チラシの裏SS投稿掲示板




感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[28174] 【習作】リスタート666(トリプルシックス)!【一次創作】
Name: 平凡眼鏡◆b6f4c63e ID:815a13a1
Date: 2011/06/06 23:53
・あらすじ

 20xx年。激減する人口、悪化する治安。世界は未曾有の危機を迎えていた。
 突如として現れた異界の門を潜り抜け、強大な力を持つモンスターが人類を襲い始めたのだ。
 戦況は悪化するばかりで、戦場に投入される兵士の年齢は引き下げられ、やむを得ず軍職を選ぶものも多くなっていた、そんな絶望の時代。
 17歳の少女「琴南優希」も兵士となり、今日を生きていた。
 平和な日常を奪われ、血と硝煙の香りに塗れる毎日。そんな優希に転機が訪れる。
 絶命した優希の前に自称「神」が現れたのだ。

 もたらされたのは「死」。そして第二の「生」。
 一見すると平和な世界に転生した、優希を含む666人の転生者。
 
 ――それを行った自称「神」の目的とは、一体何なのか。




・前書き

 この作品は神様転生ものに対して「何で神様は事故死させて謝って能力つきで転生させてくれるんだろう」という疑問を抱いたのが始まりの一次創作小説です。
 従って本文には「厨二病」やそれに対する「アンチ要素」が入る可能性があります。ご注意ください。(ただし作者は厨二病が嫌いな訳ではありません)

 批判内容を含めて、コメント感想は歓迎します。
 誤字脱字の指摘も嬉しいです。
 更新は不定期になります。

 ※「小説家になろう」にも投稿しています。



[28174] プロローグ
Name: 平凡眼鏡◆b6f4c63e ID:815a13a1
Date: 2011/06/06 23:46
 20xx年。激減する人口。悪化する治安。世界は未曾有の危機を迎えていた。
 その原因をもたらしたのは、世界各地で突如として開いた異界の門「門(ゲート)」であり、そこから這い出た「異界来訪生物(アンノウン)」の存在だった。
 ――異界来訪生物(アンノウン)。
 それは様々な種類が確認されている、異界の怪物。モンスターのことだ。
 門(ゲート)の向こう側から訪れたその存在は、一切の躊躇なく人類に牙を向き、獣を超えた身体能力と、物理法則を無視した異能を持って大いに暴れまわった。
 もちろん、人類はその軍事力を最大限に発揮しながらも異界来訪生物(アンノウン)に対抗しようとしたのだが、増殖する門(ゲート)の特性と、通常の異界来訪生物(アンノウン)よりも遥かに強大な戦闘力を持つ「高級異界来訪生物(アンノウン)」の存在により、戦況は悪化するばかり。
 戦場に投入される兵士の年齢は引き下げられ、生き延びる為に、誰かを守る為に、やむを得ず軍職を選ぶものも多くなっていた。
 そう、彼女のように。

 「あーもう。生き残ったら絶対、あの糞親父ぶんなぐってやるわ」

 応援を呼ぶ為の無線機は、故障したのか何も答えない。いま頼れるのは自分の力だけだった。
 だから少女は、状況にそぐわない暢気な声音で此処にはいない上司に悪態をつくと、粉砕され、殆ど瓦礫の破片と化しているビルの裏に隠れながら、作業を進める。
 貸与されている89式5.56mm小銃に二脚を取り付け、射撃の準備を整える。幾ら平均的な日本人の体格にあわせた89式5.56mm小銃とはいえ、少女の体格にはちと荷が重い。鍛えているとはいえ、少女(琴南優希)がこの銃を制御するには、こうやって二脚を取り付けその反動を抑える必要があるのだ。

 「照準よーし、風向きよーし」

 照門部(リアサイト)のダイヤルを合わせて照準を調整する。通常弾を使用した場合の89式5.56mm小銃の命中精度は、射距離300mにおいての単射で「方向及び高低標準偏差19cm以下」。連射で「6発連射が高さ2m、幅2mの範囲内に集束」という結果が出ている。対象との距離は50mもないし、優希の射撃の成績は「A」だ。だから、いける。
 いける筈だと自分に言い聞かせて、優希は引き金に指をかける。

 「……あぁ、人がゴミのようだわ」

 後は、撃つだけ。そんな優希の視線の先では、体長10メートルはありそうな緋色のドラゴンが、既に事切れた部隊の仲間を食い散らかしていた。生きているものはいないだろう。
 眉間の間に輝く宝玉をつけたドラゴンは、廃墟に囲まれながら悠々と食事をしている。
 優希はそれを見ながら、最後の覚悟を決めた。色んな意味でいい性格をしている為に、優希の友人の数はさして多くなかったが、それでも自分の所属する部隊の人間に対して、情ぐらいは持っている。
 喰われたのは仲間。喰ったのは化け物。だけど自分は軍人で、今のこいつは「ただの敵」だ。ならば容赦をする必要も、怯える理由もない。

 「……死ねぇぇぇっ!!!」

 明確な殺意を込めて、優希は引き金を強く引いた。
 反動が優希の華奢な身体を襲い、照準が狂いそうになる。89式5.56mm普通弾の薬莢が次から次へと地面に落ち、銃弾は吸い込まれるようにドラゴンの頭部に打ち込まれていった。

 「Gryuuuuaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!」

 だが、不意打ちに近いその凶弾を前にして、ドラゴンの咆哮が響く。瞬間ドラゴンの宝玉が輝き、展開された硝子のような緋色の障壁が、その銃弾の全てを防いだ。
 「ちっ」っと優希は舌打ちをする。そして腰に装備した9mm拳銃を引き抜くと全速力でその場を離れた。敵に居場所がばれた今、この場に留まるのは馬鹿のやることだ。

 「Gyaooooooooooooooonnnnnnnn!!!」

 案の定、再度の咆哮が響く。再びドラゴンの宝玉が輝き、今度は開いたその口腔内から灼熱の火炎球が放たれた。

 「っ、あんなのに当ったら、一瞬で消滅コースじゃないっ!」

 優希が先ほどまでいた場所に、火炎球が着弾する。爆風が広がり、吹き飛ばされかけた優希は必死に地面に縋りつく。そして爆風が止むとともに、9mm拳銃の銃弾を三連続でドラゴンの頭部に放つ。
 そして走り出した。
 銃弾は当然のように障壁によって防がれるが、優希の狙いはそこにない。これはただの時間稼ぎだ。目標は、今回の拠点(ベース)へと戻ること。
 そこまでいけば、潤沢な装備と分隊の仲間がいるのだ。ベース被害を持ち込むのは軍人としてどうかと思われるかもしれないが、そんなことは優希にとって大した問題ではない。自分の命が最優先だ。
 優希には気づいたことが二つあった。それはドラゴンが「障壁の展開と火炎球による攻撃を同時に行えない」という事。そしてどちらの行動を行うにしても「額の宝玉が光る間は、ドラゴンは動かない」ということだ。
 また経験則上、上級異界来訪生物(上級アンノウン)の展開する障壁も、無敵という訳ではないということを優希は知っていた。だから銃弾で足止めしつつベースへと入り、強力な銃器による一斉掃射を行う事。これが優希の勝利条件だった。
 リロードと発射を繰り返し、相手との距離を一定に保ちながら、優希はベースへと走る。
不規則に、時にジグザグ走法を取り入れながら。時折火炎球が放たれ、直撃は避けても爆風に吹き飛ばされる。それでも立ち上がる。
 痛みも疲労も耐え難いレベルにまで達していた。それでも苦痛を感じる度に、それにより逆説的に自分の「生」を実感するのだ。
 瓦礫に足を取られる。体勢が崩れそうになる。けど此処でこけたらお仕舞いだ。いま自分に出来る事は、歩みを止めないことだけなのだから。
 それでも、優希の必死の思いとは裏腹に、ドラゴンと優希との距離は徐々に詰められていき、火炎球の照準は着実に「的」に合わさっている。もう時間の猶予はない。
 どれだけ走ったのだろう。取りあえず短距離走の自己ベストは更新している筈だ。
 拠点(ベース)にはまだ着かないのだろうか。体力の限界を覚えた優希が足を止めるという誘惑と戦う。そして遂に、前方にいまだ形を保っている、3階建てのビルが見えた。この角を曲がれば、そこはもう拠点(ベース)だ。
 優希は逸る気持ちを抑えながら、ビルの角を曲がりつつ敵の襲来を告げようとし。

 「上級アンノウン出現っ! 総員直ちに戦闘体制に、って。えっ……?」

 ――見えた光景に、絶望を味わった。ようやくたどり着いた拠点(ベース)。そこには、分隊員の影も形も見られなかったのだ。
 あぁ、そういうことなのか。そこで優希はようやく理解する。……無線機は故障したのではなく、向こうに答える気がなかっただけ。つまり、自分は見捨てられたのだ、と。
 何が目的なのかは分からなかった。今回の異界来訪生物(アンノウン)は確かに強敵であったが、この場にあった筈の装備で倒せないような、都市壊滅クラスの化け物ではない筈だ。ならば、何か隠された思惑でもあったのだろうか。
 まぁ、こんな思考も現実逃避の一種なんだろうが。
 ――瞬間、優希の身体に凄まじい衝撃と熱が襲い掛かった。
 上下左右の視界がぐるぐる回る。そのまま地面に叩きつけられた後に、優希は現状を把握する。

 (すぐ後ろに火炎球が着弾した、って所か)

 そう、満身創痍といった状態の優希だが、ある意味間一髪の所で助かったともいえる。けれど、それは攻撃が外れたのではない。
 ……折角の「餌」が燃え尽きるのを嫌がったドラゴンが、手心を加えたというだけの話だった。
 ゆっくりとドラゴンが近づいてくる。それでも声が出ないどころか、衝撃の所為か、息が出来ない。優希は酸欠の苦しみに涙を流しながら、口をぱくぱくとあけた。その空しい努力が実ったのか、気絶寸前の状態で、ようやく優希の呼吸は回復する。
 そして、それと同時に優希の身体はドラゴンの爪によってひっかけられ、宙へと飛ばされた。

 再び回る視界。優希の目の前に、自分を丸呑みにしようとするドラゴンの顔が広がる。――優希の身体は、ドラゴンの口中へと包まれた。
 もし、この場に観客がいたのなら、きっと誰もがこの瞬間「終わった」と思っただろう。
 だがベース跡地に響いたのは優希の為の鎮魂歌ではなく、食事を終えた筈のドラゴンの悲痛な叫びだった。

 「GGYYYAYAAArrrlaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!」

 「――死んでぇ、たまるかっつぅのよぉぉぉッ!!!」

 死にたくない。その一心で優希は、最期の悪あがきに出た。
 口腔内に圧力がかかる寸前に、アーミーナイフと軍手を利用してドラゴンの喉彦(簡単に言えば喉ちんこ)を掴みながら、その僅かなスペースに身体を避難させ、残った9mm拳銃の銃弾を全て叩き込む。
 唾液と異臭が漂う口内で、ロープ(喉彦)一本に頼った不安定な体勢。通常時なら的に弾を当てることは不可能な状況だが、今なら弾が外れることはない。
 何故なら360度ほぼ全てが的なのだから。
 撃つのを止めれば、自分は死ぬ。優希はそう確信していた為に、休まず銃弾を打ち続ける。
 痛みの為か、生き汚い優希をすり潰す為か、肉壁が収縮し舌が蠢き、口腔内に圧力が掛けられようとする。だが、生存本能の賜物なのだろうか。優希は普段では決して不可能な動体視力を持ってその動きを把握し、こちらに害を与えようと蠢くそれらに、瞬時に銃弾を打ち込んでいく。
 断続的に響くドラゴンの悲鳴が口内にいる優希の鼓膜を潰したのか、耳から血が流れた。だが、それさえも「生存」という目標を掲げた優希の前には些細なことだった。もとより身体はボロボロなのだ。
 ――BAN! BAN! BAN!
 打ち込む。打ち込む。打ち込む。それがまるで一連の作業であるかのように優希は反逆の手を休めない。
 そしてあまりの痛みにか、遂にドラゴンがこれまでで最大の大口を開けた瞬間を見計らって、優希は腰につけた手榴弾をドラゴンの胃の中に落としつつ、アーミーナイフをピッケル代わりに外へと飛び出した。
 ドラゴンの体長は10m程。その口から飛び出た優希は勿論、盛大に上空から落下するハメとなる。
内臓が持ち上げられるかのような浮遊感。それを堪えながら身体をまるめ衝撃に備える。それでも、優希は希望を捨てなかった。
 着地を間違えなければ、僅かながら生き残るチャンスはある。50階建てのビルから落ちて助かった人だっているのだから。この自分が死ぬ筈がないと。
 しかし、次の瞬間。

 ――BON!!!

 置き土産の手榴弾が爆発したのだろう。内に篭るような爆音と共に、ドラゴンは口から煙を上げ、その場に叩きつけられた。そう。

 ――まるで、優希を押し潰すような形で。

 ……自分の心音が弱まっていくのが分かった。けれどこの絶望的な状況で、優希はまだ生きていた。
全身の骨には皹と骨折。右目は見えず、内臓のどこかは潰れてしまったようだ。吐血が収まらない。
 特に膝から先はドラゴンの遺体に完全に潰され、複雑骨折というよりも粉砕骨折というような状態に成り下がっていた。
 だが、それでも優希は生きていた。
 優希は思う。

 ――あっけない幕切れだなぁ、と。
 ――所詮、徒人(ただびと)が奮戦したところで無意味だとでも、神様は言いたいのだろうか、と。
 ――そして、そんな理不尽な事実を、この「琴南優希」に認めさせようというのだろうか、と。

 (……認めない、わよ)

 認めない。絶対に認めない!
 自分の最期は笑って寿命を迎えると決めていた。そんな自分がこんなBADENDを迎えるなんて、納得できない。
 してはいけないっ。
 歩けるような状態じゃなかった。例え今すぐ病院に担ぎ込まれても、助からない容態だという「事実」は明確だった。
 だけど、そこで諦めて死を受け入れるなんて、優希はまっぴら御免だった。そこでふと、気づいた。
 ぼんやりとした視界の中に、黒い渦のような物が見える。目を凝らしてみると、それはまだ2mほどの大きさの、小さな門(ゲート)だった。先ほどまで、こんなものは無かった。発生したばかりなのだろう。
 最初の門(ゲート)発生時から、次々とその数を増やしていった、人類にとって憎々しい存在である門(ゲート)。恐らく優希はその発生の瞬間に立ち会ったのだ。その外見は、何時だったか本の挿絵で見た「ブラックホール」のようで、薄気味の悪いものだった。
 だから、優希は取りあえず、自身を潰すドラゴンの遺体から抜け出した。足が千切れかけたが、既に痛みも感じないので腕を使って這うように前に進んだ。
 痛覚を感じないというのは便利だ。それが単に、自身の肉体が死に掛けているという事実から来るものでなければ、愉快ですらあったのかもしれない。
 とにかく、今の優希は、それが亀の歩みより遅くても、動けることに感謝した。一歩一歩、いや、1mmずつ前に進み、優希は門(ゲート)へと近づいていく。そして、ようやくゲートの目の前に着くと、動かない指を無理やり曲げて9mm拳銃を握り、銃口を憎き門(ゲート)の中に突っ込んだ。

 「……ばんっ、なんて、ね」

 銃弾は既に残っていなかった。打つ真似だ。
 そこで、優希の意識は途切れた。その身体は崩れ落ちるように、ゆっくりと門(ゲート)の中に吸い込まれていく。

 あとに残るのは、ただ静かにそこに存在する門(ゲート)。それだけだった。




[28174] 第一話
Name: 平凡眼鏡◆b6f4c63e ID:815a13a1
Date: 2011/06/06 23:48
 気が付くと、ゆらゆら揺れていた。
 それを自覚した優希が最初に行ったことは、辺りを見回すことだった。何せ優希の目の前に広がるのは、どこまでも続くかのような真っ暗闇。手を顔の前に持ってきたつもりでも、その輪郭すら分からない視覚が意味を為さない場所だったのだから。

 (なによ、ここは……って、声が出ない?)

 続いて、優希は異変に気づいた。声が出ない、いや、声の出し方が分からないのである。

 (一体全体どういう訳なのよこれは。病院だというには奇想天外すぎるでしょう)

 しばらくの間、優希は答えの出ない問題に頭を悩ませていたが、嘆いたところで仕方がない。何かしらの行動に出ようと決めた。
 まずは、現状を「冷静に」把握する。先ほどまでの優希は、常と比べれば混乱していた。しかしそれではいけないのだ。戦場では、冷静さを欠いた者はどんどん死んでいく。
 優希は辺りをもう一度見回して、考えた。

 (とりあえず、暗いわね)

 ここがどこだか分からないが、視力に自信のある優希の瞳もここでは意味を為さないようだ。そして、単なる暗闇でもない。体感時間で数十分は経っているが、一向に目が慣れないからだ。

 (それに、身体がなんというか、おかしい?)

 「辺りを見回す」という動作が出来たことで、逆に気づくのが遅くなったのだが、今の優希には声の出し方、呼吸の仕方、細かな身体の動かし方。何より触覚、聴覚、嗅覚、視覚、味覚など五感の感じ方が分からない。これは大問題だった。嫌な結論が既に見え隠れしている。

 (……更に、辺りは完全な無音)

 部隊に配属された後の優希には、心臓の音から大体の時間を計る術があった。そしてここでも当然それを試みた。しかし、ここではそれが使えないようだ。
 自身の心音が聞こえないのだから。

 (……つまり、私はもう死んでる)

 例え鼓膜が破れていたとしても、大体の場合体内の音は聞こえる。まあ脳や神経にダメージがあったら聞こえないのだが、そこまで可能性を広げなくても「こうなる」直前の状態。あの満身創痍の状態を思い出せば、死んでいると考える方が簡単だろう。

 (ていうか、そうなるとここは死後の世界って奴かしら? いや、冷静に考えれば死を迎える直前の脳が体験させている、最期の思考って感じかな)

 あやふやな知識だが、脳というのはその最期に、恐ろしい速度で情報伝達の加速を行うらしい。それが所謂「臨死体験」の正体だとか。ならばもうしばらくすれば、自分という存在は完全に消えてしまうのだろうか。
 それで自分の人生は終わりだというのだろうか。

 (――そんなの、認められるわけないじゃない!)

 優希は髪をかき乱そうとして失敗し、その仕草を「イメージした」。

 (確かに、あの時は『これが最後の悪あがき』だなんて思って無茶をした側面も確かにあるわよ? 普段からドラゴン相手にあんだけ暴れてたなら、とっくに二階級特進で昇進してるっつーの。あれは正に非常時でハイになった思考だからできたことよ。……だけどね、私は生き汚いのよ。もう一度楽しく学生生活送ったりする為に頑張って兵士なんかになったってのに、こんな暗闇で最期を迎えて溜まるもんですかっ。ふざけんじゃないわよっ!)

 怒りと共に、自分という存在が明確になっていくのを感じた。曖昧だった自分の肉体に神経が通っていくような、そんな間隔。
 優希はその勢いのまま、先ほどまで出せなかった筈の「声」を張り上げる。

 「――神でも仏でもなんでもいいっ。いるのなら今すぐ出てきなさい! こんなところで終わる『運命』なんて、私は絶対に認めてやらないわよっ。首根っこ掴まれて9mm拳銃を突きつけられたくなかったら、今すぐそのツラ貸しやがれっ!!!」

 まるで意思の強さがそのまま声量になったかのように、優希の声が宙に響く。瞬間、暗闇が優希を中心に掃われるかのように消えていく。

 「はははははっ」

 「誰よっ!?」

 突如として聞こえてきた他者の笑い声に、優希は反応する。その手には本人の先ほどの宣言を実行してやろうとするかのように、銃弾の装填された9mm拳銃が握られていた。

 「いやいや、これはこれは。最期の候補者だからと普段より選考を厳しくしてみたら、随分と面白いものが釣れたものだ!」

 「……人を魚みたいに言ってんじゃないわよ。この変態」

 一転して一面が白くなった空間に現れたのは、奇妙な服装をした男だった。
 中世ヨーロッパの貴族を間違った解釈で再現してみたとでもいえばいいのか。マスカレイド(仮面祭)でも目を引くだろう極彩色の仮面に、高級感と滑稽感が溢れる赤、黒、金、銀を基調とした色彩の服に身を包んだ男。
 一言で表せば「変態」である。

 「その態度も、力も、人のみとしては破格の物だ。まったくもって最期の転生者としてふさわしい存在だよ、君は」

 「……人の話を聞いてるのか分からない人ね。最後の転生者ってどういう意味よ。というより、ここはどこ、あんたは誰?」

 優希は苛立ちを抑えながらそう聞いた。勿論、拳銃は既にその矛先を男に向けている。しかし男は鷹揚に腕を一度振って、答えた。
 
 「人じゃない」

 「はぁ?」

 「何か勘違いしているようだが、私は人じゃないよ。神だ」

 「……あんたが、神さまだっていうの?」

 「ああ、神だとも。少なくとも君たち人間よりも存在として上位にあるし、人の歴史的にも宗教的に考えても、私は『神』と分類されるだろう存在さ。……君たちからしたら」

 「……オーケィ。分かったわ」

 優希は参りましたといわんばかりのジェスチャーとともに、拳銃を下ろした。未だ疑問も疑惑も尽きないが、取りあえずこの男の機嫌を損ねるのは得策じゃなさそうだ。

 「とりあえず、色々教えてくれないかしら?」

 「勿論、私はその為に姿を現したのだから」

 案の定、男はうんうんと頷いて話を続けた。

 「先ほども言ったように、私は神だ。それは納得できたかね?」

 「……とりあえず、納得するわ」

 「結構。別にそれ以上の反応は求めんよ」

 「ありがたいわね」

 「気にするな。さて本題に戻るが。――いま私は神として、選別した死せる魂を別の世界に転生させているのさ。……しかしこれが、無制限という訳にもいかなくてねぇ。仕込める転生者の数にも限りがある。だからより面白くなるように、記念すべき最後に送る転生者はユニークな存在にしようと考えていたのさ。そこで白羽の矢が立ったのが、君だ」

 「……私?」

 「ああそうさ。ずたぼろになった世界で、硝煙と魔法に塗れながらドラゴンと戦い、一人孤独に、かつ派手に散っていた魂。しかも最後のあの行動はなんだい? 無意味でありながら痺れるじゃないかっ。BAN! ってね。まさかゲートに反逆の意思を見せて死ぬとは思わなかったよ」

 「うっ、煩いわね! ちょっと気分が盛り上がっていたから変な行動もとったでしょうけど、必死に戦ったんだから馬鹿にされる筋合いはないわよっ。……って、魔法?」

 「馬鹿になんてしてないとも。人のみでありながらよくやったと思うよ? 心から感心しているんだ。ドラマチックな最期といい、あの世界で師もなく身体強化の魔法を自分で開発して行使できる、その魔法の才能にもね」

 「……魔法?」

 「おやおや、気づいていなかったのかい? あんだけの怪我をしていて、人間が動ける訳がないじゃないか。構造的に無理があるよ。努力や根性でどうにかできるレベルじゃなかっただろうに」

 「……魔法」

 「全く。いま君が持っている拳銃だって、具現化させたのは君の魔法だというのに。君、もしかして天然とかいう固体かい?」

 「ててて天然ちゃうわっ! って、そんなことはどうでもいいのよ。いや、よくないけど!」

 「訳が分からないよ」

 「メタなネタを言ってるんじゃないわよ」

 男は首を傾げた。その姿に優希は苛立ちを覚えたが、深呼吸をして心を落ちつける。
 冷静に、冷静になれ。

 「……わるかったわね、取り乱した。続きをお願い」

 「ふむ。まぁ構わないが。話を戻そうか。えーと、そうそう。それで君が候補者になったわけだけど」

 なんの? と聞きたい気持ちを抑えて、優希は話を大人しく聞くことにした。

 「要するに、君は選ばれたんだよ。次の生を迎える権利を、私の祝福つきでね。安心しなよ。記憶もきちんと持ち越しされるし、ぶっちゃけると『強くてニューゲーム』って奴さ。面白いよ?」

 「……祝福の内容は?」

 「おお、乗り気だね? 祝福の内容は『魔力』と『能力』さ。私特製の魔力と、その存在の素質と希望に適した能力が魂に加えられる。どんな力になるかは私にも予想できないが、さっきも言ったように自分の希望も反映されるからね。きっとその力を気に入るだろう」

 「デメリットは?」

 優希は胡乱な目で男を見つけた。上手い話には裏がある。小学生でも知っている話だ。
男は答えた。

 「ふむ。頭がいいね。というより、君くらいの冷静さが本来求められるものなのかな? 先に旅立った転生者には、テンションの高いモノも多くてねぇ。碌に人の話を聞かないで行ってしまった輩の多いこと多いこと」

 そう言って、男は指を鳴らした。その瞬間、男の後方に石で出来ているのだろうか。重厚で荘厳な、宗教色の強い扉が表れた。

 「この扉をくぐれば、新たな人生が始まるよ。なぁに、心配するな。文明レベルは君のいた世界とほぼ同じ程度。しかも今はゲートが存在しないから、アンノウンも存在しない。もちろん学生生活も送れるだろうね。どうだい? 若くして兵士となった君からしたら、天国のような世界じゃないか?」

 男の言葉に意識を囚われそうになって、優希は首を振った。そしてもう一度聞く。

 「デメリットは?」

 「いやはや、やはり騙されないか。扉をくぐる瞬間に伝えるのが最近は楽しかったんだが。ああ、デメリットね。そうだなぁ。大したことじゃないさ」

 男は残念だといわんばかりに首を振ると、仮面越しでも分かるにやけた表情で此方を見た。

 「私が付与する魔力には仕掛けがあってね。弱ったり死んだ固体から、近くに存在する固体がその魔力を吸収できるんだよ。だから多分、より強い力を求める転生者同士で殺し合いになるんじゃないかな。能力の行使には魔力が必要だからね。魔力があるにこしたことはないのさ。あえて言うなら、それがデメリットかな」

 「……この下衆」

 「酷いなぁ、仮にも神に向かって。まぁ、どうでもいいけどね」

 男は愉快そうに踊りだした。独りなのにも関わらず、まるでペアがいるかのような振る舞いで。動作は 綺麗だというのに、随分と狂ったダンスだった。
 そんなのに目を奪われていたのがいけなかったのだろう。

 「――もう、後戻りは出来ないのだから」

 下げた拳銃を向けることもできず、優希は男の行動を許してしまった。
 男がダンスを止め、その眼差しをこちらに向けた。その瞬間、優希を取り囲むようにアニメか漫画でしかみないような、幾何学かの図形の組み合わせでできた魔法陣が立体的に私を取り囲み、黒く輝きだした。

 「――何をするつもりよっ!」

 「さっきもいっただろう? ただの祝福さ」

 男の言葉に「ふざけるな」と怒鳴りつけようとしたが、声がでない。
 というよりも、身体の自由が奪われていた。そうこうしている内に黒い輝きはまして行き、優希の中に何かを植えつけようと迫ってくる。

 (ふざけんじゃっ――!?)

 「あぁ、抵抗は無駄だよ?」

 優希が怒りを爆発させようとしたその時、男の当然という風な声が響いた。その瞬間、自分の中にあった何かが「消えた」。いや、それは間違いだろう。消えたんじゃなく、改変されているのだ。手元にあった拳銃が、その存在が薄れたかのようにかき消えた。

 「創造の魔法。その無意識の使い手とはいえ、世界によっては普通に溢れている能力だし、私には届かない。君のその魔法は君の新たな能力へと改変させてもらうよ。なに、元がいいんだ。きっと面白い能力が生まれるだろうさ」

 完全に人事だと思っているのだろう、男の言葉は鷹揚でありながら乱暴だった。いや、男にそんなつもりはないに違いない。これはただ単に、上位者としての意識からくる言葉なのだろう。優希はいい様に扱われる悔しさに、涙を滲ませた。
 それから、どれくらいの時間が立ったのだろうか。男が微笑んだ。

 「さーて、新たな転生者の誕生だ!」

 魔法陣が、弾けた。
 男は楽心底楽しそうにそう言うと、息も絶え絶えな優希の腕を取って扉へと進んだ。

 「もう行く先は決まっているのだけれど。それを今教えてもつまらないし、どうせ分からないだろうからこのまま行ってもらう事にしよう。準備はいいかい?」

 優希の人権など完璧に無視して楽しそうに笑う男に、優希は精一杯の笑顔を作り言う。

 「……一回死んどけ、クソ野郎」

 「うん、いい返事だ」

 扉がゴゴゴと音を立てて開く。男は優希を抱きかかえ、扉の中へと放り投げた。

 (始めてのお姫様抱っこがあの男とか、最っ悪)

 落ちる優希に向けて手を振る男の姿が見える。遠ざかっていく。
 回る視界。閉じる意識。
 優希が最後に考えを巡らせたのは、あの男を殺す方法の有無だった。

 それから、十月十日ほど流れて。
 おぎゃぁ、と病院に一人の赤子の声が響いた。体重2600gほどの女の子。その妻と旦那の名前は、人比良茜(ひとひらあかね)に人比良満(ひとひらみつる)。
生まれた赤子の健康状態はすこぶるよく、赤子には無事に美鐘(みかね)という名が与えられた。
 変わった苗字ではあるが、それ以外に特徴のない平凡な家庭に生まれた美鐘は、無事公園デビューを果たし当たり前のように幼稚園にあがると、両親の特徴を受け継いで十人並みの容姿に黒い髪。茶色の瞳を持つ普通の少女とし順当に小学校入学を果たした。
 そう。どこにでもいる少女。その筈だった。
 それが狂い始めたのは何時ごろだっただろうか。
 客観的に見て美鐘がおかしくなり始めたのは、小学校に上がった後だ。その前から知恵熱を出すことが多い子だったが、その頃にはまるで大人のような口ぶりや、年齢に見合わない知識をひけらかすことが多くなった。
 両親はやっと生まれた一人娘のことを心から心配して、何度も医者に通ったが改善の気配はなく、娘の奇妙な言動と知恵熱は小学校3学年まで続いた。
 それでも学業面では全く問題なく、というよりも飛びぬけて優秀だった為、通信簿に書かれたマイナス評価は毎回「美鐘ちゃんは人と接するのが苦手なようです。もう少し皆と仲良くできるよう頑張りましょう」だった。というのが美鐘という少女の「これまで」だ。

 みーんみーんみーん。
 煩いくらいのセミの鳴き声が聞こえる、太陽が猛威を振るう小学校の屋上。転落防止用の柵に寄りかかりながら、美鐘は濁った目を空に向ける。

 「――第二の黒歴史が現在進行形で繰り広げられているとか、ないわー」

 前世の記憶完全復活。
それはいたいけな少女から、少しばかり大切なものを削り取っていた。
 人比良美鐘。成績優秀、スポーツ万能。容姿は十人並みで、声質もセンスも悪くない。
しかし厨二病であった。つい先ほどまで。
 いや、クラスメートは具体的に「厨二病」という言葉を知らないので、直接そう言われた訳ではない。ただ、「変な奴」「何考えているのか分からない」「頭おかしい」などある意味直接的な言葉が時々向けられるだけである。特に最後の言葉がきつかった。
 教室にいれば、気まずげな視線が向けられること多数。必要以上に声を掛けられること、今やなし。

 「……死にたいわー」

 知恵熱が起こる度に前世の記憶を取り戻していた美鐘が、完全に記憶をとりもどしたのはつい先ほどのこと。余りの容態に運ばれた保健室での出来事だ。
 それと共に精神年齢が大幅に引き上げられ、それゆえにこれまでの学校での言動を振り返った結果がこれだ。
 現状を再認識してしまい、思考がネガティブ一直線になる。前世から憧れていた学生生活が、出だしから躓いてしまっているという事実は、美鐘にとってあまりにも哀し過ぎた。

 「――どのツラ下げてクラスに戻れっていうのよぉっ!!!」

 人気のない屋上で、悲嘆の声が上がる。それと同時に胸の中でざわめきが起こり、美鐘を中心に幾学模様の魔法陣と眩い光が広がった。

 『――始めましてマスター。私は貴女の《能力管制用インターフェイス》です。セットアップ・ウィザードを開始します。準備はよろしいですか?』

 「……却下」

 すべなく断られたのは、光と共に現れた、半透明の女性を象ったマネキンの様な物。美鐘から生まれたモノだ。
 普通だったらその異様な光景に、驚きの声があがったことだろう。
 しかし美鐘の意識は「それ」に向かない。悲しみに沈んでいる美鐘は「それ」に全く興味を示さなかった。現在進行形の黒歴史と対面している少女には、そのような余裕はなかったのである。
 ……それからしばらくの間、ようやく発現することが出来た「能力」は、待ちぼうけを喰らう破目になった。
 後に「能力」は語る。

 『今思うと、最悪の出会いでした』と。



感想掲示板 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.00272989273071 / キャッシュ効いてます^^