言われていた。
原子炉の安全設計というのは「多重防護」といって、何重もの対策をとっているのが特徴だ。徐々に事態が悪化していくというシナリオがあって、第1の壁が破られれば、第2の壁が守る。それが破られれば第3の壁があり、それが破られれば第4の壁があるといった感じ。原子炉は多重に防護していて、もちろん運転マニュアルもあった。何かトラブルが生じればこういう操作をする、悪化すればこういう操作をする、さらに悪化すればこういう操作をする――。このような段階的なマニュアルがあったわけだが、今回の事故は何段階もあるバリアが全く機能しなかった。通常運転から最悪の状態に一気にジャンプアップしてしまったことが、大きな問題だ。
炉心損傷は起こりえないはずだったが、より安心・安全のために行っていたアクシデントマネジメント。今回、事故が起きたとき、消防用の消火水を注入し、ベントをした。ところが、水がなくなった。マニュアルには「原子炉に海水を注入する」などと書かれておらず、海水を注入するということは、東電の財産を捨てることを意味する。「海水注入が55分間中断した、しない」という“すったもんだ”の話があったが、そもそも海水を注入するというマニュアルはなかったのだ。
ベントをすれば、格納容器の圧力は下がり、爆発する可能性は低かった。ところが1、3、4号機では原子炉建屋が水素爆発した。原子炉建屋が水素爆発することを、東電は全く想定していなかったのではないだろうか。格納容器内の水素濃度が高くなったときには、それを下げる術はある。ところが原子炉建屋が水素爆発するというシナリオは誰も考えていなかったはずだ。
東電は「なぜ建屋が水素爆発したのか?」という問いに答えていない。私は、このことがとても気になっている。また「格納容器をベントしなければいけなくなったときに、なぜ格納容器の中の圧力が上がったのか」――このことも全く説明していない。今後、このことは明らかになっていくだろうが、どうも情報の出し方がスムーズでなく、かつ一元化されていないことが問題だ。
民主党の細野首相補佐官をメインにして、東電、原子力安全・保安院、原子力安全委員会、文部科学省が一緒になって会見している。最長5時間の会見もあった。私は「情報の一元化をすべきだ」と訴えてきたが、あの会見は場所を一元化しただけで、情報は全く一元化されていない。
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