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2011年6月7日(火)付

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大連立―何のためにやるのか

菅直人首相の退陣時期をうやむやにしたまま、新たな政権の枠組みが語られ始めた。民主党の岡田克也幹事長が、期限つきで自民党との大連立をめざす意向を表明した。自民党の石原伸晃[記事全文]

新幹線と地元―生活路線の未来も結べ

九州新幹線・鹿児島ルートが全線開業して間もなく3カ月になる。開業は大震災の翌日で、東日本では話題になりにくかったが、鹿児島から青森まで高速鉄道でつながり、鉄道の歴史の新たな時代を開いた。[記事全文]

大連立―何のためにやるのか

 菅直人首相の退陣時期をうやむやにしたまま、新たな政権の枠組みが語られ始めた。

 民主党の岡田克也幹事長が、期限つきで自民党との大連立をめざす意向を表明した。自民党の石原伸晃幹事長も「新しい政治の枠組みをつくることが必要だ」と応じた。

 すわ、大連立かという話だ。

 たしかに、与野党のいがみ合いが続く国会は、もういいかげんにしてほしい。東日本大震災への対応をはじめ、私たちも与野党の連携による政策の速やかな実現を期待している。

 4年前の福田政権と小沢民主党による大連立騒動のときとは事情も違う。民主党が政権交代をめざしていた、あのタイミングはいかにも不自然だった。

 民主党はいま、政権をとったものの運営に行き詰まり、党内の対立も深刻化している。

 国会で何らかの事態打開の方策が必要なことは、だれの目にも明らかだ。だから世論調査でも大連立容認が増えている。

 しかし、直ちに大連立というのはちょっと待ってほしい。

 民主、自民両党は総選挙で政権をかけて戦った。それが一緒になったのでは、多くの小選挙区で、政権に批判的な票は行き場を失いかねない。

 2大政党の場合は、政策ごとに接点を探るのが本来の姿だ。民主主義の基本であり、その努力が足りないのは明らかだ。

 さらに民主、自民両党の思惑の違いが大きそうだ。

 それぞれの党内で思い思いに発言している段階なので、はっきりした色分けはできないが、民主党からは税と社会保障の一体改革に取り組む意向もささやかれている。歴代政権が難渋してきた消費税増税を、連立で実現させようというわけだ。

 これに対し、自民党には早期の解散・総選挙をめざす声の方が目立つ。今年度の赤字国債の発行を認める特例公債法案や第2次補正予算案の成立までの短期を念頭に置いているようだ。連立を組んで、解散時期にも関与したいとの思いもにじむ。

 連立を組んでしまえば、今よりも両党は法案づくりで折り合おうとするだろう。だが、いずれ選挙で戦う2大政党が閣内や与党内で争う愚を繰り返すこともありうる。

 大連立の枠組み論の前に、いま両党がすべきは共同で実現したい政策を示しあうことだ。

 そのためには、民主党はまず、子ども手当などのマニフェストの見直し論議を急がねばならない。党内を整理しなければ、そもそも連立の論議も進めようがないはずだ。

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新幹線と地元―生活路線の未来も結べ

 九州新幹線・鹿児島ルートが全線開業して間もなく3カ月になる。開業は大震災の翌日で、東日本では話題になりにくかったが、鹿児島から青森まで高速鉄道でつながり、鉄道の歴史の新たな時代を開いた。

 JR九州によると、大震災で当初は客足が伸び悩んだが、徐々に持ち直し、5月の連休の客足も見込みを上回った。

 整備新幹線は全国新幹線鉄道整備法に基づいて1973年に北海道や東北、北陸、九州に建設が決まった。計画から38年がたった。新大阪―鹿児島中央間が最速3時間45分で結ばれ、沿線の自治体で喜びが広がった。

 だが、光に影があるように新幹線開業にも影の部分がある。建設費の3分の1を受け持つ地方の重い財政負担もあるが、最大の問題は新幹線開業後にJRから自治体に運営が移される「並行在来線」の経営だ。

 熊本・鹿児島両県を走るJR鹿児島線の八代―川内間は、04年の鹿児島ルート一部開業に伴い、第三セクター「肥薩おれんじ鉄道」が経営を引き継いだ。しかし、開業2年目に赤字に転落し、3年目からは1億円を超える赤字が続く。

 JR東北線の八戸―青森間を引き継いだ「青い森鉄道」は震災被害から素早く復旧したが、頑張りの経営が続く。これから新幹線がやってくる北海道や北陸の沿線も、並行在来線の先行きをめぐる議論は厳しい。

 地域の暮らしにとり、在来線こそが毎日の通勤や通学の足になっていて、新幹線よりはるかに大切な生命線である。それだけに、採算に苦しむ在来線を今後どう続けていくべきか、沿線の住民の悩みは大きい。

 肥薩おれんじ鉄道は、1万円で車両に名前を掲示する一口オーナー制度といった手法で経営に懸命だ。地域に便利な仕組みができれば未来も開ける。JRから引き継いだ路線を次世代型路面電車(LRT)にかえ、便数を増やした富山市のような大胆な発想で考えたい。

 新幹線網が経済発展や生活の向上に貢献したことはだれもが認めるところだ。ただ、このあたりで一度立ち止まり、新幹線と並行在来線の役割を、航空機やバスまでを含めた総合的な交通体系で練り直す必要がある。

 大震災の被災地では、東北新幹線が復旧した後も、沿岸部の在来線の多くの区間が運休のまま再開の見通しがたたず、通学や通院の負担になっている。生活に密着した路線の貴重さが、あらためてわかる。その土地の暮らしを支える公共交通を再生し、大切に守ってゆきたい。

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