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Wikipedia の「ホメオパシー」項目について

Wikipedia というWeb上の「百科事典」を利用される方は、
数多いと思います。
私もその一人です。
理由は、「便利で無料」だから。
それに尽きます。

通常の百科事典は、
その道の専門家、権威ある専門家が、
自分の名誉をかけて、
その内容について、
極めて周到かつ公平に執筆します。
その代表の一つが、「平凡社百科事典」です。

しかし、このWikipedia は、
成り立ちがまったく異なります。
権威ある専門家ではなく、
匿名の投書の「寄せ集め」です。
何と言っても無料ですから。

まったくの素人でも、
何らかの文献を引用しさえすれば、
それがどのような偏った文献であっても、
それをどのように曲解しようとも、
根拠として挙げることができ、
極めて不正確な記述をすることも充分可能です。

しかし、実際には匿名ではあっても、
それなりの「専門家」が記述していることが多く、
記述の仕方も、冷静なものが多いと思います。

ですので、今まで信憑性に一抹の不安を抱きながらも、
それなりに使用することも多くありました。


ホメオパシーについての記述は、
今年の前半までの記述は、
不正確ではありますが、
まだ「まし」でした。
明らかに専門家ではない方の記述ではありましたが
過激で見過ごせないほどの批判ではなかったので、
そのままにしておきました。


しかし、最近の記述はいかがでしょうか?
控えめに言って、でたらめです。
ホメオパシーに悪意を持つ方々が談合し、
ホメオパシーを徹底的に貶めようとしています。
記述の少なくとも半分以上の文章は、
嘲笑的な悪意に基づいていて、極めて不正確です。

書いた方が、ホメオパシーの専門的訓練を受けたことがない、
まったくの素人であることは、
最初から明らかです。
一つ一つが何の根拠もない記述です。


まず、最初にこうあります。

ホメオパシー (Homeopathy, Homoeopathy, Homœopathy) とは、「極度に稀釈した成分を投与することによって体の自然治癒力を引き出す」という思想に基づいて、病気の治癒をめざす行為もしくは思想を指す。その行為者はホメオパスと呼ばれる。


ホメオパシーの原典である、「オルガノン」を読んだ形跡が全くありません。
ホメオパシーについて書くのに、
ホメオパシーの基本文献すら読まないのでしょうか?
ホメオパシーは、「思想」に基づいているものではありません。
プルービングと臨床という実証からのみ成り立っています。
その精神は、オルガノン第一章にまず明らかです。


§1
医師の唯一にして最高の使命は、
病める人の健康を回復させることである。
それが「治療」というものである(注)。

(注)しかしながら、医師本来の使命は、
体内で起きている目に見えない生命の営みと
病気の発生という内的な本性について、
いたずらに空想したり仮説をいわゆる学説へと
作り上げたりすることではない。

また、病気の現象や、その背後に必ずや隠されているに違いない
直接的な原因を説明しようと際限なく試みることでもない。
そうした説明は、無学な人たちを驚かせるために、
無意味な言葉や誇張された抽象的な表現で
覆われているからである。
それはいかにも学があるように聞こえるだろう。
どれほど多くの医師たちが、
こういうことに時間と労力を無駄にしてきたことか。
一方で、病める人々が心から助けを求めても何もしない。
このように知識に溺れた空理空論(これを理論医学と呼び、
専用の大学教授の椅子まで用意されている)はもう結構。
みずからを医師と呼ぶ者は、
苦しんでいる人々を無駄話で煙に巻くことをきっぱりやめ、
今こそまさに、真の医療を開始し行動を起こすときである。
すなわち、病める人を本当に助け、治療するときなのである。


この精神は、オルガノン全291章を貫いています。
ホメオパシーの精神は、「思想」ではなく、
徹底的な実証にあり、徹底的な実践にあります。
机上の空論は、何一つありません。


また、「自然治癒力を引き出す」という記述がされています。
オルガノンを読めば、そのようなことは一つも書いてないどころか、
「自然の模倣ほど馬鹿馬鹿しいものはない」
という基本理念が全章を貫いています。
ホメオパシーには、
「自然に任せる」という思想は、何一つないのです。


慢性的な内的病気で生命が脅かされた場合も同様で、
自然にまかせておくと、
生命に不可欠な部位から
それほど重要でない組織へと危険をそらす、
つまり転移させるという方法しか自分を助けるすべを知らない。
生命エネルギーはエネルギー的な存在であって、
思考も予見もできず、知性を欠いているので、
生命エネルギーがおこなっていることは、
真の助けにもならず、真の治療にもならない。 

オルガノン序文第5節 治療法に対する批判 ── 自然の模倣


そもそもすべてを自然に任せれば良いならば、
医学、医療は必要でしょうか?
もし、「自然が一番!」だったら、
どんな病気をしても、どんな怪我をしても、
全て放置して、自然に任せたら良いではありませんか!
ホメオパシーには(少なくとも本来のホメオパシーには)、
そんな馬鹿馬鹿しい主張は何一つありません。
その正反対なのです。


また、中には私の記述もありますが、
ひどい記述です。、
帯津先生についての記述も、
信じられないような記述です。

こんなどうでも良い、下らないことに言及するのも、
馬鹿馬鹿しい話ですが、
馬鹿馬鹿しさついでに書いておきます。

日本ホメオパシー振興会の永松昌泰は由井寅子の元共同経営者であり、 [52]この両人はしばしばホメオパシー講座でもカルマ論に言及している。 [53]日本ホメオパシー医学会理事長の帯津良一は 気功治療(道教)の研究者であったが、 1990年ごろからシュタイナーに傾倒し、ホメオパシーを始めている。[54]

Wikipediaより


私は「森羅万象セミナー」という、
「狭義のホメオパシー」ではないセミナーを行いました。
そのシリーズの中で唯識の話をした時、
その文献の中で出てくる普通の用語として
カルマ(業)の話をしました。
それ以外でしたことは記憶がありませんが、
「しばしばホメオパシー講座でもカルマ論に言及している」
とは、どのような根拠に基づいているのでしょうか?

そんなことはどうでも良いようなことですが、
このような記述が平気でなされて放置されるのが、
はたして「百科事典」なのでしょうか?


そして、このようなデタラメで誤った記述が、
現在「凍結・保護」されているそうです。
そして、誤った記述が、日々多くの方の目に触れています。

このWikipediaの記述に関して、
真実の記述が成されるように、全ての根拠を明らかにして、
徹底的にやり直すことが必要です。
今まで専門家である私たちが、
手を入れずに放置していたことが、
いけなかったのでしょう。
ある意味、このような状態は、
私どもの落ち度なのでしょう。

幸い、記述は公正な記述に変えることが可能なようです。
オープンな議論が可能なようですので、
これからは、きちんと根拠に基づいた議論を重ねて
誰から見ても公平な記述になるように
していきたいと思います。

幸い、私の学校のカリキュラムでは、
ホメオパシーの賛否両論について、
徹底的に議論しDebateしています。
ホメオパシー反対側の議論について、
反対側の方たちよりも、
徹底して学ぶようにしています。

Wikipediaの記述について、
賛成、反対の両論を公平に掲載できるよう、
生徒、卒業生の皆さんに、
お願いしたいと思います。


つづく

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コメント (8)

鈴木尚行:

こんにちは。ホメオパシーについての興味深いお話、ありがとうございます。特に、オルガノンに「自然治癒力を引き出す」という記述がない、という指摘はとても意外に思えました。というのも、ホメオパシーは自然治癒力を引き出して働くものばかりだと私は考えていたからです。

永松学長に質問です。日本のホメオパシーの専門家を自称する人が、ホメオパシーの素晴らしさは「自然治癒力を優しく喚起して自ら治癒していく」点にあるなどと書いていますが、これは間違っているのでしょうか?また、専門家を自称する人がそのように書いているのであれば、Wikipediaの「ホメオパシー」項目にそのような記述がなされるのは仕方のないことではないでしょうか?

永松昌泰:

鈴木尚行さま


とても有益なコメント有難うございました。

書いたことをもう一度読み直してみて、確かに少し舌足らずのところがあります。もう少し説明が必要ですね。

多少強い表現になったのは、新聞やネットの議論の中で、「自然ブーム」「自然におまかせ」という風潮の中でホメオパシーに人気が集まった、という論調が多かったので、ホメオパシーは、そんな「安易な自然賛美」などではまったくない、ということを申し上げようとして書かせていただきました。

ただ、その意図は少し分かりにくかったと思います。

少し引用をさせていただきます。詳しい解説は、別の機会にさせてください。


***********************

オルガノン 29章

いかなる病気(まぎれもなく外科的なものは除く)も、感覚と機能における私たちの生命エネルギー(根源的生命)の、ダイナミックで特有な病的乱れにほかならない。

自然の病気によってダイナミックに撹乱された根源的生命は、ホメオパシーの治療の間、症状の類似性に基づいて厳密に選ばれた活性レメディーを服用することによって、類似しているが少し強めの病気に人工的に罹ることになる。

これによって、少し弱めのダイナミックな自然の病気が引き起こす感覚は、根源的生命から消え失せて存在しなくなり、それ以後、根源的生命を占有し、支配するのは、人工的に引き起こされた病気の影響だけになる。
しかしその影響もまもなく終わり、患者は解放されて健康を回復する(注)。

このようにして解放されたダイナミックなエネルギーは、生命を再び健康な状態で存続させることができる。こうしたきわめて蓋然性の高いプロセスは、これから述べるさまざまな命題に基づいている。

(注)私たちは、人工的に病気を生じさせるエネルギーを含む物質をレメディーと呼ぶ。
こういうレメディーは、作用する期間が短いおかげで、しばらくは自然の病気よりもはるかに強く作用するにもかかわらず、生命エネルギーによっていとも簡単に打ち負かされるのである。
自然の病気はレメディーよりも弱いにもかかわらず、活動期間がきわめて長く、プソラ、シフィリス、サイコシスにいたっては生涯に及ぶほどである。
生命エネルギーだけで打ち負かし消し去ることはできない。そのため自然の病気が打ち負かされ、根絶されるのは、治療家が、きわめて類似しているがより強い病気を生じさせる活性化された薬、すなわちレメディーを使って、生命エネルギーにさらに強く働きかけた場合だけである。突然発症した天然痘や麻疹(どちらも発症から終息まで数週間を要する)によって、長年患った病気が治癒するのも似たようなプロセスである(§46)。


引用ここまでです。

**********************


それから、ご質問ですが、ホメオパシーの専門家を自称する人が、そう書いているので、Wikipediaのホメオパシーの項目にそう書いてあるのは仕方がないのでは、ということですね。
確かにその通りだと思います。Wikipedia では仕方がない側面だと思います。

それが、本当の専門家が、自分の名誉をかけて書く、本当の百科事典と、Wikipedia と決定的に違うところです。


自称ホメオパシーの専門家といっても、ピンからキリまであります。それは何の専門家でも同じですが、本当の専門家というのは、極めて一握りであり、その専門家にしても、誤謬がないわけではありません。

ただ、本当の百科事典に書くときは、数十年の研究の成果をそのまま開陳するのではなく、もう一度あらゆることを調べ直して、可能な限り誤謬を排していますが、Wikipedia のホメオパシーの項目には、ホメオパシーについて、基本文献を読んだ痕跡がなにもありませんし、引用はしてあっても、ホメオパシー反対派の引用以外は作為的な引用がほとんどです。何と言っても、肝心のホメオパシーの説明そのものについて、何の引用、根拠もありません。

Wikipedia は、しょせんその程度のものだ、とも言えますが、現在のようにネット社会で、社会的影響が大きい中では、そう達観ばかりはしておれません。この状況は、何とかしなければならないと思っていますので、是正するように全力を尽くすつもりです。

鈴木尚行:

なるほど、通説とは異なり、ホメオパシーは、「安易な自然賛美」ではないのですね。勉強になります。ありがとうございました。

専門家にもピンキリあるのでしょう。「自然治癒力を優しく喚起して自ら治癒していく」点にある、などと書く専門家は、「本物の専門家」ではない、と考えてよろしいのでしょうか?

永松昌泰:

鈴木尚行さま


そうですね・・・なかなか難しいですね・・・

一般の方にホメオパシーを説明しようとする時、説明の一部として「自然治癒力を優しく喚起して自ら治癒していく」という説明をすることは、やむを得ないところがあると思います。ハーネマンは決してそういう説明の仕方はしませんが、結果として全部が「嘘」というわけではありませんから。

ただし、そのように説明されている方の多くは、「安易な自然賛美」の場合が多いかもしれません。

「自然治癒力」という言葉は、耳に入りやすい言葉です。便利ではありますが、それだけに言葉が一人歩きしてしまいやすいとも言えます。


ハーネマンは、決してそういう安直な説明はしません。人間の本質、自然の本質を踏まえた透徹した説明です。しかし、大変です。じっくりと考えながら理解していく必要があります。

その一端を参考までに、ご紹介します。


***********************

オルガノン第34章

ただし、レメディーによって生み出される人工的な病気の方が自然の病気よりも強い、ということだけが、自然の病気を治療できる唯一の条件ではない。
何よりも治療のために必要なのは、人工的に起こした病気が、治療すべき病気に可能な限り類似したものでなくてはならない。
その病気が自然の病気よりも少し強いことによって、思慮や想起の能力をもたない本能的な根源的生命を自然の病気にきわめて類似した病的な状態へ変化させることができる。

その結果、根源的生命において、自然の病気によって撹乱された感覚がはっきり捉えられなくなるだけでなく、完全に消されて根絶されるのである。このことはまったくの真実である。
したがって、新たに併発した自然の病気がどれほど強力であっても、それが類似していなければ、この病気によって、それ以前から患っていた病気が治癒することはありえない。
まったく同様に、類似した病的状態を健康な体に生み出すことができない(アロパシー薬のような)薬によっては、治癒が起こることもありえないのである。

elenaz:

ちょっとだけよろしければ、

つまりVital Force を『自然治癒力」として訳するのではなく、先生が述べた「根源的生命」の方がハーネマンが考えた意味が伝わりますね。

(私はいつも「生命力」という表現を使うようにしています。「生命力の反応を引き起こす」といって、一次反応(primary action)と二次反応(secondary action)と説明したりすると意外に普通の人でも納得したりしますね。)

そもそも、ホメオパシー用語集とその解説をHPでも、出版物でも作ったほうがいいような気がしますが、いかがでしょうか?ホメオパシー用語辞典とか?

いつも興味深いご投稿ありがとうございます!

あ:


http://www.amazon.co.jp/dp/440509098X
ホメオパシーセルフケアBOOK―自然治癒力を引き出し、ココロとカラダを癒す 早く解消したい身近な症状に、家庭で使える70種の救急レメディ

永松昌泰:

elenaz さま

いつも啓発的なコメント、有難うございます。

そうですね。Vital Force は、通常は生命力、生命エネルギーと訳されていると思います。

自然治癒力という言葉は、ホメオパシーの文献から出てきたというよりも、昔から一般的に使われてきた分かりやすい言葉なので、一般の方に簡単に説明するときのキーワードとして使われてきたと思います。

この言葉そのものは、ホメオパシーを説明する一環として使っても良い言葉だと思いますが、使い方が正確ではない場合が多いと思いますし、使っているうちに、言葉自体のニュアンスに引きずられてしまうようになってしまうことが多いと思います。

そして、いつもまにか「自然におまかせ!」という方向に、ひきずられてしまうと思います。また、ホメオパシーの専門家を自称する人も、きちんとオルガノンを読んでいる人は少ないので、どんどんそうなってしまうと思います。

そして、ホメオパシー用語辞典ですね。ぜひやりましょう!
これから書籍の出版を、どんどん進めていきたいと思います。

永松昌泰:

あ さま

情報、有難うございました。

そうですね。書名やコピーは、著者が決めるというよりも、
たいていは、出版社が「売れやすい」という観点から決定します。

ですので、書名やコピーだけでは判断しかねますし、どのような脈略で使われているのかは、精読しないと判断しかねますが、お知らせいただき、有難うございました。

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2010年09月13日 10:32に投稿されたエントリーのページです。

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